魔術師長様はご機嫌ななめ

鷹月 檻

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第三章

36灯篭飛ばし祭り 前編

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今日は灯篭飛ばし祭りの日だ。
レイジェス様と朝食を取りに食堂へ行くと、エドアルドが慌しくしていた。

「本日はセバスが秘書として旦那様に付きます」
「うむ」

 それだけ言うと、エドアルドは厨房の奥に消えてしまった。
私とレイジェス様が食事を終えると、セバスがトウミ紅茶を二つ持ってきて、レイジェス様と私に出しながら言った。

「10の刻より時計塔の広場にて【灯篭飛ばし祭り実行委員会】による開会式が行われますが、その開会式にて旦那様がご挨拶をする事になっております。その後、【愛の叫びコンテスト】、【マドリード美人コンテスト】の審査委員長を務める事になっております。なので旦那様は美人コンテスト終了の夕の3の刻までは自由時間がございませんからね?」

 セバスはメガネの端をくいっと上げてレイジェス様を渋い目つきで見た。

「それではリアとで店を回ることが出来ぬではないか」
「お昼に1の刻程の時間がありますし、夕の3の刻から4の刻までは自由時間としてありますから、姫様とはその時に出店を回られると良いでしょう」
「ふむ」
「夕の4の刻からは天空の結界張りをお願い致します。5の刻半に灯篭飛ばしをしますので、それまでにお願いしますよ?」
「ああ、分かってる。毎年やっているのだから」
「旦那様、今回はどちらで様子を見られますか?」
「堀にてゴンドラで確認する」
「承知しました」

 私が紅茶を飲み終わってレイジェス様を見上げると、凄い渋い顔をしていた。

「今日はリアと行動出来ぬ、つまらん」
「領主様なんだから、ちゃんとお仕事しなきゃ! 広場でコンテストをするのでしょ? わたくしレイジェス様を見ていますわ! コンテスト楽しそうですしね!」
「ちゃんと護衛を付けろよ? 一人で遠くに行くなよ? 知らない人に付いて行ってはダメだぞ?」
「も~! 分かってますってば! ちゃんとアーリンを連れて行きますし、知らない人には付いて行きません! 当たり前でしょっ!?」
「分かってるならいいのだが、どうにも心配で……」

 レイジェス様はため息を吐いた。
下準備を順番をぶつぶつ繰り返し言っていたセバスが、はっ!と何か思い立った様にレイジェス様を振り向いた。

「申し上げにくいのですが旦那様、その格好はダメでございます。貴族服に着替えて下さいませ。あ、着替えのお手伝いを致しましょう、さぁ、部屋に行きますよ!」

 レイジェス様はセバスに引っ張って行かれた。
なので私もととととっとその後を追いかけて行った。
セバスは部屋に着くとクローゼットから何着も貴族服を出してレイジェス様に充てて、これはだめ、これは良し、これもだめ、とぶつぶつ言いながら服を選んで行って、今日着る服を【良し】の中から選んで、さっきまで着ていたローブを脱いだレイジェス様に渡す。

「さっさと着て下さい? 私だって忙しいのですからね?」

 セバスのが口調がちょっときつい。
きっと、今日皆様の前で挨拶するって分かっているのに、なんで家着用のローブを着てるんだ!? 世話の焼ける人だ! って怒っているんだと思う。
セバスがレイジェス様の曲がってるネクタイを直しているのを見て、二人の後ろに薔薇が咲き乱れて見えて、私はふぉわ~ってなった。
そう、頭の中でBL的な展開になっている。
うん、セバス×レイジェス様の方が私的には推しだな~と思う。
サーシャはアラン×レイジェス様って言ってて、アランの荒々しい感じが好き!(BL的に)と言ってたけどね。
ごめん、サーシャ、私って筋肉派じゃないのっ! 耽美派なのっ!
二人を見て一人悶えているとアーリンに声を掛けられた。

「おはようございます、姫様!」
「あ、おはよう、アーリン」
「今日は城下町に出るとの事ですから、姫様もお気を付け下さい」
「ええ、分かっているわ。でも、大丈夫よ。何も起こらないわよ」
「姫様は何回も危険な目に合っているせいか、感覚が麻痺してらっしゃるのでしょうか? 祭りという事もあり、この町の者でない者の出入りもありますからね、十分注意しないと……!」
「注意はするけど……。皆、心配しすぎだと思うわ?」

 私はにこっとアーリンに笑った。 

「ああ、姫様! 可愛らしすぎます!」

 アーリンが私をぎゅっとしようとしたけど、私をひょいっとレイジェス様が持ち上げたのでアーリンは肩透かしを食らった様な感じになった。

「アーリン、お前が襲ってどうする!」
「はっ、公爵様! 襲うなんてとんでもない! ちょっと抱きしめて、ぎゅってしようとしただけです!」
「十分襲ってるだろうが!」

 レイジェス様は私を抱き上げたままこめかみを押さえた。
セバスも同じでこめかみを押さえていた。
私は改めてレイジェス様の貴族服を見た。
白いタイトなパンツに、上着は袖が無ベスト状で丈が長くて膝裏まである物で、布の端に黒い細かい模様の刺繍が入っていた。シャツは白い緩めな感じの綿シャツで紫色のネクタイをしている。上着の右肩には黒いマントが掛けてあり、マントには白い糸で模様が刺繍してあった。

「レイジェス様、かっこいいですね! とても良く似合っています!」
「ん? そうか」

 レイジェス様はにこっと微笑んで私の頬にちゅっとした。

「ほら旦那様、いちゃいちゃしてないで、さっさと行きますよ?」

 食堂に一度寄って皆で合流して広場に行く事になっていた。
行くのは、セバス、レイジェス様、私、コモン様、シエラ様、ユリウス様、クロエ様、あと皆さんの執事、使用人達とうちではアーリン、ハンス。
エドアルドは夕方から始まるグレーロック城のガーデンパーティの準備で大忙しで、城下町など行く余裕が無いと言っている。
アランは少し用事があって、それを終わらせてから合流すると言っていた。
時計塔の広場はお城の外門を出てそんなに遠くないので、歩いて行くことになった。
結構な大所帯でぞろぞろ歩いて行った。
レイジェス様は私と手を繋いでいる、というか握られているんだけど。

「ねぇ、レイジェス様、王都にいた時は平民の区域は危ないから言ってはダメだとおっしゃってたじゃないですか? こちらでは安全なのですか?」
「ああ、それは王都では平民の収入が少ないからだ。あいつらは金になると分かれば、リアみたいなのはいい獲物だからな。金目の物を奪われて、殺されて川べりにでも捨てられて終了だ。もしくは……君は可愛いらしいからな、鎖で繋がれて飼われ、一生犯されて続けて終了か」

 私はぶるっと震えが来た。

「そんな怖いことを仰らないで下さい」
「君はこれ位言わないと危機感が足り無すぎる。まぁ、マドリードでは大丈夫だろう。小さな町だが豊かで、一家庭の収入が王都より多い。鉄の採掘精製販売、ワインの製造販売もやっているし、これからは君が砂糖精製と販売もやるからな? この灯篭飛ばし祭りも、近隣から金を集める事になっている。きちんと働けばそれなりに暮らせるから、犯罪に走る者が少ないんだ」

 それを聞いていて、セバスがゴホンと咳払いをした。

「一週間ほど前に領主様からの【御触れ】も出てますしね」
「御触れ?」

 私が聞くとセバスが説明してくれた。

「終春節に御領主様のご友人がお城に滞在するので、皆失礼の無いように振舞えという事をお触書しました。広場にある掲示板に貼っておくんですよ。そうすると皆見ますからね」
「へ~」

 歩いていると時計塔の広場に付いて、レイジェス様はセバスに引っ張って連れて行かれてしまった。レイジェス様とセバスが行った先は【灯篭飛ばし祭り実行委員会】とイベントテントの白い屋根に文字が書かれている、テントの中だった。レイジェス様はそこにある細長いテーブル席に着いた。セバスは周りの人達と何か打ち合わせみたいに話をしていた。

「姫様、こちらにベンチがあります! 座りましょう」

 委員会テントの前にはベンチがいくつもあり、もう何人か座っていて半分は埋め尽くされている。私はアーリンに呼ばれて前から三番目辺りの右の方のベンチに座った。アーリンが私の左隣に座り右にはユリウス様が座って、その隣にクロエ様が座った。コモン様とシエラ様は私の前のベンチに座った。シエラ様の隣に執事のメルヴィン、側仕えのベティも座っている。
そういえば、ユリウス様の執事のオリオンはまた居ない。クロエ様の側仕えのアルテダさんは来ているのに。

「オリオンさんはまた来ていないのですね」

 私がユリウス様に言うとユリウス様が不思議そうな顔で聞いてきた。

「何故オリオンの事を気にかけるのです?」
「え? だって、執事なのでしょ? 気に掛けるでしょ?」

 ユリウス様はフッと笑った。

「私は使用人の事はそんなに気にかけませんが、まぁ、オリオンは大人数で何かするって言うのは苦手なんですよ。元々そんなに人と会話をするのが好きじゃない方ですからね、仕方ありません」
「……そうでしたか。皆一緒だと楽しいって思ったんですけど、そうじゃない方もいますものね」

 私は笑って誤魔化した。
キーーーンとマイクの音が響いた。

「あ、始まった様ですよ、姫様」

 私は手前の右にある壇に目を向けた。町長さんがマイクで喋ろうとしてキンキン音を出している。セバスがささっと近寄ってマイクの音を調整して直した。

「あ~、ああ~、これから領主様の開会のご挨拶が有ります、皆心して聞くように」

 そのあとレイジェス様が町長さんからマイクを預かり、壇に乗った。
すると女の人達の黄色い声が聞こえた。

「「「きゃぁ~~~! 公爵さまぁ! 素敵ぃぃ!」」」

 むぅぅう、声の方向を見ると15,6歳位の若い女性達が固まってきゃぁきゃぁ言っている。
レイジェス様は私の婚約者様なんですからね! ぷんぷん。
レイジェス様はす~っと深呼吸をして言った。

「そこの煩い女共、だまれ」

 途端に会場はし~んと静まり返る。

「これより、飛ばし灯篭祭りを始める。みなの者よ、楽しむが良い」

 ぽつりぽつりと拍手が鳴った。
このローテンションな始まりの挨拶でいいのかしら? と私は不安になった。
ユリウス様がくっくと笑っている。

「無愛想で師長様らしい挨拶ですね」
「本当に」

 私も苦笑いしてしまった。
レイジェス様が開会式の挨拶をしたあと、町長さんの長い話が終わり、司会者が喋り出す。

「はい、今回司会者を務めることになりました、私はアルフォード公爵家で側仕えをやっております、サーシャ=フルトグレーン18歳でございます! 皆様どうぞよろしくお願いしますね~」

 めっちゃ良い笑顔で手を振っているサーシャ。
私はその声を聞いて思わず二度見した。
ええええええええっ!? サーシャ!? あんなに目立つのが嫌いだって言ってたのに、どうしたの!? 一体サーシャに何が?
私があんぐりと口を開けているとアーリンが言った。

「セバスさんに脅かされてしまったみたいですよ? 何かちょっと失敗したんですって? それで、それを打ち消す替わりに司会をしろって、しなければクビだと言われたそうですよ?」

 失敗って、もしかして、ユリウス様を突き飛ばした件かな?

「じゃ、これから【愛の叫びコンテスト】を始めますね~! 優勝賞金はなんと、10万ギル! そして、副賞としてプリストン王国の王都一週間旅行券も当たりま~す! 飛び入り参加大歓迎! どんどん来てね!」

 とサーシャが言うと、
左にあった大きな物の布が実行委員会のスタッフ達に取られて、中にあった魔道具が現れた。それは委員会のテントの前のスタンドマイクと繋がっていて、そこへ愛の言葉を叫ぶと音声を光で表す魔道具の塔だった。
下からぴかぴかと光るようになっていて、その叫びが大きい程、光は上の方で止まる。光の枠は全部で20個ある。

「へぇ、面白そうだな一緒に出てみないか? メルヴィン!」
「はっ? 私ですか?」
「お祭りだし、シエラの事を大声で好きだって言えるぞ?」
「出ましょう!」

 メルヴィンはコモン様に即答して二人で委員会横の受付に行った。

「お兄様は行かないのですか?」

 とクロエ様が言って、私はどきっとした。

「わ、私はもう、アリア様に直接言ったからな……」
「何回言ったって良いじゃない、イベントですもの。ほら、お兄様も行ってらっしゃいな!」

『私は行かないと言っているだろう? クロエ』

 ん? 何だかユリウス様の声色が変わった様な気がした。

『ちゃんと大人しく見ていなさい。レディなんだから、はしたない真似はしない様にな?』

「……はい、お兄様」

 それからクロエ様は大人しくコンテストを見出した。

「そういえば、アリア様?」
「はい? どうしました、ユリウス様」
「商会で会頭をしていると言っていたではないですか? 商会はどの辺りにあるのですか?」
「アルマ通りの真ん中辺りですけど、分かります?」
「ああ、あの辺りですか、わかりますよ。商会にはアリア様も出勤しているのですか?」
「それが、お恥ずかしい事に立ち上げたのはいいのですけど、そのままこちらのお城に来てしまって、秘書のルイーズ様にまかせっきりなので、王都に戻ったらまず、きちんと出勤したいと思ってます」
「毎日行くおつもりですか?」

 ユリウス様が何故か細かく聞いてくる。

「えっと、6月の初めは続けて毎日行こうかと思ってますけど、落ち着いたら週に何回か決めて働こうかなって思ってます。正直私がいてもいなくても成り立っちゃってるんですよね、あはははっ!」

 私が笑っているとユリウス様が言った。

「あ、次はコモン達ですね」

 前の方を指差している。

「はい、次は、なんと! 貴族様です! エルサレム伯爵家のコモン様が来ました~! さぁ、この麗しの王子様はどなたに愛の言葉を叫ぶのでしょうかっ!?」

 サーシャが自分の喋っているマイクをコモン様に向けると、コモン様は少し照れながら言った。

「あ、俺の婚約者に、お、俺の愛の言葉を捧げます!」
「はい、婚約者さ~ん、見てますかぁ! あなたに叫びますよっ!」

 サーシャが元気に客席に向かって手を振る。
サーシャって……目立つの嫌だとか言っておいて、司会が上手すぎるでしょっ!
もしかしてこういうの向いているんじゃなかろうか?
シエラ様が両手で顔を覆っていると、コモン様がスタンドマイクに向けて叫んだ。

「シエラ~! 君を愛してる!! 一緒に住もう!!」

 叫び終わると魔道具の塔がポポポポッポポッと音を立てて赤く光った。
その光は18個目で止まった。

「はい、記録は18個でした! 惜しいな~あと2個で全灯だったのにぃぃ! 次の挑戦者さんは~……はい、今叫んだコモン様の婚約者の令嬢執事さんがなんと! なんと! 仕えている令嬢様にその思慕の念、思いをぶちまけます! これは萌えるっ! 身分違いの許されないその思いを、どうぞここでぶちまけちゃって、すっきりして行ってください!」

 サーシャはドン! とメルヴィンの背中を叩いた。
メルヴィンはおどおどしながらもスタンドマイクを握った。

「わ、私のシエラ様~! あなたが大好きで~す! 一生付いて行きま~す!」

 それを聞いてシエラ様は両手で顔を押さえていた。
私の前に座っているのでシエラ様の表情は分からないけど、何だか嬉しそうな雰囲気は伝わってきた。
メルヴィンが叫び終わると魔道具の塔がポポポポッポポッと音を立てて赤く光った。
その光は19個目で止まった。

「うおおおおおおお! これはすっごく惜しいです! 今の所、優勝候補です!」

 サーシャの方を見ていたらユリウス様が言った。

「ん? 師長様がセバスと何か揉めている様ですね?」

 私が見ると、実行委員会のテントの中でレイジェス様が立ち上りセバスと揉めていて、セバスがこめかみに手をあてていたのが見えた。

「どうしたのでしょうね?」
「レイジェス様の事だから……、私も出る! とか言って、セバスに止められたんじゃないかしら?」

 ユリウス様が笑った。

「アリア様は師長様の性格を良く分かってらっしゃるのですね」
「う~ん、ダメな大人だなって事はわかってますけど、良い所も沢山あるんですよ?」
「もし、私が先にアリア様に出会っていたら……貴方は私と婚約してくれたのでしょうか?」

 私はそう言われて何と返事をしたら良いのか困った。
正直に言ってしまえば、【もし】なんて仮定の言葉の未来はわからない。
でも、そう言ってしまっては傷つけてしまう様な気がしたし、かといってお世辞で【多分婚約してたかも】なんて言ったら誤解を生むだろうし……。
私が黙っているとアーリンが言った。

「ユリウス様、あまりとやかくは言いたくありませんが、姫様を困らせる様な質問は止めて下さい、姫様はお優しいのです。本当のことなど言えるはずもないでしょうに……貴方も大人なら分かりますよね?」

 アーリンが言うとユリウス様は引き下がった。

「申し訳ありません、つい、私の方が早く出会っていたなら……と考えてしまってね」

 アーリンに言ったのだろうけど、視線がこっちを向いていた。
早く出会っていたらと言うけど、レイジェス様に会わせたのは父神様だ。
相性が一番良いからって理由だった。それを思い出すと、ユリウス様が私と最初に出会いたいならまず、相性を良くして父神様に選んで貰わなければならない。
それって過去を変えなきゃだ、無理でしょ。
私がぼ~っとしてると大きな歓声が聞こえた。
愛の叫びで、光るパネルが全灯した人が出たらしい。結局、その20個全灯した人がコンテストで優勝を飾り、メルヴィンは2位になり2位の賞品でワインを大量に貰った。
賞品は大人用のワインだったけど、メルヴィンが実行委員会と交渉して全部子供用に変えてもらっていた。シエラ様用かな? と私は思った。
表彰が終わるとメルヴィンとコモン様が戻って来た。

「シエラ、ごめん、俺3位だった! 3位は参加賞のペンしか貰えなかったよ」

 ペンが入ってる箱を見せて、しょんぼりとコモン様が言った。

「いいえ、コモン様があの様に叫んでくれて嬉しかったです。一緒に住むのが楽しみですわ。それと、メルヴィン、あなたも嬉しかったわ。わたくしのお世話はあなたに任せますね? 一生付いて来てくれるのですものね? うふふふ」

 シエラ様は艶のある笑顔を二人に向けた。
そんな顔されちゃったら、そりゃ大の大人二人も蕩けた顔にもなるわな……。

「ここにも魔性の幼女が……」

 ぽつりとユリウス様が呟いたけど、小さい声過ぎて私には何を言ってるのか分からなかった。

「リア! では昼食を食べに行くか!」

 いつの間にか目の前にレイジェス様がいた。

「え? 良いのですか?」
「うむ、実行委員会も昼休憩に入った。1の刻までに戻れば良い」
「わ~、じゃ出店で何か食べ物を!」
「リアの事だからそう言うと思っていた。では歩いて周るぞ」
「あ、俺達は4人で周るから」

 と、コモン様御一行は一緒に周らないっぽい。

「私もクロエと一緒に周ります」
「では、二人っきりだな!」

 レイジェス様がにこにこしているとアーリンが言った。

「私は付いて行きますよ? 姫様の護衛ですからね!」

 途端にレイジェス様は渋い顔になった。
私が【抱っこして?】のポーズで両手を広げるとレイジェス様は私をひょいっと抱き上げたので、その眉間に寄った皺を人差し指でなでなでした。

「レイジェス様、アーリンは護衛だもん、付いて来ますよ? それを決めたのは貴方ですよ? 折角の綺麗なお顔に皺が寄ってしまいますわ?」

 私はまだ眉間を指でなでなでしていた。

「アーリン、三歩下がって付いて来い」
「はい」
「あれ? セバスは? 置いて行くの?」
「セバスは町長の娘とお食事会だそうだ」
「ええっ!?」
「私がダメだからと、セバスがターゲットにされた様だな」

 くっくと笑うレイジェス様。

「それは大変じゃないですか! セバスを助けないと!」
「あれも良い歳だぞ? 27歳だ。もう既に嫁を貰って、子供がいてもおかしくない歳だぞ? ま、平民では嫁に貰えぬから愛人になってしまうがなぁ」
「レイジェス様、セバスが私に触ったから意地悪しているんでしょ?」
「う? いや、違うぞ? セバスは女を充てがわれるくらい、どうとでも出来る、自分でなんとかする男だ」
「へ~~~~」

 私は薄い目でレイジェス様を見た。

「まぁ、心配するな、それより出店の屋台を気にしろ! ほらいい匂いがする」

 そう言われて匂いを嗅ぐと醤油の焼けた匂いがした。

「んんっ!? この匂いはっ!」
「どうした?」
「イカ焼きの匂いがしますっ! レイジェス様、あちらです!」

 私はレイジェス様に抱っこされたままあっち、あっちと匂いのする方向へ指差し、レイジェス様を誘導してイカ焼きの店まで辿り着いた。

「イカ焼きだぁ~!」

 私がにまにましてるとレイジェス様がお店の人に注文した。

「イカ焼きを3つ頼む」
「はいよっ! うおっ、お嬢ちゃんのお父さんはえらいイケメンだなっ!」

 あ、お父さんて……。

「私はこれの父では無い! 夫だ!」
「え? あ、もしかしてロリコン領主様!?」

 ロリコン領主!? ……何て酷い呼ばれ方だろう。

「あっ! あわわわ、今のは間違いです! すいません! 領主様!」

 店主は慌てて言いなおしたけど、聞こえちゃったよね~……。
レイジェス様のこめかみにちょっと血管が浮いてぴくぴくしていた。
店主は棒の刺さったイカ焼きを木の板皿に乗せてアーリンと私とレイジェス様に渡した。

「御代は結構です! すいませんでしたっ!」

 店主は深々と頭を下げて謝り、レイジェス様はふんと鼻息を荒くした。
その場を後にすると何だか気落ちしてきた。
レイジェス様はダメな所もあるけど、立派な普通の男の大人なのに、私が傍にいるからいつも変な風に言われちゃう……。

「……ごめんなさい、わたくしが子供だから、レイジェス様が変な目で見られちゃって……」
「リアのせいでは無い! ……言いたい奴には言わせて置けば良い、私は何と言われ様と……君といるだけで幸せだ」

 私がレイジェス様を見上げると、その顔には迷いが無かった。
あの、北の領地でローラントに色々言われて撃沈していた……あの時のレイジェス様とは全然違った。

「何を驚いている? そんな顔をしていないでさっさと食え」

 照れ隠しなのかな? いきなり私のイカ焼きを口の中に突っ込まれた。

「どうだ? 美味いか?」
「おおいひぃいれふ」

 私は一口齧ってからイカ焼きを板皿に置いた。

「イカなんて海の物なのに、随分新鮮な味がします」
「言って無かったか? ここは海も近いぞ。ずっと南下すると海があり、港町もある。このイカも近海から漁で捕れた物だろう、だから新鮮なんだ」
「へ~」

 アーリンを見ると美味しそうにイカ焼きを食べていた。
レイジェス様もイカ焼きを食べていて、なんだかその姿が新鮮だった。
私もイカ焼きをむしゃむしゃ食べた。とても美味しかった。
イカが大きくて、私は結構お腹がいっぱいになったのだけど、レイジェス様はまだ小腹が空いていた様で、まだ何か食べたいと言って三人で出店をうろうろした。

「あっ、まるまる焼きだっ!」

 レイジェス様に抱っこされていると足元を小さい子達(私と同じ歳くらい?)が走って行って、ある屋台の前に群がった。

「おじさん、まるまる焼き一袋ちょうだい!」
「俺、二袋!ねぇちゃんの分もだから!」
「はいよっ!」

 その会話を聞いていて私は興味を持った。

「レイジェス様、まるまる焼きって何ですの?」
「ああ、あれは丸い焼き菓子だ。ほんのり甘い」
「へ~」
「なんだ、食べたいなら買うぞ?」
「でもそんなに食べられないと思います」
「では一袋だけ買って三人で食べれば良い」

 レイジェス様はそう言って、まるまる焼きの屋台の前に行った。

「一袋頼む」
「はいよっ! 200ギルだ」

 レイジェス様は空間収納からお財布を出して銀貨二枚を出して渡した。
お財布をまた空間収納に仕舞ったあと、私にまるまる焼きの入った茶色い紙袋を渡してくれた。
ちょっと香ばしい良い匂いがした。

「じゃあ、先に食べちゃいますよ?」

 一粒が直径3センチ位の丸い焼き菓子で見た目はカステラっぽいけど、あれよりぷっくり丸い。焼き型の鉄板を見ると、たこ焼きの焼き型の様に底が丸かった。
口に含むと外はぱりぱりで中はふんわりして微かに甘い、スコーンの様な素朴な味だった。

「美味しいです、何だか懐かしい味がします」
「どれ、私にも一つ寄越しなさい」

 レイジェス様に袋の入り口を広げると手を入れて二つ取ってそのまま口に放り込んだ。

「うむ、昔と味が変わらん、私も小さい頃お祭りで良く食べた。これは子供の好きな味がする」
「どうせ、子供だもん」

 ぷぅと頬を膨らましていると突っつかれた。
アーリンにもお菓子をあげて三人で食べているとレイジェス様が言った。

「もうそろそろ時間だな」
「もう行っちゃうんですか?」
「うむ、次は美人コンテストで審査員をやらねばならん」
「美人さん、一杯出るんでしょうね?」

 私が薄い目でレイジェス様を見ると、やたらにこにこしている。

「リアに焼いて貰えるのも、また幸せを感じるなぁ~」
「もぅ!」

 嫌味を言われて幸せなんて、ホントどうかしてる。
レイジェス様は足早に時計塔の広場に行って、実行委員会のテントに戻った。
私はさっき座っていた所がまだあいていたので、そこのベンチに座った。アーリンもさっきと同じく私の左隣に座った。

「えー、まだ始まってないんですけど、美人コンテスト飛び入り参加受付中で~す! 優勝賞金はなんと10万ギル! 副賞としてギレス帝国一週間の旅行券が当たりま~す! 奮って参加下さい!」

 へ~、ギレス帝国って確か、お米売ってる所だよね……もしかして、行けたら一杯お米を買ってこれるのでは? 勇者降臨の地だから、きっと醤油とかもあるんじゃない?
そう思うとなんだかわくわくして、ギレス帝国に行ってみたくなった。

「ねぇ、アーリン、あれって子供は参加しちゃダメなのかしら?」
「そういえば、年齢は言ってませんでしたね? もしかして、姫様? 出場される気ですかっ!?」
「出られたらいいかな~? なんて思っちゃった。だって、ギレス帝国ってお米のある国でしょ? 旅行に行けたらお米が一杯買えますよ?」
「姫様はホント、米に弱いですね~」

 アーリンに呆れられてしまった。
アーリンと話しているとユリウス様とクロエ様、コモン様とシエラ様も戻ってきた。

「あ、ん? 席が空いてるけど、このハンカチは?」

 私がベンチにハンカチを敷いていたから誰も座らなかったのだ。
どこぞの席取りのおばちゃんみたいな事をやってしまっていた。

「あ、コモン様、それ、わたくしのです」

 コモン様とシエラ様は私にハンカチを渡した。ユリウス様達も。

「アリア様は賢いですね」

 ユリウス様に褒められたけど、年配のおばちゃんみたいな行動を褒められても……。

「で、アリア様は出るのです? もう受付が終了してしまいますよ?」
「あ、じゃあ行ってきます、子供はダメだって言われたら諦めるわ?」
「では、私も付いて行きます、姫様の護衛ですからね!」

 アーリンが私の後を付いて来ようとしたらユリウス様が聞いて来た。

「え? もしかして、美人コンテストに出場するのですか?」
「えへへ~? だめかな~? 断られちゃうかなぁ? 取り合えず行って聞いて来ます」

 私は恥ずかしくなって走って受付に行った。
受付をしていたのは司会のサーシャだった。

「あれ? 姫様、何故ここに?」
「受付しに来たのですよ? 子供はだめ?」
「ちょ、ちょっと待ってください?」

 サーシャが実行委員会のテントに行って、何やらレイジェス様と話をしている。
あら、これ、レイジェス様に怒られちゃう展開?
私が嫌な汗を掻いていると、サーシャが戻って来た。

「今、美人コンテストの実行委員長に尋ねた所、お子様も良いとの事でした」
「実行委員長って……」
「ええ、レイジェス様ですよ?」

 実行委員のテントを見るとレイジェス様が私に手を振っていた。

「まぁ、姫様が出るなら優勝決定ですね」
「え? したいな~とは思うけど、それは無理でしょ~?」
「姫様は自分の事を分かってませんよ。まぁ、いいです、こちらの紙にお名前をサインして必要事項に記入お願いしますね。あ、バスト、ウエスト、ヒップのサイズも忘れずに記入してください? あと、第二次審査は水着審査になりますけど……姫様は神呪があるから、水着の貸し出しは必要ないですね!」
「え? 水着審査なんてのもあるの? 随分本格的ね」
「出場者控え室はあちらの簡素住宅です。着替えもあちらですので、姫様、大丈夫ですか? 平民しかいませんが……」
「大丈夫、では行きますね、あ、アーリンは連れてっていいの?」
「ええ、大丈夫ですよ、アーリン、姫様をお守りしてね?」
「わかってます!」

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