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第三章
21義務と性欲と愛情 後編 ユリウス視点
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クロエは私の召喚獣の白獅子に乗り、オリオンは側仕えのアルテダを乗せて飛んでいる。空を飛んでいる時にクロエが私の腹にしがみ付きながら聞いた。
「もし、アリア様でも、わたくしの様にオリオンと楽しむのですか?」
私は言われて一瞬意味が分からなかった。
「何をだ?」
「閨事です」
「アリア様はまだ8歳だ。お前のように蜜花を散らしているわけでもない。閨事なんて、出来るわけがない」
クロエは不満気に言った。
「未成年の蜜花の法はプリストン王国だけの物ですよ? 我がワイアット皇国には関係のない法です。もし、の話ですが、アリア様がワイアットに来られる事になったら……わたくしの様にオリオンとアリア様の体を楽しまれるのですか?」
彼女をオリオンと楽しむだと!?
自分の背にしがみ付くクロエを、振り返り睨んで言った。
「私がオリオンとアリア様を楽しむ!? あるわけ無かろうが!」
「……何故怒るのです?」
「お前が下衆な事を言うからだ」
私の腹を握り締めるクロエの手にぎゅっと力が込められた。
「何故ですか? 私の事はオリオンと楽しめるのにアリア様の事は想像でもオリオンと共有するのはお嫌という事でしょうか?」
クロエの言う通りだった。想像の中でも三人で致すなど彼女を穢すような妄想はしたくなかった。
「でも……攫ってワイアット皇国に連れて行けば蜜花の法律も関係ありませんし、アリア様の全てをユリウス様の物にできますよ?」
「わ、私は幼女趣味ではない!」
「蜜花は1年も慣らせばすぐ入りそうですわ? 慣らす楽しみもございますでしょ? 楽しみですわね、ふふふ……ユリウス様は本当にアリア様が好きなのですね、わたくしに対する時と全然違います。妬けますわ?」
私はまたクロエを振り向き睨んだ。
クロエの発する刺激的な言葉を魅惑的に感じながらも、飛んで行きそうな理性を押さえつける。【1年慣らせば挿入できる】なんて魅惑的な言葉だ。
「アリア様に手を出すなよ!? 殺すぞ!!」
「あら、怖いお兄様ですこと。わたくしは人を傷つけるなんて出来ませんわ。むしろオリオンの方が危ないのではないかしら? オリオンはユリウスお兄様が大好きですからね」
私達はエドアルドの先導でワイナリーに着き、決められた席に座って待っていた。手持ち無沙汰な為、食前酒のワインが一同に配られる。白い炭酸入りの軽い飲み口のワイン。ごくごくと喉越しが良くて飲み干した。もう一杯オリオンに注いで貰う。一口飲んでグラスを置いた。
クロエが言った事が頭をよぎる。
最初は神の娘が花嫁として来るのならば、我が皇国がまた神との血の繋がりが濃くなると思った。国の為だった。
でも、今は? 一貴族に成りすましてまで彼女に近づき、会話して信頼を少しずつ得てきた。この状態で攫う? 一気に信用も何もかも無くなってしまう。
彼女に失望されてしまう。
できれば攫うなんてしたくない。
それに、今攫ったからって、彼女に対して何もできない。それは体の事だ。
大の大人の橘が彼女の小さな蜜花に入ると思えない。
クロエの言うとおり1年くらい慣らさなければとてもじゃないだろうが入らないだろう。そこで私は自分にはっとした。
【彼女に挿入することを考えている】自分に寒気がした。
これでは逮捕されて処刑された騎士団長のリュークと一緒ではないか!
リュークが監禁した女の子は9歳だった。
蜜花も散らしていたと聞いた。9歳だと……入るのか。
アルフォード公爵は閨事はしていても蜜花には手を出していないと言うが、良く自制出来ているな? と感心する。
私では……最後まで致しそうだ。
この彼女を自分の欲望で穢したいという欲求、これは魅了によるものなのか?
単なる自分の欲なのか? 良くわからない。
オリオンと彼女を共有できるか? と聞かれたが、誰にも触らせたくない。
誰にも見せたくも無い。檻に入れて閉じ込めて、自分だけが唯一人彼女と世界を繋げたい。
そう思う自分は病気なのではないかと思う。
4人がワイナリーに合流した。私は明るく手を振る。
「こちらですよ!」
私の向かい側はアリア様になった。正面なので沢山見つめる事が出来る。クロエは私の右隣で大人しくしている。魔法は効いているようだ。
食べて飲んで楽しく過ごしたがアルフォード公爵とアリア様は用事があった様で途中で抜けた。
私達はコモンがワイナリー見学をすると言うのでクロエと一緒に行くことにしたレンブラントとヒューイットも行くらしい。アルフォード公爵が行かないと言っていたからヒューイットはてっきり来ないと思っていた。
ワイナリーの支配人であるクロードが先導して醸造所に皆で行く。レストランは一番右端の建物なので醸造所は左端にある建物で遠い。そのせいかコモンがシエラ様を抱きかかえた。大人だけになると足が速くなる。さくさく歩いてあっというまに醸造所の手前に着いた。ワインのアルコールの匂いが充満している。醸造所は魔道具の機械体制になっていた。
人の手を借りるのは葡萄を選別する時だけだそうだ。
「この魔道具の機械は見た事がないのですが……?」
「そちらは、旦那様がコモン様の協力を借りて作られた機械です。お二人での共同特許になっております」
支配人のクロードが言った。
「ええ? コモン様が?」
シエラ様が目を見開いている。
「言ったじゃないか? 俺の趣味は魔道具作りだって。これもその一環。10年位前にレイジェスに助言をくれって言われて作った代物だ」
「コモン様って凄いのですね!」
縦抱きに抱えられているシエラ様がコモンをぎゅっと抱きしめてちゅっとした。
その姿は微笑ましくて可愛らしい。
その一方でヒューイットがレンブラントに小声で言った。
「レンブラント様はそういったお金を稼げる得意な事はございませんの? コモンでさえ小銭を稼いでいると言うのに……」
「金が欲しいなら金のある男に求婚すればいい。婚約解消してくれても構わないぞ?」
レンブラントは興味無さげに言った。
「そういうつもりで言ったんじゃないわ?」
「じゃあ、どういうつもりで言ったんだ?」
一応周りを気にしているのか小声で言い合う二人。
「やめましょう? ここで言い合うのは。あとでお部屋で話しましょう?」
「…分かった」
どうやら話の続きは部屋でやるようだ。コモンとシエラ様は見るからに幸せに見えるが、レンブラントとヒューイットは今にも崩れそうな関係に見える。なのに崩れない、不思議だ。
醸造所を見た後は樽熟成庫を見て、そこでまだ熟成中のワインを少し飲んだ。香りはそれほど広がらないが若々しい爽やかな味がしたが、飲んだ後に苦味みたいな青みが残る。まだまだ寝かせた方がいいなと思った。
そして私達はワイナリー見学を終えると城に戻った。
クロエが大人しくいい子にしていたので褒美として私とオリオンで可愛がった。
クロエが空を飛んでいる時にオリオンの事でごちゃごちゃ言っていたから、てっきり奴の事や3人で致すのが嫌なのかと思ったら違ったようだ。気持ちが良ければいいと言っている。
まぁ、オリオンは女嫌いなので参加したくなければ断ればいいのだが、何故か参加したがる。
「ユリウス様の抱いた女ならまだマシです」
と真顔で言っている。何がマシなのかさっぱり分からないが、二人共そこまで嫌ではないようだ。普段【渡り】という後宮の閨儀式をやっている自分としては二人の女と致すのも良くある事で、ある意味普通だ。
だが、この二人は後宮の者ではない。
オリオンはたまに遠征で遠くに行くと、女が居なくて口で私の物を処理してくれるが、それにも慣れてしまった。男の物を口に含むなど嫌だろうに、何故かやりたがる、不思議な奴だ。
そして、その日の夜は疲れたのかぐっすり眠れた。
次の日、朝食を終えて大広間へ行くとアルフォード公爵とアリア様がボードゲームをしていた。白と黒の丸いコマを使い挟めば裏返しにして色を変えていくという簡単なゲームだった。説明を聞いて即やりたくなってしまった私はアルフォード公爵を誘う。
そうだ、勝負にアリア様の【いい事】を掛けよう。そうすればアルフォード公爵も真剣にやるだろう。この前の剣の勝負、私は負けたが、途中まで勝っている気でいた。
しかし、良く考えると、あれはもしかしてアルフォード公爵は手を抜いていたのではないか? と疑う場面がいくつかあった。彼は視線に余裕がありすぎた。文武両道とは嫌な奴だ。
アリア様からまさかの「耳かきくらいいいですよ?」発言が出た。
私は真剣に考えながらリバーシをやった。結果、勝った!
アリア様の小さな膝に頭を乗せ、耳を掻いてもらう。なんと幸せか。
反対側の耳をやってもらう時にはアリア様の股の辺りからトウミの良い香りがして私はその良い匂いに包まれて寝入りそうになってしまった。
匂いを嗅ぎすぎて鼻息の荒い奴と思われたかも知れない。
また一歩、アリア様に近づけた気がした。
その後、コモンも大広間に来て、私とリバーシをしたが、何故かあっという間に私が負けた。あれよあれよと言う間で、何も出来なかった。彼の場合はコマの動かし方が特殊で、ここに置かないとまずいぞ? という所に置かずに攻めてくる。
気が付くと角を取られ、もう私のコマが置く場所も無いような状態だった。
アルフォード公爵とは全然タイプが違う輩である。
『言動は軽いが賢い奴』とは聞いていたがここまでとは。
私は改めてコモンを見直した。
ボードゲームに飽きたコモンは体を動かしたいとダンスを提案した。
レンブラント、ヒューイットも来たのでアルフォード公爵がアリア様に踊らなくていいと言っていたのが聞こえた。
私は最初みんなで踊ったが、2回目はオリオンに変わりに踊って貰い、アリア様の所へ話しをしに言った。先程アリア様の体がアルフォード公爵にまさぐるように撫でられていたのを見てしまったので、嫉妬の炎が燃えたからだ。
嫌なら嫌だと言った方がいいと言うと嫌じゃないと言う。
むしろ、アルフォード公爵に触れられるのは好きだと。
私は驚いてしまった。ここまで慣らしているのか……アルフォード公爵は。
私もアリア様に触りたい。
以前レンブラントに攫われそうになった時に言っていた言葉を思い出す。
【私に触れられても嫌じゃない】という言葉。一応確認してみる。
「私に触れられても嫌じゃないんですよね?」
「え?」
「この前、食堂で言ってくれたではないですか」
「……言ったけど、あれはレイジェス様とは別の意味で……」
椅子に乗せられた、開いた小さな手が私の目に入る。私の手の位置と非常に近い。
触れようと思えば触れられる距離だ……なのに躊躇する。
もし、触れて「何をするんです!?」と言われたら?
もうこの場にいられなくなるかも知れない。ああ、でも触りたい。触れたい。
私の胸が早鐘を打つ。私は彼女の小指に触れた。彼女は何も言わない。
私は自分の指が震えるのを感じた。
「今すぐに人を呼んで止めさせる事も出来ますよ?」
私が言った言葉に対して彼女は呆れている様に言った。
「そして指を触られたとでも言うの? 指なんか触っても何の罪にもならないわ」
小指に触れる事が出来たと思えば、もっと触れたくなる。人間の欲は深い。
私は彼女の小さな手をぎゅっと握りしめた。
「……私はあなたが好きだ……」
彼女は大きなその目を見開いていた。思ってもみなかった事を言われたようだ。
そして、私自身も驚く。こんな言葉をこんな場所で言うつもりは無かった。
ただ、彼女を見ていたら自然にその言葉が出ていた。
小さな声で囁くように言ったが、彼女の隣にいる護衛の男には聞こえたかもしれない。
「レイジェス様はユリウス様の事を大事なお友達だと思っています。幻滅させないで」
やんわりと断りの言葉と幻滅の言葉を貰ってしまった。
内心では瀕死の状況だが表面上は取り繕う。
「……ただ、知って欲しかったんです。私の気持ちを」
私はそれだけ言うのが精一杯で、言うと皆が踊っている場に戻った。オリオンと場所を変わる。私は踊りながら心ここに在らずでちらっと彼女を見ると護衛の男と何やら話をしていた。やはり聞こえてしまったか。
踊りが終了すると彼女は具合が悪くなったらしく部屋に戻った。アルフォード公爵が彼女を連れて行ったので、その慌しさのせいか特に何も言われなかった。
コモンとヒューイットがまだ踊ると言っていたが私は抜ける事にした。その代わりクロエは置いて行き、足りない男子はシエラ様の執事のメルヴィンが頭数合わせで入る事になった。
私は百合の間に戻り長椅子でぼーっとしていた。
オリオンが私の目の前にブラウンティを置く。
「魂が抜けたようになっていますが? どうしました?」
「……愛の告白をしてしまった」
「は? ツアーリがですか?」
「今はツアーリではない、ただのユリウスだ」
「……失礼、ユリウス様がですか? それで、お返事は?」
「速攻で断られた」
「……あの小娘! ぶっ殺す!」
「待て、オリオン……お前、血の気が多すぎるぞ」
「しかしっ!」
私は自分が告白した事を思い出して笑った。
「ツアーリだと、愛の告白は受けられない。してきた奴が不敬な行為として捕まるからな? 愛の告白などされた事もない」
オリオンが眉を顰める。
「何が言いたいのです?」
「愛の告白を受けた事もないが【した事】もないんだ。お前、気付いてたか?」
「……」
「窒息死するかと思うくらい息苦しかった。庶民は皆このような事をして夫婦になるのだな? しかも受け入れられない事もあるのだろ?」
「……」
オリオンは黙って私の話を聞いている。その睫は伏せられていた。
私はオリオンの気持ちなど考慮せず正直な気持ちを言う。
家令からしたら「何を言っているんだ? 自分の身分を考えろ!」
とでも言われそうな内容だ。
「後宮の女しか知らなくて、会えば子作りの為に愛があるわけでもないのに閨事をする。一度に三人の女を抱く事もあるから多人数一緒の閨事にも抵抗がない。この私が……彼女との閨事は二人きりでしたいと思う。わかるか?この感情……」
「……」
「触れたいと思って……少し触れるにも指が震えるんだ……。いい歳をした大人が、あんな幼女相手にな? 笑えるだろ?」
「言いたくはございませんが、ユリウス様は恋をしてらっしゃるんですよ。恋をすれば皆あなたの様になります」
オリオンは渋い顔をして私を見つめていた。
私は少し冷めたブラウンティを飲んだ。ため息と共にぽつりと呟いた。
「ああ……彼女と結婚したい」
彼女に告白をしてから二日経っていた。
あれから彼女とは話していない。別に彼女に避けられているとかではない。
私が何だか気持ちが落ち着かなくて、だらだらと寝台で寝て過ごしているからだ。
そうしているとクロエが必ずと言っていい程私の寝台に入り込んでくる。
なので致してしまうが体は満足しても何かが足りない。
私は深夜目が覚めた。
窓を閉めていたせいか室内の温度が高い。胸に手を当てると汗ばんでいた。その汗を大浴場で流して来た。誰もいないだだっ広い風呂場には私しかおらず、アリア様の真似をして泳いでみたが、仰向けに泳ぐのは難しい。散々楽しんだあと風呂を上がり、涼みながら中庭のテラスカフェでぼんやりと月を見ていた。
ガサッと音がして振り向くとヒューイットだった。
「あら……ユリウス君。どうしたの? こんな深夜に」
「寝汗を掻いて風呂に入って来ました。それで今涼んでいる所です。ヒューイットさんは?」
「先程レンブラント様とケンカをしてしまってね…部屋に居ずらくて……ずっとお城の中をうろうろしてたわ。レンブラント様が眠る頃に戻ろうと思って、今もうろうろ中」
私が座っているカフェテーブル席にヒューイットは座った。
ヒューイットは悲しげな目つきで俯いた。
「何が理由です?」
私が聞くとヒューイットはばつが悪そうに口を開き始めた。
「レンブラント様に別れたいと言われました。自分はアリア様を愛しているし、私はレイジェス様を愛しているんだろう? なら別れるべきだと言われました」
「……認めたのか? 師長様の事を愛していると」
ヒューイットは苦笑いした。
「レンブラント様に追及されました。今まではわたくしが曖昧に言っても追及なんてしなかったのに。よほどわたくしと別れたいのでしょうね。わたくしは認めるしか無くなりました…」
「で、婚約破棄する事になったんですね?」
ヒューイットは決まりが悪そうに続けた。
「そこで、婚約破棄したくないとケンカになったのです」
私にはヒューイットの頭の中が理解できなかった。
「ヒューイットさん、そこは別れる流れではないですか?」
「……だって、わたくしはレンブラント様に蜜花を捧げたのですよ? なのに……アリア様が好きだから別れたいと私におっしゃったのですよ? そんなに好きであるならわたくしの蜜花を奪わなくても良かったではないですか。いくら私がレイジェス様に蜜花を失うように言われていたとしても……彼は断る事も出来たはずです!」
まぁ、レンブラントはヒューイットに今まで良いように使われていた気持ちでいたから蜜花を奪ったら捨てると言っていたな。本当に実行しようとするとは思わなかったが。
「でも、そんな気持ちだけで一緒にいても虚しくないですか?」
ヒューイットは頭を左右に振った。
「一人きりになるよりマシですわ」
私はため息を吐いた。確かに蜜花は失えば元に戻らない。けれど、それが惜しいからと愛も何も無い奴と一緒にいても虚しいだけで嫌にならないのか?
そんな思いを自ら進んでしたがるとは……。
「ユリウス君もアリア様がお好きなのでしょ?」
いきなりの不躾な質問に私は狼狽えた。
その私の表情を読んでヒューイットは一瞬にして鬼の形相に変った。
「みんなアリア様アリア様って……確かにアリア様は綺麗でお優しいわ。でも、子供よ? 何も出来やしないわ?」
ヒューイットはそう言って私の手を取り自分の豊満な胸へ押し当てた。
「こんなに膨よかな胸もないわ?」
私は驚いてその手を引っ込めた。
「何をするんです!?」
「あははははっ。おかしくて笑っちゃう。いつもすましているユリウス君が私の胸を触ったくらいで…」
ヒューイットは私が女慣れをしてないと思ったみたいだ。
「ユリウス君の初めてのお相手……致しましょうか?」
「私は初めてではないですし、遠慮しておきます」
「……わたくしが美しくないから……嫌なのですか?」
私は思ってもみなかったヒューイットの言葉に驚く。
「見目の美しさは関係ないと思いますが……?」
ヒューイットはさっきとは打って変った様に枯れた笑い声を上げた。
「見目の美しさは関係ない? 嘘よ!! では何故あんな子供のアリア様がお好きなの? お顔が美しいからよ!!」
ヒューイットの赤い瞳は炎でも燃えているかのようにゆらゆら揺れる。
中庭の魔石灯のせいか?
「そう、顔よ。……こんな薄い皮一枚で女の価値が決まるの。ユリウス君は女になったことが無いから分からないのよ! アリア様がもしブサイクだったらレイジェス様だって夫人にしようとは思わなかったはずよ? あなただって、わたくしが致してあげると言っているのに拒否してるじゃない。わたくしが美しくないから嫌なのでしょう?」
ヒューイットの赤い瞳はわずかに潤んでいた。
まぁ、確かに、男は美しい女が好きだ。
私も女は顔で選ぶ。
だが、アリア様の事を考えるとただ美しいだけで好きなのか?
そう考えると違う気がする。アリア様は子供だし、いくら美しくても何も出来ない。
クロエは顔が好みだったから側室にしても良いかと思った。
しかし…クロエとの閨事は子作りのためにやっている。これは国の為の義務だ。
純粋な愛情からの物ではない。
それに……クロエは幻影魔法で催眠をしないと私の好みの性格にはならない。
そう考えるとやはり顔だけでは無いと思う。
ちなみにアリア様は子供だから何も出来ないが、彼女の事は国の為の義務とかじゃなく、私自身の純粋な愛情(性欲とも言う)から抱きたいと思っている。
あ、また煩悩が……。
私は頭を振ってその考えを振り落とした。
性格も驚かされる事が多いが、概ね私の好みだ。
「私があなたの誘いに乗りたくないのはアリア様が好きだからですよ」
「……またアリア様!? どれだけ男を狂わせれば気が済むの!?」
「それは彼女のせいではないです」
「レイジェス様もレンブラント様も……皆、アリア様の物」
ヒューイットの赤い瞳が妖しく光る。
「奪ってやる……レンブラント様はあげる……でも、レイジェス様だけは……」
「ヒューイット!?」
今にも殺人でも犯しそうな顔をしていたので私は一瞬怖気だった。
「ねぇ、ユリウス君、わたくしと取引をしない?」
「はっ?」
「明日、わたくしはレイジェス様と事を成したいと思うの。でも、レイジェス様はいつもアリア様と一緒にいて、お誘い出来ないの。わたくしがお誘いする間、ユリウス君にはアリア様の相手をしていて頂きたいんです。ふふ……簡単なお仕事でしょ?」
私は動揺した。ヒューイットがアルフォード公爵を誑かして、それがアリア様にばれてしまえば二人の仲は上手く行かなくなるかも知れない。
私にとっては非常に都合が良い。
だが、上手く行くとはとても思えない。戦闘において百戦錬磨と国外にも名を轟かす程のアルフォード公爵を、罠に陥れるなど……ヒューイットに出来るのか?
「ユリウス君が後の事を考えて出来ないと言うなら、クロエ様がアリア様を引き付けてくれても構わないわ。私は誰でも良いからアリア様を少しの間だけ引き離して欲しいだけ」
「ヒューイットさんが師長様に罠を仕掛けるなど……成功率がかなり低いように思えますが?」
と私は思った事をぶつけてみた。
するとヒューイットは不敵に微笑んだ。
「わたくしはこれでも15歳で王国魔術師団に入れたのですよ? 見くびらないで?それなりに実力はあります」
私はヒューイットの顔を見つめた。その顔はいつものヒューイットの顔で、誰にでも人懐こく見えるだろう。
「明日の昼少し過ぎにお願いね」
「……まだ私は引き受けるとは言ってない!」
「ユリウス君は引き受けるわ? だってアリア様が欲しいのでしょ?」
ヒューイットはそれだけ言うと眠くなったようで自室の牡丹の間に戻って行った。
私は部屋に戻りクロエに明日の昼少し過ぎにアリア様を誘って遊んであげて欲しいと言った。クロエは不思議な顔をしていたが深く私に聞いてこなかった。
クロエにはまだ幻影魔法が効いているのかも知れないと私は思った。
「もし、アリア様でも、わたくしの様にオリオンと楽しむのですか?」
私は言われて一瞬意味が分からなかった。
「何をだ?」
「閨事です」
「アリア様はまだ8歳だ。お前のように蜜花を散らしているわけでもない。閨事なんて、出来るわけがない」
クロエは不満気に言った。
「未成年の蜜花の法はプリストン王国だけの物ですよ? 我がワイアット皇国には関係のない法です。もし、の話ですが、アリア様がワイアットに来られる事になったら……わたくしの様にオリオンとアリア様の体を楽しまれるのですか?」
彼女をオリオンと楽しむだと!?
自分の背にしがみ付くクロエを、振り返り睨んで言った。
「私がオリオンとアリア様を楽しむ!? あるわけ無かろうが!」
「……何故怒るのです?」
「お前が下衆な事を言うからだ」
私の腹を握り締めるクロエの手にぎゅっと力が込められた。
「何故ですか? 私の事はオリオンと楽しめるのにアリア様の事は想像でもオリオンと共有するのはお嫌という事でしょうか?」
クロエの言う通りだった。想像の中でも三人で致すなど彼女を穢すような妄想はしたくなかった。
「でも……攫ってワイアット皇国に連れて行けば蜜花の法律も関係ありませんし、アリア様の全てをユリウス様の物にできますよ?」
「わ、私は幼女趣味ではない!」
「蜜花は1年も慣らせばすぐ入りそうですわ? 慣らす楽しみもございますでしょ? 楽しみですわね、ふふふ……ユリウス様は本当にアリア様が好きなのですね、わたくしに対する時と全然違います。妬けますわ?」
私はまたクロエを振り向き睨んだ。
クロエの発する刺激的な言葉を魅惑的に感じながらも、飛んで行きそうな理性を押さえつける。【1年慣らせば挿入できる】なんて魅惑的な言葉だ。
「アリア様に手を出すなよ!? 殺すぞ!!」
「あら、怖いお兄様ですこと。わたくしは人を傷つけるなんて出来ませんわ。むしろオリオンの方が危ないのではないかしら? オリオンはユリウスお兄様が大好きですからね」
私達はエドアルドの先導でワイナリーに着き、決められた席に座って待っていた。手持ち無沙汰な為、食前酒のワインが一同に配られる。白い炭酸入りの軽い飲み口のワイン。ごくごくと喉越しが良くて飲み干した。もう一杯オリオンに注いで貰う。一口飲んでグラスを置いた。
クロエが言った事が頭をよぎる。
最初は神の娘が花嫁として来るのならば、我が皇国がまた神との血の繋がりが濃くなると思った。国の為だった。
でも、今は? 一貴族に成りすましてまで彼女に近づき、会話して信頼を少しずつ得てきた。この状態で攫う? 一気に信用も何もかも無くなってしまう。
彼女に失望されてしまう。
できれば攫うなんてしたくない。
それに、今攫ったからって、彼女に対して何もできない。それは体の事だ。
大の大人の橘が彼女の小さな蜜花に入ると思えない。
クロエの言うとおり1年くらい慣らさなければとてもじゃないだろうが入らないだろう。そこで私は自分にはっとした。
【彼女に挿入することを考えている】自分に寒気がした。
これでは逮捕されて処刑された騎士団長のリュークと一緒ではないか!
リュークが監禁した女の子は9歳だった。
蜜花も散らしていたと聞いた。9歳だと……入るのか。
アルフォード公爵は閨事はしていても蜜花には手を出していないと言うが、良く自制出来ているな? と感心する。
私では……最後まで致しそうだ。
この彼女を自分の欲望で穢したいという欲求、これは魅了によるものなのか?
単なる自分の欲なのか? 良くわからない。
オリオンと彼女を共有できるか? と聞かれたが、誰にも触らせたくない。
誰にも見せたくも無い。檻に入れて閉じ込めて、自分だけが唯一人彼女と世界を繋げたい。
そう思う自分は病気なのではないかと思う。
4人がワイナリーに合流した。私は明るく手を振る。
「こちらですよ!」
私の向かい側はアリア様になった。正面なので沢山見つめる事が出来る。クロエは私の右隣で大人しくしている。魔法は効いているようだ。
食べて飲んで楽しく過ごしたがアルフォード公爵とアリア様は用事があった様で途中で抜けた。
私達はコモンがワイナリー見学をすると言うのでクロエと一緒に行くことにしたレンブラントとヒューイットも行くらしい。アルフォード公爵が行かないと言っていたからヒューイットはてっきり来ないと思っていた。
ワイナリーの支配人であるクロードが先導して醸造所に皆で行く。レストランは一番右端の建物なので醸造所は左端にある建物で遠い。そのせいかコモンがシエラ様を抱きかかえた。大人だけになると足が速くなる。さくさく歩いてあっというまに醸造所の手前に着いた。ワインのアルコールの匂いが充満している。醸造所は魔道具の機械体制になっていた。
人の手を借りるのは葡萄を選別する時だけだそうだ。
「この魔道具の機械は見た事がないのですが……?」
「そちらは、旦那様がコモン様の協力を借りて作られた機械です。お二人での共同特許になっております」
支配人のクロードが言った。
「ええ? コモン様が?」
シエラ様が目を見開いている。
「言ったじゃないか? 俺の趣味は魔道具作りだって。これもその一環。10年位前にレイジェスに助言をくれって言われて作った代物だ」
「コモン様って凄いのですね!」
縦抱きに抱えられているシエラ様がコモンをぎゅっと抱きしめてちゅっとした。
その姿は微笑ましくて可愛らしい。
その一方でヒューイットがレンブラントに小声で言った。
「レンブラント様はそういったお金を稼げる得意な事はございませんの? コモンでさえ小銭を稼いでいると言うのに……」
「金が欲しいなら金のある男に求婚すればいい。婚約解消してくれても構わないぞ?」
レンブラントは興味無さげに言った。
「そういうつもりで言ったんじゃないわ?」
「じゃあ、どういうつもりで言ったんだ?」
一応周りを気にしているのか小声で言い合う二人。
「やめましょう? ここで言い合うのは。あとでお部屋で話しましょう?」
「…分かった」
どうやら話の続きは部屋でやるようだ。コモンとシエラ様は見るからに幸せに見えるが、レンブラントとヒューイットは今にも崩れそうな関係に見える。なのに崩れない、不思議だ。
醸造所を見た後は樽熟成庫を見て、そこでまだ熟成中のワインを少し飲んだ。香りはそれほど広がらないが若々しい爽やかな味がしたが、飲んだ後に苦味みたいな青みが残る。まだまだ寝かせた方がいいなと思った。
そして私達はワイナリー見学を終えると城に戻った。
クロエが大人しくいい子にしていたので褒美として私とオリオンで可愛がった。
クロエが空を飛んでいる時にオリオンの事でごちゃごちゃ言っていたから、てっきり奴の事や3人で致すのが嫌なのかと思ったら違ったようだ。気持ちが良ければいいと言っている。
まぁ、オリオンは女嫌いなので参加したくなければ断ればいいのだが、何故か参加したがる。
「ユリウス様の抱いた女ならまだマシです」
と真顔で言っている。何がマシなのかさっぱり分からないが、二人共そこまで嫌ではないようだ。普段【渡り】という後宮の閨儀式をやっている自分としては二人の女と致すのも良くある事で、ある意味普通だ。
だが、この二人は後宮の者ではない。
オリオンはたまに遠征で遠くに行くと、女が居なくて口で私の物を処理してくれるが、それにも慣れてしまった。男の物を口に含むなど嫌だろうに、何故かやりたがる、不思議な奴だ。
そして、その日の夜は疲れたのかぐっすり眠れた。
次の日、朝食を終えて大広間へ行くとアルフォード公爵とアリア様がボードゲームをしていた。白と黒の丸いコマを使い挟めば裏返しにして色を変えていくという簡単なゲームだった。説明を聞いて即やりたくなってしまった私はアルフォード公爵を誘う。
そうだ、勝負にアリア様の【いい事】を掛けよう。そうすればアルフォード公爵も真剣にやるだろう。この前の剣の勝負、私は負けたが、途中まで勝っている気でいた。
しかし、良く考えると、あれはもしかしてアルフォード公爵は手を抜いていたのではないか? と疑う場面がいくつかあった。彼は視線に余裕がありすぎた。文武両道とは嫌な奴だ。
アリア様からまさかの「耳かきくらいいいですよ?」発言が出た。
私は真剣に考えながらリバーシをやった。結果、勝った!
アリア様の小さな膝に頭を乗せ、耳を掻いてもらう。なんと幸せか。
反対側の耳をやってもらう時にはアリア様の股の辺りからトウミの良い香りがして私はその良い匂いに包まれて寝入りそうになってしまった。
匂いを嗅ぎすぎて鼻息の荒い奴と思われたかも知れない。
また一歩、アリア様に近づけた気がした。
その後、コモンも大広間に来て、私とリバーシをしたが、何故かあっという間に私が負けた。あれよあれよと言う間で、何も出来なかった。彼の場合はコマの動かし方が特殊で、ここに置かないとまずいぞ? という所に置かずに攻めてくる。
気が付くと角を取られ、もう私のコマが置く場所も無いような状態だった。
アルフォード公爵とは全然タイプが違う輩である。
『言動は軽いが賢い奴』とは聞いていたがここまでとは。
私は改めてコモンを見直した。
ボードゲームに飽きたコモンは体を動かしたいとダンスを提案した。
レンブラント、ヒューイットも来たのでアルフォード公爵がアリア様に踊らなくていいと言っていたのが聞こえた。
私は最初みんなで踊ったが、2回目はオリオンに変わりに踊って貰い、アリア様の所へ話しをしに言った。先程アリア様の体がアルフォード公爵にまさぐるように撫でられていたのを見てしまったので、嫉妬の炎が燃えたからだ。
嫌なら嫌だと言った方がいいと言うと嫌じゃないと言う。
むしろ、アルフォード公爵に触れられるのは好きだと。
私は驚いてしまった。ここまで慣らしているのか……アルフォード公爵は。
私もアリア様に触りたい。
以前レンブラントに攫われそうになった時に言っていた言葉を思い出す。
【私に触れられても嫌じゃない】という言葉。一応確認してみる。
「私に触れられても嫌じゃないんですよね?」
「え?」
「この前、食堂で言ってくれたではないですか」
「……言ったけど、あれはレイジェス様とは別の意味で……」
椅子に乗せられた、開いた小さな手が私の目に入る。私の手の位置と非常に近い。
触れようと思えば触れられる距離だ……なのに躊躇する。
もし、触れて「何をするんです!?」と言われたら?
もうこの場にいられなくなるかも知れない。ああ、でも触りたい。触れたい。
私の胸が早鐘を打つ。私は彼女の小指に触れた。彼女は何も言わない。
私は自分の指が震えるのを感じた。
「今すぐに人を呼んで止めさせる事も出来ますよ?」
私が言った言葉に対して彼女は呆れている様に言った。
「そして指を触られたとでも言うの? 指なんか触っても何の罪にもならないわ」
小指に触れる事が出来たと思えば、もっと触れたくなる。人間の欲は深い。
私は彼女の小さな手をぎゅっと握りしめた。
「……私はあなたが好きだ……」
彼女は大きなその目を見開いていた。思ってもみなかった事を言われたようだ。
そして、私自身も驚く。こんな言葉をこんな場所で言うつもりは無かった。
ただ、彼女を見ていたら自然にその言葉が出ていた。
小さな声で囁くように言ったが、彼女の隣にいる護衛の男には聞こえたかもしれない。
「レイジェス様はユリウス様の事を大事なお友達だと思っています。幻滅させないで」
やんわりと断りの言葉と幻滅の言葉を貰ってしまった。
内心では瀕死の状況だが表面上は取り繕う。
「……ただ、知って欲しかったんです。私の気持ちを」
私はそれだけ言うのが精一杯で、言うと皆が踊っている場に戻った。オリオンと場所を変わる。私は踊りながら心ここに在らずでちらっと彼女を見ると護衛の男と何やら話をしていた。やはり聞こえてしまったか。
踊りが終了すると彼女は具合が悪くなったらしく部屋に戻った。アルフォード公爵が彼女を連れて行ったので、その慌しさのせいか特に何も言われなかった。
コモンとヒューイットがまだ踊ると言っていたが私は抜ける事にした。その代わりクロエは置いて行き、足りない男子はシエラ様の執事のメルヴィンが頭数合わせで入る事になった。
私は百合の間に戻り長椅子でぼーっとしていた。
オリオンが私の目の前にブラウンティを置く。
「魂が抜けたようになっていますが? どうしました?」
「……愛の告白をしてしまった」
「は? ツアーリがですか?」
「今はツアーリではない、ただのユリウスだ」
「……失礼、ユリウス様がですか? それで、お返事は?」
「速攻で断られた」
「……あの小娘! ぶっ殺す!」
「待て、オリオン……お前、血の気が多すぎるぞ」
「しかしっ!」
私は自分が告白した事を思い出して笑った。
「ツアーリだと、愛の告白は受けられない。してきた奴が不敬な行為として捕まるからな? 愛の告白などされた事もない」
オリオンが眉を顰める。
「何が言いたいのです?」
「愛の告白を受けた事もないが【した事】もないんだ。お前、気付いてたか?」
「……」
「窒息死するかと思うくらい息苦しかった。庶民は皆このような事をして夫婦になるのだな? しかも受け入れられない事もあるのだろ?」
「……」
オリオンは黙って私の話を聞いている。その睫は伏せられていた。
私はオリオンの気持ちなど考慮せず正直な気持ちを言う。
家令からしたら「何を言っているんだ? 自分の身分を考えろ!」
とでも言われそうな内容だ。
「後宮の女しか知らなくて、会えば子作りの為に愛があるわけでもないのに閨事をする。一度に三人の女を抱く事もあるから多人数一緒の閨事にも抵抗がない。この私が……彼女との閨事は二人きりでしたいと思う。わかるか?この感情……」
「……」
「触れたいと思って……少し触れるにも指が震えるんだ……。いい歳をした大人が、あんな幼女相手にな? 笑えるだろ?」
「言いたくはございませんが、ユリウス様は恋をしてらっしゃるんですよ。恋をすれば皆あなたの様になります」
オリオンは渋い顔をして私を見つめていた。
私は少し冷めたブラウンティを飲んだ。ため息と共にぽつりと呟いた。
「ああ……彼女と結婚したい」
彼女に告白をしてから二日経っていた。
あれから彼女とは話していない。別に彼女に避けられているとかではない。
私が何だか気持ちが落ち着かなくて、だらだらと寝台で寝て過ごしているからだ。
そうしているとクロエが必ずと言っていい程私の寝台に入り込んでくる。
なので致してしまうが体は満足しても何かが足りない。
私は深夜目が覚めた。
窓を閉めていたせいか室内の温度が高い。胸に手を当てると汗ばんでいた。その汗を大浴場で流して来た。誰もいないだだっ広い風呂場には私しかおらず、アリア様の真似をして泳いでみたが、仰向けに泳ぐのは難しい。散々楽しんだあと風呂を上がり、涼みながら中庭のテラスカフェでぼんやりと月を見ていた。
ガサッと音がして振り向くとヒューイットだった。
「あら……ユリウス君。どうしたの? こんな深夜に」
「寝汗を掻いて風呂に入って来ました。それで今涼んでいる所です。ヒューイットさんは?」
「先程レンブラント様とケンカをしてしまってね…部屋に居ずらくて……ずっとお城の中をうろうろしてたわ。レンブラント様が眠る頃に戻ろうと思って、今もうろうろ中」
私が座っているカフェテーブル席にヒューイットは座った。
ヒューイットは悲しげな目つきで俯いた。
「何が理由です?」
私が聞くとヒューイットはばつが悪そうに口を開き始めた。
「レンブラント様に別れたいと言われました。自分はアリア様を愛しているし、私はレイジェス様を愛しているんだろう? なら別れるべきだと言われました」
「……認めたのか? 師長様の事を愛していると」
ヒューイットは苦笑いした。
「レンブラント様に追及されました。今まではわたくしが曖昧に言っても追及なんてしなかったのに。よほどわたくしと別れたいのでしょうね。わたくしは認めるしか無くなりました…」
「で、婚約破棄する事になったんですね?」
ヒューイットは決まりが悪そうに続けた。
「そこで、婚約破棄したくないとケンカになったのです」
私にはヒューイットの頭の中が理解できなかった。
「ヒューイットさん、そこは別れる流れではないですか?」
「……だって、わたくしはレンブラント様に蜜花を捧げたのですよ? なのに……アリア様が好きだから別れたいと私におっしゃったのですよ? そんなに好きであるならわたくしの蜜花を奪わなくても良かったではないですか。いくら私がレイジェス様に蜜花を失うように言われていたとしても……彼は断る事も出来たはずです!」
まぁ、レンブラントはヒューイットに今まで良いように使われていた気持ちでいたから蜜花を奪ったら捨てると言っていたな。本当に実行しようとするとは思わなかったが。
「でも、そんな気持ちだけで一緒にいても虚しくないですか?」
ヒューイットは頭を左右に振った。
「一人きりになるよりマシですわ」
私はため息を吐いた。確かに蜜花は失えば元に戻らない。けれど、それが惜しいからと愛も何も無い奴と一緒にいても虚しいだけで嫌にならないのか?
そんな思いを自ら進んでしたがるとは……。
「ユリウス君もアリア様がお好きなのでしょ?」
いきなりの不躾な質問に私は狼狽えた。
その私の表情を読んでヒューイットは一瞬にして鬼の形相に変った。
「みんなアリア様アリア様って……確かにアリア様は綺麗でお優しいわ。でも、子供よ? 何も出来やしないわ?」
ヒューイットはそう言って私の手を取り自分の豊満な胸へ押し当てた。
「こんなに膨よかな胸もないわ?」
私は驚いてその手を引っ込めた。
「何をするんです!?」
「あははははっ。おかしくて笑っちゃう。いつもすましているユリウス君が私の胸を触ったくらいで…」
ヒューイットは私が女慣れをしてないと思ったみたいだ。
「ユリウス君の初めてのお相手……致しましょうか?」
「私は初めてではないですし、遠慮しておきます」
「……わたくしが美しくないから……嫌なのですか?」
私は思ってもみなかったヒューイットの言葉に驚く。
「見目の美しさは関係ないと思いますが……?」
ヒューイットはさっきとは打って変った様に枯れた笑い声を上げた。
「見目の美しさは関係ない? 嘘よ!! では何故あんな子供のアリア様がお好きなの? お顔が美しいからよ!!」
ヒューイットの赤い瞳は炎でも燃えているかのようにゆらゆら揺れる。
中庭の魔石灯のせいか?
「そう、顔よ。……こんな薄い皮一枚で女の価値が決まるの。ユリウス君は女になったことが無いから分からないのよ! アリア様がもしブサイクだったらレイジェス様だって夫人にしようとは思わなかったはずよ? あなただって、わたくしが致してあげると言っているのに拒否してるじゃない。わたくしが美しくないから嫌なのでしょう?」
ヒューイットの赤い瞳はわずかに潤んでいた。
まぁ、確かに、男は美しい女が好きだ。
私も女は顔で選ぶ。
だが、アリア様の事を考えるとただ美しいだけで好きなのか?
そう考えると違う気がする。アリア様は子供だし、いくら美しくても何も出来ない。
クロエは顔が好みだったから側室にしても良いかと思った。
しかし…クロエとの閨事は子作りのためにやっている。これは国の為の義務だ。
純粋な愛情からの物ではない。
それに……クロエは幻影魔法で催眠をしないと私の好みの性格にはならない。
そう考えるとやはり顔だけでは無いと思う。
ちなみにアリア様は子供だから何も出来ないが、彼女の事は国の為の義務とかじゃなく、私自身の純粋な愛情(性欲とも言う)から抱きたいと思っている。
あ、また煩悩が……。
私は頭を振ってその考えを振り落とした。
性格も驚かされる事が多いが、概ね私の好みだ。
「私があなたの誘いに乗りたくないのはアリア様が好きだからですよ」
「……またアリア様!? どれだけ男を狂わせれば気が済むの!?」
「それは彼女のせいではないです」
「レイジェス様もレンブラント様も……皆、アリア様の物」
ヒューイットの赤い瞳が妖しく光る。
「奪ってやる……レンブラント様はあげる……でも、レイジェス様だけは……」
「ヒューイット!?」
今にも殺人でも犯しそうな顔をしていたので私は一瞬怖気だった。
「ねぇ、ユリウス君、わたくしと取引をしない?」
「はっ?」
「明日、わたくしはレイジェス様と事を成したいと思うの。でも、レイジェス様はいつもアリア様と一緒にいて、お誘い出来ないの。わたくしがお誘いする間、ユリウス君にはアリア様の相手をしていて頂きたいんです。ふふ……簡単なお仕事でしょ?」
私は動揺した。ヒューイットがアルフォード公爵を誑かして、それがアリア様にばれてしまえば二人の仲は上手く行かなくなるかも知れない。
私にとっては非常に都合が良い。
だが、上手く行くとはとても思えない。戦闘において百戦錬磨と国外にも名を轟かす程のアルフォード公爵を、罠に陥れるなど……ヒューイットに出来るのか?
「ユリウス君が後の事を考えて出来ないと言うなら、クロエ様がアリア様を引き付けてくれても構わないわ。私は誰でも良いからアリア様を少しの間だけ引き離して欲しいだけ」
「ヒューイットさんが師長様に罠を仕掛けるなど……成功率がかなり低いように思えますが?」
と私は思った事をぶつけてみた。
するとヒューイットは不敵に微笑んだ。
「わたくしはこれでも15歳で王国魔術師団に入れたのですよ? 見くびらないで?それなりに実力はあります」
私はヒューイットの顔を見つめた。その顔はいつものヒューイットの顔で、誰にでも人懐こく見えるだろう。
「明日の昼少し過ぎにお願いね」
「……まだ私は引き受けるとは言ってない!」
「ユリウス君は引き受けるわ? だってアリア様が欲しいのでしょ?」
ヒューイットはそれだけ言うと眠くなったようで自室の牡丹の間に戻って行った。
私は部屋に戻りクロエに明日の昼少し過ぎにアリア様を誘って遊んであげて欲しいと言った。クロエは不思議な顔をしていたが深く私に聞いてこなかった。
クロエにはまだ幻影魔法が効いているのかも知れないと私は思った。
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