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第二章
7男だけで行く晩餐会 後編 レイジェス視点
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女を無視して食事していると次は米料理だとセバスが言い出した。白い米とその上にかける茶色い肉のような物が別々になっていた。
前回のオムライスも美味しかったが、私はアリア程美味いとは感じなかった。甘めの味付けで大人の私には物足りなかったからだ。
今回はどんなだろう?と思っているとセバスが取り分けて持ってきてくれた。
「なんでも牛丼と言うらしいですよ?」
私はスプーンでそれをすくって食べた。白いこめの上に甘辛い肉とたれが絡んで美味い。
「なんだこれは……。今まで食べた事のない味だ」
私はまたスプーンですくって食べてみる。
甘いけど少しの辛味のせいか大人でもいける。こんなにうまい米料理もあるのか。
「彼女に食べさせて上げたかった……」
「レシピが貰えないか伯爵夫人に相談してまいります」
「ん、ああ、そうしてくれると助かる」
それからもどんどん食事が振舞われ男女別のお茶会時間になった。
やっと一息できる。
私は早速リッツ伯爵の方へ向かった。テーブルの一番奥の方にいる。
「ごきげんよう、リッツ伯爵」
「ごきげんよう、アルフォード公爵様」
「この度はご婚約おめでとうございます」
「うむ、祝いの言葉感謝する。今日はリッツ伯爵にコメの件で話があったのですが、その前に私の友人を紹介したいと思う。コモン=エルサレム次期伯爵だ」
「王国魔術師団にて副師長の任についている。中々優秀な男だ」
コモンはごほんと咳払いをしてから自己紹介をした。
「初めましてごきげんよう、コモン=エルサレム次期伯爵です。25歳です」
「ほぅ。カール=リッツ伯爵、36歳です。どうぞよろしく」
「リッツ伯爵。私は面倒なのは嫌いなので単刀直入に話したいと思う」
「はい?」
「コモンはお宅のお嬢様と結婚を前提に付き合いたいと思っている。つまり婚約したいそうだ」
「なんでいきなりそこを言う! レイジェス! 展開が速すぎるだろ!?」
「コモン様の年齢に合う娘といったら…カエラですか?」
「い、いえ、違います」
あの女は勘弁してくれとコモンの顔に冷や汗が浮かぶ。
「では、次女で16歳のキエラですかな? あのおてんばと?」
「いえ、見たこともございません、違います」
「え? では三女で成人したばかりで今15歳のサエラですか?」
「い、いえ、違います!」
「え? では他に娘などおりませんよ?」
「「いるだろう!」」
コモンと私の声がかぶる。
「もしかして……末娘のシエラですか?」
コモンが凄い勢いで頭を縦に振る。
「ひ、一目惚れなのです! 前回の晩餐会で……会ってから!彼女の事が頭から離れません! どうか、どうか結婚を前提にお付き合いさせてください! 彼女と婚約させてください!」
顔を真っ赤にして言い切った。
リッツ伯爵は呆然としている。
「うちの末娘は8歳ですが……いいのでしょうか?その、コモン様は数々の女性と浮名を流しているようなお方です。……うちの娘はまだ子供ですよ?」
「もう他の女性とは全部切れました。本気なのです。お願いです許可を!」
とコモンは頭を深く下げた。暫くしてからリッツ伯爵は使用人にシエラ様を呼んでくるように言い執事にお茶を入れさせた。
私にはブラウンティが差し出された。その場にいる3人でお茶を飲んでいるとシエラ様が来た。
「シエラ、こちらに座りなさい」
とリッツ伯爵の左隣にシエラ様が座った。対面に座っているのはコモンだ。
「どうしたのですか? お父様」
「君に結婚の申し込みがあった。目の前にいるコモン様からだ。受けるかどうかは君に任せる。少し彼と話をしてから決めるとよい」
「え? わたくしに結婚?」
コモンの顔には滝汗が流れていた。それをハンカチで拭いている。
「お、俺は……シエラ様、あなたを一目見て好きになってしまいました! 歳は離れていますが大切にします! 結婚してください!」
ふむ、普通はこういう感じで結婚話が進むのか。
自分の事を考えると自分がダメ過ぎで本当に情けなくなる。
ああ……アリアすまぬ、私を許してくれ。早く帰ってきてくれ!
シエラ様を見ると頬を真っ赤に染めていた。
「コモン様のような素敵な大人の男性がどうしてわたくしに? お姉さま達と間違っておりませんか?」
コモンはテーブルをぐるっと回り込みシエラ様の前に立った。そして椅子に座っている彼女に跪く。
「間違ってない! 俺が選んだのは君だ! 可愛らしくて優しい。君と話をするだけで心がときめく。こんなのは初めてなんだ。私の結婚の申し込みをどうか……どうか、受けて欲しい!」
コモンは跪いたまま自分の右手をシエラ様に向かって差し出した。
シエラ様は真っ赤な顔でその熱意を言葉を聞いていた。そして暫く考えたあとおずおずとその小さな手をコモンの手に乗せた。
コモンが驚いて顔を上げると同時に笑顔と涙の入り混じった顔になる。それを見てシエラ様は驚いていた。
コモンは余程嬉しかったのかシエラ様を抱き上げありがとうとほっぺにキスをした。
私はリッツ伯爵を見た。
「コモンは意外と真面目なヤツなので心配いらぬ」
「エルサレム家と言えば国立銀行の担当家。同じ伯爵家と言えど歴史も家柄もはあちらの方が家格が上だと思うのですが本当にシエラで良いのでしょうか。あの子は末娘で少しおっとりしているので伯爵家夫人が務まるのかと…」
「まだ時間はある。今からでも夫人教育は出来ると思うが?」
リッツ伯爵はフッと笑って優しい目で二人を見た。
「所で取引の話に変えましょう」
リッツ伯爵が言ったので私も頷く。
「米の種から育成方法の指導3年間を何と引き換えにして頂けるのですか?」
「私としては領地で取れる鉄を3年間そちらの領地に定価から15%引いた値段で売ろうと思っている」
「15%も引いていただけるのですか!?」
「うむ」
「どうしてそこまで米を生産したいのですか?」
「私の婚約者が食べたがっていた。彼女は普段からあまり物を食べない。食べるのはトウミくらいだ。その彼女が米は食べれると言っているので作らなければならない」
リッツ伯爵はしばらく考えて顎に手をやった。
「アルフォード公爵様は神饌というものをご存知ですか?」
「神饌? なんだそれは?」
「神饌とは神の食べる食物のことをいいます。トウミも米も神饌のうちの一つです。私が思うにアリア様は人間界では食べれる物が少ないのではないでしょうか? 神饌だったら食べられるのでは?」
「ふむ……他に知ってる神饌はあるか?」
「夏に取れるリンクの実と秋に取れるジェイクロの実もそうです。あと海で取れるものは海の神が禊をして清めているのでほぼ大丈夫だと思います。米はあったほうがいいですね。米は神の主食ですから。私達にとってのパンみたいな物です」
神饌の話を聞いて私は恐ろしい事に気付いてしまった。
彼女が私の屋敷に来たときに、私は普通の食事しか出さなかった。彼女があまりにも物を食べないので栄養を取るためにトウミを出したのだ。そしたら食べた。
けれど、彼女からしたら人間の食べ物など食べる事ができず、食べれるのはトウミだけだったのかも知れない。そう考えると劣悪な食生活環境ではないか……。
心も満足させる事が出来ず、食生活も劣悪とか…私は最低じゃないか?
こんな事にも気付いて上げられないなんて……。
せめてもう少し食べられる物を増やしてやりたい。
「所でアルフォード公爵様、米を作るにあたって少々問題があります」
「問題とは?」
「米は北の寒いところで育てなければいけないのですが、アルフォード公爵様の領地は南だったと思うのですが」
「ああ、その件だったら神殿長が廃爵したのでそこの領地のいくつかを王に頂いた。飛び地となるが北にも領地がある」
「あと米は畑ではなく水田で作るので大量の水が要ります。水がそこにたまるようにまず水の灌漑施設を作らねばなりません。初期投資が結構かかります」
「ああ、金ならある。大丈夫だ。水は現地を見てみないとなんともいえぬな」
「アルフォード公爵様、では内容として、米の種から育成方法の指導3年間とその3年間の間鉄が15%引き価格で買えるということでいいですか?」
リッツ伯爵が再度確認する。
「ああ」
「では明日書類を私がお持ちします」
セバスが言った。
「私も用意しておこう」
とリッツ伯爵が言って、二人で握手して取引の話は終わった。
私が自分の席に戻ってブラウンティを飲んでいると男だけのお茶会は終わったようである。女性達が現れた。
さきほどカエラ様が座っていた場所にシエラ様が座っている。そしてシエラ様が座っていた場所にカエラ様が…。入れ替わっただけだ。
何か話しかけてきているが頭に入らない。どうして興味ないと言ってもわかってくれないのだろう? この女は。
エメラダの時もそうだった。何度も興味ない、君は好きじゃないと言っていたのに結局私の大事な彼女に大怪我をさせて一週間も意識不明にさせた。
殺しても足りない女だ。
もしかしてこのカエラとかいう女もあのエメラダのように私から大事な彼女を奪っていく存在になるかもしれない…と思ったらどこか遠くに行って欲しくなった。
「ねぇ? 公爵様~聞いてます?」
猫撫で声を出す。それにイライラする私。
「ああ、もう! 君ははっきり言わないとわからない様だから、はっきり言う。私は幼い子が好きなんだ。君みたいな年増女は好きじゃない。もう見てるだけで吐き気がするので消えてくれ! うっとうしいんだ! 私の視界に入るな!」
これだけ言えばわかるだろう。幼女好きの変態野郎だと分かれば私に寄って来る女も減るし一石二鳥だ。
「私は年増じゃないわ! まだ18歳よ!」
「私の婚約者は8歳だが? 君は彼女より10歳も年がいってるじゃないか! 十分年増だ!」
そういうとカエラ様は泣いて席を立った。
「ちょ、今の言い方だとアリアちゃんが悲しむんじゃない?」
とコモンが言う。
「何故だ?」
「だってさぁ、アリアちゃんはレイジェスがかっこいいのに変態扱いされるのが一番嫌だ! って言ってたぜ? 俺がからかった時だって泣いてレイジェス様は変態じゃない! って反論してたじゃないか」
そう言えばそんな事があったような……。ああ、……私はまた失敗をしてしまったのか? じゃ、あんなふうにしつこい女がいた場合どうすればいいんだ?
「大丈夫ですよ、アルフォード公爵様。あれはお姉さまの嘘泣きです。泣いて気を引くんです。いつもやってますから」
とシエラ様が声を掛けてくれた。
しつこい女の扱い方がどうすればいいかわからん……。
ため息をしてブラウンティを飲んでいると私の目の前に子供が来た。アリアより少し年上くらいか?
「ごきげんよう、カートラット伯爵家のエリザベス=カートラット、10歳です」
「ごきげんよう、レイジェス=アルフォード、24歳。公爵をやっております」
挨拶をしたがエリザベス様は眉間に皺を寄せたまま何も喋らない。その場がしーんとなる。
「アリアの友達かな? 今日はアリアは来ておらぬぞ? 今天界に帰っておる」
そう言うとエリザベス様は目を見開いた。
「わたくしはあの方と友達ではないですわ」
「ん?」
「わたくし、謝りたいのです」
「ほぅ? アリアと何かあったのですか?」
「わたくし、神が本当にいるって信じてなかったのです。でも……城でアルフォード公爵様と踊っているアリア様は空を飛んでいらして、わたくしびっくりしてしまいました」
「ふむ。それで?」
「わたくし、以前の晩餐会でアリア様の父上様が神だと聞いて馬鹿にしてしまったのです。アリア様は本当のことを言ってたのですよね? 神籍を頂いたということはそういう事ですよね?」
と言われたので頷く。
「彼女の父上は最高神にて創造神であるアズライル神様です。私もお会いした事がございます」
「ごめんなさいと伝えてもらえませんか? わたくしが謝っていたと…。許してもらえないかも知れないですけど……」
しょぼんとした顔をするエリザベス様。どうやら本当に悪いと思っているようだ。
そうか、父神様を馬鹿にされたと言っていたが、この子がそうなのか。
でも、この子の様子を見ているとかなり反省しているようだし、許されないかもしれないと不安に感じているその表情はまるで自分を見ているようだ。
「彼女が天界から帰ってきたら、君に私の屋敷への招待状を贈ろう。本人に謝るのが一番良いと思うぞ?」
「……わたくし、許されないかも知れません」
「彼女は反省して謝ってくる者を責めたりはしない。むしろ君を許して仲良くして欲しいと思うのではないかな? そういう子だ」
「エリザベス様、わたくしも一緒に謝ります。わたくしも信じきれていなかったのです」
と私の隣に座っていたシエラ様が言う。
エリザベス様は泣きそうな表情になったがきゅっと唇を締めて涙を止めた。
「……シエラ様も一緒にでよろしいですか? アルフォード公爵様?」」
「ああ」
「では、そのようにお願い致します」
そう話してエリザベス様はその席を去った。
その後はシエラ様の姉で次女のキエラ様とサエラ様が現れて、コモンや私を落とそうとしていたが私達二人には通用しなかったようですぐ席を去った。
コモンはシエラ様と仲良く話してデートの約束をこぎつけたようだった。
晩餐会は恙無く終了し、私達は馬車に乗り帰途についた。
上弦の月が私を見ている。私が泣いたあの夜はもっと月が丸かったように感じた。
まるで遥か昔の事のように感じるのは彼女がこんなにも長くいないからだと思う。
いつのまにか二人でいるのが当たり前のようになっていた。
もう、彼女が来る前の、彼女のいないのが当たり前の自分というのが思い出せない。
早く、早く帰ってきて欲しい。沢山謝りたいことがある。沢山話したいことがある。
私は月を見たあと目を伏せた。
「今日はありがとうな? レイジェス」
「まだ正式な婚約じゃないだろ?」
「ああ、うちの親が認めれば正式となる」
「お前の両親ならいいと言うであろうな」
「ああ、だからもう君に感謝してる」
私は幸せ一杯のコモンの顔を見て、フッと静かに笑った。
前回のオムライスも美味しかったが、私はアリア程美味いとは感じなかった。甘めの味付けで大人の私には物足りなかったからだ。
今回はどんなだろう?と思っているとセバスが取り分けて持ってきてくれた。
「なんでも牛丼と言うらしいですよ?」
私はスプーンでそれをすくって食べた。白いこめの上に甘辛い肉とたれが絡んで美味い。
「なんだこれは……。今まで食べた事のない味だ」
私はまたスプーンですくって食べてみる。
甘いけど少しの辛味のせいか大人でもいける。こんなにうまい米料理もあるのか。
「彼女に食べさせて上げたかった……」
「レシピが貰えないか伯爵夫人に相談してまいります」
「ん、ああ、そうしてくれると助かる」
それからもどんどん食事が振舞われ男女別のお茶会時間になった。
やっと一息できる。
私は早速リッツ伯爵の方へ向かった。テーブルの一番奥の方にいる。
「ごきげんよう、リッツ伯爵」
「ごきげんよう、アルフォード公爵様」
「この度はご婚約おめでとうございます」
「うむ、祝いの言葉感謝する。今日はリッツ伯爵にコメの件で話があったのですが、その前に私の友人を紹介したいと思う。コモン=エルサレム次期伯爵だ」
「王国魔術師団にて副師長の任についている。中々優秀な男だ」
コモンはごほんと咳払いをしてから自己紹介をした。
「初めましてごきげんよう、コモン=エルサレム次期伯爵です。25歳です」
「ほぅ。カール=リッツ伯爵、36歳です。どうぞよろしく」
「リッツ伯爵。私は面倒なのは嫌いなので単刀直入に話したいと思う」
「はい?」
「コモンはお宅のお嬢様と結婚を前提に付き合いたいと思っている。つまり婚約したいそうだ」
「なんでいきなりそこを言う! レイジェス! 展開が速すぎるだろ!?」
「コモン様の年齢に合う娘といったら…カエラですか?」
「い、いえ、違います」
あの女は勘弁してくれとコモンの顔に冷や汗が浮かぶ。
「では、次女で16歳のキエラですかな? あのおてんばと?」
「いえ、見たこともございません、違います」
「え? では三女で成人したばかりで今15歳のサエラですか?」
「い、いえ、違います!」
「え? では他に娘などおりませんよ?」
「「いるだろう!」」
コモンと私の声がかぶる。
「もしかして……末娘のシエラですか?」
コモンが凄い勢いで頭を縦に振る。
「ひ、一目惚れなのです! 前回の晩餐会で……会ってから!彼女の事が頭から離れません! どうか、どうか結婚を前提にお付き合いさせてください! 彼女と婚約させてください!」
顔を真っ赤にして言い切った。
リッツ伯爵は呆然としている。
「うちの末娘は8歳ですが……いいのでしょうか?その、コモン様は数々の女性と浮名を流しているようなお方です。……うちの娘はまだ子供ですよ?」
「もう他の女性とは全部切れました。本気なのです。お願いです許可を!」
とコモンは頭を深く下げた。暫くしてからリッツ伯爵は使用人にシエラ様を呼んでくるように言い執事にお茶を入れさせた。
私にはブラウンティが差し出された。その場にいる3人でお茶を飲んでいるとシエラ様が来た。
「シエラ、こちらに座りなさい」
とリッツ伯爵の左隣にシエラ様が座った。対面に座っているのはコモンだ。
「どうしたのですか? お父様」
「君に結婚の申し込みがあった。目の前にいるコモン様からだ。受けるかどうかは君に任せる。少し彼と話をしてから決めるとよい」
「え? わたくしに結婚?」
コモンの顔には滝汗が流れていた。それをハンカチで拭いている。
「お、俺は……シエラ様、あなたを一目見て好きになってしまいました! 歳は離れていますが大切にします! 結婚してください!」
ふむ、普通はこういう感じで結婚話が進むのか。
自分の事を考えると自分がダメ過ぎで本当に情けなくなる。
ああ……アリアすまぬ、私を許してくれ。早く帰ってきてくれ!
シエラ様を見ると頬を真っ赤に染めていた。
「コモン様のような素敵な大人の男性がどうしてわたくしに? お姉さま達と間違っておりませんか?」
コモンはテーブルをぐるっと回り込みシエラ様の前に立った。そして椅子に座っている彼女に跪く。
「間違ってない! 俺が選んだのは君だ! 可愛らしくて優しい。君と話をするだけで心がときめく。こんなのは初めてなんだ。私の結婚の申し込みをどうか……どうか、受けて欲しい!」
コモンは跪いたまま自分の右手をシエラ様に向かって差し出した。
シエラ様は真っ赤な顔でその熱意を言葉を聞いていた。そして暫く考えたあとおずおずとその小さな手をコモンの手に乗せた。
コモンが驚いて顔を上げると同時に笑顔と涙の入り混じった顔になる。それを見てシエラ様は驚いていた。
コモンは余程嬉しかったのかシエラ様を抱き上げありがとうとほっぺにキスをした。
私はリッツ伯爵を見た。
「コモンは意外と真面目なヤツなので心配いらぬ」
「エルサレム家と言えば国立銀行の担当家。同じ伯爵家と言えど歴史も家柄もはあちらの方が家格が上だと思うのですが本当にシエラで良いのでしょうか。あの子は末娘で少しおっとりしているので伯爵家夫人が務まるのかと…」
「まだ時間はある。今からでも夫人教育は出来ると思うが?」
リッツ伯爵はフッと笑って優しい目で二人を見た。
「所で取引の話に変えましょう」
リッツ伯爵が言ったので私も頷く。
「米の種から育成方法の指導3年間を何と引き換えにして頂けるのですか?」
「私としては領地で取れる鉄を3年間そちらの領地に定価から15%引いた値段で売ろうと思っている」
「15%も引いていただけるのですか!?」
「うむ」
「どうしてそこまで米を生産したいのですか?」
「私の婚約者が食べたがっていた。彼女は普段からあまり物を食べない。食べるのはトウミくらいだ。その彼女が米は食べれると言っているので作らなければならない」
リッツ伯爵はしばらく考えて顎に手をやった。
「アルフォード公爵様は神饌というものをご存知ですか?」
「神饌? なんだそれは?」
「神饌とは神の食べる食物のことをいいます。トウミも米も神饌のうちの一つです。私が思うにアリア様は人間界では食べれる物が少ないのではないでしょうか? 神饌だったら食べられるのでは?」
「ふむ……他に知ってる神饌はあるか?」
「夏に取れるリンクの実と秋に取れるジェイクロの実もそうです。あと海で取れるものは海の神が禊をして清めているのでほぼ大丈夫だと思います。米はあったほうがいいですね。米は神の主食ですから。私達にとってのパンみたいな物です」
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彼女が私の屋敷に来たときに、私は普通の食事しか出さなかった。彼女があまりにも物を食べないので栄養を取るためにトウミを出したのだ。そしたら食べた。
けれど、彼女からしたら人間の食べ物など食べる事ができず、食べれるのはトウミだけだったのかも知れない。そう考えると劣悪な食生活環境ではないか……。
心も満足させる事が出来ず、食生活も劣悪とか…私は最低じゃないか?
こんな事にも気付いて上げられないなんて……。
せめてもう少し食べられる物を増やしてやりたい。
「所でアルフォード公爵様、米を作るにあたって少々問題があります」
「問題とは?」
「米は北の寒いところで育てなければいけないのですが、アルフォード公爵様の領地は南だったと思うのですが」
「ああ、その件だったら神殿長が廃爵したのでそこの領地のいくつかを王に頂いた。飛び地となるが北にも領地がある」
「あと米は畑ではなく水田で作るので大量の水が要ります。水がそこにたまるようにまず水の灌漑施設を作らねばなりません。初期投資が結構かかります」
「ああ、金ならある。大丈夫だ。水は現地を見てみないとなんともいえぬな」
「アルフォード公爵様、では内容として、米の種から育成方法の指導3年間とその3年間の間鉄が15%引き価格で買えるということでいいですか?」
リッツ伯爵が再度確認する。
「ああ」
「では明日書類を私がお持ちします」
セバスが言った。
「私も用意しておこう」
とリッツ伯爵が言って、二人で握手して取引の話は終わった。
私が自分の席に戻ってブラウンティを飲んでいると男だけのお茶会は終わったようである。女性達が現れた。
さきほどカエラ様が座っていた場所にシエラ様が座っている。そしてシエラ様が座っていた場所にカエラ様が…。入れ替わっただけだ。
何か話しかけてきているが頭に入らない。どうして興味ないと言ってもわかってくれないのだろう? この女は。
エメラダの時もそうだった。何度も興味ない、君は好きじゃないと言っていたのに結局私の大事な彼女に大怪我をさせて一週間も意識不明にさせた。
殺しても足りない女だ。
もしかしてこのカエラとかいう女もあのエメラダのように私から大事な彼女を奪っていく存在になるかもしれない…と思ったらどこか遠くに行って欲しくなった。
「ねぇ? 公爵様~聞いてます?」
猫撫で声を出す。それにイライラする私。
「ああ、もう! 君ははっきり言わないとわからない様だから、はっきり言う。私は幼い子が好きなんだ。君みたいな年増女は好きじゃない。もう見てるだけで吐き気がするので消えてくれ! うっとうしいんだ! 私の視界に入るな!」
これだけ言えばわかるだろう。幼女好きの変態野郎だと分かれば私に寄って来る女も減るし一石二鳥だ。
「私は年増じゃないわ! まだ18歳よ!」
「私の婚約者は8歳だが? 君は彼女より10歳も年がいってるじゃないか! 十分年増だ!」
そういうとカエラ様は泣いて席を立った。
「ちょ、今の言い方だとアリアちゃんが悲しむんじゃない?」
とコモンが言う。
「何故だ?」
「だってさぁ、アリアちゃんはレイジェスがかっこいいのに変態扱いされるのが一番嫌だ! って言ってたぜ? 俺がからかった時だって泣いてレイジェス様は変態じゃない! って反論してたじゃないか」
そう言えばそんな事があったような……。ああ、……私はまた失敗をしてしまったのか? じゃ、あんなふうにしつこい女がいた場合どうすればいいんだ?
「大丈夫ですよ、アルフォード公爵様。あれはお姉さまの嘘泣きです。泣いて気を引くんです。いつもやってますから」
とシエラ様が声を掛けてくれた。
しつこい女の扱い方がどうすればいいかわからん……。
ため息をしてブラウンティを飲んでいると私の目の前に子供が来た。アリアより少し年上くらいか?
「ごきげんよう、カートラット伯爵家のエリザベス=カートラット、10歳です」
「ごきげんよう、レイジェス=アルフォード、24歳。公爵をやっております」
挨拶をしたがエリザベス様は眉間に皺を寄せたまま何も喋らない。その場がしーんとなる。
「アリアの友達かな? 今日はアリアは来ておらぬぞ? 今天界に帰っておる」
そう言うとエリザベス様は目を見開いた。
「わたくしはあの方と友達ではないですわ」
「ん?」
「わたくし、謝りたいのです」
「ほぅ? アリアと何かあったのですか?」
「わたくし、神が本当にいるって信じてなかったのです。でも……城でアルフォード公爵様と踊っているアリア様は空を飛んでいらして、わたくしびっくりしてしまいました」
「ふむ。それで?」
「わたくし、以前の晩餐会でアリア様の父上様が神だと聞いて馬鹿にしてしまったのです。アリア様は本当のことを言ってたのですよね? 神籍を頂いたということはそういう事ですよね?」
と言われたので頷く。
「彼女の父上は最高神にて創造神であるアズライル神様です。私もお会いした事がございます」
「ごめんなさいと伝えてもらえませんか? わたくしが謝っていたと…。許してもらえないかも知れないですけど……」
しょぼんとした顔をするエリザベス様。どうやら本当に悪いと思っているようだ。
そうか、父神様を馬鹿にされたと言っていたが、この子がそうなのか。
でも、この子の様子を見ているとかなり反省しているようだし、許されないかもしれないと不安に感じているその表情はまるで自分を見ているようだ。
「彼女が天界から帰ってきたら、君に私の屋敷への招待状を贈ろう。本人に謝るのが一番良いと思うぞ?」
「……わたくし、許されないかも知れません」
「彼女は反省して謝ってくる者を責めたりはしない。むしろ君を許して仲良くして欲しいと思うのではないかな? そういう子だ」
「エリザベス様、わたくしも一緒に謝ります。わたくしも信じきれていなかったのです」
と私の隣に座っていたシエラ様が言う。
エリザベス様は泣きそうな表情になったがきゅっと唇を締めて涙を止めた。
「……シエラ様も一緒にでよろしいですか? アルフォード公爵様?」」
「ああ」
「では、そのようにお願い致します」
そう話してエリザベス様はその席を去った。
その後はシエラ様の姉で次女のキエラ様とサエラ様が現れて、コモンや私を落とそうとしていたが私達二人には通用しなかったようですぐ席を去った。
コモンはシエラ様と仲良く話してデートの約束をこぎつけたようだった。
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上弦の月が私を見ている。私が泣いたあの夜はもっと月が丸かったように感じた。
まるで遥か昔の事のように感じるのは彼女がこんなにも長くいないからだと思う。
いつのまにか二人でいるのが当たり前のようになっていた。
もう、彼女が来る前の、彼女のいないのが当たり前の自分というのが思い出せない。
早く、早く帰ってきて欲しい。沢山謝りたいことがある。沢山話したいことがある。
私は月を見たあと目を伏せた。
「今日はありがとうな? レイジェス」
「まだ正式な婚約じゃないだろ?」
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王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
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