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第一章
12心の変化とためらい
しおりを挟むその日、頭を優しく撫でられる手で私は目覚めた。
いつもなら私の方が早く目が覚めるのに、今日はレイジェス様が先に起きてて寝台の中で私を見つめていた。
その目を見上げて、昨日の自分の行動に羞恥心で一杯になる。呪文なんてほんとは出来ないし分かんないのに、自分から口付けをしてしまった。
昨日はレイジェス様に凄く、くっ付きたい気分だったのだ。その思いが大きくなって、つい口付けをしてしまった。
けど、照れ隠しで「しゅわしゅわしませんね」とか言っちゃって。
穴があったら入りたい! ぐおぉぉぉ。
こんな子供のくせに、なんて破廉恥なんだって思ってないだろうか?
そぅっとレイジェス様を見上げても麗しい顔のままだ。
昨日の切羽詰った様な声や顔で「煽るな」と言った人には見えない。
こんな私の内心なんて知らず、レイジェス様は私を抱き寄せる。
唇が私の額に軽く触れる。したのかしてないのかわからないようなキス。
満たされるような幸福感を感じる。でも、それと同時に不安も広がる。
私は多分、レイジェス様が好きなんだと思う。
私の予定では【こんなはずじゃなかった】のである。私は当初成長して、学校に行って友達を作ったり、学校内で好きな人が出来てすれ違ったり目が合っただけでどきどきしたり……という恋愛を想像してた。同じ学校に拘ってるわけじゃなく他校の生徒が対象でも良かったし、同学年だけじゃなくて学校の先輩とかが相手の恋愛を妄想してた。(ちなみに年下は無理)妄想と現実は違うのは仕方ないんだけど、青春を謳歌するというのが目標だったから、どうしても学園生活で運命の人を見つける! って考えになっていた。
でも、私の学園生活はまだ始まってもいない。庇護者として預かってくれているレイジェス様の事を意識してしまっている。この状況をなんとかしたい! と思ってはいる。
けれど、私は22年間彼氏がいなくて誰とも付き合ったこともない。
今の私の状況ってどうなの? と冷静に客観的に考えてみる。
私はレイジェス様が好きだと思って色々されてるけど、レイジェス様は私のことどう思ってるんだろう? 振り返ってみても「好きだ」とか「愛してる」とか「付き合おう」とか言われたことないんですけど……。
普通の彼氏彼女ってそういうの確認してからなるものだよね? お互いの気持ちを確認しないの? 経験不足過ぎてわからない!
まぁ、日本で8歳児に付き合ってくれなんて言ったら即、警察案件だけど。
こっちの世界ではどうなんだろう? 15歳が成人で大人であることは知ってるけど、リリーが言うには15歳で結婚相手が決まってなかったら【行き遅れ】って言ってた。ということは10歳で学校に行ってる学生のうちに将来の相手を見つけるってことなのかな? 私みたいな年齢でも婚約してる人いるんだろうか?
あ、身分の高い人は親同士が決めるのか。レイジェス様も親が決めた婚約者がいたって言ってたし。
それから、私はアズライル様に【言の葉制限】をかけられている。これはアズライル様が言ってはいけないと判断したことに対して声がでなくなる現象だ。
制限内容はこれ言ってもいいんだ? ってことから、これ言ったらなんでダメなの? って言葉もあり、言ってもいい内容なのかダメなのか基準が良くわからない。
どっちにしろ言ってはいけない事は言葉に出ない。
その制限の中で私は以前の世界で【成人した】という事実を言えてない。
地球の事に関しても具体的に言おうとすると声がでない。
なので私自身は体は子供、中身は大人、と思っててもレイジェス様から見たらただの子供なのだ。
だから8歳児に「好きだ。愛してる」と言ってもそれはそれで問題だ。
もしレイジェス様がそう言ったらレイジェス様は幼女趣味、ロリコンていうことだし、それで私が受け入れたとしても成長した私を見てもちゃんと同じ気持ちで居てくれるのか?
「成長した君なんて興味ないよ」と言われたら私は泣いてしまいそうだ。
取り合えず、今は一緒にいられるだけでいい、多くを望んじゃダメだと思う。
私だってもうちょっと成長して10歳になって、学校に行くようになったら他にもっと大切に思えるような人ができるかもしれないし。焦らずゆったり行こう。
色々考えていたら、呑気な顔でにこにこしているレイジェス様にちょっとイラっとしたのでほっぺたをぷにぷにしてやった。
今日は仕事が休みなせいかだらだらしてる。暖炉に火を入れようかな~と思ったけど寒いからお布団から出る気がしない。それはレイジェス様も同じらしくお布団の中で私の頭を撫でながら昨日の読みかけの本の続きを読んでる。
そういえば昨日「ピレーネを聴きたい」と半分脅されたような形で承諾したけど、そんなに聴きたかったんだ? って苦笑いしてしまった。
こんなコンサートまで開こうとするほど私のピレーネを聴きたいと思ってなかったから、正直びっっくりしてしまった。
今日はピレーネの練習しよう。
ブランクはかなりあるけど、ショパンは好きなので暗譜してる曲が多い。
いっそ【ショパンの夕べ】にしようか。それがいい。なんだか想像してるだけで楽しくなってきた。レイジェス様の同僚の方ってどんな方たちなんだろう? 女性も来るって言ってたし。普段私が知らないレイジェス様をその人達は知ってるんだと思ったら何だかもやもやして頭をふるふるした。
レイジェス様の手が伸びてきて私の髪を弄ぶ。ゼフィエルが暖炉に火を入れにきた。私達をちらっと見る。私を小脇に抱きしめながら右手で私の髪を弄って左手で本を持って読み耽っているレイジェス様。
今の状況を見ているゼフィエルはレイジェス様のこと絶対幼女趣味だと勘違いしてそう。誤解を解きたいんだけど……どうしたものやら。
朝食の用意ができたというので自分の部屋に着替えに行こうとしたら手を掴まれた。
「すぐに着替えてまいりますから」
私は自分の部屋に逃げた。私の部屋では暖炉に火が入れられていて暖かい。
側仕えのサーシャとリリーが火を入れて待ってくれていた。
私がいつもの位置に立つと二人が手早く私を裸にする。リリーが紐付きショーツの紐を結ぶ。この紐付きショーツは新しく取引することになったエドモンド商会の人にデザイン画を書いて注文して作ってもらった。セレネは下着を作れるけどズロースなので重いし、ドレスの下に履くともこもこするのでセレネに頼むのはやめた。
ドレスも前はゼフィエルとセレネで勝手に決めてたけど、エドモンド商会のたぶん、偉い人だと思われるお姉さんがドレスはお好みありますか? と聞いてくれたので今流行のⅩ型のプリンセススタイルじゃなくて体を締め付けないエンパイアドレスのデザイン画を書いて作ってもらった。薄い布を沢山使ってるので軽いし。
今着てるのは薄いクリーム色なんだけど肩にダイヤモンドのブローチで薄いマントみたいな布を留めていて、歩いたらその風でマントがふわっとそよぐようになってる。
「とてもお似合いです。こちらのデザインはショーツもドレスも初めて見ましたが、素敵ですね!」
とリリーが褒めてくれる。ちなみに今日着たエンパイアドレスだと肩がレースで透けるのでシューミーズは着ないことにした。ドレスの下はパンツ一丁である。髪をいつもの通りハーフアップにしてもらい廊下にでると中央階段を降りるレイジェス様が見えた。とととっと走り寄った。
「レイジェス様」
声を掛けると目を見開いていた。
「随分と変わったドレスだが、可憐だな」
「お世辞言っても何もでませんよ?」
二人で朝食を取りに食堂へ向かった。私は朝はトウミのみでレイジェス様は今日はスープだけっぽい。
「そういえば、君は何か欲しい物はないか?」
「欲しい物?」
「手袋を貰ったお礼に何か贈りたいのだが?」
「え? 大丈夫ですよ。何もいりませんよ?」
「生活で要る物は無いのか?」
「あ、要る物ならありますけど……高そうですし、無くても側仕え達がいるから大丈夫かな? と思ったりも……」
「側仕えがいるから大丈夫だけどあったら便利な物? なんだ? 金ならあるから心配しなくていい。ちゃんと言いなさい」
レイジェス様はイライラし出したのか眉間に皺が寄っている。
でも、高そうだし居候の身では言い難い。
「……でも」
「いいから言いなさい」
「じゃあ甘えてしまいますね? 【鏡】をわたくしの部屋に欲しいです。身なりを整えるために。ドレッサーがあると一番いいのですけど」
「ん? ゼフィエルに部屋を整えるように言った時に用意されてると思ったが無かったのか」
レイジェス様は片方の眉を上げてゼフィエルを見た。
「申し訳ありません。失念してました」
「ふむ、まぁいい。じゃぁ、ドレッサーを2つ注文するか」
「え? 2つ?」
「君の部屋用と私の部屋用だよ。私も側仕えやゼフィエルが身の周りのことをしてくれるのでそんなに不便だと思わなかった。まぁ、あれば便利ではあるな」
「そうですね、鼻の頭にソースが付いていても自分で気付けます」
何故かレイジェス様に大笑いされた。酷い。
朝食が終わったらピレーネを小広間に移動させてもらった。オーティスが指示して下男たちが運び込む。運び込んだピレーネを弾いてみる。音が結構狂ってる。
「ピレーネの調音は誰かできる者はいるんですか?」
レイジェス様が気になるのか見に来ていたので聞いてみる。
「専属がいる。今から呼ぼう。オーティス、ハイゼル商会に連絡を」
音が全然合って無いけど仕方ない。私は練習することにした。壁に置いてある丸椅子をレイジェス様の所に持っていって「特等席です。どうぞ。」と勧める。
私は深呼吸をしてからハノンをゆっくり引いた。
「それは曲ではないな」
「指を動かすための準備運動の曲ですよ」
ゆっくりから早く弾くようにしてハノンを終わらせるとコンサートの一番最初の曲を考えてみる。やっぱ、最初はガツン! と行ったほうがいい。
【革命のエチュード】にしよう。と思って自分の手を見る。小さいから届かない所はアレンジするしかないよね……。取り合えず弾いてみよう。
「【革命のエチュード】という名の曲を弾きますね?」
そう言って私は弾いた。やっぱり久しぶりなので曲を弾くより曲に弾かされる感じになって飲まれてしまった。そうとう気合入れて練習しないとだ。と一曲弾き終わったらレイジェス様が呆然としてた。つかつかと私に寄ってきて私の手を取る。
「君の手はどうなってるんだ? よくあんなに動くな? こんな小さな手なのに。素晴らしかった」
私の中ではまだまだなんだけど、どうやらお気に召して頂けたようだ。良かった。
「じゃあ、次は【幻想即興曲】を弾きますね」
両手をもみもみしてから息を一気に吸う。そして出だしで息を吐いてから弾きはじめる。これは私が中学1年の時に最も練習した曲だ。お父さんもお母さんもこの曲が好きで私が弾けるようになると喜んでくれた。もっと上手になったこの曲を聴かせたくて、何回も何回も練習した。
ああ、遥か昔のことを思い出してしまって涙が出そうだ。涙が出ないようにちょっと上を向く。上を向いた位で指の位置は忘れない。胸に熱い物が込み上げる。
曲が終わると、そよそよと私の頭上、天井あたりから白い花がひらひらと降ってきた。
なんだろうこれ? この花と花びら。その花は中心が黄色く色付いていてプルメリアに似ていた。ひょいっと持ち上げようとしたら光の泡になって消えた。
レイジェス様を見ると唖然としている。
「この花はなんでしょうか? レイジェス様、わかります?」
「……あ、ああ……音楽の女神マティオンは音楽の才能がある者に祝福という名の花を降らせると神話に書いてあったな」
「神話現象なんですね。まぁ、偶然かも知れないですし。さっき降ってなかったし。もう一曲試してみましょう」
「……ああ、そうだな」
私は最後に【別れの曲】を弾いた。結局花は降って来た。どうしましょう?
コンサートやめます? レイジェス様? と聞いたら皆楽しみにしているので中止できないと、こめかみを押さえてた。
この事態はレイジェス様も私も予想してなかった。
「化け物扱いされちゃうかしら? わたくし」
「むしろ奴等なら興味津々で君と話したがるだろうな」
「そうですか、なら良かった」
私はほっこり笑った。
レイジェス様に、練習するので聴いててもつまらないでしょ? どうぞご自分の好きなことをやってくださいませ?
と言ったのだけど、君の曲を聴いていたいと3刻ほどずっと聴いてた。
私は集中すると時間も何も気にならなくなってしまうんだけど、レイジェス様は大丈夫だったのかな?
夕食を食べる前にお風呂に先に入った。今日はサーシャが湯浴み係りをやってくれている。サーシャは側仕えで、栗色の髪で金色の瞳をしていて、髪は後ろでお団子にしてシニョンでまとめている。年齢は18歳だけど恋愛に興味がなくて一生独身でいいと言っている。目立つのが凄く嫌らしく、口数が少なく常に目立たないようにしているせいか? 私でもたまにそこにいるのに存在を忘れてしまう位のステルス機能を持っている。少し変った女性である。
ああ、ずっと弾いていたから指が少し筋肉痛。
あのあと調音の人が来て音あ合わせしてくれてだいぶ良くなった。お風呂から上がるとサーシャが髪を乾かしてくれた。サーシャに今日は食欲がないのでトウミを四分の一だけにして欲しいと伝えると額に手を当てられた。熱は無かったけど体がだるい。
食堂で食事しているとレイジェス様が険しい顔をしてた。
「前から君は食が細かったが、ここ最近は特に酷いな。このままでは死んでしまうのじゃないかと不安だ。君は好きな食べ物とか、食べたい物とかないのか?」
「う~ん……しいて言えば【お米】が食べたいです」
「おこめ? とは何だ?」
地球の食べ物と言おうとしたら言の葉制限が掛かった。地球を天界に言い換える。
「天界の食べ物です。楕円形の白くて小さい粒の物です」
「それなら食べられるのか?」
「たぶん?」
「ふむ……」
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