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第三章
22二人の小さな令嬢のお茶会
しおりを挟む朝、食堂に朝食を取りに行くとコモン様とシエラ様がいた。
決められた食堂のテーブル席でシエラ様と私は席が隣同士である。
私が挨拶をして自分の席に着くとシエラ様が話しかけてきた。
「アリア様、夕方からご予定が無ければ二人っきりでお茶会をしたいのですが、よろしいですか?」
と私に話しかけながらレイジェス様を見上げて、お伺いをたてる。
「特に予定はないので、いいですよ?」
「では夕の3の刻に、お茶会室ってありますか?」
食堂を担当しているエドアルドにシエラ様は聞いた。
「お二人でしたら東の棟の2階にあるお茶会室が良いでしょう。夕の3の刻の時間に食堂に来て下されば案内致します」
「では、そうしましょう。良いですか? アリア様」
「ええ、じゃあ夕の3の刻に食堂で」
その後シエラ様は食事を終えてコモン様と食堂を出て行った。
レイジェス様が何故か捨てられた子犬の様な目で私を見る。
どうした?
「私は行ってはダメなのか?」
「シエラ様が二人きりでっておっしゃってましたからダメですね」
はっきり言うと拗ねてしまったようだ。
「夕の3の刻からですから、それまで一緒に遊びましょう? 何をします?」
「ん~、では、遊びではなく、魔法講座を開こうか」
「わぁ! それはいいですね! 魔法覚えたいです!」
「では、中庭に行こう。室内での魔法は危険な場合もあるからな」
私とレイジェス様は食事を取り終えると中庭に行った。
中庭の白いカフェテーブルに私とレイジェス様は向かい合って座る。
「では、始める」
「よろしくお願いします!」
ぺこりと頭を下げる私。
「リアが今まで覚えた魔法はヒール、キュア、ライト、クリエイトホール、アクアウォッシュ、エア、ファイアで良かったか?」
「はい」
「それは属性値がLV1の魔法だ。リアはもう属性がLV3になっているものもあるので少し上の段階の魔法を覚えよう」
とレイジェス様が言った所で私は手を上げる。
「はいっ!」
「ん? なんだ?」
「わたくし質問があります。レイジェス様は杖を使っているじゃないですか? あれってわたくしも必要なのでは?」
レイジェス様は、頷いて話し出した。
「リアは私の個人スキルを見た事があるから分かると思うが、私の場合無媒体魔法という物がある。これは杖という媒体を使わなくても高度魔法が使える」
ふむふむと私は頷く。
「リアがグランドグロウを倒したとき杖を使って無かったが、レベルの低い魔法は杖が無くても発動し易い。レベルの高い高度な魔法になるほど杖を使わないと発動しにくくなる。そのラインは個人の魔力差にもよるが大体属性値がLV5と言われている」
そこで私は自分のステータスを確認してみた。属性値がまだLV5にもなっていない。
って事はまだまだ杖は必要ないって事かぁ。しょぼん。
「ん? 杖が欲しかったのか?」
「そりゃ、杖があるとカッコイイじゃないですかぁ。魔法使いっぽいし!」
とわくわくして話すとレイジェス様が笑う。
「では、今日はミドルキュアを教えよう」
「はい!」
「前回キュアを教えた時に状態異常の種類をまずイメージしろと言ったのは覚えているか?」
「はい。状態異常にも色々あるから、それをイメージしてからキュアしろってレイジェス様は言ってましたね」
レイジェス様は頷いた。
「しかし、キュアで治せる状態異常は限られている。毒、睡眠、笑い、怯え、魅了、この全てが軽度の物だけだ。正直言って覚えても役に立たない」
「ええ?」
私が驚いていると続けた。
「しかし、キュアを覚えないとミドルキュアは覚えられない仕組みになっている。実際に役立つのはミドルキュアの方だ」
「なるほど、それで、キュアをこの前教えてくれたのですね」
「うむ」
レイジェス様は自分の右斜め上をちらりと見たあと、私に言った。
「では、ミドルキュアを実践演習で覚えようか?」
「え?」
「私は現在、リアの魅了に掛かっている。これを解きなさい」
そう言うと腕を組んで挑戦的に身構えた。
んん? 解けるものなら解いてみろ ?って事? むぅ、絶対解いて見せる!
「イメージは自分で掴むように。基本はキュアと一緒だ。私が君に魅了されていない状態をイメージするんだ」
「え、それ無理じゃ……」
「無理でもやりなさい」
「だって何ともない状態のレイジェス様なんて見た事ありませんよ!」
「出会った日の事を思い出すんだ!」
う~ん? これ魅了解除の練習だよね? なんか会話がおかしい。
取り敢えず、出会った時の格好良かったレイジェス様を思い出す。
ダメだ……私の頭の匂いをくんくんしてる所しか想像出来ない……。
イメージ出来ないのでテキトーに唱えた。
「ミドルキュア!」
レイジェス様はちらりと右斜め上を見た。
「解除されていないな?」
あ、ステータスウィンドウ出しっ放しにしてるな、これ。
「ほら、もう一度、出会った時の私を思い出せ」
そう言われて思い出そうとしたら、天界から戻ってきた時に事務所で泣きそうな顔をしたレイジェス様を思い出した。
「ミドルキュア!」
「全然ダメだな。本気を出せ、本気をっ!」
本気を出せ! と言われて私も本気を出す。
出会った時、そう、細雪が降ってた。レイジェス様はフード付きのマントを着ていて、私の事を面倒臭そうに見てた。あれ?
レイジェス様、酷くありませんか? あんな面倒臭そうな顔で見ていたなんて……。
私はちょっとむかつきながら、あのレイジェス様の面倒臭そうな顔を思い出して呪文を唱えた。
「ミドルキュア!!」
「おおっ!」
「解けました?」
私がにこにこして言ったら即答された。
「一瞬解けたがすぐ元に戻った」
「もう、レイジェス様は魅了状態が普通でいいですよ」
私が呆れて言うとフォローしてくる。
「まぁ、一瞬だが解けたし、ミドルキュアは合格だな」
よし、合格ゲット!
他にもエアカッターとか、中庭で使っても問題なさそうな魔法を練習した。
ちなみにエアカッターは空に向けて放ったけど、どれくらいの威力なのかさっぱり分からない。魔獣相手にやれば分かるとレイジェス様が言っていた。
そう言われて想像してみたけど、それって……とってもスプラッタでは……?
エアカッターは私の中で封印決定な魔法になった。
魔法の練習をしているとお昼になったので、レイジェス様と食堂へ行った。
レンブラント様が一人で食事をしていた。
「どうしたレンブラント、ヒューイットは?」
レンブラント様は黙っている。
そうか、良く考えたらヒューイット様ってレイジェス様が好きなんだから、レンブラント様からしたら奪われたって気持ちなのかな?
だからレイジェス様に良い印象ないのか?
「……昨夜ケンカしたんです」
「何が原因でだ?」
え? それ聞くの? レイジェス様が原因じゃないかな?
「その……言い難いのですがヒューイットは師長様が好きで、私はアリア様が好きなので、もう婚約は続けていくのは辛いとはっきり申しました。婚約破棄の違約金も銀行で金を借りて用意しようかと思っています」
ん? そう言えばレンブラント様は魅了に掛かっていたんだった。
攫われそうになったのに忘れているとか能天気もいい所だ。
「え? でも、ヒューイット様はレイジェス様の事を好きだと認めてませんでしたよね?」
「あんなに誰の前でもあから様な態度であれば追求したくもなります。追求したら泣きながら認めました。でも、告白はする気はないと言ってはいたのですが……」
「どうしたんだ?」
「ちょっと様子が変でした。なんだか思いつめていた様な感じで。だから、アリア様、注意して下さい」
私は目を丸くした。私?
「リアには今二人の護衛を付けるようにしている。それにハンスもくっ付いてるし大丈夫だとは思うが……注意しておくようにな? アリア」
「は、はい…」
エドアルドが私とレイジェス様に昼食を運んできた。
今日のメニューは【牛丼】だった。
「牛丼だぁぁ! わぁい!」
私は早速今日の糧を神様に感謝して頂きますをしてから食べた。
お箸もちゃんと用意されていた。
「エドアルド? わたくしが天界から持ってきたお米はもう無いはずですが、この米はどうしたのです?」
「ああ、それはセバスがリッツ伯爵様と交渉して買い上げてきた米です。何分量が少ない物で、ここぞという料理の時にしか使うのがもったいなくて取っておいたそうですよ」
そこで、私は思い出した。確か牛って、神の使いだから死んでからじゃないと料理に使えなかったはず。
「農村で寿命で死んだ牛がいると聞いて料理長が売って貰ったそうです」
「料理長って、お屋敷の料理長さん?」
「ええ、そうですよ。彼は神饌料理に慣れていますからね。知識もありますし」
「こちらに来ていたんですね」
レイジェス様は牛丼が好きみたいで夢中で食べておかわりをしていた。
一応公爵様なのに安上がりに見えてしまうのは気のせいか?
厨房の方からセバスが来たので挨拶をした。
「姫様、牛丼はいかがでした?」
「美味しかったです! でも、よく牛丼の作り方を知っていましたね?」
私が聞くとセバスは眼鏡のブリッジを中指で上げた。
「姫様がいない時に男三人で行った晩餐会で、リッツ伯爵夫人にレシピを頂いたのでですよ。喜んでもらえて良かったです」
食事が終わった後は、秋桜の間に戻って読書をしていた。お城の図書館から借りてきた本で【神々の存在】と言う神様関連の本なんだけど、この本は少し興味深い。
神様を別の惑星に住んでいる存在として考えている。
要するに神様宇宙人説の本だ。その本によるとアズライル神様も別の惑星から来てこの名も無い惑星を育てているまだ若い宇宙人だと書かれている。
「へ~、ホントかな? これ。今度父神様にどこかの惑星から来たのか聞いてみよう」
誰がこんな本を書いているんだろう?
作者名を見ると【マリエッタ=スズキルステン】と書いてある。
マリエッタ……? マリ……エッタ…。
何か思い出しそうで、でも思い出せなかった。懐かしいような今の感覚は何だったんだろう?
「リア、そろそろお茶会の時間じゃないか?」
「あ、そうでした」
「アーリンとアランに食堂に来るように言ってある。二人を連れて行きなさい」
「はい」
「ハンスはダメですよ? 女の子二人のお茶会ですから。護衛の二人にもお部屋の外で護衛してもらいますけど、いいですよね?」
「ああ、それで構わない。ハンスは画材道具が欲しいから王都に連れて行けと言っていたので、私も用事が有るので、ゲートでハンスと王都に行ってくる。くれぐれも気をつけるように」
私はレイジェス様に食堂に送ってもらい、レイジェス様は食堂でゲートを開いてそのままハンスと王都に行った。
私はアーリン、アランと共にエドアルドとシエラ様を待っている。
エドアルドとシエラ様と側使いのベティが来たので、先導されて東の棟の2階のお茶室へ向かった。1階の食堂を出て北の大階段を登り、中庭のベランダ沿いの廊下を抜けて東の細い廊下を歩いて行くと、円柱状の建物内に突き当たった。そこの螺旋状になっている階段を1階分上がると天使の彫刻がされた白い扉があり、それを開けると、例のお茶会室だった。その部屋は台形の裾に丸みを帯びたような形をしており、裾が広がって丸みを帯びているのが窓側だ。
窓の外には広めなバルコニーが見える。そこから見える景色が気になって私はバルコニーに出てみた。バルコニーの手摺りまで行き、その部屋の建物を見ようと上を見上げると、やはりここは円柱塔の中にある部屋だった。円柱塔が聳え立ち微かに屋根の端が見える。中庭沿いのベランダ廊下の2階から来たわりに1階分高い所にいる。この円柱塔の中では2階なんだろうけど、他の建物からすると1階分高い事になるから実際は3階にいるという事か、と外を見ながら考える。
このバルコニーから見える方向は麦畑や風車が見えるという事はセバスの実家の方向かな? 東の棟にあるのだからそうだ。
私が窓を開けたせいで風が窓際のカーテンを大きく揺らす。エドアルドはそれを捕まえて房の付いたカーテンタッセルで留めていた。
ふと気付くとバルコニーから見て右側にアーチ状の垂れ壁があり、その奥に部屋らしき物が見える。そちらに行こうとしたらエドアルドに止められた。
「アリア様、そちらは水屋です」
「水屋って何ですの?」
「お茶を作るための部屋でございます。主に使用人達が利用する場で姫様が入る事は許されません」
「あら、残念ですこと」
さぁ、お部屋は一通り見終わったので部屋の中央にある丸いテーブルに座る。
ちなみにシエラ様はもう席に着いていた。椅子に座るとシエラ様がくすくす笑う。
「お部屋の探検は終わりまして?」
「ええ、思った通りの円柱塔のお部屋でしたわ! ああ、アーリンとアランは申し訳ないのですが、ドアの外で護衛をお願いね」
「「はっ」」
二人は一緒に部屋を出た。
「では、シエラ様、あとはベティがお茶を入れます。私はこれで失礼致します」
「ええ、ありがとう、エドアルド」
シエラ様は微笑んで言った
エドアルドは一礼して部屋を出て行った。
暫くしてベティがトレーにポットとティーカップを2つとスコーンとお皿に乗せたトウミを乗せて運んできた。
ベティはカップにお茶を注いで言った。
「それではお嬢様方、御歓談の時間をお楽しみ下さいませ」
シエラ様が頷くとベティは水屋に下がった。
「はぁ~やっとアリア様と二人きりで話せますわ」
「どうかしたのですか?」
「いえ、少々聞きたい事がございましたの」
「どう言った事でしょうか?」
シエラ様がもじもじしだした。
「お二人はどこまで行っているのです?」
「えっ? 行くって、どこにですか?」
「いえ、場所とかでは無くて、お二人の仲の事ですの」
「ええ? どうしてそんな事を聞きたがるのです?」
「参考にしたいからに決まってるじゃないですか」
そう言われて考える。自分がレイジェス様と致してる内容……。
うん、人様に言える内容では無い気がするのは確かだ。
私は注いでもらった紅茶を飲んだ。
「……引きません?」
「引くような内容なのですね?」
私は頷いた。
「シエラ様が聞きたいのは閨事とかの事ですよね?」
「ええ」
「わたくし達はまだ未成年ですから、蜜花は使えないではないですか。なのでわたくしは菊を使おうかと拡張中です」
シエラ様は驚いて目を丸くしていた。口も開いてる。呆れられたかしら?
「も、申し訳ありません、あまりに意外だったので驚いてしまいました」
「わたくし、ひとつになりたいのです。ひとつになれれば何でもいいかなぁと思って、菊には法律の制限が無いらしいですから」
「それは初耳ですわ」
シエラ様が紅茶を飲んだので、私も飲む。何だか恥ずかしい。
「公爵様は菊を嫌がらないのですか?」
「嫌がりはしませんね。ただ、わたくしが痛いなら無理をしなくていいっていうスタンスです」
シエラ様はうんうんと頷いた。
「先日、コモン様とお風呂に行かれていたではないですか? もしかして殿方のあれを……?」
「ええ……見てしまいました。でも、コモン様のはとても綺麗で、やはり彼はわたくしの王子様でした! 最近ようやく一緒のお風呂にも慣れて来ました。最初はどきどきして心臓が爆発するかと思いましたわ」
「わたくしも最初そうでした。大分慣れましたけど」
私がまったり話しているとシエラ様は残っていたお茶をぐいっと飲み干した。
「わたくし、決めました! アリア様、あなたに言います」
「え? 何を?」
「……どうしたら射精して貰えるのですか?」
「はっ!? シャセイ? って……」
私は暫く固まった。レイジェス様も可愛らしいと認めたシエラ様が射精とか言ってるんだよ? そりゃ固まるでしょ。
シエラ様が私の顔の前で手を振る。
「アリア様? 大丈夫ですか? 聞こえています?」
「あ、ああ、はい、大丈夫です」
「コモン様とはお風呂は入るのですけど、わたくしにあまり触れてくれないのです。
わたくしが受けた性教育では殿方は硬くなれば出すものと教わったのですが、硬くもなりませんし、出しもしないのですコモン様は。わたくし一体どうすれば良いのでしょうか? 婚約者として失格な気がしてならないのです」
どうやらシエラ様は真面目に悩んでおられる様だ。あの元遊び人のコモン様が手を出さないって事はまぁ、本気だからでしょうけど、手を出さな過ぎて不安に思わせるのもどうかと思うけど、う~んまだ子供だしねぇ……。
って、私も子供だけど……。
「えっと、あれです、コモン様御本人に伺ったらいかがですか?」
「ええ!?」
「わたくしに聞くより本人に聞いたほうが手っ取り早いので」
「で、でも、女のわたくしから言っても良いのでしょうか? はしたないとか下品とか思われたりしないでしょうか?」
「お二人は現在婚約していますし、いずれ結婚するのであれば、多少の込み入った話も話し合える仲になっておいた方が良いと思いましてよ?」
私はお茶を飲んだ。取り敢えず落ち着いた振りをしているけど、まだシエラ様の口から出たシャセイの言葉が頭の中を駆け巡っている……だって、印象的過ぎる!
「でも、アリア様……コモン様になんと言えば良いのですか?」
「え? 【あなたに射精をして欲しい】とはっきり言うとか?」
「それは露骨過ぎませんか?」
「……では普通に【あなたの液を出させて下さい】とか、【あなたを気持ちよくさせたいの】とかじゃないですか?」
「それも……ス、ストレート過ぎませんか? 言うのが……恥ずかしいのですが……」
「え、じゃあ、ぼかして……【わたくしに掛けて】とかですか?」
「掛けてって何をですか?」
「シャセイで出てくる物です。主語を成してない所がぼやけてますでしょ?」
しかし、このセリフ全てコモン様が聞いたら卒倒するのでは無かろうか。
こんな清純派に変な事を教える……私まるで悪いおじさんの様だわ。
シエラ様がベティを呼んで、お茶を注いで貰う。ベティは空の私のカップにも注いだ。私はお茶請けのスコーンを食べた。ん? このスコーン甘くて美味しい!
「お砂糖は神饌だって伺いましたの。それでしたらアリア様も食しやすいかと思いまして」
とにっこり微笑む。
ああ、シエラ様って癒されるわ~。美幼女最高!
「ありがとうございます。とても美味しゅうございます」
「そう言って貰えて嬉しいですわ」
シエラ様はにっこりした。そしてそのあと少し眉を寄せて話し出す。
「もう一つ聞きたい事がございましたの。この前言っていたレンブラント様に攫われた件、あれはどういう事ですの? アリア様の魅了の件はこの前の説明で分かりましたけど、レンブラント様はヒューイット様と婚約中でしたと思うのです。もしかして……レンブラント様はヒューイット様を本当には愛していないと言う事でしょうか?」
シエラ様が答えを待つけど、私は躊躇った。
だって、そもそも本当の愛って何? どれが正しいの? 魅了されないから本当に愛してるって……それを基準に考えるのも乱暴すぎる気がする。
私は睫を伏せて言った。
「わたくしの考えですけど、言っても良いですか?」
「ええ、どうぞ」
「わたくし、愛は色々な形があると思っています。レンブラント様は確かに今わたくしに魅了されていますけど、それは解けるかもしれません。だって、コモン様は解けましたからね」
私はシエラ様に微笑んで続けて言った。
「ヒューイット様も今、レイジェス様がお好きみたいですが……それも本気かどうかは本人にしか分かりません。でも、わたくしが思うにお二人とも婚約して1年も交流して来たのですよ? 何らかの絆がそこにはあるのではないでしょうか?」
シエラ様は驚いた様に目を見開いた。
「アリア様はお二人がまだ続くと思ってらっしゃるの?」
私は先程の食堂で会ったレンブラント様の様子を思い出した。
私が知っている頃の仲睦まじかった二人に戻って欲しいとは思う。
けど、無理なのかな? とも思う。
「そればかりは【運命の神のみぞ知る】ですわね」
シエラ様が私を見てなんだか嬉しげに微笑んだ。
「でもね? アリア様、わたくしやっぱり番所に届けた方が良かったとは思っていますのよ? だってわたくし、あなたの身が危険なのは嫌ですもの。大事なお友達ですから」
「先程、食堂でレンブラント様にお会いしましたの。他の方達もいましたけれど、何だか憑き物が落ちた様なすっきりした顔をされてましたわ」
「あら」
「だから……レンブラント様は大丈夫、だと思いたいです」
シエラ様は複雑で曖昧な表情をしていた。
シエラ様が何をどう考えているかは分からなかったけど、私の事を心配してくれて、ちゃんとお友達と思っていてくれた事は伝わって、それは凄く嬉しかった。
シエラ様が困ったりしていたら何か力になりたい、そう思った。
シエラ様と長々と話して秋桜の間に戻るとレイジェス様が丁度戻ってきた。
部屋には護衛のアーリンとアランもいる。
レイジェス様はハンスと一緒だ。
「お帰りなさいませ!」
「ああ、ただいま戻った」
レイジェス様は手に木箱を持っていて凄く機嫌がいい。
「何か良いことでもあったのですか?」
私が聞くと木箱を私に見せ付けた。
「うむ。トリスターノに注文していた品が出来上がっていた」
「それは?」
レイジェス様は私の手を取って一緒に長椅子に座った。テーブルにその木箱を置いて蓋を取る。
箱の中には大粒のアメシストが真ん中に付いているペンダントがあった。
アメシストの周りには小粒のダイヤが一杯付いている。多分ダイヤは私の涙だろう。
「見ていなさい」
レイジェス様は杖を出して空に魔方陣を3つ書いた。
そのあとペンダントのアメシストの部分にトンと叩くと1個魔方陣が消え、ダイヤの粒の所を杖でトントントントンと叩く。するとあとの魔方陣2つが消えた。
パキーンと小さな音がして黄色い光を放ったあとそれは終了した。
「睡眠の魔法を組み込んだ。魔術者に分からぬ様エフェクトも掛けた。これで神殿長のように解かれる事はないだろう」
「睡眠? 攻撃の魔法ではないのですね」
「攻撃の魔法だとエフェクトを掛けても悟られてしまうからな。私以外の男が君に触れれば発動するようにした。触れられるなよ?」
レイジェス様に鋭く睨まれた。それってユリウス様の事ですか? と言いたくなってしまった。
もう、信用してよね? そんな事にはならないってば。
「髪を上げてそちらを向きなさい」
私が言われた通りにするとレイジェス様は私にペンダントを付けた。
「こちらを向いてみなさい」
私はレイジェス様に振り向いて自分に付けられたペンダントを見た。作りは細かくて繊細で、しかもダイヤが沢山付けられてキラキラしている。中央のアメシストは自前じゃないから、きっと高いんだろうな……お値段がいくらするのか考えたら眩暈がした。
「うむ。やはり似合うな、美しい」
「ペンダントが?」
「いや、リアに決まっている」
レイジェス様は笑って私に舌を入れるキスをした。
周りには護衛の二人もハンスもいるのに。
アランはゴホンと咳払いをしたけど、レイジェス様は何処吹く風だった。
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