魔術師長様はご機嫌ななめ

鷹月 檻

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第一章

11レイジェス様の一日 レイジェス視点

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「いってらっしゃいませ」

 と彼女に言われて出仕する。最近はそんな日が多い。
まぁ、彼女はたまに寝坊するが。本当はもっと眠ってくれてても構わない。
体が弱いのだから無理しないで欲しい。

 今日の私の予定はまず、城に行ったら事務所に寄り下の者に指示。
その後は以前から謁見願いを出していた王との謁見で宮殿に行く。
あの愚王にもたまには城へ出てきて欲しいものだ。
宮殿まで行くのが面倒である。現在の王は女にだらしのない男で有名だ。
妃の他に側室、愛妾と宮殿に住む女は何人かわからない。
アリアのことを話しても冗談としか思わないだろう。憂鬱だ。

 事務所に着いて手袋を脱ぐと、魔術師副長のコモンにそれはなんだと言われる。手袋だと言うとこれは手編みだ、誰に貰ったとしつこく聞いてくるので、うちで預かっている子が作ってくれたと言うとデキているのか? とまたしつこく聞いてくる。

 その子はいくつなんだと聞くので8歳だと言うと冗談はよせ、この編み目は8歳では作れないだろうという。私も普通の8歳では出来ないだろうと思う。
だが彼女はできる。彼女のモカシンという室内履きも、うさぎのマークがついて可愛らしくて良く出来ていた。

 その子は可愛いのか? と聞かれたので美しいし可愛らしいと答えると、その子と付き合っちゃえよ! と言われた。無理だろう。相手は8歳で子供だ。
手は握ったことがあるのか? と聞かれたのである。というとじゃ、口付けはどうなんだ? と聞かれたのでそれもあると言った。

 コモンは何やら興奮したかんじでもう寝ちゃえよ! と言ってきた。毎日一緒に寝ているというとそれで何もないなんて! お前は男じゃない! おかしい! とか言われたが私の言う事のどこがおかしいのか?
お前の家に行って彼女が見たい! と言ってきたのでしばらく考えた。

 私はピレーネのコンサートを開きたいと思っている。以前ゼフィエルが彼女のピレーネを聴いて感動したと言っていた。
私が聴きたいと言っても恥ずかしがって聴かせてくれないのだ。私の友人達をもてなすため、という大儀名分があれば優しい彼女のことだ弾いてくれるだろう。

 来週の週末から年末休暇に入る。休みの前の日にコンサートにしたら終わったあと酒を飲み交わしても次の日を気にしないで済む。

「来週の金曜日にピレーネの夕べを開こうかと思う。来るか?」

 とコモンを誘うと目をぱちくりさせた。

「いいのか? 他のヤツも誘っていいか?」
「うむ。誘うが良い。聞き手は多い方が良いやも知れぬ」

 昼食を食堂で食べていると女性が二人やってきた。ピレーネの夕べ、私達もいきますぅ。というので、そうか、と答える。
この女性達は確か同じ事務所にいたような……。
まぁ、私が鼻を摘むほど化粧臭い女ではないから別に来てもかまわないか。

 女性が二人やってくると何故かどんどん数が増える。気がついたら私の周りで10人程の女性が食事をしてた。ピレーネを聞きに来たいという。
事務所の者なら構わないが顔も知らないものを呼ぶことはできないと断った。
ちなみに事務所の女性は5人そこにいた。

 皆私が女の化粧の匂いが駄目なのを知っていて化粧に気を使っているのか、それほど臭く無い女性ばかりだったのは助かる。

 食事を終えると私は城の奥にある宮殿へ向かった。謁見前に近くの廊下にある大鏡で身だしなみを整える。ふぅ、と息を吐いて謁見の間へ向かった。扉が警備の者によって開かれる。私は王の手前まで進み玉座に座っている王に跪き頭を垂れる。

「レイジェス=アルフォード、見参致しました」
「うむ、ご苦労。して、そなたが言うこの国、大陸に関しての危機案件とは何なのだ?」
「あれは12月上旬でございました。我が公爵邸の前庭にて創造神アズライル様を乗せた天馬が降り立ち、神の愛し子であるその娘を守り育てる庇護者として私は任命されました」
「そなた寝言は寝て言え。神などいるわけないであろう」

 愚王は胡散臭そうに私を見る。
それはそうかも知れない。神との邂逅など話を聞いても信じられないだろう。

「まだ続きがあります」
「話せ」
「アズライル神様は大変その娘を可愛がっており、その娘に何かあれば国だけではなく大陸も滅ぼすとおっしゃってました」
「このプリストン王国を? どこの痴れ者だ。貴様私を謀っておるまいな?」
「いえ、私はアズライル神様のおっしゃる事を取り合えずお伝えしたかっただけですから。彼女に何かあれば本当に国が大陸が滅びますからね」

 愚王はイラついているのか玉座の肘掛を指でカツカツ鳴らす。

「お主のような見識のある者がその言いようとは。その娘、会ってみたい」
「……会うのは構わないと思いますが……問題があった場合、国が滅びますよ? 覚悟しての謁見なのでしょうか?」
「その物言いは無礼であるぞ。わしが良いと言ったらいい」
「……彼女に無体な真似はしないと約束してください」
「うむ」

 謁見の間をでて、ふぅと息を吐く。やはり思ったように芳しくない展開になった。彼女を王に会わせるのを躊躇う。何をされるか分かったもんじゃない。
けれど、臣下として命令されたならやらねばならん。私はこめかみを押さえた。

 彼女の靴の採寸時に不埒な行いをして逮捕された男は、その後余罪で数多くの女性を強姦していたことが分かり、処刑される事になった。

 庭師のラシェに関しても似たような事になっている。真面目な奴かと思っていたが、どうやら違った様で、番所の調べに寄ると強盗、強姦、殺人までしていたという、私はそんな者を長く雇っていたのかと驚いてしまった。ラシェも処刑が確定している。

 彼女を見ると何故か理性を無くし、獣の様になって襲う男達、国王がその様になる可能性もあることを考えると……正直会わせたくはない。
とうしたものかとため息をするも、何も解決策が浮かばない。

 事務所に戻ると決済書類が溜まっていたのでそれを確認してサインする。そうするともう5の刻だった。帰り支度をしていると書記官のザイードがやってきた。仕事が出来て真面目な男だ。副長のコモンに爪の垢でも煎じて飲ませたい。

「レイジェス様、私もピレーネの夕べに参ります。楽しみにしています!」
「ああ、君は我が家に来るのは初めてであったな、私も楽しみにしている」

 屋敷への帰り道に彼女へどうやってピレーネの夕べのことを話そうかと考えていた。食事中に話すか? ゼフィエルにも勧めて貰うか? 帰り道の足取りが少し軽くなった。

「お帰りなさいませ」
「ただいま戻った」

 私は手袋を脱いでマントのポケットに入れ、マントを脱いでゼフィエルに渡し、茶が飲みたいと談話室に持ってくるように声をかけた。傍にいる彼女の手を取って談話室に行く。いつもの流れだ。長椅子に座ると彼女を抱き上げて膝に乗せる。
彼女の頭に顔を近づけて深呼吸する。……ああ、癒される。

 彼女は不思議だ。近くにいるだけで癒される。彼女の手や頭や体に触れたいと思う。しかしこれは性的行為をしたいと思うのとは違う。触ってると落ち着く。
安らぐ、ということだけで男の欲求として出したい、触りたい、という感情とはかなり隔たりがある。

 最近自分がおかしいのが自分でもわかるのでステータスを見たら状態異常になっていた。魅了状態だ。
どうやら彼女の特殊スキルである【無自覚の魅了】に掛かっていた様だ。

 ミドルキュアの魔法ですぐ魅了は解けたが、ずっと彼女の近くにいるので解除してもすぐかかる。
彼女を酷い目には会わせたくないので気をつけてはいるが、熱を持つこの感情が抑えられるのか不安だ。
彼女は魅了にかかってスティグマを得た人達は目の色が違うと言ってた。
彼女から言わせれば私は全然大丈夫だそうだ。

 しかし、ラシェには腹が立った。屋敷に勤めて10年ぐらいだったはずだ。加虐嗜好かぎゃくしこうの気質があるとは思わなかった。私が偶然屋敷に戻らなかったらどうなっていたかわからない。薄ら寒くなる。殺してやろうかと思ったが理性で押さえた。

 ゼフィエルが持ってきたブラウンティを飲んで眠気を覚ます。
私の膝にいるくせにオーティスと仲良く何やら話してる。おもしろくない。
私は彼女の顔を左手で引き寄せ口付けした。舌先を入れて右手で呪文を空に書く。口の中がしゅわしゅわする。オーティスが頬を赤くして私から顔をそらした。

 彼女が体を回してこっちに向いて対面する。私をじっと見つめる黒曜石のように透き通った瞳、長い睫、薔薇色の唇、艶のあるしなやかな髪。
可憐で可愛いらしい。気がついたらまたぎゅっと抱きしめていた。
彼女からしたら私はただの変態かもしれない、始終抱きしめてるんだから。
よく文句も言わずされるままになってるな。
他の者にもこうなのか? と不安になる。

 食事の用意が出来たと呼ばれ、私は彼女を抱きかかえて食堂に行った。
彼女を席に降ろしてから自分も席に着く。オーティスから今日の彼女の行動を聞く。庭に猫が来て追いかけて走って気を失ったらしい。やはり薬は必要だな。
年末の休みのうちのどれかで作ろう。

 そして、ここからが本題だ。咳払いをして私は言った。

「来週、城の同僚達が屋敷に来る。10人前後を予定している。休みに入る前に仕事の疲れを労おうということになった。で、ピレーネの夕べを開くことになった。ここまで言えばわかるよな? アリア、君のピレーネが聴きたい。私がいつも世話になっている同僚達を音楽で持て成してくれ」

 私がにこりと笑うと彼女は一瞬苦笑いしたが優しく微笑んだ。

「じゃ、練習しなければいけませんね。明日から練習しますね」
「素直でよろしい」

 これで彼女のピレーネが聴ける。

 食事を終えて私は風呂に入った。湯船に浸かると彼女と一緒に風呂に入った時を思い出す。酷い傷跡、噛み跡。そのあと彼女の体を洗って……自分の両手を見た。この手で彼女の全てに触った。あの後、もう口も聞いてくれなくなるかも……と思ったが彼女は普通だった。最近はしゅわしゅわなキスも受け入れてるように感じる。まぁ、嫌われなくて良かった。

 のぼせてきたので風呂をあがることにした。
部屋に行ってゼフィエルに髪を乾かしてもらう。
髪が乾いた頃に彼女も風呂から上がってきた。続けてゼフィエルが彼女の髪を乾かす。私は寝台に入り本を読み始めた。

 最近彼女が本を読むので感化された私は屋敷の本で読んでない物が結構あって、それを読んでいる。今読んでるのは【魔心核の基礎と研究】というタイトルだ。薬を作る助けになればと思っている。

 髪を乾かし終えた彼女が寝台に入ってくる。ゼフィエルは暖炉と蝋燭の火を消して、こちらをちらりと見たあと出て行った。月明かりがほっそりと差し込む。私は本をサイドテーブルに置いた。すると彼女がわたしの体の上に乗ってきた。

 私の顔を両手で優しく包む。彼女からの口付け。小さな舌が私の中でうごめく。何事か? 今まで私の方から一方的に彼女に色々していたわけだが、いざされるとどうしたらいいのか。嬉しいのだが鼓動が早く鳴りすぎる。
彼女は右手でくうに何やら書いた。彼女の舌がまだ私の中で蠢く。
そしてその唇は離れた。

「っはぁ……。わたくしがやってもしゅわしゅわしませんね」
「……私を煽るな」

 私は体を反転させた。彼女に体重をかけないように、口付けた。
彼女の小さな口に唇を割って私の舌を突っ込んだ。少し乱暴だったと思う。
右手で空に呪文を書くとしゅわしゅわと音がした。私は唇を離したあと自分にミドルキュアをかけた。
寝ようとしたら彼女が抱きついて来たから、私も彼女を抱きしめて眠りについた。

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