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88 就職祝い
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「でも、兄弟じゃないって言ってくれれば……僕、悩まなかったのに」
「俺がまだ小さい頃さ、父上に『ルイスが気が付くまで教えないでくれ』って言われたんだよ。それに、父上の事件のせいで、二人で一緒に暮らし始めた時は、本当の兄弟じゃないって兄さんに知られて、捨てられるのが怖かったから言えなかった」
「……捨てやしないよ……」
「でも、兄さんは生活するので一杯一杯だったじゃないか。俺とケンカした時、出てけって言われて悲しかった。……まぁ、俺が悪いんだけどさ。あれで一度兄さんと離れてから、捨てられるのが怖くて、それだったら兄弟って思っててくれた方が、俺の事捨てられないだろうなって思ったんだ」
「ああ、なるほど……」
「それに、俺、色んな事知らなさ過ぎた。兄さんが苦労して金策してたのも気付いてなかったし、母上の事も、……俺の母上なのにあんなに色々考えて悲しんで。だから、最近はもっと自分が大人になったら、血が繋がってないって言おうと思ってた。兄さんに恥ずかしくない男になりたくって……でもなかなかなれなくて……卒業して、就職決まったら言おうかとも考えてたんだけど、……なかなか就職も決まらないし……。正直焦ってた。ずっと言いたくて、もやもやしてたんだ。……今日、本当はこんな風に言うつもりじゃ無かったんだ。だけど、俺、面接の受け答えで失敗しちゃって……、気が付いたら全部ぶちまけてた。兄さん、ずっと黙っててごめん……」
僕はずっとセドリックの顔を見ていた。
兄弟じゃないなら、僕がこいつを愛したって……大丈夫だよな?
何の問題も無いよな? 嘘じゃないよな……?
まだ頭の中が、なんだかぼんやりした感じだ。
「……嘘じゃないんだよな?」
「うん」
「……」
「兄さん? 大丈夫?」
「うっ? うん、大丈夫」
僕は立ち上がって足に付いた埃を払った。
「セバスさんにお前が本当に採用されたか、確認してくる」
「うん」
僕がセバスさんの所に行こうとすると手首を掴まれた。
「兄さん、今日就職祝いしよう? 祝ってくれるよね?」
「え? ああ、そうだな。そうしようか。帰りに何かご馳走買って帰るよ」
「そういう意味で言ってるんじゃないんだけど……」
「んん?」
「兄弟じゃないんだし、仕事決まったし、兄さんをその……えっと」
もじもじして言ってる状態を見て理解した。
なんちゅうことをこの公共の場で言おうとしてやがるのか? この馬鹿は。
「えっと、こういう場所で言うことじゃないと思うんだ。だから帰宅したらちゃんと聞くよ。じゃあ家でね」
僕は掴まれた手首を外してセバスさんの所に行った。
学習室に行くともう誰もいなかった。なのでセバスさんの執務室に行くことにした。
ドアの前で深呼吸する。あんな醜態を晒したんだから、もうあれ以上に恥ずかしい事なんて無い。
ノックをすると『どうぞ』と言われ、中に入った。
「先程は途中で退出してすいません、少し動揺してしまいました」
「……まぁ、あんな事を言われては動揺もしますよね?」
と言いつつ、セバスさんがにやにやして僕を見る。
「えっと、弟の事なんですが、本当に護衛に採用されたんですか?」
「ええ、採用です」
「あんな敬語も使えてない粗忽者ですが、いいのでしょうか?」
「男色家で護衛の力がある者を探してましたから、敬語はそこまでは必要ありませんよ。最低限出来れば問題ないです。姫様もそんなに言葉遣いに煩くない方ですしね」
「ありがとうございます!」
僕はお辞儀して執務室を後にした。
帰りに酒場の『宵待ち草』に寄って、チキンのパリパリ焼きをテイクアウトして帰った。これは鳥一匹を丸ごと焼くんだけど、中の内臓を抜いて野菜や細長いライスを詰めてオーブンで焼いた物だ。アランと来た時に食べて美味しかったから、セドリックにも食べさせたいと思ってた。
自宅に着いてドアを開けると、いきなりぎゅううっと抱きしめられて、キスされた。
凄い力で押さえ込まれて、後ろに倒れそうになってしゃがんだ。
子供と大人ぐらいの身長差があるんだから、押さえ込むのは辞めて欲しいまじで。
いつか後頭部を打ちそうで怖い。
「ちょっと! チキン落としちゃうよ!」
僕が怒るとごめんごめんとチキンの袋をもってキッチンに行った。
キッチンに入ると、他にも弟の手作り料理が用意されいた。
二人で狭いキッチンのテーブル席に着いて、フルーツワインで乾杯した。
「やっと二人でお酒が飲めるね」
「子供用のお酒も売ってるよ? 高いけど」
「そんな高い酒買うかよ。僕達みたいな庶民は、お酒が飲める年齢になるまで待つのが賢明さ」
「あ、このチキン美味い」
「でしょー、お前に食べさせたくて買ってきた」
「ありがとう、兄さん」
「うん、就職おめでとう。これから頑張ってな。あ、お前さぁ、敬語が全然成ってない! これから身分の高い人と話すこともあるだろうから、ちゃんと身に着けないとだめだよ? クビになって無職にならないように気をつけて?」
「え? そんなに酷かった?」
「うん。……多分、お前が就職面接何回しても受からなかったのは、言葉遣いのせいだと思ったよ? それくらい酷かった。敬語が話せないと常識が無いって思われるからね……」
「俺がまだ小さい頃さ、父上に『ルイスが気が付くまで教えないでくれ』って言われたんだよ。それに、父上の事件のせいで、二人で一緒に暮らし始めた時は、本当の兄弟じゃないって兄さんに知られて、捨てられるのが怖かったから言えなかった」
「……捨てやしないよ……」
「でも、兄さんは生活するので一杯一杯だったじゃないか。俺とケンカした時、出てけって言われて悲しかった。……まぁ、俺が悪いんだけどさ。あれで一度兄さんと離れてから、捨てられるのが怖くて、それだったら兄弟って思っててくれた方が、俺の事捨てられないだろうなって思ったんだ」
「ああ、なるほど……」
「それに、俺、色んな事知らなさ過ぎた。兄さんが苦労して金策してたのも気付いてなかったし、母上の事も、……俺の母上なのにあんなに色々考えて悲しんで。だから、最近はもっと自分が大人になったら、血が繋がってないって言おうと思ってた。兄さんに恥ずかしくない男になりたくって……でもなかなかなれなくて……卒業して、就職決まったら言おうかとも考えてたんだけど、……なかなか就職も決まらないし……。正直焦ってた。ずっと言いたくて、もやもやしてたんだ。……今日、本当はこんな風に言うつもりじゃ無かったんだ。だけど、俺、面接の受け答えで失敗しちゃって……、気が付いたら全部ぶちまけてた。兄さん、ずっと黙っててごめん……」
僕はずっとセドリックの顔を見ていた。
兄弟じゃないなら、僕がこいつを愛したって……大丈夫だよな?
何の問題も無いよな? 嘘じゃないよな……?
まだ頭の中が、なんだかぼんやりした感じだ。
「……嘘じゃないんだよな?」
「うん」
「……」
「兄さん? 大丈夫?」
「うっ? うん、大丈夫」
僕は立ち上がって足に付いた埃を払った。
「セバスさんにお前が本当に採用されたか、確認してくる」
「うん」
僕がセバスさんの所に行こうとすると手首を掴まれた。
「兄さん、今日就職祝いしよう? 祝ってくれるよね?」
「え? ああ、そうだな。そうしようか。帰りに何かご馳走買って帰るよ」
「そういう意味で言ってるんじゃないんだけど……」
「んん?」
「兄弟じゃないんだし、仕事決まったし、兄さんをその……えっと」
もじもじして言ってる状態を見て理解した。
なんちゅうことをこの公共の場で言おうとしてやがるのか? この馬鹿は。
「えっと、こういう場所で言うことじゃないと思うんだ。だから帰宅したらちゃんと聞くよ。じゃあ家でね」
僕は掴まれた手首を外してセバスさんの所に行った。
学習室に行くともう誰もいなかった。なのでセバスさんの執務室に行くことにした。
ドアの前で深呼吸する。あんな醜態を晒したんだから、もうあれ以上に恥ずかしい事なんて無い。
ノックをすると『どうぞ』と言われ、中に入った。
「先程は途中で退出してすいません、少し動揺してしまいました」
「……まぁ、あんな事を言われては動揺もしますよね?」
と言いつつ、セバスさんがにやにやして僕を見る。
「えっと、弟の事なんですが、本当に護衛に採用されたんですか?」
「ええ、採用です」
「あんな敬語も使えてない粗忽者ですが、いいのでしょうか?」
「男色家で護衛の力がある者を探してましたから、敬語はそこまでは必要ありませんよ。最低限出来れば問題ないです。姫様もそんなに言葉遣いに煩くない方ですしね」
「ありがとうございます!」
僕はお辞儀して執務室を後にした。
帰りに酒場の『宵待ち草』に寄って、チキンのパリパリ焼きをテイクアウトして帰った。これは鳥一匹を丸ごと焼くんだけど、中の内臓を抜いて野菜や細長いライスを詰めてオーブンで焼いた物だ。アランと来た時に食べて美味しかったから、セドリックにも食べさせたいと思ってた。
自宅に着いてドアを開けると、いきなりぎゅううっと抱きしめられて、キスされた。
凄い力で押さえ込まれて、後ろに倒れそうになってしゃがんだ。
子供と大人ぐらいの身長差があるんだから、押さえ込むのは辞めて欲しいまじで。
いつか後頭部を打ちそうで怖い。
「ちょっと! チキン落としちゃうよ!」
僕が怒るとごめんごめんとチキンの袋をもってキッチンに行った。
キッチンに入ると、他にも弟の手作り料理が用意されいた。
二人で狭いキッチンのテーブル席に着いて、フルーツワインで乾杯した。
「やっと二人でお酒が飲めるね」
「子供用のお酒も売ってるよ? 高いけど」
「そんな高い酒買うかよ。僕達みたいな庶民は、お酒が飲める年齢になるまで待つのが賢明さ」
「あ、このチキン美味い」
「でしょー、お前に食べさせたくて買ってきた」
「ありがとう、兄さん」
「うん、就職おめでとう。これから頑張ってな。あ、お前さぁ、敬語が全然成ってない! これから身分の高い人と話すこともあるだろうから、ちゃんと身に着けないとだめだよ? クビになって無職にならないように気をつけて?」
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