魔術師長様はご機嫌ななめ

鷹月 檻

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第一章

19コモンの来襲 後編

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 お風呂を上がって談話室に戻るとコモン様が長椅子でうたた寝していた。

「寝ちゃってますね」
「おい、コモン起きろ」
「ん? ああ、寝てたのか……俺夢見てたわ、アリアちゃんにあんな事やこんな事やっちゃった夢見てた」
「そうですね、あんな事や色々されちゃいましたね」
「え?」

 コモン様が自分の頬を抓る。

「本当にあったのあれ?」
「そうだな、良かったなコモン。ザイードにばれたら間違いなく殺されるな」
「ひっ!」

 レイジェス様が長椅子に座る。

「で、結局あれはなんの実験だったんだ?」
「ショーツの紐は施錠の魔方陣が有効か試した。私だけにしか脱がせられぬ」
「レイジェス、独占欲が強いにも程があるだろ」

 コモン様は呆れている。

「独占欲は当然ある。しかし、それだけではない。悪しき者というのは本当に厄介なのだ。いきなり悪魔みたいになる。情欲の悪魔に……むしって噛み付いて傷つける。これはまだ子供だ、蜜花など使われたらたまったものではない。それを防止するための物だ。決して独占欲だけの物ではない」

 レイジェス様の険しい表情にコモン様が息を飲む。深刻さが伝わった様だ。

「じゃ、なんでキスとか…その…色々、俺にさせたんだよ?」
「わかったことだけ言おう……。君みたいな人間が一番危ないという事だ」
「はぁ? 俺はやれって言われたからやっただけだよ? 君にね、レイジェス!」
「そうではない。お前のことは信用している、だからあれを好きにさせた」

 私は話を聞いていても良くわからないので首を傾げる。
コモン様はそんなに危ない人じゃないと思う。あの状況で自分の欲望のままに動かず、私の気持ちを優先させようとしてくれていた。
出会った時は最悪の印象だったけど、実はとても理性的な人なのではないかと思ってる。

「良き者と言う者に分類される者のことを言っている」

 それを聞いてコモン様ははっとする。

「スティグマとは罪人の証拠で、ただ有るだけで罪人として逮捕や拘束をせねばならない事は覚えてるよな?」
「一応、知ってはいるが、現実の世界でスティグマなど見たことない者ばかりだろう」
「アリアを通して、もう二人程スティグマが出てる。悪しき者にはスティグマが烙印としてその皮のどこかに現れる。が、良き者と分類される者はどうだ? アリアに触れることの出来たお前なら分かるだろう?」

 コモン様は私と自分の手を交互に見た。

「やりたい放題だった……。しかも俺にスティグマなんて現れなかった!」
「そうだ。お前みたいな、良き者に分類される者がアリアをさらって監禁しようとしたら出来ないことでもない。スティグマなど出ないであろうから、うまくやられてしまえば犯罪者として捕まえることもできぬ。これからはそういった良き者にも注意せねばならん……と思うと頭が痛い」

 レイジェス様はこめかみを押さえてしかめっ面をした。

「それと、悪しき者の中でもアリアに触れれなかった者にはスティグマが現れなかった」
「じゃあ、悪しき者がアリアちゃんに触れるとスティグマが現れるというのは確実っていうことか?」
「いや、それはまだ、よくわからない。例が少ないからな。確実なのは良き者は何でもやり放題ということだけだ」
「まぁ、良き者が途中で悪しき者に変わるかな? などと思っていたのだが、全然ならなかったな?」

 ちらっとコモン様を見てレイジェス様が笑う。

「それって俺にスティグマが出るかも? って思ってたってこと? あ! だからどこか痛くないか何回も聞いてきたのかっ!?」
「今頃気付いたか?」

 レイジェス様はまだ笑っている。

「ふふ、わたくし、何故レイジェス様がコモン様を信用しているのか凄くわかってしまいましたわ? 実験相手があなたで良かったと思います」
「……え、俺、嫌われてないならいい。なんか凄く嬉しい」

 レイジェス様が私を抱き上げて横抱きに膝の上に乗せる。

「君は微笑みを振りまき過ぎだ」

 私はそっとレイジェス様に体を寄せた。そしてふわっと笑う。
そしてそのまま眠気が来てうとうととした。

「眠ってしまいそうだな」

 とコモン様が言う。酒でも飲むか、とコモン様がドア外で待機してるオーティスに酒を頼む。
しばらくしてからリリーが酒とグラス、おつまみを持ってきて二人のグラスに酒を注ぐ。

「そういえば、リリー」
「はい? 旦那様?」
「お前、晩餐会に参加せぬか?」
「え? わたくしがですか?」
「私はこれにせがまれて社交界を見てみたいと言われたのだが、さすがに舞踏会は出る気がしなくてな、晩餐会ならと思ったのだが、お前、出会いの場がないのであろう?」
「は……はい中々難しいのです。両親も小領地で、ほぼ田舎暮らしですから社交界に出ることが少ないので伝もなくて」
「だから今、お前もついでに連れて行こうかと思い、話をしている。これが随分気にしていたのでな」

 レイジェス様は寝ている私を見た。

「切羽詰っているのでお言葉に甘えさせて頂きます。よろしくお願い致します」

 リリーは部屋をでた。

「あの子が俺のこといいって言ってたの?」

 コモン様がレイジェス様に聞いた。

「見た目だけだと思うがな? 君は美男子の部類に入るからな」
「でも、あの子、俺の知ってる貴族の女っぽくない。全然違う」
「お前が知ってる女が全てではない。アリアだって、今までお前が知っていたような女ではないだろう?」
「俺の世界って狭かったんだな……」
「まぁ、飲め」

 レイジェス様が自分のグラスをコモン様に傾けるとカチンと二つのグラスの音が重なった。
がぶがぶとレイジェス様が酒を飲む。コモン様もごくごくと喉を鳴らす。

「しかし、ザイードと俺と、良き者が二人いて何故俺を選んだ? 奴の方が普段の生活から見ると信頼されそうだが? 俺は遊び人だったし。あ、最近は女遊びはしてないぞ?」
「うむ、確かにザイードは真面目に職務をこなしている。人物としても素直だ。しかし、所詮は他国の公爵家の人間に過ぎない。もし、奴にこれを攫われて自国に戻られてみろ。何もできぬわ」

 コモン様が腑に落ちた顔をした。

「あ、そうか、そういう考えもあるか」
「まぁ、お前とは学生時代からの知り合いだからな。気心が知れているというのもある」
「え? 全然俺今まで気心知られている感じしてなかったんですけど!」
「お前はずけずけと人の中に入って来るからな? 制しないと調子に乗る」
「まぁ、いいや、友人と思ってくれてるなら、さ」

 レイジェス様はコモン様のグラスに酒を注いで自分のにも注いだ。
レイジェス様の酒の進みが速い。
コモン様もごくごく飲んでいる。

「そういえば、晩餐会にお前も来ないか? コモン」
「レンブラントとヒューイットも誘っているんだが、リリーが行くとなるとエスコートする者がいない。お前、今女遊びしてないのだろう? 暇ではないか? リリーのエスコートをしてやってくれ」
「いいよ? 暇だし。アリアちゃんも行くなら付いて行くよ」
「これのエスコートは私がやるがな」

 眠っている私に視線を移すレイジェス様。

「私はもう寝る。部屋を用意しておく、じゃあな」

 部屋を出るとオーティスがまだ立っていた。オーティスにコモン様が泊まる部屋を案内するようにと言って、私は抱きかかえられたまま部屋に連れて行かれた。

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