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#謀略 前編
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日本の社会学者に宮台真司と云う男がいて、彼は【世界観】についてこのような事を述べている。
【「世界」が法則的に記述できることが明らかになるほど、なぜ別の法則ではなくその法則によって支配された「世界」があるのかという「端的な事実」──原初的な偶発性──が浮かび上がる。】
仕事からマンションに帰ると、いつもの様にポストの中の郵便物の束をわしづかみにして自室に入った。
雑多な郵便物の中に小さな小包があるのに気づいた。 大きさから観てどうやらバーチャルスティックのサンプルのようだ。
ラベルを見てみると確かに私宛のようだった。松本喜三郎とある。喜三郎などいうネーミングは最近では珍しいから、宛先としては間違いようがない。
だが住所が間違っている。番号が一つ違う。
しかし私の部屋は角部屋で次の番号は無いはずなのだが、、。
私はシャワーを浴びてからそれを開封することにした。
私は一人暮らしを始めてから気兼ねなくエロバーチャルを買い漁るようになっていた。
最近は特にSM系にはまり始め裏モノのマニアックなものにまで手を出していた。バーチャルの場合、下手な演出や演技が効かないから、こういった分野は得体の知れない業者も多いのだが、そういうところの方がいいものを出している確率が高い。
まあ仕事でくたくたに疲れ、家に帰ってからも特にすることもないような人間は結局の所、バーチャル漬けになるしかないといった感じだ。
シャワーを浴びてソファーに座り、心当たりの無い奇妙な小包を開封した。
たぶん始めに予想したように新シリーズのサンプルか何かだろう。
もう色んな業者から散々バーチャルスティックを買っているから、私はサンプルを送るに値する上得意と言うことになる。
スティックのタイトルには「強制メイド化物語」とあった。
よくあるタイトルだ。
経験上、つまらなさそうな気がした。
もうプラグインせず無視しようかと思ったのだが、サブタイトルには「嫌がる女を無理やりあなたの人形に」とあった。
これには少しそそられた。
どうせ只だし、暇つぶしでインしてやろうという気持ちで、あまり期待をせずポッドにスティックを挿入しプラグを付けた。
おそらくストーリーは、さらってきた女にメイドの格好をさせて犯すといった所だろうと想像していた。
・・だが途中からその予想を裏切られた。
男が何か上下二つに分かれたセパレートタイプのラバースーツのようなものを用意しだしたのだ。
その中に女を押し込んで、その上にさらに衣装を着せる意図のようだ。
「人形」とは「奴隷」の意味だと思っていたのだが、どうやら本当に人形にするらしい。
今でも需要のある「2次元」ではそれなりに見受けられる展開だがバーチャルでは珍しい設定だ。ラバーの装着など実際には時間のかかるモタモタしたシーンは「2次元」では簡単に編集できるのだが、実体験感を主眼とするバーチャルではそういった時間を切り貼りする編集が難しいからだ。
男は余り手際が良いとは言い難い、どちらかと言えば暴力的な手順で肌色のラバースーツの上半身部分を無理矢理、女に被せていく。普通の男なら。ケイト・ベッキンセールに似た美女の顔を無表情なマネキンフェイスに変え、生々しい乳房を何故、ゴムの肌で覆う必要があるのかと怒り出すだろう。
そこが私のフェチ心を刺激した。
私は夢中になって没入した。
このバーチャルはなかなか秀逸だ。
しかしサンプルのせいか品質は良くないようだ。
質感がチラチラと明滅し、マテリアルにノイズが入っている。
だが私は気にせず、それこそ「没頭」した。
まさにそれは最近の私の性的趣向のストライクゾーンだったのだ。
物語は佳境に入りだした。
男はケイト・ベッキンセールに似た女の上半身を人形化しその格好で犯した後、残ったスーツを着せて完全なメイド人形として手元に置くと宣言する。
当然、女は嫌がっている。
なかなかの展開だ。私は普段からこんな妄想を持っていた。
男は女の陰毛を剃り、下半身のスーツを着せていった。
私はチラつく世界の中にますます入り込んでいった。
女はスーツの上からさらにコルセットをつけられ、女性器とお尻の両方にディルドーを挿入されている。
後ろ手に手錠をされ、隣の部屋に連れて行かれる。
部屋の中央にはポールが突き刺さった丸い土台があり、そのポールの先に女のディルドーの底面が固定された。
本当にマネキン人形にする気か?
私は猛烈に自分のペニスをしごいていた。
この作品は私のいつもの妄想をそのままバーチャル化したもののように思えた。
人形として部屋に放置される女に自分を投影しながら私はフィニッシュした。
ソファーに横になりながら、こんな充実したオナニーは久しぶりだと思った。
私はスーツを着せられた女をもう一度見ようとインしなおしたのだが、突然バーチャルからはじき出されてしまった。
故障?バーチャル機器のハード的な故障は、直接、人間の神経に影響を及ぼすので二重三重の安全装置によって守られている筈だが、、。
私はどこか不安を抱えたまま、自分の身体の点検も兼ねて再びシャワーを浴びようとバスルームに向かった。
バスルームでヒゲを剃ろうと剃刀を持った途端、先ほどインした作品のことを思い出した。
あの女のように陰毛はもちろんのコト、全身の毛を剃ったらどんな気持ちだろう。
ふとそんな考えが頭に浮かんだのだ。
私は2週間の休暇を取っていた。
この不況で傾きかけの会社は簡単にOKを出した。本当は首にしたいのだろう。
私も喰っていけるなら、ウンザリするような平板な毎日からはおさらばしたかった。
剃っても大丈夫な気もする。
そんなことを考えているとますます剃らなければならないような強迫観念が出て来る。
ばかばかしい。剃ってどうしようというんだ。
私はシャワーを浴び終えると部屋に戻った。
バーチャルにもう一度インしようと、ジャージに着替えてソファーに座り、スイッチを入れた。
先ほどの異常操作は嘘のように何の異常もなく作動する、、。
女優が人形ヘッドを無理やり被せられイマラチオを強制されている場面で、今までの疲れが出たのか、私は眠りに落ちた。
自分が人形にされる奇妙な夢を見ながら。
…………………………、…、……、
気だるさを覚えながら目が覚めた。
ふとバーチャルポッドの操作パネルを見るとそれがつけっぱなしだった。
バーチャルポッドのそばに行くと、なんとリプレイモードになっている。
何回も再生され続けていたに違いない。
だが私にはそういうセッティングをした記憶が無いし、あれ以降、インした覚えもない。
第一、プラグは外れているではないか。
時計を見ると2時だった。
なんと15時間も眠っていたのか?!
こんなに眠ったのは生まれてはじめてだった。
私はシャワー室に行き鏡を見た。
心なしか自分の顔がげっそりしているように見える。
昨日のバーチャルと、夢の内容を思い出していた。
私のペニスは再び固くなりだしていた。
私は何か食べなくてはとキッチンに向かった。
冷蔵庫の扉を開けると同時に食べ物の匂いを嗅ぐと、胸が悪くなった。
喉すら渇いてなかった。
昨日から何も食べてないにもかかわらず。
風邪でもひいたのか?
せっかくの長期休暇なので、そうでないことを願った。
突然、私は玄関で物音を聞いた。
行ってドアを開けてみると誰もいなかった.
足元を見下ろすと、大きな箱がドアのそばに置いてあった。
私は再びあたりを見まわした。
だが人影どころかトラックや車すら通りには無かった。
私はその荷を玄関に引き入れ、ドアを閉めると荷札を読んだ。
そこには私の名前があった、だが住所はまた間違っていた。
その住所は昨日届いたバーチャルとまったく同じアドレスだった。
第一、DMの類ではあるまいし、受け取りのサインも貰わぬまま配達業者がこんな大きな荷物を玄関に置き去りにするというコトがあるのだろうか?
私はパッケージを自室に持ち込みそれを開けた。
気味が悪いので中に何があるのか確認しなければならない気持ちもあったが、何よりも、「欲望」と「好奇心」が私を突き動かしていた。
蓋を開け失望した。
最初に変な黄色の液体が入ったビンに気づいた。
私は良く見ようと、それを引き抜いた。
それは1リットル近い容量のビンだった。液体はちょっと濃く見え、それなりの濃度があるようだった。
一旦それを置いて、箱の中のパッキングの中身を色々と手探りした。
そして同梱してあった一つのバーチャルを引き抜いた。
それには何のラベルもプリントされていなかった。
私はソファーの上にそれを放り投げた。
もしそれが前回と同じようなものならまた楽しめるかもしれない。
更に箱の中を調べていく内に、私は心臓が飛び出そうになった。
バーチャルの中で出てくるような光沢のある肌色のボディスーツが透明パッケージに包まれ納められていたからだ。
バーチャルと違うところは上下に分かれるタイプではなくて人間の抜け殻のような一体型だという点だ。
これを誰かに着させるタメには相当の時間が必要だろう。
バーチャルもその点を配慮してセパレーツにしたのに違いない。
信じられない、話がうますぎた。
しかし私は立ち上がり、自分の体の前でその最新鋭の肉襦袢をかざし合わせていた。
どうしてもそれを自分の身に着けたいという衝動から逃れられなかったのだ。
私は箱に目を戻し、もう一つの小ビンとパンフレットを取り出した。
それはスーツの取扱説明書だった。
それを読んでいる内に私は、バリントン・J・ベイリーの書いた小説『カエアンの聖衣』をふと思い出した。
【バッフル・スーツが一着、吊り下がっている。 オルガンのバイブみたいないろんなサイズの管で全面がびっしり覆われた、かさばる代物。
絞首台に向かう死刑囚のような気分でペデルはそちらに歩み寄った。
なんとなく人間のかたちには見えるものの、三層のバッフルのおかげで、スーツはあまりにも大きくグロテスク で、人体を保護するというより、閉じ込めるために造られた道具のように見える。
カストールがウインチを操作すると、スーツはがくがく揺れながら床に降りてきた。
カストールは、スーツ前面のロックをはずし、鉄の処女のようにぱかっと開けてから、小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、中に入れとペデルに身ぶりで合図した。】……私はペデルになったような気がした。
取説によるとスーツをつける前に小ビンに入っているクリームを身体に塗らなければならないと書いてあった。
クリームの正体はスーツを正しく装着するのを可能にするための潤滑油だった。
取説によるとスーツは着用者の体にあってフィットすると書いてある。
着用者の体温によって完璧にフィットするらしい。
ウエストまわりが重点的に縮んでお尻を強調するともあった。
取扱説明書は、このスーツはボディに自信の無いどんな女性にもグラマラスなボディを与えると謳っていた。
それはいくら何でも大げさに言いすぎだろうと感じた。
最近ニュースで知った人工皮膚の進化には目を見張るモノがあったが着用者の体型を変える話など聞いたことがない。
これはバーチャルのストーリーのように女性に着せ、つまり彼女に着せてドールコスプレの変態プレイをする製品なのだろう。
しかし、私はこれを着てみたくてしようがなかった。
せっかく送られてきたのだ、どうせ女もいないことだし、自分が着ても別に悪くはないだろうと。
それより心の奥底のどこかで、抑えがたいそうしたいという感情があった。
取説には一緒に入っていたバーチャルや付属の大きい瓶への説明は無かった。
私はスーツを改めてじっくりと観察した。
それは胸とお尻にパッドがついていた。
改めてかざして見ると、全体的にかなり小さく思えた。
女物だから当然だろう。
サイズは私の半分ぐらいしかなかった。
首の後ろ側が小さく開いていた。
取説のパンフレットによると、それがスーツを着るための着用口らしい。
「こんなに小さなものが」
すこし疑念があったが、思い切って着用してみることにした。
私はスーツを寝室に持っていき服を脱いだ。
次に取説どおりにクリームを体中に塗りたくった。
体中がだんだん滑らかになっていった。
塗り広げると奇妙な匂いが立ち昇り、私の皮膚は少し熱くうずいた。
スーツを持ち上げたとき、形を整えるのに苦労した。
ラバーの柔らかさより湿り気を感じさせる。
少なくともスーツの上下程度は把握していないと着用すら出来ない。
私は首の後ろの穴から足を滑り込ませスーツの足の部分まで自分の足を押し込んだ。
次にもう片方の足を入れ、伸ばし、スーツを引き上げた。
ぴったりとフィットしている。
どうやら着用口はかなり伸びるようだ。
股の部分まで来た時、スーツにペニスと睾丸用のポケットがあるのに気づいた。
私は一瞬不審に思った。
これは女性に着せるコスプレ用のおもちゃのはずだ。
だがこれだけ高機能なものだからユニセックス仕様であってもおかしくないのだろうと勝手に解釈した。
お尻の部分には大きなディルドーも付いていた。
これで納得した。
やはり女性用だ。
内側のペニスサックはおそらくおまけなのだろう。
私にはディルドーは不要なので取り外そうとした。
だが完全にスーツと一体化しているらしく、クリームを塗ったツルツルする手では取り外せそうも無い。
仕方なく私はディルドーと性器ポケットの内側にクリームを塗って伸ばし、スーツをお尻の上まで引き上げた。
クリームのおかげでディルドーは私の肛門になんとか入り 前のポケットは私の性器を中に収め、まるで吸い付くような感触だった。
私はスーツの伸縮性に再び感嘆した。
さらに腰の上までスーツを引き上げつづけた。
そして右腕をスーツの穴にすべりこませ、スーツの腕の部分に沿っておろしていった。
私の指はきれいにスーツの指の部分にまで滑り込んだ。
指の部分には真っ赤な長い付け爪がついていて、とても女性的に見えた。
次にもう一方の腕をすべりこませ、スーツを肩まで引き上げた。
いよいよ最終段階だ。
私は自分の頭を穴からすべりこませた。
目と鼻の部分に穴があり、目の部分には長い付け睫毛もついている。
口の部分の内側には凝った造りの マウスピースのようなものがついていた。
私はそれに自分の歯を合わせ口をぱくぱくさせてみた。
若干、口を閉じにくいものの自分の口のように滑らかで、外側はぷっくりと真っ赤な唇が着いていた。
スーツは私の頭と肩を覆い、パチンと音をたてて閉まった。
完璧にフィットしている。
私は首の後ろに手を伸ばし、ここまで苦労して入れた着用口を確認した。
それは直径7センチ程の、元の大きさに戻っていた。
ここまで裂けずに伸縮したのは本当に驚きだった。
相当高価な素材に違いない。
私は自分の足元を見下ろした。
足の指先にも赤い着色された爪のようなものがついていた。
だが指の部分とは異なってつま先は指ごとに分かれているわけではなくストッキングのような一体化した形態だった。
これが人形であるコトの「由縁」なのだろう。
私は鏡の前に行って、自分の姿を見てみた。
自分の姿を信じることができなかった。
それはバーチャルの中に出てくるような女の人形のようだった。
スーツ頭部は完璧に私の顔にフィットし、ウエストは苦しかった。
だが懐疑的な私は、現在のスタイルが取説のいうような完全な女性のプロポーションというにはすこし足りないような気がした。
それでも私は、自分の姿を見ていると、バーチャルのストーリーを思い出し段々興奮しはじめていた。
そのとき突然、私の体をイナズマのような衝撃が走った。
私のお尻のディルドーが振動をし始め、ポケットにぴっちり収まっていた性器の部分も脈打ちはじめ、私を掻き乱したのだ。
私は今まで経験したことが無いほどの人生最大の刺激を受け床に崩れ落ちた。
スーツはまるで私をからかうようにオルガスムス直前までいきながらそこで止まった。
私は自分の性器を触るため手を股間にもっていったがどうすることもできなかった。
私はオルガスムスの間際の状態でのたうちながら床に横たわっていた。
だが完全に達することはできなかった。
私はスーツの内側で汗をかきはじめ、皮膚はピリピリして火照っているようだった。
ついに私は絶頂に達し、溜まっていたものを床にぶちまけた。
股の下のほうに排出するための穴があったに違いないとぼんやりと思ったがそんなことを深く考えている余裕は無かった。
スーツは私を刺激し続け、私は何度もオルガスムスに達した。
私はこれまでに、こんなに何度も絶頂に達したことは無かった。
ついに私は床に横たわったまま、意識を失った。
目が覚めて時計を見てみると数時間眠っていた。
また前後不覚に眠ってしまったが、私は自分の身に起きていることに驚かなかった。
立ち上がって鏡で自分の姿を見た。
ウエストが細く絞られ股間が平らになってしまっている。
私は首の後ろを確かめるため手を伸ばした。
スーツに入り込んだ穴はさらに小さくなっているように感じた。
取扱説明書の言うところの、着用者の体温でカスタマイズされるということなのだろう。
私はリビングに戻ってスーツと一緒に入っていたバーチャルを試して見ることにした。
ポッドにバーを挿入してソファーに座った。
最初のバーチャルの続きのようだった。
ラッキーだ。前回急に終わっていたのでがっかりしていたのだ。
ただ残念な事にサンプルのせいか、このバーチャルも前と同じくらいの品質だった。
マテリアルがチラチラと明滅していた。
バーチャルでは前回と同じ役者が似たようなことを続けていたが私は内容に満足していたのでさして飽きることもなく没入していけた。
ダッチワイフのようになった女はスタンドに立たせられまるでメイド人形のようになり果ていた。
私は自分が彼女のようになりたいと思っているのに気づいた。
その考えは刺激的だった。
私はプラグも外さずソファーに寝転がり再び眠りについた。
そして以前より鮮明にバーチャルのストーリーのような夢を見ていた。
自分が女のように見えるスーツを着る。
バーチャルの女優ではなく、自分が。
突然私は目が覚めた。
ふらつく頭であたりを見回した。
あたりは暗くなっていて、バーチャルのプレビュー映像だけが再生され続けていた。
私はぼんやりプレビュー画面を見た。
私はソファーから起きた。
寝起きのせいか口の中がからからだ。
関節が鈍く、動きが緩慢になっている気がする。
私は自分の腕を見下ろした。
以前より細くなっている気がする。
私は指を曲げてみたがまるで軋むようだ。
スーツが縮むだけではなく、硬化しているのか?
男らしい俊敏な動きができなくっていいるような気がする。
私はゆっくりソファーから立ち上がった。
足元にスーツと一緒に入っていた黄色い液体の瓶がころがっていた。
私はそれを飲んだのか?
どうしても思い出せなかった。
バーチャルをまたオートリプレイにしたかどうかすら思い出せなかった。
洗面所にいってトイレに座った。
2日以上ろくに何も飲んでいないにもかかわらず想像以上に大量の尿が疑似尿口から出た。
私は洗面所の鏡を覗き込んだ。
顔がほっそりしているように思えた。
私は口を閉じようとしたが若干抵抗感を感じた。
スーツ頭部内のマウスピースが少し硬化しだしたのだろうか。
半開きよりちょっと大きめに開いたままの方が楽だった。
それにしてもこのだるさは何なんだろう?
やはり風邪を引き、それをこじらせつつあるのだろう。
私は全身を見るためにベッドルームに向かった。
そして自分の姿を見て衝撃を受けた。
明らかに前よりやせている。
四肢はスリムになり、ウエストは特に絞られている。
対照的にパッドの入ったお尻は膨らみ、そして指は滑らかにすらっとしていた。
これは怪しかった。
スーツは本当に私の体をカスタマイズしているのだった。
取扱説明書の謳い文句どおりに、出るとこは出て、絞るところは絞られていた。
もしこんなものを着るのに、またこんなことに興味が無いなら もうとっくに脱いでいただろう。
しかしそんな考えは逆に不快感をもたらした。
スーツを脱ぐ?
”脱ぐな、絶対に脱ぐな!”と心の奥底から叫びが聞こえるようだった.
そしてその心の声のいうとおりだった。
私は脱ぐことができなかった.
私は女の人形のようになりたかった、そしてスーツを着たのだ。
なぜ脱ぐ必要がある?
それは私の体を見たことも無いシェイプに変えていた。
美しい女性のようにみえる。
私は鏡の前でその姿を長い間見つめていた。
前編 終了
【「世界」が法則的に記述できることが明らかになるほど、なぜ別の法則ではなくその法則によって支配された「世界」があるのかという「端的な事実」──原初的な偶発性──が浮かび上がる。】
仕事からマンションに帰ると、いつもの様にポストの中の郵便物の束をわしづかみにして自室に入った。
雑多な郵便物の中に小さな小包があるのに気づいた。 大きさから観てどうやらバーチャルスティックのサンプルのようだ。
ラベルを見てみると確かに私宛のようだった。松本喜三郎とある。喜三郎などいうネーミングは最近では珍しいから、宛先としては間違いようがない。
だが住所が間違っている。番号が一つ違う。
しかし私の部屋は角部屋で次の番号は無いはずなのだが、、。
私はシャワーを浴びてからそれを開封することにした。
私は一人暮らしを始めてから気兼ねなくエロバーチャルを買い漁るようになっていた。
最近は特にSM系にはまり始め裏モノのマニアックなものにまで手を出していた。バーチャルの場合、下手な演出や演技が効かないから、こういった分野は得体の知れない業者も多いのだが、そういうところの方がいいものを出している確率が高い。
まあ仕事でくたくたに疲れ、家に帰ってからも特にすることもないような人間は結局の所、バーチャル漬けになるしかないといった感じだ。
シャワーを浴びてソファーに座り、心当たりの無い奇妙な小包を開封した。
たぶん始めに予想したように新シリーズのサンプルか何かだろう。
もう色んな業者から散々バーチャルスティックを買っているから、私はサンプルを送るに値する上得意と言うことになる。
スティックのタイトルには「強制メイド化物語」とあった。
よくあるタイトルだ。
経験上、つまらなさそうな気がした。
もうプラグインせず無視しようかと思ったのだが、サブタイトルには「嫌がる女を無理やりあなたの人形に」とあった。
これには少しそそられた。
どうせ只だし、暇つぶしでインしてやろうという気持ちで、あまり期待をせずポッドにスティックを挿入しプラグを付けた。
おそらくストーリーは、さらってきた女にメイドの格好をさせて犯すといった所だろうと想像していた。
・・だが途中からその予想を裏切られた。
男が何か上下二つに分かれたセパレートタイプのラバースーツのようなものを用意しだしたのだ。
その中に女を押し込んで、その上にさらに衣装を着せる意図のようだ。
「人形」とは「奴隷」の意味だと思っていたのだが、どうやら本当に人形にするらしい。
今でも需要のある「2次元」ではそれなりに見受けられる展開だがバーチャルでは珍しい設定だ。ラバーの装着など実際には時間のかかるモタモタしたシーンは「2次元」では簡単に編集できるのだが、実体験感を主眼とするバーチャルではそういった時間を切り貼りする編集が難しいからだ。
男は余り手際が良いとは言い難い、どちらかと言えば暴力的な手順で肌色のラバースーツの上半身部分を無理矢理、女に被せていく。普通の男なら。ケイト・ベッキンセールに似た美女の顔を無表情なマネキンフェイスに変え、生々しい乳房を何故、ゴムの肌で覆う必要があるのかと怒り出すだろう。
そこが私のフェチ心を刺激した。
私は夢中になって没入した。
このバーチャルはなかなか秀逸だ。
しかしサンプルのせいか品質は良くないようだ。
質感がチラチラと明滅し、マテリアルにノイズが入っている。
だが私は気にせず、それこそ「没頭」した。
まさにそれは最近の私の性的趣向のストライクゾーンだったのだ。
物語は佳境に入りだした。
男はケイト・ベッキンセールに似た女の上半身を人形化しその格好で犯した後、残ったスーツを着せて完全なメイド人形として手元に置くと宣言する。
当然、女は嫌がっている。
なかなかの展開だ。私は普段からこんな妄想を持っていた。
男は女の陰毛を剃り、下半身のスーツを着せていった。
私はチラつく世界の中にますます入り込んでいった。
女はスーツの上からさらにコルセットをつけられ、女性器とお尻の両方にディルドーを挿入されている。
後ろ手に手錠をされ、隣の部屋に連れて行かれる。
部屋の中央にはポールが突き刺さった丸い土台があり、そのポールの先に女のディルドーの底面が固定された。
本当にマネキン人形にする気か?
私は猛烈に自分のペニスをしごいていた。
この作品は私のいつもの妄想をそのままバーチャル化したもののように思えた。
人形として部屋に放置される女に自分を投影しながら私はフィニッシュした。
ソファーに横になりながら、こんな充実したオナニーは久しぶりだと思った。
私はスーツを着せられた女をもう一度見ようとインしなおしたのだが、突然バーチャルからはじき出されてしまった。
故障?バーチャル機器のハード的な故障は、直接、人間の神経に影響を及ぼすので二重三重の安全装置によって守られている筈だが、、。
私はどこか不安を抱えたまま、自分の身体の点検も兼ねて再びシャワーを浴びようとバスルームに向かった。
バスルームでヒゲを剃ろうと剃刀を持った途端、先ほどインした作品のことを思い出した。
あの女のように陰毛はもちろんのコト、全身の毛を剃ったらどんな気持ちだろう。
ふとそんな考えが頭に浮かんだのだ。
私は2週間の休暇を取っていた。
この不況で傾きかけの会社は簡単にOKを出した。本当は首にしたいのだろう。
私も喰っていけるなら、ウンザリするような平板な毎日からはおさらばしたかった。
剃っても大丈夫な気もする。
そんなことを考えているとますます剃らなければならないような強迫観念が出て来る。
ばかばかしい。剃ってどうしようというんだ。
私はシャワーを浴び終えると部屋に戻った。
バーチャルにもう一度インしようと、ジャージに着替えてソファーに座り、スイッチを入れた。
先ほどの異常操作は嘘のように何の異常もなく作動する、、。
女優が人形ヘッドを無理やり被せられイマラチオを強制されている場面で、今までの疲れが出たのか、私は眠りに落ちた。
自分が人形にされる奇妙な夢を見ながら。
…………………………、…、……、
気だるさを覚えながら目が覚めた。
ふとバーチャルポッドの操作パネルを見るとそれがつけっぱなしだった。
バーチャルポッドのそばに行くと、なんとリプレイモードになっている。
何回も再生され続けていたに違いない。
だが私にはそういうセッティングをした記憶が無いし、あれ以降、インした覚えもない。
第一、プラグは外れているではないか。
時計を見ると2時だった。
なんと15時間も眠っていたのか?!
こんなに眠ったのは生まれてはじめてだった。
私はシャワー室に行き鏡を見た。
心なしか自分の顔がげっそりしているように見える。
昨日のバーチャルと、夢の内容を思い出していた。
私のペニスは再び固くなりだしていた。
私は何か食べなくてはとキッチンに向かった。
冷蔵庫の扉を開けると同時に食べ物の匂いを嗅ぐと、胸が悪くなった。
喉すら渇いてなかった。
昨日から何も食べてないにもかかわらず。
風邪でもひいたのか?
せっかくの長期休暇なので、そうでないことを願った。
突然、私は玄関で物音を聞いた。
行ってドアを開けてみると誰もいなかった.
足元を見下ろすと、大きな箱がドアのそばに置いてあった。
私は再びあたりを見まわした。
だが人影どころかトラックや車すら通りには無かった。
私はその荷を玄関に引き入れ、ドアを閉めると荷札を読んだ。
そこには私の名前があった、だが住所はまた間違っていた。
その住所は昨日届いたバーチャルとまったく同じアドレスだった。
第一、DMの類ではあるまいし、受け取りのサインも貰わぬまま配達業者がこんな大きな荷物を玄関に置き去りにするというコトがあるのだろうか?
私はパッケージを自室に持ち込みそれを開けた。
気味が悪いので中に何があるのか確認しなければならない気持ちもあったが、何よりも、「欲望」と「好奇心」が私を突き動かしていた。
蓋を開け失望した。
最初に変な黄色の液体が入ったビンに気づいた。
私は良く見ようと、それを引き抜いた。
それは1リットル近い容量のビンだった。液体はちょっと濃く見え、それなりの濃度があるようだった。
一旦それを置いて、箱の中のパッキングの中身を色々と手探りした。
そして同梱してあった一つのバーチャルを引き抜いた。
それには何のラベルもプリントされていなかった。
私はソファーの上にそれを放り投げた。
もしそれが前回と同じようなものならまた楽しめるかもしれない。
更に箱の中を調べていく内に、私は心臓が飛び出そうになった。
バーチャルの中で出てくるような光沢のある肌色のボディスーツが透明パッケージに包まれ納められていたからだ。
バーチャルと違うところは上下に分かれるタイプではなくて人間の抜け殻のような一体型だという点だ。
これを誰かに着させるタメには相当の時間が必要だろう。
バーチャルもその点を配慮してセパレーツにしたのに違いない。
信じられない、話がうますぎた。
しかし私は立ち上がり、自分の体の前でその最新鋭の肉襦袢をかざし合わせていた。
どうしてもそれを自分の身に着けたいという衝動から逃れられなかったのだ。
私は箱に目を戻し、もう一つの小ビンとパンフレットを取り出した。
それはスーツの取扱説明書だった。
それを読んでいる内に私は、バリントン・J・ベイリーの書いた小説『カエアンの聖衣』をふと思い出した。
【バッフル・スーツが一着、吊り下がっている。 オルガンのバイブみたいないろんなサイズの管で全面がびっしり覆われた、かさばる代物。
絞首台に向かう死刑囚のような気分でペデルはそちらに歩み寄った。
なんとなく人間のかたちには見えるものの、三層のバッフルのおかげで、スーツはあまりにも大きくグロテスク で、人体を保護するというより、閉じ込めるために造られた道具のように見える。
カストールがウインチを操作すると、スーツはがくがく揺れながら床に降りてきた。
カストールは、スーツ前面のロックをはずし、鉄の処女のようにぱかっと開けてから、小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、中に入れとペデルに身ぶりで合図した。】……私はペデルになったような気がした。
取説によるとスーツをつける前に小ビンに入っているクリームを身体に塗らなければならないと書いてあった。
クリームの正体はスーツを正しく装着するのを可能にするための潤滑油だった。
取説によるとスーツは着用者の体にあってフィットすると書いてある。
着用者の体温によって完璧にフィットするらしい。
ウエストまわりが重点的に縮んでお尻を強調するともあった。
取扱説明書は、このスーツはボディに自信の無いどんな女性にもグラマラスなボディを与えると謳っていた。
それはいくら何でも大げさに言いすぎだろうと感じた。
最近ニュースで知った人工皮膚の進化には目を見張るモノがあったが着用者の体型を変える話など聞いたことがない。
これはバーチャルのストーリーのように女性に着せ、つまり彼女に着せてドールコスプレの変態プレイをする製品なのだろう。
しかし、私はこれを着てみたくてしようがなかった。
せっかく送られてきたのだ、どうせ女もいないことだし、自分が着ても別に悪くはないだろうと。
それより心の奥底のどこかで、抑えがたいそうしたいという感情があった。
取説には一緒に入っていたバーチャルや付属の大きい瓶への説明は無かった。
私はスーツを改めてじっくりと観察した。
それは胸とお尻にパッドがついていた。
改めてかざして見ると、全体的にかなり小さく思えた。
女物だから当然だろう。
サイズは私の半分ぐらいしかなかった。
首の後ろ側が小さく開いていた。
取説のパンフレットによると、それがスーツを着るための着用口らしい。
「こんなに小さなものが」
すこし疑念があったが、思い切って着用してみることにした。
私はスーツを寝室に持っていき服を脱いだ。
次に取説どおりにクリームを体中に塗りたくった。
体中がだんだん滑らかになっていった。
塗り広げると奇妙な匂いが立ち昇り、私の皮膚は少し熱くうずいた。
スーツを持ち上げたとき、形を整えるのに苦労した。
ラバーの柔らかさより湿り気を感じさせる。
少なくともスーツの上下程度は把握していないと着用すら出来ない。
私は首の後ろの穴から足を滑り込ませスーツの足の部分まで自分の足を押し込んだ。
次にもう片方の足を入れ、伸ばし、スーツを引き上げた。
ぴったりとフィットしている。
どうやら着用口はかなり伸びるようだ。
股の部分まで来た時、スーツにペニスと睾丸用のポケットがあるのに気づいた。
私は一瞬不審に思った。
これは女性に着せるコスプレ用のおもちゃのはずだ。
だがこれだけ高機能なものだからユニセックス仕様であってもおかしくないのだろうと勝手に解釈した。
お尻の部分には大きなディルドーも付いていた。
これで納得した。
やはり女性用だ。
内側のペニスサックはおそらくおまけなのだろう。
私にはディルドーは不要なので取り外そうとした。
だが完全にスーツと一体化しているらしく、クリームを塗ったツルツルする手では取り外せそうも無い。
仕方なく私はディルドーと性器ポケットの内側にクリームを塗って伸ばし、スーツをお尻の上まで引き上げた。
クリームのおかげでディルドーは私の肛門になんとか入り 前のポケットは私の性器を中に収め、まるで吸い付くような感触だった。
私はスーツの伸縮性に再び感嘆した。
さらに腰の上までスーツを引き上げつづけた。
そして右腕をスーツの穴にすべりこませ、スーツの腕の部分に沿っておろしていった。
私の指はきれいにスーツの指の部分にまで滑り込んだ。
指の部分には真っ赤な長い付け爪がついていて、とても女性的に見えた。
次にもう一方の腕をすべりこませ、スーツを肩まで引き上げた。
いよいよ最終段階だ。
私は自分の頭を穴からすべりこませた。
目と鼻の部分に穴があり、目の部分には長い付け睫毛もついている。
口の部分の内側には凝った造りの マウスピースのようなものがついていた。
私はそれに自分の歯を合わせ口をぱくぱくさせてみた。
若干、口を閉じにくいものの自分の口のように滑らかで、外側はぷっくりと真っ赤な唇が着いていた。
スーツは私の頭と肩を覆い、パチンと音をたてて閉まった。
完璧にフィットしている。
私は首の後ろに手を伸ばし、ここまで苦労して入れた着用口を確認した。
それは直径7センチ程の、元の大きさに戻っていた。
ここまで裂けずに伸縮したのは本当に驚きだった。
相当高価な素材に違いない。
私は自分の足元を見下ろした。
足の指先にも赤い着色された爪のようなものがついていた。
だが指の部分とは異なってつま先は指ごとに分かれているわけではなくストッキングのような一体化した形態だった。
これが人形であるコトの「由縁」なのだろう。
私は鏡の前に行って、自分の姿を見てみた。
自分の姿を信じることができなかった。
それはバーチャルの中に出てくるような女の人形のようだった。
スーツ頭部は完璧に私の顔にフィットし、ウエストは苦しかった。
だが懐疑的な私は、現在のスタイルが取説のいうような完全な女性のプロポーションというにはすこし足りないような気がした。
それでも私は、自分の姿を見ていると、バーチャルのストーリーを思い出し段々興奮しはじめていた。
そのとき突然、私の体をイナズマのような衝撃が走った。
私のお尻のディルドーが振動をし始め、ポケットにぴっちり収まっていた性器の部分も脈打ちはじめ、私を掻き乱したのだ。
私は今まで経験したことが無いほどの人生最大の刺激を受け床に崩れ落ちた。
スーツはまるで私をからかうようにオルガスムス直前までいきながらそこで止まった。
私は自分の性器を触るため手を股間にもっていったがどうすることもできなかった。
私はオルガスムスの間際の状態でのたうちながら床に横たわっていた。
だが完全に達することはできなかった。
私はスーツの内側で汗をかきはじめ、皮膚はピリピリして火照っているようだった。
ついに私は絶頂に達し、溜まっていたものを床にぶちまけた。
股の下のほうに排出するための穴があったに違いないとぼんやりと思ったがそんなことを深く考えている余裕は無かった。
スーツは私を刺激し続け、私は何度もオルガスムスに達した。
私はこれまでに、こんなに何度も絶頂に達したことは無かった。
ついに私は床に横たわったまま、意識を失った。
目が覚めて時計を見てみると数時間眠っていた。
また前後不覚に眠ってしまったが、私は自分の身に起きていることに驚かなかった。
立ち上がって鏡で自分の姿を見た。
ウエストが細く絞られ股間が平らになってしまっている。
私は首の後ろを確かめるため手を伸ばした。
スーツに入り込んだ穴はさらに小さくなっているように感じた。
取扱説明書の言うところの、着用者の体温でカスタマイズされるということなのだろう。
私はリビングに戻ってスーツと一緒に入っていたバーチャルを試して見ることにした。
ポッドにバーを挿入してソファーに座った。
最初のバーチャルの続きのようだった。
ラッキーだ。前回急に終わっていたのでがっかりしていたのだ。
ただ残念な事にサンプルのせいか、このバーチャルも前と同じくらいの品質だった。
マテリアルがチラチラと明滅していた。
バーチャルでは前回と同じ役者が似たようなことを続けていたが私は内容に満足していたのでさして飽きることもなく没入していけた。
ダッチワイフのようになった女はスタンドに立たせられまるでメイド人形のようになり果ていた。
私は自分が彼女のようになりたいと思っているのに気づいた。
その考えは刺激的だった。
私はプラグも外さずソファーに寝転がり再び眠りについた。
そして以前より鮮明にバーチャルのストーリーのような夢を見ていた。
自分が女のように見えるスーツを着る。
バーチャルの女優ではなく、自分が。
突然私は目が覚めた。
ふらつく頭であたりを見回した。
あたりは暗くなっていて、バーチャルのプレビュー映像だけが再生され続けていた。
私はぼんやりプレビュー画面を見た。
私はソファーから起きた。
寝起きのせいか口の中がからからだ。
関節が鈍く、動きが緩慢になっている気がする。
私は自分の腕を見下ろした。
以前より細くなっている気がする。
私は指を曲げてみたがまるで軋むようだ。
スーツが縮むだけではなく、硬化しているのか?
男らしい俊敏な動きができなくっていいるような気がする。
私はゆっくりソファーから立ち上がった。
足元にスーツと一緒に入っていた黄色い液体の瓶がころがっていた。
私はそれを飲んだのか?
どうしても思い出せなかった。
バーチャルをまたオートリプレイにしたかどうかすら思い出せなかった。
洗面所にいってトイレに座った。
2日以上ろくに何も飲んでいないにもかかわらず想像以上に大量の尿が疑似尿口から出た。
私は洗面所の鏡を覗き込んだ。
顔がほっそりしているように思えた。
私は口を閉じようとしたが若干抵抗感を感じた。
スーツ頭部内のマウスピースが少し硬化しだしたのだろうか。
半開きよりちょっと大きめに開いたままの方が楽だった。
それにしてもこのだるさは何なんだろう?
やはり風邪を引き、それをこじらせつつあるのだろう。
私は全身を見るためにベッドルームに向かった。
そして自分の姿を見て衝撃を受けた。
明らかに前よりやせている。
四肢はスリムになり、ウエストは特に絞られている。
対照的にパッドの入ったお尻は膨らみ、そして指は滑らかにすらっとしていた。
これは怪しかった。
スーツは本当に私の体をカスタマイズしているのだった。
取扱説明書の謳い文句どおりに、出るとこは出て、絞るところは絞られていた。
もしこんなものを着るのに、またこんなことに興味が無いなら もうとっくに脱いでいただろう。
しかしそんな考えは逆に不快感をもたらした。
スーツを脱ぐ?
”脱ぐな、絶対に脱ぐな!”と心の奥底から叫びが聞こえるようだった.
そしてその心の声のいうとおりだった。
私は脱ぐことができなかった.
私は女の人形のようになりたかった、そしてスーツを着たのだ。
なぜ脱ぐ必要がある?
それは私の体を見たことも無いシェイプに変えていた。
美しい女性のようにみえる。
私は鏡の前でその姿を長い間見つめていた。
前編 終了
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