大阪ディープサウスまほろば食堂始末記 /黎明にカムイ先生奮闘す、trapちゃんがアシスト

二市アキラ(フタツシ アキラ)

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第6章 泥流

33: ヤンキー狩り

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    キョウは別件の思わぬ話の展開の中で、内に秘めていた自分の思いを吐き出し、席を立ってしまった。
 それで、親代わりの吉書四郎が自分に言いつけた責務を全部果たしたものとして、ケリをつけたのだろう。
  
   何かが噛み合わなくなっていた。

 そして神無月は、親父に頼まれた内容の入り口にも辿り着けない所か、岩田についてまったく別の心配事を抱え込み、しかも今後、王の名前を口にするのが難しい状況にさえ陥ってしまったのだ。

 キョウは、後味が悪いような席の立ち方こそしなかったが、言う事はきっぱりといった。
 ナイーブそうに見えて大胆だった。
 そして大胆そうに見えて、やはり傷ついたのはキョウなのだろうと神無月は思った。

 複雑な身体と複雑な心の持ち主、、、昔、憧れたヒトを思い出させる。
 神無月は、交錯して無茶苦茶になった先の会話に後悔するより、むしろ、自分が恋人に振られたような気分になって落ち込んでいることに驚いていた。

 何だか、訳が判らなかった。

 それを察したからか、あるいは自分が無理難題をふっかけた事を埋め合わせるつもりなのか、親父は客の途切れ目を利用して、のれんを下ろし『今夜は一緒に呑もう』と言い出した。

「センセイでも無理か、、そうかも知れんとは思ってたがな。」
 無理に決まってるだろと思いながら、結局、深い話に行くまでに、キョウに立ち去られた神無月はそれを声に出来なかった。

「…キョウくんて、どんな高校生だったんです?」
 過去形ではないのだが、神無月は思わず・だった・と言ってしまった。
 今日久しぶりに間近で見たキョウは、男子高校生とか、そんなレベルでは捉えがたい存在だった。

「そうさな、、、こんな話があるな。、、、キョウの奴が自分自身で『ヤンキー狩り』と名付けた遊びに暫く没入してた事があったんだよ。俺はその後始末で高校に呼び出された。アイツの親父が、又、ふけて自分の持ち場にいなかったからな。」

 親父が調理場から持ち出してきたウィスキーのボトルから、又、酒を自分のグラスについだ。
 酒は酔うためのものだから、アルコール度数の高い洋酒が好きなのだという。

「その『ヤンキー狩り』ってのは、当時のアイツにすれば相当スリリングな遊びだったみたいだな。大人しい生徒やいじめられる生徒してみれば、恐怖の対象であるヤンキーどもをやっつけちまおうっていう試みだからな。」
 その言葉で、少なくとも恭司が単純な不良じみた高校生でないことだけはわかった。
 やはり神無月の"恭司は普通の大人しい高校生の筈がない"という思いは色々な意味で当たっていたのだ。

「でもさ、センセイ。俺は思うんだが、高校でのいじめは中学と違って、やってる方が多少、大人になってるから、ちょっとはマシなんじゃないの?俺は昔のイジメはマシだったなどと、頭のネジが緩んだような事を言うつもりはないけどな。ん~~現在のイジメと、昔のイジメが一緒か?と言うと、それはそうじゃないとしか言いようがないんだよな。それと同じさ。やっぱり、ああいうのは背景にあるものの影響が大きいんじゃないかい。社会全体が豊かな時には豊かなりのいじめがあり、貧しい時には貧しいいじめ、歪んでるときは、歪んだいじめってわけさ。おっと、学校のセンセーには釈迦に説法だったな。」
 神無月はこの親父と同じ考えを持っていた。
 いじめの質は確実に変わりつつある。ただしその現状は、この親父が言っている状況よりずっと厳しいのだが、今はそれを話しても仕方がなかった。

「俺はしらんがキョウも、こっちに来るまでは、ああいう家庭だから、それなりに虐められていたみたいだな。今の奴を見ると、ハンサムなのはもちろんだし、色々と能力も高いが、そういうヤツをチビな小学生に縮めたらクラスで人気があるかっていうと、そうじゃないだろ?第一、キョウにはどうしようもない影がある。無口で騒ぎを起こしたくないから誰にも逆らわない、格好の餌食だな。キョウも長くその学校にいるつもりなら反撃してたろうけど、どっちみち、虐めに我慢できなくなる前に転校するからどうでもよかった、とも言ってたな。」

 なんとなく神無月は岩田の事を思い出していた。
 いやもちろん、同年代としては強すぎる岩田を虐める人間などいない。
 岩田とキョウが似ているのは、彼等が持っている世間に対する「どうでもいい」という感覚だった。
 そして沢山の「どうでもいい」と、その分の反動みたいな「どうでもよくない、譲らない」部分が、一つの魂の中に同居している。

 例えば、岩田の激しすぎる暴力行為の裏には、「それ」があったのかも知れない。
 多分、「それ」の核になるものは、周りの人間にも本人にも気づけず、説明の出来ないものなのだろう。
 キョウの場合の「それ」は何だったのかは、想像も付かなかったが、今夜キョウが岩田に見せた共感のような表情から考えると、やはりキョウと岩田は何処かが似ているのだろうと神無月は思った。
 
「でもな、この『ヤンキー狩り』で反撃開始し始めた頃のキョウは、すでにいじめられっ子ですらなくてな、時々学校に顔を見せるだけの『伝説のオカマ美少年』になってたってわけだ。おまけにあの頃のキョウは学校をサボって女装して街遊びをしてる姿が派手だったから、これも同じく学校をフケまくってる不良共にかなり目を付けられていた。いやあの頃って言い方はおかしいな。キョウがこの店に来てバイトまがいの事をやりはじめるまではずっとそうしてたんだから。」

 ・・・そうなのか、それが自分の知らない数ヶ月前のキョウの姿なのかと、神無月は改めて驚いていた。
 神無月が始めてキョウと出会ったときは、明るくて優しげな爽やかな青年だと思っていたが、、、いや、自分が一目見たときからキョウに興味を持ったのは、彼の背後に、街で彷徨っている美しい女装姿の幻影を感じ取っていたからかも知れないと、神無月は微かに思った。

「おっと、『ヤンキー狩り』の話だったな。他ではどうなのか知らないが、キョウの周りにいたヤンキー達は殆ど例外なく、女の子にはモテない連中だったらしい。だからモーションをかけてやると、キョウが男でもオカマでも『メチャメチャ綺麗』ってだけでイチコロで誘惑出来たそうだ。なんたってヤツらは、毎日、やりたくてやりたくて仕方がないくせに、全然、女子は近寄ってこないし、そのくせヤニ下がって女の子にアタックかけるには自分のメンツが許さないみたいな状況だって事だからな。」

「親父さん、それ、キョウ君から直接聞いたんですか?」

「おう、聞いたさ。アカの他人の俺が、アイツの起こした事件の尻ぬぐいして頭を下げてまわってるんだぞ。俺に根掘り葉掘り聞く権利はあるし、キョウだって答えなきゃ仕方なかろうが、、。そういう部分では、キョウはアイツの親父と違って礼儀を知ってる。」
    吉書の親父に酔いがまわり始めている。

「狩りの前の日に電話をかけて、これと決めた標的を夜の公園に誘い出すんだそうだ。キョウは『僕はオカマだから、きっと軽蔑すると思うけど、○○君のことずっと好きだったんです。』みたいな感じで下手にでる作戦をとる。時間通りに来た奴は、見るからにヤンキーという風体だったそうだ。というか、いつものヤンキー度より気合が入っているような感じがしたって言ってたぞ。オシャレしてくるなんて、その野郎のプライドが、頭の出来が、それを許さないんだってことさ。、、それは俺達の昔も今も一緒だな。そのヤンキーの気持ちが良く判る。男は基本、馬鹿なんだよ。」

「その後、簡単に挨拶を済ませて、少しおしゃべりをしたそうだ。キョウの奴は、恥ずかしいから、あまり顔を見ないようにしてる風を装って、チラっと相手の顔を観察したらしい。すると、相手も照れているのか顔が真っ赤だったそうだ。そうやって罠に掛け。、、男の純情を騙し罠にかける。そして屈伏させるんだ。ああ見えて、キョウの奴は、そういう事が普通に出来るんだ。それはアイツの父親の血筋じゃないな、母親の方だろう。男の子ってのは、母親に似るもんだ。」
 親父の『男の純情』という単語が面白かったが、『母親』の単語には、神無月の心がざわついた。

「性悪ってのか、いや違うか・・・それとキョウは、親父の所に入れ替わり立ち替わりやって来る女達にも影響されていたかもしれんな。さすがに親父の方も、こっちに来てからは、女癖はそう酷くはなかったが、、、まあ、それはいいか。それを考えると、キョウが可哀想になってくるからな。俺はなんとなくキョウの女装癖も、そんな所に根があるような気がするんだが、そこはキョウは自分では喋らない所だ。」
    酔いが親父を更に饒舌にさせる。

「おっと話がそれたな、話をヤンキー狩りに戻そう。キョウはそん時、目の前に現れたヤンキーを値踏みしたそうだ。コイツ、もしかして童貞?風俗にも行ってなさそうだ。ちょっと可愛そうな気がしたけど『狩り』としてはこの獲物は、最高の状態だと、思ったそうだぜ。」

 その時の頭の中に登場する恭司を思い描くと、まるで小悪魔みたいだな、、、と神無月は思った。
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