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第二章
6男だけで行く晩餐会 前編 レイジェス視点
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私はレイジェス=アルフォード公爵24歳。最近8歳の半神幼女と正式に婚約をした。
お互い愛を確認し、幸せに過ごしていたと思っていた。
……なのにその婚約者は私にだまって天界へ(実家へ)思えば私が全て悪かった。
本当に帰ってきてくれるのか?すごい不安だ。
もし彼女が帰ってきたら土下座して謝ろう。
そして次からは絶対に彼女が止めてと言ったら止めると心に決めた。
ヒューイットもそうした方がいいと言ってたしな。
私は今仕事から帰宅したばかりで魔術師団の師長服であるローブを着たままだ。
いつもは屋敷に帰ってきたらもっと楽なマイローブに着替えているが今日はリッツ伯爵の晩餐会があり面倒なのでこの制服のまま、屋敷でコモンを待っている。
私とコモンとセバスとで今日の晩餐会に行く事になっている。
本当は彼女と行く予定だったが、彼女が屋敷を出て行ってから1週間と少し。
なんの音沙汰もない。リッツ伯爵が米の生産の相談に乗ってくれるということで軽く取引内容の確認などをしようという事になったのと、リッツ伯爵にコモンを紹介することになっている。
談話室でまったりブラウンティを飲んでいるとコンコンとノックの音が。
「コモン様がお見えになりました」
「よし、では行くか」
今日の馬車はアルフォード公爵邸から出す事になっている。晩餐会に参加する3人が乗った。といっても、セバスは給仕で出席なので招待客参加は私とコモンだけだ。
馬車に乗ってその窓の外を見ると黄昏に迫る空のなか西の方に上弦の月が見えた。リッツ伯爵邸に着くと前と一緒で食前酒が庭で振舞われる。
食前酒を飲んでいると恰幅の良い中年男性に声を掛けられた。もちろんその者が誰かなど私は知らない。
セバスが小声で耳打ちする。
「ダミアン=クリストファー侯爵様です」
ん? クリストファー侯爵? どこかで聞いたような…。
「ごきげんよう、アルフォード公爵様」
「ごきげんよう、クリストファー侯爵」
「ところで、アルフォード公爵様はご婚約なされたとか。大変おめでとうございます」
「うむ、祝いの言葉感謝する」
「そういえば、以前こちらの晩餐会に愛妾を連れてらしていたとか?」
「はっ?」
私の眉間に皺が寄る。
「私の愚息が公爵様の愛妾を大変気に入りまして…その…金は払いますので譲って頂くわけにはいかないでしょうか? 公爵様も婚約なされたことですし、古い女などいらぬでしょう?」
私はここまで言われてクリストファー侯爵が何者か分かった。どうやら前回の晩餐会でアリアを愛妾と侮辱した少年の親のようだ。しかし、城で神籍の献上と婚約の宣言をしたのに何故こいつはアリアを私の婚約者だと分かっていない?
あの場所には多くの貴族が呼ばれていたはずだが…。
「なんでも公爵様の愛妾は幼女だとか。幼女は締まりが良くていいですからなぁ」
と下卑た笑いをする。締りが良くていいとか、息子じゃなくてこいつがアリアを欲しいんじゃなかろうか?
彼女を侮辱され寒気がする。怒りで体が震えた。
その時セバスが私の肩をトントンと叩いた。
「旦那様、この者はイフリート王子派だったので城に呼ばれていません。あなたとお近づきになってガブリエル王派に乗り換えたいのでしょう。その割に何も調べていない辺り、頭が切れるわけでもないですし、使えませんね。潰しましょう。アリア様を侮辱するなんて死に値します」
セバスが小声で囁いてきて私は頷いた。
「クリストファー侯爵、あなたの無礼は目に余る」
「は? なんの事でしょうか?」
「あなたが愛妾と呼んでいる幼女こそ私の愛する婚約者なのだが? 私とお前を一緒にするな! この幼女趣味の変態野郎が!」
「え?」
「お前はイフリート派で城に呼ばれなかったようだが、彼女はガブリエル王に神籍を献上され私と婚約宣言をした。神籍を献上されるということがどういう事か? 貴族ならわかるよな? クリストファー侯爵?」
クリストファー侯爵は目をきょろきょろさせて後ろに一歩後ずさった。
「お、王と同順……」
その目は狼狽している。
「その彼女に対して愛妾などと勘違いなことを言う。不敬罪で処刑されてもやむ終えないな」
「ちょっと待ってください! 私は息子からあなたの愛妾だとはっきり聞いたのです!」
セバスが指で鼻先の眼鏡をくいっと直している。
私のこめかみに青筋が立った。
「お前の愚息が愛妾と勝手に言っただけだ! イフリート派のお前を不敬罪で王に訴えたら喜んで処刑するだろうな? あの愚王の息子を王にしようと持ち上げる輩が減るからな!」
へたりとその場に力なく座り込んだクリストファー侯爵をセバスがさらに追い込む。
「クリストファー侯爵様、プリストン王国では未成年の蜜花を奪うのは犯罪になっているのはご存知ですよね? どうやらあなたは若い蜜花を好んで摘んでいるように思えるのですが? 番所に伝えておきますね」
まぁ、あの口振りであるなら致しているだろう。
私は決して幼女が好きなわけじゃない。彼女だから好きなのだ。
彼女がこの場にいなくて良かったと思うばかりだ。
彼女の事だから『そんな事言われるくらい大丈夫ですよ』とか強がりを言いそうである。
クリストファー侯爵が地面でうな垂れていると息子がやってきた。私の顔を一瞥してから自分の父親に話しかける。
「父上、私と父上で分け合うと約束したアルフォード公爵の愛妾はどうなりましたか? 買えたのですか? いくらだったのです?」
その一言を聞いて私の中の何かが切れた。
彼女を分け合う? 金で買おうとしていた? …はらわたが煮えくり返る。
「
その愚息も連座で良いな? クリストファー侯爵」
「アルフォード公爵様! 息子だけは! 息子だけは許してくださいませ! どうか! どうか!」
息子は何がなんだか分かっていないようだ。クリストファー侯爵は息子を抱きしめて涙を流していた。
その親子が抱き会い嘆き悲しむ様子を見て他の貴族達が同情する。
だまって事を見ていたコモンが言った。
「なんだか俺らが悪者みたいな感じになっちゃってるけど、未成年の蜜花を奪うのも不敬も犯罪だかんね! わかってんのか? あいつら!」
「私は館に入る前からどっと疲れた」
「旦那様! 本日の旦那様の任務はコメの生産の権利を得る事とコメ育成の技術指導の協力を仰ぐ事です! それが成されれば姫様が帰宅したら事のほか喜ばれるでしょう! 頑張りましょう!」
セバスはやる気満々である。
「ってか、俺をリッツ伯爵様とシエラ様に紹介するって任務もお忘れなく!」
「うむ。分かっている」
係りの者が入場を進めていく私達一行も館の中に入った。
以前と同じ食堂に通されリッツ伯爵が挨拶をする。最初の晩餐会のテーブルは男女交互に椅子が並ぶ。前回は私の隣の席は右がアリアで左がヒューイットだった。
まぁ、どの女が隣になろうとたいして変らないと思ってたら左隣にシエラ様が座った。
右にはリッツ伯爵の長女であるカエラ様が座りその右隣はコモンの席となっている。
なるほど、私がリッツ伯爵にコモンを紹介したいと言ったので年頃の女を座らせたのか。
でも、コモンが座って欲しかった相手はシエラ様なのでコモンからの視線が痛い。
「レイジェス、なんで君がそこなのかな!?」
とか言ってくる。勘弁してほしい。
もしかしてリッツ伯爵は私が幼女好きだとでも思ってシエラ様を隣にしたのだろうか?
私は断じて幼女好きではない。
と考え事をしているとシエラ様に声をかけられた。
「ごきげんよう、アルフォード公爵様。ご婚約おめでとうございます」
「うむ。祝いの言葉感謝いたす」
「わたくし、お城でお2人のダンスを見たのです。とっても素敵でした!」
と微笑む。
「わたくし、前にアリア様が神様の事を父神様って言っていて、すごく不思議だったんです。冗談なのか作り話なのかどこまで信じていいのか分からなかったのですけど、アリア様が言っていたのは本当の事だったのですね」
「うむ」
「もっとお話したかったのですけれど、今日は来てらっしゃらないのですか?」
「あれは今実家の天界に帰っております。暫くすれば戻るでしょう」
……早く戻ってきて欲しい。
「まぁ! 天界に! どのような所なのでしょう……」
と目を輝かせる。話していると食事がどんどん運ばれてきて私はセバスに給仕をしてもらった。
ここの食事は中々美味しい。スープを飲んでるとコモンの声が耳に入った。
「止めてください。俺にそんな気はないんですから」
といってコモンの股間に伸ばされたカエラ様の手を振り払おうとしている。
「テーブルの下ですもの。誰も見てませんわ?」
カエラ様がコモンの方に向けて言う。が、誰も見てはいなくても聞こえてますが?
こっちまで。コモンと目があってなんとかしてくれという顔をされた。なのでそれぐらい自分でなんとかしろと目で合図する。
カエラ様は所謂貴族の女だった。どうりで18歳にもなるのに嫁に行けていないはずだ。
私はテーブルに肘を付いて、じーっとその節操のない女を見ていた。
アリアとは全然違うな。淑女らしさの欠片もない。髪は金髪で水色の目。見目はいい方だと思うが残念な女だと思う。こんな女どうでもいい。私はアリアに想いを馳せる。
もう二週間も彼女を抱きしめていない。はぁ、早く戻って来てくれ…。
と思ったらカエラ様がいきなり振り返ったので目が合った。
そしてとろんとした目で私を見つめる。
「もしかして、アルフォード公爵様はずっとわたくしを見ていらしたの?」
「いや、見ていない」
私の眉間に皺が寄る。コモンが助かったとほっと胸を撫で下ろしている。
「わたくし、きちんとあなたの視線に気付いてよ?」
「いや、見ていない」
これはあれだ。ヒューイットがダメだと言っていた、思わせぶりな事をしたら相手が心を寄せてくるというパターンだ。私は愛の教科書2巻でそのことを理解した。
だがしかし! どこが思わせぶりな行動だったんだ? 自分を振り返ってみるがどこがその要素だったのかまったくわからない。
今この状況を彼女が見ていたらもしかして凄く怒るかもしれない。
『わたくしという者がありながら酷いです!』
と言って拗ねそうだ。私は思い出し笑いした。
「ずっきゅん! ですわ!」
とカエラ様が言ったが何の事だ?
「アルフォード公爵様は婚約中の身かも知れませんが、第二夫人の予定は決まっておいでですか?」
と言いつつ私の腕を触ってきたので私はイラっとした。
「カエラ様、申し訳ないのですが、私の腕に触れられるのは妻だけです。放してもらえますか?」
そう言った時に前髪が落ちてきたので髪を掻き揚げる。
「ずっきゅん! わたくし、公爵様の妻となります!」
と言い出した。ああ、なんだか面倒な事になってきたようだ……。
私がこめかみを押さえていると後ろでセバスも同じポーズをしていた。
もう面倒なのでこの女の話は無視することにした。どう思われてもどうでもいい。
私の心の中にはアリア以外の女など入る余地はない。
お互い愛を確認し、幸せに過ごしていたと思っていた。
……なのにその婚約者は私にだまって天界へ(実家へ)思えば私が全て悪かった。
本当に帰ってきてくれるのか?すごい不安だ。
もし彼女が帰ってきたら土下座して謝ろう。
そして次からは絶対に彼女が止めてと言ったら止めると心に決めた。
ヒューイットもそうした方がいいと言ってたしな。
私は今仕事から帰宅したばかりで魔術師団の師長服であるローブを着たままだ。
いつもは屋敷に帰ってきたらもっと楽なマイローブに着替えているが今日はリッツ伯爵の晩餐会があり面倒なのでこの制服のまま、屋敷でコモンを待っている。
私とコモンとセバスとで今日の晩餐会に行く事になっている。
本当は彼女と行く予定だったが、彼女が屋敷を出て行ってから1週間と少し。
なんの音沙汰もない。リッツ伯爵が米の生産の相談に乗ってくれるということで軽く取引内容の確認などをしようという事になったのと、リッツ伯爵にコモンを紹介することになっている。
談話室でまったりブラウンティを飲んでいるとコンコンとノックの音が。
「コモン様がお見えになりました」
「よし、では行くか」
今日の馬車はアルフォード公爵邸から出す事になっている。晩餐会に参加する3人が乗った。といっても、セバスは給仕で出席なので招待客参加は私とコモンだけだ。
馬車に乗ってその窓の外を見ると黄昏に迫る空のなか西の方に上弦の月が見えた。リッツ伯爵邸に着くと前と一緒で食前酒が庭で振舞われる。
食前酒を飲んでいると恰幅の良い中年男性に声を掛けられた。もちろんその者が誰かなど私は知らない。
セバスが小声で耳打ちする。
「ダミアン=クリストファー侯爵様です」
ん? クリストファー侯爵? どこかで聞いたような…。
「ごきげんよう、アルフォード公爵様」
「ごきげんよう、クリストファー侯爵」
「ところで、アルフォード公爵様はご婚約なされたとか。大変おめでとうございます」
「うむ、祝いの言葉感謝する」
「そういえば、以前こちらの晩餐会に愛妾を連れてらしていたとか?」
「はっ?」
私の眉間に皺が寄る。
「私の愚息が公爵様の愛妾を大変気に入りまして…その…金は払いますので譲って頂くわけにはいかないでしょうか? 公爵様も婚約なされたことですし、古い女などいらぬでしょう?」
私はここまで言われてクリストファー侯爵が何者か分かった。どうやら前回の晩餐会でアリアを愛妾と侮辱した少年の親のようだ。しかし、城で神籍の献上と婚約の宣言をしたのに何故こいつはアリアを私の婚約者だと分かっていない?
あの場所には多くの貴族が呼ばれていたはずだが…。
「なんでも公爵様の愛妾は幼女だとか。幼女は締まりが良くていいですからなぁ」
と下卑た笑いをする。締りが良くていいとか、息子じゃなくてこいつがアリアを欲しいんじゃなかろうか?
彼女を侮辱され寒気がする。怒りで体が震えた。
その時セバスが私の肩をトントンと叩いた。
「旦那様、この者はイフリート王子派だったので城に呼ばれていません。あなたとお近づきになってガブリエル王派に乗り換えたいのでしょう。その割に何も調べていない辺り、頭が切れるわけでもないですし、使えませんね。潰しましょう。アリア様を侮辱するなんて死に値します」
セバスが小声で囁いてきて私は頷いた。
「クリストファー侯爵、あなたの無礼は目に余る」
「は? なんの事でしょうか?」
「あなたが愛妾と呼んでいる幼女こそ私の愛する婚約者なのだが? 私とお前を一緒にするな! この幼女趣味の変態野郎が!」
「え?」
「お前はイフリート派で城に呼ばれなかったようだが、彼女はガブリエル王に神籍を献上され私と婚約宣言をした。神籍を献上されるということがどういう事か? 貴族ならわかるよな? クリストファー侯爵?」
クリストファー侯爵は目をきょろきょろさせて後ろに一歩後ずさった。
「お、王と同順……」
その目は狼狽している。
「その彼女に対して愛妾などと勘違いなことを言う。不敬罪で処刑されてもやむ終えないな」
「ちょっと待ってください! 私は息子からあなたの愛妾だとはっきり聞いたのです!」
セバスが指で鼻先の眼鏡をくいっと直している。
私のこめかみに青筋が立った。
「お前の愚息が愛妾と勝手に言っただけだ! イフリート派のお前を不敬罪で王に訴えたら喜んで処刑するだろうな? あの愚王の息子を王にしようと持ち上げる輩が減るからな!」
へたりとその場に力なく座り込んだクリストファー侯爵をセバスがさらに追い込む。
「クリストファー侯爵様、プリストン王国では未成年の蜜花を奪うのは犯罪になっているのはご存知ですよね? どうやらあなたは若い蜜花を好んで摘んでいるように思えるのですが? 番所に伝えておきますね」
まぁ、あの口振りであるなら致しているだろう。
私は決して幼女が好きなわけじゃない。彼女だから好きなのだ。
彼女がこの場にいなくて良かったと思うばかりだ。
彼女の事だから『そんな事言われるくらい大丈夫ですよ』とか強がりを言いそうである。
クリストファー侯爵が地面でうな垂れていると息子がやってきた。私の顔を一瞥してから自分の父親に話しかける。
「父上、私と父上で分け合うと約束したアルフォード公爵の愛妾はどうなりましたか? 買えたのですか? いくらだったのです?」
その一言を聞いて私の中の何かが切れた。
彼女を分け合う? 金で買おうとしていた? …はらわたが煮えくり返る。
「
その愚息も連座で良いな? クリストファー侯爵」
「アルフォード公爵様! 息子だけは! 息子だけは許してくださいませ! どうか! どうか!」
息子は何がなんだか分かっていないようだ。クリストファー侯爵は息子を抱きしめて涙を流していた。
その親子が抱き会い嘆き悲しむ様子を見て他の貴族達が同情する。
だまって事を見ていたコモンが言った。
「なんだか俺らが悪者みたいな感じになっちゃってるけど、未成年の蜜花を奪うのも不敬も犯罪だかんね! わかってんのか? あいつら!」
「私は館に入る前からどっと疲れた」
「旦那様! 本日の旦那様の任務はコメの生産の権利を得る事とコメ育成の技術指導の協力を仰ぐ事です! それが成されれば姫様が帰宅したら事のほか喜ばれるでしょう! 頑張りましょう!」
セバスはやる気満々である。
「ってか、俺をリッツ伯爵様とシエラ様に紹介するって任務もお忘れなく!」
「うむ。分かっている」
係りの者が入場を進めていく私達一行も館の中に入った。
以前と同じ食堂に通されリッツ伯爵が挨拶をする。最初の晩餐会のテーブルは男女交互に椅子が並ぶ。前回は私の隣の席は右がアリアで左がヒューイットだった。
まぁ、どの女が隣になろうとたいして変らないと思ってたら左隣にシエラ様が座った。
右にはリッツ伯爵の長女であるカエラ様が座りその右隣はコモンの席となっている。
なるほど、私がリッツ伯爵にコモンを紹介したいと言ったので年頃の女を座らせたのか。
でも、コモンが座って欲しかった相手はシエラ様なのでコモンからの視線が痛い。
「レイジェス、なんで君がそこなのかな!?」
とか言ってくる。勘弁してほしい。
もしかしてリッツ伯爵は私が幼女好きだとでも思ってシエラ様を隣にしたのだろうか?
私は断じて幼女好きではない。
と考え事をしているとシエラ様に声をかけられた。
「ごきげんよう、アルフォード公爵様。ご婚約おめでとうございます」
「うむ。祝いの言葉感謝いたす」
「わたくし、お城でお2人のダンスを見たのです。とっても素敵でした!」
と微笑む。
「わたくし、前にアリア様が神様の事を父神様って言っていて、すごく不思議だったんです。冗談なのか作り話なのかどこまで信じていいのか分からなかったのですけど、アリア様が言っていたのは本当の事だったのですね」
「うむ」
「もっとお話したかったのですけれど、今日は来てらっしゃらないのですか?」
「あれは今実家の天界に帰っております。暫くすれば戻るでしょう」
……早く戻ってきて欲しい。
「まぁ! 天界に! どのような所なのでしょう……」
と目を輝かせる。話していると食事がどんどん運ばれてきて私はセバスに給仕をしてもらった。
ここの食事は中々美味しい。スープを飲んでるとコモンの声が耳に入った。
「止めてください。俺にそんな気はないんですから」
といってコモンの股間に伸ばされたカエラ様の手を振り払おうとしている。
「テーブルの下ですもの。誰も見てませんわ?」
カエラ様がコモンの方に向けて言う。が、誰も見てはいなくても聞こえてますが?
こっちまで。コモンと目があってなんとかしてくれという顔をされた。なのでそれぐらい自分でなんとかしろと目で合図する。
カエラ様は所謂貴族の女だった。どうりで18歳にもなるのに嫁に行けていないはずだ。
私はテーブルに肘を付いて、じーっとその節操のない女を見ていた。
アリアとは全然違うな。淑女らしさの欠片もない。髪は金髪で水色の目。見目はいい方だと思うが残念な女だと思う。こんな女どうでもいい。私はアリアに想いを馳せる。
もう二週間も彼女を抱きしめていない。はぁ、早く戻って来てくれ…。
と思ったらカエラ様がいきなり振り返ったので目が合った。
そしてとろんとした目で私を見つめる。
「もしかして、アルフォード公爵様はずっとわたくしを見ていらしたの?」
「いや、見ていない」
私の眉間に皺が寄る。コモンが助かったとほっと胸を撫で下ろしている。
「わたくし、きちんとあなたの視線に気付いてよ?」
「いや、見ていない」
これはあれだ。ヒューイットがダメだと言っていた、思わせぶりな事をしたら相手が心を寄せてくるというパターンだ。私は愛の教科書2巻でそのことを理解した。
だがしかし! どこが思わせぶりな行動だったんだ? 自分を振り返ってみるがどこがその要素だったのかまったくわからない。
今この状況を彼女が見ていたらもしかして凄く怒るかもしれない。
『わたくしという者がありながら酷いです!』
と言って拗ねそうだ。私は思い出し笑いした。
「ずっきゅん! ですわ!」
とカエラ様が言ったが何の事だ?
「アルフォード公爵様は婚約中の身かも知れませんが、第二夫人の予定は決まっておいでですか?」
と言いつつ私の腕を触ってきたので私はイラっとした。
「カエラ様、申し訳ないのですが、私の腕に触れられるのは妻だけです。放してもらえますか?」
そう言った時に前髪が落ちてきたので髪を掻き揚げる。
「ずっきゅん! わたくし、公爵様の妻となります!」
と言い出した。ああ、なんだか面倒な事になってきたようだ……。
私がこめかみを押さえていると後ろでセバスも同じポーズをしていた。
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