屑星の英雄はランプを擦る/対抗狙撃戦

二市アキラ(フタツシ アキラ)

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第4話

【 大聖堂とバドウルバドゥールの夜 】

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「関わるなって言っただろう、、。」
「そうだっけ?忘れてた。ところで、奴ら何者だ?」

「あんた、それも分からず、あんな派手な事をやらかしたのか?ったく、俺が警察が来るのを止めんのにいくら払ったと思ってるんだ。」
 カサノバベックは、大聖堂内部に隠された螺旋階段を登るのを止めて呆れたように言った。
 が、その時のロックロウの惚けた顔を見て、諦めたように再び足を上げた。

「奴らか?又、揉める発端になりそうだから、あんたにゃ名前は出せないな。スネーク・クロスに、ウチのボスをやれと依頼した組織の奴ら、で判るだろう?奴らもここに下見に来てたんだろうな。狙撃が上手く成功したら、間を置かずここで何かをやらかそうと企んでやがったのかも知れない。これが誰に取っても最後のチャンスなんだ。内のボスだって今回を逃がせば、又、センターサークルでしけたなワルからやり直しだ。」

    ロックロウはそんなカサノバベックの言葉を不思議な思いで聞いている。
    階段を先に登って行くカサノバベックの後ろ姿が力強い。充分に一人で生きて行ける男のように見えた。
    そんな人間がボス、ボスってなんだよ、そね程、仕えるに値する人間がこの世にいるのか?と。

「そんな矢先に、奴らは俺たちが雇った対抗狙撃の便利屋に出くわした、、てとこだ。奴らが、あわよくば、あんたの腕の一本でもへし折ってやれればと考えても不思議じゃない。だが、ここは大聖堂の前だ。いくら奴らでも、無茶はやらないと思ったんだが、、、無茶をやったのは、あんたの方だった。」

「、、俺も有名人になったものだな。」

 ロックロウが、今更かきあげなくても、元から逆立っている金髪の前髪を指ですくい上げた。
    カサノバベックの言葉も柳に風といつた感じだ。

「、、もういいよ。説明しても無駄みたいだ。しかしあんた、もう少し出来た人かと思ってたんだがな、、?」

「銃口を向けられたからだよ。それでスィッチが入った。軍にはそんな奴はいない。それをやる時は、命のやり取りが前提だ。」

 サークル軍兵士同士の流血を伴うイザコザがないわけではない。
 だがその時、コケ脅しの力を笠に着ての脅しは通用しない。
 誰もが自分の背中に等分の死を貼り付けて生きているからだ。

 リスクを伴わない他人への命令や指示。
    それが例外的に出来るのは上官だけだったし、しかもそんな薄っぺらい上官に本気でついて行く兵士はいない。

「何もわかちゃいないくせに、賢そうな面をして見下した目で他人を見る。他人の命を奪う銃を、簡単に振り回す。俺はそういう奴らが大嫌いなんだよ。」
 最後の台詞をロックロウは吐き捨てるように言った。


・・・・


「さあ、ついたぞ。ここだ。」

 二人が長い隠し階段を登って到着したのは、キャットウォーク状の隠し通路だった。ここからは司祭等が信徒の頭上に登壇する為の内部バルコニーが見下ろせる。

    ロックロウは、キャットウォークの縁ギリギリに立って、下を覗き込んでいる。
 結構な高さがあり、眼下に信者達が集まるホール全体や協会の縦長の壁の構成が見てとれた。

 カサノバベックは、高い場所が苦手なようで壁際から離れない。

「二つの月が揃って天に昇る夕べ、ボスはこの下のバルコニーで祈りを捧げる。一般人でそれが出切るのは特別な人間だけだ。そしてそのあとスピーチだ。上手く行けば招待客たちが、こぞってボスに拍手を送る。儀式の完了だ。それでこの世界でのボスの位置が完全に確定する。もちろん上手く行く。裏工作は全て済ませてある。狙撃がなければな。」

 二つの月への宣誓?

 たしかに、我々の母なる惑星があった座標を、天空の2つの月が指し示す夜には、教会に限らず様々な場所や、人々によって、神事や行事が執り行われる。
    ロックロウが知っているその日の名前は"バドウルバドゥール"だ。
    少なくともロックロウが育ったクレイドルではそう呼ばれていた。
    ちなみにバドウルバドゥールとは、クレイドル長が語ってくれたとのろの、母星の物語『アラジンと魔法のランプ』の主人公が結婚した王女の名前だ。

 バドウルバドゥールが暗黒街のボスの世代交代や代表戦にどう転用されるのか、その詳しい成り行きを、ロックロウはまだ聞かされていないし、また聞くつもりもなかった。
 ロックロウには、街のクズどもが、何をどう企もうが関係なかった。
 ロックロウにとっては、スネーク・クロスの殺しを阻止する事、そして、その阻止した相手が同じ軍の元スパイナーであることを彼に知らしめる事だけが重要だったのだ。

    だがカサノバベックにとっては事情が違った。

「バドウルバドゥールの日が対抗狙撃になった詳しい話をしない訳には、いかないな。……暗殺の宣戦布告があったのは1ヶ月前だ。」

 日時と場所を予告した狙撃は、言葉としては既に暗殺とは呼ばないのだが、ここは旧世界ではない…その程度の暗黒街の遣り口の知識はロックロウにもあった。
 人口の多寡が、各コロニーの優劣を決めるような世界では、例えマフィアの世界であっても、偶発でない限り、そうたやすく人死には出せないのだ。

    いわゆる世論がそれを許さない。
    世論と言ってもふわっとしたものではない。
    この惑星で生き残るために生まれたほぼ掟のような空気感だ。

   " 死人は何ら生産性をもたない。"

 ましてや、どちらかが全滅してしまうような規模の組織同士の武力抗争などは考えられないのだ。
 従って戦略的な暴力闘争が展開される際には精神的な戦術が多く利用される。

 この狙撃は、対抗組織がコレルオーネに対して最後に仕掛けた地雷、あるいは「踏み絵」の様なものらしい。

 暗殺狙撃を恐れ、己の存在を知らしめる為の最も重要なイベントから逃げ出すのか?そこに登場して己の胆力と実力を周囲に見せつけるのか?
 勿論、コレルオーネが殺されれば、勿論、次はなく、完全な敗北ということになる。
 組織抗争の果ての最後のケリの付け方とすれば、まあ妥当な所なのだろう。

「だから俺達は、狙撃を防ぐ為にバドウルバドゥール祝祭のロケーションとスケジュールを徹底的に調べ上げ策を講じて来た。だが、どうにもならなかったのが、この場所だ。」

 聖堂は、外界とコロニーを隔離する外壁に近い場所にある。しかも聖堂付近はミドルリングの幅が極端に薄く人口密度が薄い。
    コロニーの中にあって人々が外界を身近に感じられる不思議な場所だった。

 2つの月が天空に並ぶ時、その様子が最も美しく見える場所でもある。
 この聖堂が建てられた意味を考えると、当然の事でもあった。


「月を見る場所な……。ここからだと外壁まで4キロほどだな。この方向から見える手前の第二隔壁がいい衝立になりそうだが、残念ながら一部が超強度ハニカム構造になっている。更に隔壁の1キロ後ろは、無人の自律農業エリアだ。農業エリアからなら合計3キロ。そこからハニカムの穴を潜ってここまで狙い撃つてか?まあスネークならやってのけるだろう。しかし、それならまだ対抗手段はある。自律農業エリアへの人員の配備と、下にある演壇から外へと突き抜けになっている開放された窓を遮蔽することだ。」

   退役後の始末屋稼業のお陰でコロニーについての攻略的な分析力が身についている。
 ロックロウは、聖堂の縦長アーチ型の巨大な窓の向こうに開ける光景を見ながらそう言った。
    ロックロウの頭の中で、後手としての対抗狙撃のモヤモヤとしたアイデアが浮かびかけている。
  隠し通路の高所からコロニーの外壁の向こうに覗ける砂漠は、いつもの様に荒れ狂っていて、全てが霞んで見えていた。


「自律農業エリアへの人員配置は勿論やる。俺はむしろそっちに期待をかけている。あんたは最後の保険見たいなモノだ。だが聖堂の窓への細工は意地でも出来ない。誓いとスピーチは、あの窓を通じて二つの月に向かってなされるものだ。それを避けるという事は、ウチのボスが自らキングの器ではないと言っているようなものだ。」

「で、その試練を万人の目の前で乗り越えてみせれば、コレルオーネのキングの座が確定するって事なんだな?」

「狙撃はライバル組織が仕掛けてきた最後の悪足掻きだが、意外にこれが効いてるんだ。観客共は何時だって物見高いからな。そうなる前に、スネーク・クロスを殺せと、方々に指示を出したが、未だに奴の尻尾すら捕まえられない。」

「スネーク・クロスは事を始めるまでコロニーの外に身を潜めて居るのかも知れないぞ。元、狙撃手なんだ、それくらいなんでもない。軍に手を回せばよかったな。」

「それは最初にやった。軍は金ばかり要求しやがってまともに動かない。もしかしたら対抗組織と俺達の両方に良い顔をしてやがるのかも知れない。」


 ロックロウはすぐさま、ジェシー・ルー・リノ将軍の顔を思い出した。
 リノの正体は、正規の将軍職よりも、「軍の裏の顔」のまとめ役の方が、その実体に近かった。
 奴なら両方に良い顔をしていると言うより、どちらかが倒れるまでは、双方から金を巻き上げ、生き残った方に恩義を着せ、軍の支配下にしようと目論んでいるのだろう。

 軍は、コロニー内の治安に付いて、いざとなれば警察を差し置いて介入する権限が与えられているし、軍がその気になれば都市に巣くうマフィアなど木っ端微塵の筈だった。


「いきさつは大体解った。俺は、これから直ぐにあの方向の外壁周りを調べに行く。ハニカム壁をどうとかするのは無理だが、狙撃に使われる可能性のある穴の位置くらいは確認できる。そこから逆算して自律農業エリア内の狙撃ポイントもかなり絞れるかも知れない。それでも言っておく。狙撃は一撃必殺、先手必勝だ。あんたの部下が、予想される狙撃位置でスネーククロスを追い詰めることを期待してるよ。まあ、一発目が外れたら、こっちに勝ち目がない訳じゃない。俺も二発目が放たれる前に、弾をぶち込み続ける。それで向こうの狙いがズレるだろう。まあ、そんな感じだ。どうだ?その程度なんだぜ、それでもまだ俺を雇う気か。」

「勿論だ。リスクは承知のうえだ。例え万策尽きたって弾が必ず当たるとは限らん。ただ、それを最小限にする努力はする。ボスは、これがセンターに上がる為の最後の賭けだって事は充分判っている。今までもそうやって凌いで来たから、俺たちはこうやって駆け登れて来たんだ。」

「それならいい。だが、これは俺からの忠告だが影武者を使うのは止めてくれよ。その場は、そいつを代わりに死なせておいて、実は命を取り留めましたって、後から本人が現れるなんて筋書きは頂けない。俺も命張ってるんだ。それにそれをやってから俺の口封じみたいな段取りもな。そういうのには俺もそれなりに対応させてもらう。まあ、大丈夫だとは思うがな。おたくのボスは、今までだって"命をかけて来た"んだろう?」

「、、随分、渋いことを言うんだな?」

「ああ。あんた、俺が何で退役させられたか本当の理由を知ってるんだろう?俺は、二度も三度も他人に利用され、使い捨てにされるつもりはない。俺はあの時から、真剣勝負をやるのは相手が同じく真剣勝負をやる時だけにしてるんだよ。」

 ロックロウは、暗い目でそう言った。










 
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