屑星の英雄はランプを擦る/対抗狙撃戦

二市アキラ(フタツシ アキラ)

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第5話

【 ライフルと呼吸口 】

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 今回の対抗狙撃戦、ロックロウに全く勝算がない訳ではなかった。

 いくら、軍隊で憧れだった狙撃手の目を覚ませる為だと言っても、まったく勝ち目のない勝負に出る程、人は良くない。

 ロックロウには、最近手に入れた重力制御ベルトを防御バリアとして応用する手があった。

 ベルトの基本的な動作は、重力を局所的に増加減退させる事にあるが、その力が発生する範囲を、恣意的に数か所、あるいは数方向に別ける事によって様々な使い回しが可能になる。

 ベルトは、既にそこまで機能するレベルに調整が仕上がっていた。
    もしそれで自分の前面に盾のようにバリアーを張ることができたなら…。
     更に、自分が発射する銃弾の部分だけバリアーを丸く解除出来たら…いやこれは無理か、それでもそれに近い状態まで仕上げる事は出来る筈だ、と。


 普通に考えれば、世紀の大発明品をロックロウは手に入れた訳だが、現在の人間の知力ではベルトの原理も仕組みも解明することは出来ない。
 技術応用も不可能。当然、製品化など夢の又、夢。
 もうこうなれば、魔法使いが使う魔法のようなものだ。

 特異点テクノロジー制シェルター内で純粋培養された天才児、リトルジーニーでさえ、グレーテルキューブと言う知性を宿したスーパーコンピュータのレプリカがなければ、どうしようもなかった代物なのだ。

 だが、とにかく重力制御ベルトは作動するのだ。

 大雑把だが、今のところ、重力の制御ベクトルを変えれば、ロックロウが待機するキャットウオークから、眼下の演台へ伸びる重力による遮蔽膜生成程度は可能だと思えた。

 それで相手からの第一弾を逸らせば、相手の狙撃位置が分かる。

 あとはカサノバベックの配下が向こうに配備されている分だけ、こちらが有利だった。

 問題は、ベルトがその場面で、そう都合よくロックロウの思うように作動するかだった。

・・・・

 ロックロウがベルト制御にある程度の手応えを感じ始めていた頃、カサノバベックが軍仕様の特殊狙撃用ライフルを携えて、センターリング外辺スラムにある彼のアパートにやって来た。

 ロックロウは、退役時にライフルなどの一切の軍装備を返還していたから、ライフルの調達をカサノバベックに依頼していたのである。

「もっと最新のが手に入りそうだったから、そちらにしようかとも思ったが、あんたの指定だから古いのにした。それで良かったか?なんなら最新モデルを手に入れようか?伝手は付いている。」
     カサノバベックは事も無げに言ったが、軍部が圧倒的な権力を持つコロニー内部では、余程、軍とのコネクションがない限り軍用品を入手するのは難しい筈だった。
    カサノバベックはそういった面でも相当なやり手のようだった。

「いや、これでいい。最新モデルが採用されたのは俺も知っているが、今からそれをコネクタに繋いでチューニングして自分の手に馴染んだものするには時間が掛かり過ぎる。」

「ふーん、そんなものかね?しかしそのライフル、馬鹿でかいな。あんたらの活躍はケーブルテレビでよく見てたが、ライフルはもっと小さい物かと思っていた。」

「ああ。戦闘の記録映像は俺達の戦い振りを格好良く見えるように編集してあるからな。印象操作だよ。多分、俺たちが元気溌剌でコレを軽々と扱ってる場面だけを切り取ってるんだろう。実際は酷いもんだ。しかしこのライフルは、これでもサイズと重量をぎりぎりまで絞ってあるんだぜ。まだ軽い方だ。安定を重視したでかいので昆爬相手に遠距離射程でじっくり狙ってたら、その間に自分の首をもぎ取られてしまう。だから俺達はこいつを担いで本当にギリギリまで、こっそり昆爬に近づくんだよ。その為の軽量化がなされてある。もっとも近づいたら、近づいたで危険は増すわけだが。」

 カサノバベックがロックロウの話を神妙に聞いているのが可笑しかった。

 このコロニーでは完全な徴兵制は用いられて来なかった。
 他のコロニーと比較しても、彼等の生活するエバーグリーンは群を拔いた人口を有していたからだ。
 遙かな過去に行われた地球からの人類大量転移が成功した数少ない例なのだ。

 軍は一般志願兵と職業軍人・軍属によって構成されている。
 そして一般志願兵は、食い詰めた人間達が、まっとうに生活する為の正当な職業選択枝の一つとなっていた。

 勿論、それを選ばぬ貧困層の人間も多かったが。
 何故と言って、兵士になった限りは、かなりの確率で死を覚悟しなければいけないからだ。
 食いつなぐ為に兵士になっても、そこに死が待っているなら意味がない。
 それでも兵士になろうとする人間は、それ以上に今の暮らしが悲惨か、それなりの事情があるからだった。

 おそらくカサノバベックも兵士になっていても、おかしくない過去を持っていた筈だった。
 だがこの男は、生きのびる為に、兵士を選ばずマフィアになる道を選んだのだ。


「一つ、聞いていいか?」
「ああ、俺の尻の穴のサイズ以外ならな、」
 ロックロウは、早速、ライフルを分解し仔細な点検を始めている。

 その手の流れは、全く淀みがなく機械のようだった。
 もし部品に何らかの欠損があれば本番での命取りになる。
 それを探し出して、直ぐに目の前の男へ告げるつもりだった。

「昆爬を薬で退治出来るようになったのは俺だって知っている。だが実際にはどうやるんだ?注射器とかを、そのライフルで発射してるのか?それに薬を大量に作ってばら撒くって方法を何故取らなかったんだ?」

 ロックロウは、昆爬に注射器が刺さっている光景を想像して、思わず爆笑しそうになったが、それは我慢した。
 カサノバベックは、これでもまだコロニー外での戦闘について、知識を持っているほうだった。

 政府は、外界の戦闘について徹底した情報管制をコロニー内に行っている。
 退役軍人に支払われる年金も、半分は口封じ料のようなもので、軍の戦闘行為に関わる詳細を一般人に漏らせば規約違反ということで減額になる。
 勿論、若くして退役軍人になり、他に食い扶持のあるロックロウは、そんな事を気にする様な男ではない。

「昆爬たちの外皮装甲は信じられない程強力で、コチラの武器がなかなか通用しなかった。それに奴らの飛び道具は、直接、尻の穴から吹き出して来る火炎弾と溶解弾だった。こっちは最初、それで奴らを侮っていたんだよ。見た目、原始的すぎるからさ。」

 ロックロウは初めて、巨大な蟻のような姿をした昆爬が、その尻を持ち上げ、空中に火炎弾を吹き出した光景を目にした時の事を思い出した。
 だがその姿におかしみを感じたのは、昆爬が尻を上に突き上げる時だけだった。

 後は地獄だった。


「だが奴らの武器の威力は、俺達の兵器を充分上回っていたんだ。奴らには、フェアリー型といって羽で高速飛行する奴もいるしな。こっちはあの糞忌々しい毒電波空のお陰で、空を飛べないから地上戦だけだ。最初のうちはコテンパンに殺られていた。反撃しようにも付け入る隙がなかった。でもある時、奴らに効く殺虫剤と奴らの呼吸口が見つかった。ただしこの二つが癖有りでな、薬の方は成分の安定性が極端に悪く揮発性が強すぎた。散布は無理なんだ。それに呼吸口の方は大体昆爬たちの体側に小さなものが安全弁付きで2・3個並んでいるだけだ。それは超大型もゴミ屑サイズも皆同じだ。奴らの身体の仕組みは未だによく解らない。まあともかく、その呼吸口を狙ってこのライフルで薬剤を打ち込み破裂揮発させて昆爬に吸い込ませるわけだ。呼吸口そのものを狙っちゃ駄目だ。そこを僅かに外すんだ。奴らは本当にビックリする程のスピードで呼吸口を閉じるからな、相手は飛んで来るライフルの弾なんだぜ。それに反応しやがる、仕組みってか、理屈がわからん。まあ昆爬自体が半分、機械見たいなところがあるからな。だから狙うのは、呼吸口の外側の輪っかの部分だ。そこで炸裂気化させて、薬を吸い込ませる。」

 そう言い終わったロックロウが、今度は一旦分解したライフルを素早く組み立て直し、各作動部分のチェックをはじめる。

 全てが早くて手馴れている。


「このライフルは、そういった機能に特化されて作られている。勿論、基本的には狙撃手の命を守るために遠距離射程でも確実な安定した弾道が得られる。まあそちらの使い回しの御利益は、実践ではほとんどなかったがね。奴らの動きは信じられない程、速いし予測がつかない。メダルコネクタでライフルを同調させても遠距離では無理だ。実戦でやったのは、良くて中距離、大体が近距離射程だ。それで何人も死んでる。」

 ロックロウは、これも同じくカサノバベックが持ってきた弾倉パックの中の一つを掴み上げて言った。

 勿論、それは昆爬に使う揮発薬剤弾ではない。

「今の所、問題はないようだ。おたくが選んだこれ、良いライフルだと思うぜ。これから試し撃ちに行く。弾は長距離射程の対人用と炸裂弾と、、。うん?あんたも、試し撃ちに付合うか?用心棒である俺の腕前が見たいだろ?」

「いや、遠慮しとくよ。今日は、色々とあるんでな。だが今日のあんたの話と銃の扱いを見て正直な所ちょっと安心した。あんたは正真正銘のプロだ。」

「安心?馬鹿を言うな、俺は昆爬殺しのプロだが、スネーク・クロスは人殺しのプロだぞ。あんたらも人を殺めるんだろうが、奴のそれとはレベルが違う。」

 ・・・スネーク・クロスは、俺が昆爬にやった事を人間に向けてやってるんだ。

 とロックロウは心の中で付け加えた。









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