魔術師長様はご機嫌ななめ

鷹月 檻

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第一章

10手袋完成

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 事件から3日経った。
あの後ラシェはレイジェス様が番所に連絡し、城から役人が来て連れて行った。
尋問することになったけど、ラシェの顔にはスティグマが浮かび上がっていて罪人であることは明白だ。

 スティグマとは罪人の烙印の事で、これを持つものは皆過去に何らかの犯罪を犯している。神からの啓示と言われていて、それが浮かび上がった者は番所で拘束され、取調べを受けなければいけないと法律で決まっている。

 あの日レイジェス様が仕事の時間なのにお屋敷に来たのは偶然だった。商会の専属契約書類がレイジェス様の鞄に他の書類と間違えて入ってたので、必要だった書類を取りに来たそうだ。

 で、私がいなかったので使用人にどこに行ったか聞いたら、温室に花を見に行ったと言うので、自分も一緒に見ようと思って温室に来たとの事。
温室のドアを開けたら私があんな状態だったので愕然としたらしい。

 事件の日レイジェス様は城に戻らず、ずっとお屋敷にいて私を抱っこしていた。要するに、仕事をさぼった。さすがに次の日はちゃんとお城に出仕したけど、首になっちゃいますよ? と言ったら、魔術師団で一番高位なのは自分だから大丈夫とさっくり返された。

 あ、そうそう、新しいフットマン見習いの男の子が入った。オーティス君16歳。16歳でもこちらの世界ではもう大人なんだよね。薄い水色の髪で金色の瞳の美少年って感じ。ラシェのことがあったから採用面接はレイジェス様も一緒にすることになって、私とレイジェス様とゼフィエルが並んでテーブルの向こうにオーティス、だったんだけど、面接される側としたら圧迫感すごいよね。

 16歳男子ってことでレイジェス様は乗り気じゃなかったけど、オーティスが自分は【衆道です】とカミングアウトしちゃったので採用になった。レイジェス様は自分が好かれるかも? とは考えなかったのかな? オーティスとしては長く勤めることになるんだったら自分の事を理解して欲しいって思ったらしい。

 まぁ、男色くらいでどうこう言う使用人はいないでしょ。公爵様が毎日幼女抱っこして過ごしてるようなお屋敷ですから。

 そして私はさっきレイジェス様の手袋を完成させた!いや~頑張ったわ、私。
編み物は元々好きだったから全然苦じゃないけど。
試着をゼフィエルにしてもらったらはめれたから、多分大丈夫だよね~。
さて、包装はどうしようか? 包装紙ってあるのかな? まだまだ紙は貴重な世界だから布でまいてリボンする? そうしよう。
談話室から出て使用人控え室の方に行くと廊下にセレネがいた。

「手袋が完成したので包装したいのですけど、薄い布とリボンてあるかしら?」
「少々お待ちください」

 セレネが布製品が置いてある部屋に行っていくつか見繕って籠に入れてきた。
私が選んだのは白い光沢感のある布と青い色に銀色の線が入ったリボンだった。私がそれだけ選ぶとセレネは残りを返しに行った。うきうき気分で談話室に戻るとオーティスとゼフィエルがいた。

「姫様にはこれからオーティスが付きますので」
「わかりました。オーティス、よろしくね」

 オーティスは跪いて礼をした。私はいつもの長椅子に座ってふんふふ~んと鼻歌を歌いつつ包装を始める。白い布で包んで青いリボンでりぼん結びをする。形良くふんわり作るのがちょっと難しい。

「できた!!」

 私はできたプレゼントを自分の部屋に隠してきた。そしてまだ残っていたピンクの毛糸と編み棒を返しに行こうとして気付いた。あ、オーティスにお願いしよっと。

「こちら返したいんですが」
「はい、わかりました」
「オーティス待ちなさい。君が返しに行ってはいけない。側仕えを呼びなさい。そこに呼び鈴があるだろう? 使用人控え室に音が届くようになっているから。君は姫様から絶対目を離しては行けない。最重要任務はそれだからね」

 ずっと監視が付くことになってしまった……はぁ。
そういえば談話室の部屋の隅にある呼び鈴使ったことがない。
プレゼントは夕食が終わったら渡そうっと。楽しみだぁ!
レイジェス様、早く帰って来ないかな。
図書館から本を借りて談話室で読んでたらいつのまにか寝てしまったようだ。
目をこすっていたら隣にレイジェス様が座っていた。

「あ! おかえりなさいませ! お迎えしてなくて申し訳ございません!」
「よいよい」
「今日は何の本を読んでいる?」
「プリストン王国の歴史という本で」
「そんなもの読んで面白いのか?」

 レイジェス様は私がテーブルに置いた本をパラリと捲った。

「ん~。戦争ばっかりしてるんですね、この国は。戦争すると人が減るから生産力が上がらなくなるし、お金が無くなるから生活も貧しくなるのに。領土を増やすために戦争するよりも内需拡大して豊かな国づくりを目指した方がいいと思いました。前王がその方向性で政治政策してたのは画期的だったと思いますが、惜しい方を病で亡くしましたね」
「君は賢いな」

 レイジェス様が驚いた目で私を見て頭を撫でる。オーティスが夕食の時間を知らせに来た。レイジェス様が私を抱き上げ連れて行く。

「わたくし自分で歩けますよ?」
「君の歩くのが遅いから待ってられない」
「待たなければいいじゃないですか?」
「私がこうして連れて行った方が早いだろう?」
「それはそうですけど……オーティスが変な目で見てますよ?」

 そう言うとレイジェス様はオーティスを睨んだ。

「じき慣れるだろう?」

 今日の夕食のメインは羊の肉のライチェ煮込み。あとサラダとパン。私はあまり食べれないからライチェ煮込みを少しとパンを少しだけにしてもらった。

「相変わらず食が細いな」

 美味しいと思ってるけど食べられないんです。
ぷぅっと頬を膨らましていると今日の私の報告がオーティスから報告される。
今日は本を読んでまったりしてたくらいで何もやってない。報告することなんて何もないのに。変なの? と思ったら掃除してたらあちこちでダイヤが落ちてたらしい。回収して袋に入れた物がレイジェス様の前に置かれる。

「君は私に隠れて泣いていたのか……?」

レイジェス様が悲しそうな顔になる。

「違います。たぶん……どこかに頭をぶつけた時に涙が出てしまったのかも知れません」
「ああ、確かに、狭い所で見つけたと使用人たちが申しておりまし」

とオーティスが言う。

「君は猫か? まったく、狭い所に入り込むのはやめなさい」
「はい……」

 しょぼんとしてたら食事の終わったレイジェス様が私を抱っこしにきた。
そのまま談話室に連れて行かれる。長椅子に座るとぎゅっとされた。

「ちょっと待っててください。わたくし、レイジェス様にお渡ししたい物があるのです。取りに行ってきますね」
「ん? 何だ?」
「ふふっ、お楽しみです」

 私は急いで自分の部屋に取りに行って戻ってきた。はぁはぁと息が荒れる。

「そんなに急がなくても良いのに大丈夫か?」
「大丈夫です。これです、どうぞ」

私はレイジェス様にプレゼントを渡した。レイジェス様はそれを膝の上に乗せて開けてゆく。レイジェス様が目を見開いた。

「これは?」
「ミトンという手袋で、私が作りました。レイジェス様はいつもわたくしの手の暖かさを気にして下さってましたけど、わたくしの手よりレイジェス様の手の方が冷たかったので作ったのです。出仕の行き帰りで使ってくださると嬉しいです。今はめて下さいますか? サイズが合うかどうか心配なのです」


 レイジェス様は手袋をはめて握ったり開いたりしていた。

「サイズは丁度い。色もいいな」
「レイジェス様の瞳の色に合わせました」

 ふにゃっと私は笑った。

「ありがとう」

と言った後、ぎゅっと抱きしめられた。
なんだか今日は凄く眠たくて二人ともアクアウォッシュで眠った。

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