魔術師長様はご機嫌ななめ

鷹月 檻

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第一章

5陽の光の匂いの幼女 レイジェス視点

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 私は小さな美幼女を縦抱きしていた。彼女は不安そうに私の顔を見つめる。

「そんな顔をしなくても良い。きちんと君を庇護しよう」

 私が玄関のドアを開けると素早く執事のゼフィエルが現れた。

「そちらのお嬢様は……?」
「ああ、そのことで話をしておく必要があるな……皆をここへ集めてくれ」

 ゼフィエルは素早く使用人に呼びかけ全員を集めさせた。屋敷内の使用人は全部で15人程で、私の前に2列になって立っている。

「先ほど創造神アズライル様が前庭に降臨され、神の愛し子であるアリア=アズライル様を私に託された。私はこの子を庇護者として育てることになった。皆の者、よろしく頼むぞ」
「隠し子ではないのですね?」

 ゼフィエルが疑うように問うが簡便して欲しい。私は清い体のままだ。

「神の子であるならお嬢様と呼ぶのは失礼にあたりますね。呼び方はどのようにいたしましょうか?」

 と側仕えの仕長であるセレネが発言した。
少し考えたが【姫】ぐらいしか思いつかない。

「姫でいいのでは?」
「了解いたしました」
「では、アリア、挨拶を」

 私は彼女を床に降ろした。
床に立つと彼女の背が私の腰よりちょっと低いことに気が付く。
通常の8歳より小さいのではなかろうか?
きちんと見てないと踏み潰してしまいそうだ。ゼフィエルが床について汚れてしまいそうな毛皮のマントを預かった。彼女は緊張した面持ちで挨拶をした。

「はじめまして皆様。私はアリア=アズライル8歳です。父神は創造の神アズライル様、母神は地球という名の惑星の創造神ベテル女神様で、私はお二人によってこの世に生まれさせていただきました。アズライルの地は初めてで何もわかりませんがよろしくお願い致します」
「ん? アズライル神は単神だったはずだが?」

 と私は薄目で彼女を見たが彼女は動揺する様子もなかった。

「私をお二人で創造したことにより夫婦神になったと聞きました」
「結婚されたのか、それはめでたい」
「お館様のお話は済んだようです。皆早く仕事に戻りなさい!」

 ゼフィエルが両手をパンパンと鳴らすと、使用人達は蜘蛛の子を散らすように消えて行った。私はゼフィエルに濡れたコートを渡しアクアウォッシュの魔法をかけた。自分や衣服、物などを浄化をする生活魔法の一種で、水属性の魔法である。
それを見ていた彼女は何故か瞳をキラキラさせた。

「談話室の暖炉に火を入れてあります。お茶を入れますので夕食までそちらでお待ちくださいませ」

 ゼフィエルはそれだけ言って足早に去った。私は彼女に付いてくる様に声をかけスタスタと玄関中央の大階段を上り右奥に向かった。「待ってくださ~い」と呼びかける声がしたので後ろを振り向くと彼女が倒れていた。

 はっ? 何があったのだ?

 私は慌てて彼女の口元に手をあてる。吐息が感じられない。私は彼女の胸に耳をあてた。トクントクンと細々とした心臓の音が聞こえる。

この音は死にかけではないか……?

 まずい! まずい! この子が死んでしまったら国どころか大陸が滅ぶんだぞ? 私は彼女を抱き上げ談話室の長椅子に寝かせた。そして執務室の机の引き出しに気付け薬があったのを思い出す。
私の目覚まし用であるが、何もしないよりマシである。
私は早足で執務室に向かった。机の中を漁る。
急げ急げ! 私は2段目の引き出しから緑の液体が入った小瓶を取り出し談話室に向かった。

 長椅子の彼女を抱き起こすのに私は立ち膝になった。上半身を抱き起こし、小瓶の薬をそのまま飲まそうとするが首がくたっとなって飲ませられない。
仕方がないので私の口に一回含んでから彼女の口に口移しで飲ませることにしたが、子供なので口が小さくて少しずつしか飲ませられない。私は溢さないようにゆっくりと何回かに分けて薬を飲ませた。

「ごほっ、ごほっ、ふぅ……」

 彼女の目が覚めた。彼女は長椅子に座りなおした。私はその隣に座ることにした。

「大丈夫なのか? 君は体がどこか悪いのか?」
「私の中の魂が魔心核とまだなじんでいないので、体がきついのです」
「それでは体に爆弾を抱えてるようなものではないか! あ、さっき私が早歩きしていたから付いてこようとして倒れたのだな?」

 彼女は私を上目使いに見つめてから申し訳なさそうに目を伏せた。

「私に気を使わなくて良い。これからはきちんと言うように。毎回こんな風に倒れられたら私の寿命が縮む」
「はい」

 コンコンとドアをノックする音が聞こえ、ゼフィエルがティーセットを乗せたワゴンを運んできた。長椅子の前に部屋の隅に置いてあったミニテーブルを持ってくる。そのテーブルを使ってお茶を入れ始める。

「私にはブラウンティを。君にはミルクティでいいか?」

 彼女はこくりと頷き、注がれたミルクティを飲んで「おいしぃ~!」と目を輝かせた。ゼフィエルが礼をして席をはずしたので私は彼女に確認したいことがあると言った。

「君のステータスが見たい。鑑定していいか?」
「え……? どうぞ?」

 鑑定をされるという事は個人情報を相手にさらけ出すことになる。
確認したいと言ったがこうも易々どうぞと言うなど、無防備すぎる。
まぁ、いい。あとで注意しておこう。
頭の中で念じると彼女のステータスが現れた。


【名前】アリア=アズライル
【種族】半神(人族)
【年齢】8歳
【性別】女
【レベル】0
【HP】23
【MP】18920
【称号】神の愛し子、神の子、傾国の美女。
【属性】火、水、風、土、光、闇、無属性空間魔法。
【特殊スキル】罪人の烙印スティグマ、無自覚の魅了。
【スキル】転移魔法、時空の扉ゲート(庇護者の下へ転移できる。)
【現在の状態】体内異常。
【異常内容】魔心核と異世界の魂のなじみが良くないため、体内の魔力の流れが悪く激しい運動をすると鼓動が止まる。
アズライル神は低品質な魔心核しか自分の娘、アリアに与えられなかったことを悔やみアズライルの土地を滅ぼすことを考えた。が、アリアが人族なので滅ぼすことは止めた。アズライル神はアリアを人々に託す事にし、その結果によってはこの地を滅ぼすこともやむ終えないと考えている。
これは人々に課せられた神々からの試練である。



 私は彼女のステータスの異常内容欄を見て絶句した。
背すじに冷たいものが走る。彼女の育て方いかんによってはこの国が、いや、大陸が滅びてしまう可能性がある。
なぜ庇護者が私なんだ? 私は独身だぞ?
子供なんか育てたこともないのに……! 責任重大じゃないか!
しかも、こういう風に育てて下さいね、っていうマニュアルもない。
どうしたらいいんだ……。

 しかし、種族の欄の半神かっこ人族ってなんだ? どういうことだ?
かっこでも人族と書いてあるから、半神でも人に近いということか?
さっぱりわからぬ。
あと、MPは1万超えだが、HPが23て……少なすぎだろ!
ちょっとしたことで死ぬんじゃないか? 私の初期魔法で攻撃したら消し炭になりそうだ。

 それと、この特殊スキルとはなんだ?
私達の世界にはその人特有のスキルで個人スキルというものがあるが、特殊スキルというのは聞いたこともない。ただ、称号や種族を見る限り神の子というのは本当なんだなと確信した。
私が難しい顔でじぃっと彼女を見つめていたせいか彼女は不安顔になっていた。

「私、何か変ですか?」
「いや、変じゃない。ああ、君はこれから公爵低に住むのだから言葉遣いをもっと良くしなさい。身分の高い令嬢は自分のことを私ではなく【わたくし】と呼ぶ。わかったね?」
「はい。…あのぅ、わたくしも魔術師長様のステータスが見たいです」

キラキラした目で見上げてくる。

「私のはダメだ」
「え? さっき、わたくしのを見たじゃないですか。ずるいです……」

 つぶらな瞳でうるうると見つめてくる。まぁ、私も彼女のを見てしまったしな。私は自分の体に張っている魔法防御膜を解除して一言彼女に「誰にも言うなよ」と念を押してから鑑定を許可した。

 普通は鑑定する相手のレベルが自分より高いと鑑定がはじかれて見えない。
彼女はレベルが0なので見えないかもと高をくくっていたがどうやら見えてしまったようだ。「まぁ……」と驚いたように口元に手をあてて、輝くような瞳で私を見つめている。

 私はゆっくりと茶を飲んだ。
自分のステータスを見られて動揺してるなどと相手に悟られてはいかん。
コンコンとノックの音がした。

「お食事の用意ができました」

 私達は一階の食堂に移動し席についた。側仕えが私と彼女の右後方に付く。食事をしながら私はゼフィエルに明日の予定を伝えた。

「私はいつもの通り朝の7の刻に城に出仕するが、お前にはやってもらいたいことがある。商会の者を呼んでアリアの服と靴の採寸をして至急ドレスを作って欲しい。ああ、下着も作らせろ。あと、王に謁見願いの書状を送って欲しい。夕の5の刻には帰る。アリアは魔心核の病がある。絶対走らせたり驚かせたりしないように厳重に注意してくれ」
「承知いたしました。あの、お館様」

 ゼフィエルが指をさす方を見ると彼女がスープの皿の前でコクリコクリと頭を動かしている。

「姫様はお疲れのようです。お部屋はどういたしましょう」
「とりあえず、今日は私の部屋で預かる。2階の左奥の部屋が空いていたと思うがそこを明日から使えるようにしてくれ。寝具も新しい物を入れたほうがいいだろう。他に必要なものも買い付けて置くように。女児の必要な物など私にはわからぬ。お前に任せるのでよろしくな」

 私は食事を切り上げ彼女の所に近づいた。このままではスープに顔が埋まりそうなので先にスープを除ける。除けた皿は給仕がすぐさまに下げて持って行った。
私は彼女を抱きかかえようとして気付いた。
ん? 頭のつむじのあたりに細かい光がきらきらしている。
なんだこれは? 何かついているのかと思い目を近づけてみるが、何もなくてまだきらきらしている。
そして彼女からなんとも言えない陽の光の良い匂いがした。

 やっぱり普通の人族とは違うのだなと妙に納得しつつ彼女を抱き上げて私の部屋に連れて行った。暖炉がついてるので暖かい。
私は玄関で浄化魔法を使い自分を綺麗にしたが彼女はまだなので抱きかかえたままアクアウォッシュをかける。寝台に一度彼女を置いてから私は寝巻きに着替えた。
そして、はた、と気付く。彼女も着替えさせなければ行けない。

 子供用の寝巻きがないので私の貫頭衣かんとういの寝巻きを着せることにした。
彼女の服を脱がそうとしたがどうやって脱がすのか暫く悩んだ。
腰の細帯をはずしたあと、しばらくして両肩についている赤い瑪瑙めのうのような宝石がブローチで、服を止めていることが分かったのでそれをはずした。

 はらりとはだけたそこには蒼白い肢体に浮き上がるように薄い桃色の乳首が見えた。彼女は下着を上も下もつけていず、股の小さな割れ目も見えてしまった。
無防備に眠っている彼女の肢体にドキッとしたが、私は頭を左右に振っった。
彼女の頭から寝巻きを通し、袖に両腕を通させ寝台の壁際に寝かせる。

 それから暖炉の火を消して、明り取りの蝋燭の火を消して寝台に入った。
隣では彼女がすぅすぅと寝息をたてて寝ている。
思えば、私は人と眠るのは初めてではないか?
親とでさえ一緒の寝台で寝たことなどない。彼女を抱き寄せるととても暖かった。
ちょうど彼女の頭が私の顔の所にくるので彼女のきらきら光る頭に顔を埋めて私は寝た。陽の光の良い匂いがする中で私は眠りについた。

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