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第三章
37灯篭飛ばし祭り 後編
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アーリンと控え室の簡素住宅(プレハブみたいな物かな?)に行ってみると、中はかなり広めで、二十畳位ありそうだった。その中にもう出場者達が来ている。窓はレースのカーテンで閉じられて、外に着替えが見えない様になっていた。
コンテストの出場者は二十名ほどで、皆そこに待機していた。
ふぃに声を掛けられた。
「アリア様ですよね?」
振り向くと町長さんの娘さんがいた。薄桃色の髪を揺らしている。
「えっと……」
娘さんは微笑んだ。
「私はキャロル=ファーナービー、15歳よ。昨日挨拶をしようと思ったら、席を立たれましたからね」
「あ、昨日は失礼しました。多分、お兄様ですよね? あの方が魅了されていたので、わたくしはもうお部屋を出た方が良いと思いましたの」
「ええ、お食事会の時、セバス様に聞いたわ、【無自覚の魅了】とかいう変な特殊スキルをお持ちだそうで?」
なんだろう? 見た目ふわふわな甘い感じなのに、言葉遣いが一々棘とげしい感じがするのは気のせいか?
「此処にいると言うことは、キャロルさんも出場なさるの?」
「それは、私の方こそ言いたい言葉です、子供なのに出るおつもりですか?」
「う、受付では良いですよって言われましたもん」
キャロルは、あはははと乾いた笑いをした。
「アリア様がいなければ、私はレイジェス様の愛人になれたのにねぇ?」
私はむっとした。
レイジェス様は私の事が大好きだもん、キャロルが可愛い系でふわ甘女子でも振り向かないもん!
そのやり取りを見ていたアーリンが口を挟んだ。
「キャロル、公爵様は幼女趣味だ。お前には靡かない」
「アーリン、レイジェス様は幼女趣味じゃないってば!」
私がアーリンに抗議するとその手で制止された。
「まぁ、いいけど、だって私、レイジェス様より、セバス様の方が好みですから。優しくて、クールでストイックな感じ、堪らないわ! あそこの蜜が滴っちゃう! 早く私を愛人して欲しい! ああ、……あの方の肉棒で突き上げられたいわ!」
私はアーリンに両耳を押さえられた。
「貴様! 何て下品な事を姫様の前で言うんだっ! 恥を知れ! 恥を!」
私は耳を塞がれているのでアーリンが何を言ってるか分からない。
アーリンの両手に力を込めて外そうとするけど、アーリンが抵抗して押さえていようとする。
「あら、護衛騎士さんはウブね? まだ蜜花をお持ちなのでしょうか? そんな物は早く散らした方がいいわよ? 大体あなたいくつ? もうおばさんじゃない、いつまで後生大事にその花を咲かせているの?」
「このクソ女がっ! 犯すぞ!」
「あらあら、怖い護衛騎士さんですこと、でも残念ね、あなたには橘が無いわ?」
アーリンが険しい顔で何か言い返しているけど、私には聞こえなくて、しかも、アーリンに押さえられているし、どうしたらいいか分からなかった。
「アリア様もうちのお兄様にして貰えばいいのにね」
「……何だと?」
アーリンの表情が変わった。
「うちのお兄様の橘は凄くいいの。私はそれで女になったのよ?」
「は? キャロル、貴方は実の兄と致したと言うんですか?」
「ええ、そうよ? プリストン王国では蜜花を守る法律はあるけど、兄妹で閨事をしてはいけないなんて言う法律は無いわ? まぁ、結婚は出来ませんけどね」
「法律で禁止してなくてもタブーってもんがあるでしょう? それが分からないなら犬畜生以下だ」
「なんと言われても、どうでもいいわ? だって気持ち良ければ、それでいいじゃない? あなたもうちの兄にしてもらう? 護衛騎士さん?」
アーリンは舌打ちをして言った。
「悪いが、私は蜜花持ちじゃないからね? あと、口の利き方は相手を選んでするんだな、貴様の姫様や私に対する侮辱は忘れない。今は姫様がいるから許すが……次会った時は許さない。覚悟しておけ雌豚!」
「ふん!」
アーリンが何か言い放ったあと、キャロルは別の出場者の所に行った。
私は耳栓を解除して貰えたけど、アーリンが渋い顔をしている。
「どうしたの? アーリン、何か嫌な事でも言われちゃった? 大丈夫?」
アーリンは屈んで私の頭を撫でた。
「私の心配などしなくても良いのに……大丈夫ですよ、何ともありません」
暫くすると実行委員会のスタッフさんが来て、皆出て下さいと呼ばれた。
二十人全員に一番から二十番の数字が書かれた丸い胸札が配られて、それを付けるように言われた。キャロルは十九番で、私は二十番で最後だった。
実行委員会のテント前で一人ひとり自己紹介や自己アピールをしている。
順番待ちの人達は右端に集まって一塊になっていた。
自己アピールは歌ったり、踊ったりが多い。中には一人演劇や横笛を持って来て演奏している子もいた。そして十九番、キャロルの名前が呼ばれて、キャロルは中央に出て縄紐を取り出した。
「あの女、何をするつもりだ?」
アーリンが眉間に皺を寄せた。
キャロルは縄紐を後ろから廻して両手に持った。
「……あれはもしかして……縄跳び!?」
こんな場で縄跳び? 体力測定じゃあるまいし……と思ったら、ベンチに座っていた男性客達の視線がその胸元に釘付けになっていた。
キャロルは平民で、私の様なドレスは着ていない。膝下少し越えたぐらいの長さのスカートのワンピースで、ボディスがぎゅっと締められていて胸元の谷間がぷるんぷるんと揺れる。足元も縄紐を飛ぶたびに何故か下着を履いてないのでちらちらとお股の薄桃色の毛が見え隠れする。
こんなだもん、そりゃベンチ側の男性の視線は釘付けになるでしょう。
ちなみに、レイジェス様やセバスがいる所からは見えないけど、ユリウス様やコモン様には丸見えなんだろうな~と思ってしまった。
「姑息な手段をっ!」
アーリンが悔しそうな顔をして、吐き捨てるように言った。
「姫様も縄跳びをしましょう!」
アーリンが真面目な顔で言うけど、私のちっぱいじゃ揺れませんてば。
ドレスの裾も長くて、縄跳びなんてしたら転んじゃうし、子供が縄跳びしてもね?
全然色気が無いと思うんです。
「わたくしは普通に歌を歌います」
「……そうですか」
私の縄跳び姿が見たかったのか、アーリンは残念そうな顔をした。
「はい、次の方! 二十番、アリア=アズライル様8歳で~す!どうぞ!」
私は呼ばれたのでとととっとサーシャのいる中央に行った。
そして、優雅に淑女を挨拶をする。姿勢はまっすぐ、ふんわりとドレスを摘むように持つ。そして令嬢の微笑み! ってハンナ先生が言ってた。これはセットでするんですよって。
「アリア様は領主様の婚約者様で女神で~す! では姫様! あ、じゃなかった、アリア様、自己紹介をどうぞ!」
スタッフの人が低めに設定してくれたスタンドマイクで私は自己紹介をした。
「皆様こんにちは、アリア=アズライル8歳です。今日はこのようなイベントに出るのが初めてで、凄くどきどきしています。自己アピールではわたくしの作曲した歌を歌いたいと思います。皆さんよろしくお願いします」
私はここで両手で投げキッスをした。そして両手を挙げて手を振る。
するとユリウス様が立って手を振っているのが見えた。皆座ってるので凄い目だってる。何だか可笑しくなってしまって、私は笑った。
「音楽を奏でる魔道具はありませんが、どうしましょうか?」
とサーシャが言う。
「いらないわ。アカペラで歌うから」
サーシャが頷き、左横へ下がったので私は深呼吸した。
私は【夜空の星に願いを込めて】という曲を歌った。
これは女神マティオン様が降臨した時に二曲目に歌った曲だ。
しんみりした感じの静かな曲でアカペラに合う。
あの時はマティオン様のオーケストラで歌ったけどね。
私が歌い出すとすぐに空から花が降って来た。ベンチに座っている観客の人達がざわざわとざわめいた。
私が歌い終わる頃には、石畳の広場は薄桃色のプルメリアに埋め尽くされていた。
そして広場に拍手が響いた。
「はい、皆さん! 慌てないで下さいね~、その花は触れると光の泡になって消えますから! 片付けなくても結構ですよ~!」
サーシャがそう言うと花を蹴ったおじさんが、本当に光の泡になったのを見て驚いていた。私がそのおじさんに微笑えむと、おじさんは照れてぺこっと頭を下げた。
「では出場者の一番から十番までの方は左に寄ってください。十一番から二十番までの方は右に寄って下さい。これから第一次審査の結果を発表します!こちらの実行委員会の八名の審査委員がこの出場者の中から第二次審査へ進む十名を選びます! 審査委員が番号札を上げた方が第二次審査へ進めますからね!よ~く見て下さいね!……では、審査員の方々、札を上げちゃって下さい!!」
審査委員はレイジェス様、セバス、町長さん、知らないおじさん二人と知らないおばさん一人、そして町長さんの息子さん(何故か)と20代中盤位の男の人の八名だった。その人達がぱぱぱぱっと数字の書いてある札を上げていく。
私にはレイジェス様、セバス、町長さんの息子さんの3票が入った。町長さんと知らないおじさん二人はキャロルに入れているからキャロルも三票。知らないおばさんは十二番の女の子に、20代の男の人は三番の女の子に入れていた。
「これはどうした事でしょう! 票が偏ってしまっています! ではこの4人は勝ちぬけで、あと6名選んで貰いましょう!」
レイジェス様とセバスが何か話し合っている。
「では、いきますよ? 審査委員の皆様、札を上げて下さい!」
レイジェス様とセバスは札を上げなかった。町長さんは一番を、知らないおじさん二人は五番と六番を、知らないおばさんは九番を、町長の息子さんは十四番を、20代の男の人は十七番を上げた。
「では、今上げられた札の、一番、五番、六番、九番、十四番、十七番は合格です! 先程の三番、十二番、十九番、二十番の方達と共に第二次審査で戦って頂きます! ではお着替えターイム! 出場者の方達は控え室で着替えをお願いしますね~!」
不合格者はサーシャから参加賞のペンを受け取ってベンチの席の方へ散らばった。私達合格者は簡素住宅の控え室に行った。
「あはははっ! アリア様みたいなお子様も残れたのですね」
嫌味っぽくキャロルに言われた。
この人、なんでこんなに突っかかってくるんだろう? 私何かした? まぁ、最初に出会った時に不躾な態度取っちゃったけど、そこまで目の仇みたいにされる程酷い事してないつもりだけどなぁ……だって、あの時私が応接室から出ないとお兄さんが魅了されておかしくなってたかも知れないんだよ? って言っても信じられないかぁ……。
「雌豚! 姫様に話しかけるな! 穢れる!」
アーリンがキャロルの態度に怒って牽制する。
「まぁまぁ、アーリン。ねぇ、キャロル、貴方は何故そんなにわたくしにきつく当たるの?」
「……別に、きつく当たってなんかないわ」
「そうですか……」
し~んとしてしまった。いけない事でも聞いちゃった?
三すくみ状態になっていると皆さんもう水着に着替え終わっていた。私も慌てて水着に着替えようとするけど、デザインどうしよう? 皆ビキニの上下で色っぽい格好しているけど、私のこのちっぱいじゃね……?
自分の胸を見て唸っているとアーリンが言った。
「皆さん色っぽい感じですけど、姫様は可愛らしいので良いんじゃないですか? 逆に目立つと思いますよ?」
「そぉ?」
私は苺の模様のフリルが4段になって重なっているチューブトップのブラと下もフリルが4段になっているパンティにしてみた。チューブトップは細いネックホルダーの紐が付いていて首の後ろでリボン結びになっている。
可愛いけど、お腹がぽてっとして見えるのが難か。
なんせ私、胸よりお腹が出てる……子供だから仕方ないよねー。
さっきイカ焼き食べたしねー。
「こんなのどう? アーリン」
「ふぁああああ! 可愛らしいです! 尊すぎます! 眩しいです!」
お腹が出てるのに、そんな風に褒めてくれるなんて、アーリンて優しいなぁ。
ふと見ると、キャロルも水着に着替え終わっていた。
その姿は凄かった。
薄い白いレースで出来たマイクロビキニだった……。どう頑張らなくても乳首もお股の毛も見えちゃってた。
「あ、あの、その格好で出場するのっ!?」
「ええ、そうよ? 何か問題でもある?」
「問題でしょ? それって見えちゃってるわ?」
「ええ、わざと見える様にしてますから」
「……見えちゃって、恥ずかしくないの?」
私が不思議そうに聞くと笑われた。
「これだからお子様は……見えると殿方が喜ぶでしょ? そうすると札が上がるわ?」
「でも、審査員に女性の方もいましたよ?」
「女の審査委員は一人だけだったじゃない」
いや~レイジェス様なんて、おっぱいちら見せだけで退場なのに、それはさすがにまずいでしょっ!
セバスはどうなんだろう? でもエメラダ様のおっぱい見た時すんごい不機嫌な顔してた様な? キャロルの乳首だけじゃなくって、お股の毛まで見たら……うわ~何気にセバスの方が反応が怖い気がしてきた。
「もうちょっとマシな水着に変えられますけど? わたくし着衣の神呪が使えるので」
「私の邪魔をする気?」
キャロルがむっとした顔で腕を組んで私を見下ろす。
「私は優勝を狙っているの!賞金10万ギルとギレス旅行券よ! ゲットしたらセバス様と一緒に旅行に行くわ!」
「え? セバスが行くって言ったのですか?」
「ええ、食事会で私が優勝したら行くとおっしゃったわ?」
「お前が優勝しないと思ったからそう言ったんでしょうに、空気も読めないのかお前は?」
アーリンが嫌味っぽく笑いながら言った。
「やめて、アーリン」
「ですが、姫様……!」
私達が言い合いをしているとスタッフの人が呼びに来た。
なので私達十名は広場のテント前の右に集まっていた。
一人ずつ呼ばれてスリーサイズを発表されて、今度は審査員が点数の札を上げるらしい。1点から10点までの札があり、八名の審査委員が全員満点を出すと80点という計算になる。
1番から中央に行き、右から左までを歩いてまた中央に戻りポーズを取るとそこでスリーサイズが暴露され、あ、じゃなかった発表されて、点数の札が上げられる。
「一番さんのスリーサイズは……バスト88! ウエスト67! ヒップ90!ちょっとお尻が大きな安産体型と言ったところでしょうか? でも素晴らしい括れです! 男からしたら堪りませんね!では審査員の皆様、点数の札をお願いします!」
サーシャがそう言うとぱぱぱぱぱぱっと札が上がった。
「1点、1点、5点、5点、6点、5点、6点、3点、全部で32点! では一番さんはそのまま左に寄ってお待ち下さい!」
レイジェス様もセバスも厳しいなぁ、1点しか上げないなんて……。
私は自分のぽて腹を見た。う~んマイナスされないよね?
そんな感じで審査は進んで、みんな30点前後が多かった。
「では十九番の方、どうぞ~!」
マントを羽織っていたキャロルがテント前中央に行くとマントを外してぽいっと観客席に投げた。すると
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉおおっ!!」」」」」
と轟くような低音の歓声が響いた。おじさん達の熱い唸りだ。
「「「見えるっ! 見えるぞっ!」」」
おじさん達が興奮している。
「「「ピンク色の陰毛じゃああ!」」」
おじさんだけじゃなく、どうやらおじいちゃんも混じっている様だ。
「みなさ~ん! お静かに! これから十九番さんのスリーサイズを発表しま~す!」
「「「うおぉぉ~いいぞおおお!」」」
「まず、バスト~~~!90! ウエスト59! ヒップ~89! なんと見事なボンキュッボンなバディ!さて、優勝は十九番さんか~?」
観客席から「十九番!」コールが始まった。
「凄い人気ですね、アーリン」
「あれは人気でも何でもないですよ、姫様。みんなキャロルの体が目当てなだけです」
「砂時計みたいな体型ですものね、羨ましいわ……」
「私は姫様みたいなちっぱいの方が好きですけどねぇ~」
アーリンがそう言った後に「しまった!」と焦った顔をしたので、私は笑った。
「では審査員の皆様、点数の札をお願いします!」
ぱぱぱぱぱぱっと札が上がった。
レイジェス様とセバスは札を上げてなかった。
「これはどうした事でしょう! 審査委員長である領主様が札を上げません! これでは得点は0点になってしまいます! ああ、そして領主様の執事であるセバスさんも札を上げてません! これも0点ですね! 次に10点、10点、10点、1点、5点、5点、得点は全部で41点! 二名が0点なのが得点が上がらなかった原因ですね! でもこの得点が今の所一位です!」
サーシャはキャロルに左に寄るように言って、キャロルは左に寄ったあと私とアーリンを睨んだ。
「懲りない女だ、腹の立つ……」
アーリンがイライラしているのが伝わってくる。
「まぁまぁ、そんなにカリカリしないの」
「では次は二十番の方~!」
「呼ばれちゃった、行ってきますね、アーリン」
「頑張って! 姫様!」
私はととととっと中央に行った。
「あらまぁ何て可愛らしい苺の水着でしょう! 初々しいですね! では、二十番さんのスリーサイズを発表しま~す!」
サーシャがそう言うと実行委員会の席の方からガタンと音がした。何やらレイジェス様が暴れていて、それをセバスが止めている。
「おおっと、どうやら領主様は婚約者のスリーサイズを皆様に知られたくない様です! だがしかし! 発表しなければいけないルールなのです! 残念ですね、領主様! あ、私のお給料は減らさないで下さいよ? 私はセバスさんに言われて司会をやっているだけですからね!」
サーシャ……これ、後で絶対セバスに叱られちゃうよ? 何やってんだか……。
「ではまず、バストから~! バスト51、ウエスト53、ヒップ52! 見事な寸胴体型です! しかも、胸よりお腹が出ているぽて腹体型です! もう、幼女趣味な殿方には涎物ですね! では審査委員の皆様、点数の札をお願いします!」
もう、寸胴体型とかぽて腹とか、サーシャが私をディスり過ぎる件について。
うん、後で文句を言おう。
「うおおおおお! 10点、10点、10点……全ての審査委員が10点だっ! 全部で80点満点! 優勝は二十番さんです!」
私は目をぱちぱちして審査員席を見た。レイジェス様やセバスはまぁ、身内だから? 分かるけど、他の人までどうして? と思って見ると、審査委員の皆様の私を見る目が熱い……。うん、これ皆さん魅了に掛かってるっぽい。
え? でも女の人まで? 違うよね?
私の疑問に答えるべくサーシャが女性審査委員にマイクを向けた。
「女性の貴方がこの子に10点満点を入れた理由を教えて下さい!」
「だって、私も女よ? 色気満載の男に媚びた格好より、その子自体の可愛らしさを表現した水着の方が良いじゃない? 結局可愛かったのよ、二十番が」
私はそれを聞いてぺこりと頭を下げた。
「では優勝賞金の授与を始めます! 審査委員長こちらへどうぞ!」
サーシャが言うとレイジェス様が賞金10万ギル&副賞ギレス一週間の旅行券と書いてある大きなパネルを持って来て私に渡した。
「優勝おめでとう!」
そう言ってパネルを私に渡した時にほっぺにちゅっとして、小声で言った。
「今すぐその水着を解除しろ!」
レイジェス様を見ると顔はにこやかだけど、全然笑ってる様に見えなかった。
私は速攻で解除の呪文を唱えてドレス姿に戻った。
おおおおっとまわりがどよめく。
「では、2位以下の方達は参加賞のペンを取りに来て下さ~い」
私がほくほくしてるとキャロルが近くに来て言った。
「ずるいわよ! 裏で手を回すなんて!」
「え?」
「どうせ、審査委員にお金でも配ったんでしょ? じゃなきゃ子供が優勝なんてあるわけ無いじゃない!」
「お金なんて配ってません」
アーリンとセバスが私達に寄って来た。
「また絡んでるのか、この馬鹿女が!」
アーリンが罵倒するとセバスは制止した。
「ちょっと待って下さい、姫様の前で何をやってるんです! 君達は!」
「セバス様ぁ~優勝したら私と旅行に行って下さる約束でしたのにぃ、このお方がずるをして、私は優勝出来ませんでした! 仕方ないですから、旅行に行くお金は私が出しますわ?」
キャロルがそう言ってセバスの腕に自分の体を絡めるとセバスは物凄い勢いでそれを払った。
「何を言ってるんです? 貴方は。貴方が優勝するわけ無いじゃないですか、姫様がいるのに」
「え、でも一緒に旅行に行っても良いと……」
「あの時私はゴロ付き共に絡まれてましたよね? 貴方の父上に呼ばれた食事会なのに、一緒に旅行に行くと言わねば暴力を振るうと脅されていたんですよ? そりゃ行きますと言うでしょう。その場ではね」
やっぱりセバスを助けにいくべきだったじゃない! 私は思わずレイジェス様を睨んだ。そうしたらレイジェス様は視線を泳がして、私から目を逸らした。
……まったく。
「で、でも、私の事を愛人にするって言ったじゃないですか!」
「あそこで話した事は全て脅されていたから肯定しただけに過ぎません。それに貴族の約束は全て書類が必要になるのですよ? 愛人になるにも愛人契約が必要です。そんな事さえ知識のない貴方に貴族の愛人など無理ですよ」
「そんなぁ~」
キャロルはスケスケのマイクロビキニのままへたっと石畳の床に崩れ落ちるように座った。
そんな姿を見ると何だか可哀想だなと思ってしまった。
アーリンがセバスと何か話していてセバスが私に近づいて来た。
「同情しなくて結構ですからね? アーリンから報告を受けましたが、相当侮辱された様ですね?」
「侮辱っていうか、意地悪を少し?」
セバスが眼鏡越しに私を薄い目で見る。
「……人が良いのも程ほどにお願いしますよ? 貴方は公爵夫人となられる方なんですからね? 侮辱を受け入れるという事は、アルフォード公爵家が下に見られると言うことになります。下々の者には厳しく接して下さいませ」
「セバスさん、私が後でお仕置きと躾をして置きましょう」
アーリンがそう言うとセバスはにっこりして言った。
「そうですか、では、もう二度と逆らえなくなるように躾けて下さい」
私がげんなりしているとセバスが私のパネルを持った。
「姫様にはこのパネルは大きすぎます。私が預かりますね」
丁度邪魔だな~と思ってたから預かってもらえて助かった。そして二人共実行委員会のテントに戻ったので、私もベンチに戻るとベンチに一緒にいた皆さんにぱちぱちと拍手された。
「美人コンテスト優勝おめでとうございます! やはり、あの中ではアリア様が一番輝いていましたね!」
そうユリウス様が言うけど、大袈裟過ぎる。正直みんな魅了に掛かっていただけだもん。魅了に掛かって無かったら、キャロルじゃないけど、誰も子供なんて選ばないと思う。ああ私、なんだか考え方がちょっと捻くれてる。
まぁ、副賞のギレス帝国旅行が目当てだったんだし、当たったし、良しとしよう!
これでギレス帝国に旅行に行ったついでに米を大量に買える! わーい!
「ゴホン! え~ではコンテスト終了のお知らせをします!以上を持ってコンテストは全て終了です! そして、お知らせが有ります! 夕の5の刻からグレーロック城にてガーデンパーティがあります! 入場料500ギルでワイン飲み放題です! どうぞ皆様お城へお越し下さいませ!」
へ~ガーデンパーティなんてやるんだ~。
今3の刻だからもうちょっと時間があるか。
サーシャが言い終えると皆がばらばらとテントの解体を始めた。そしてレイジェス様とセバスが私達の所に来た。
「もう、テントを仕舞うのですか?」
「ああ、毎年こうだ。あとは灯篭を飛ばして終了だからな」
「へ~」
私は解体されて行くテントや、片付けられる細長いテーブルを見ていた。
すると後ろからひょいっと抱き上げられてびっくりした。
「ああ、これからはアーリンは付いてこなくていいぞ、好きに出店を回れ」
「はっ!」
「さて、行くぞ」
「え?」
「私は色々やる事があるんだ、さっさとリアと遊ばないと時間が無くなる!」
「んん?」
「ようするに、出店を回るぞ? って事だ」
私の顔がぱああっと明るくなった。
「ええ! 行きましょ行きましょ!」
先程も出店をぐるりと回ったけど、食べ物の屋台だけでなく、射的やスライムボール釣りやボール投げとかもあった。
私を縦抱きしたままレイジェス様が歩いていると、紫色の布で覆われた小さな館が目に入った。表の看板には【マドリードの母、占いの館】と書いてあった。
名前が怪しすぎる……。私がその館をじっと見ていると、レイジェス様が興味深げにその館を見だした。
「ふむ、怪しい店だが、入ってみるか?」
「え? ……でも、ぼったくられそうですよ?」
「ぼった? 取り合えず入ろう」
私はレイジェス様に抱っこされたままその館に入った。
館の天井が低いので、レイジェス様は私を降ろして屈んで行った。
店の奥には艶のある紫の占い衣装を着たおばあちゃんが椅子に座っていた。口元も布で覆っていて、目の辺りだけ出している、見るからに怪しいおばあちゃんだ。
そのおばあちゃんの目の前には丸い水晶玉がある。
「何を占える?」
レイジェス様が聞くとおばあちゃんの皺枯れた声で答えた。
「何でも占えるよ?」
「では、私とリアの相性を占ってもらおうか」
え。悪く出たら嫌だな~……父神様は私とレイジェス様は相性が良いって言ってたけど……。
「その子は娘かい?」
「いや、私の婚約者だ」
おばあちゃんが目を丸くした。
「あんたが噂のロリコン領主かい!?」
ロリコン領主って噂になってるんだ~……。
私がレイジェス様を見ると、麗しい顔はぶすっとなって眉間に皺が凄く寄っていた。
「なんとでも好きに言うが良い」
「ほぉ? 随分男らしく言い切ってくれるじゃないか! よし、占おう。あんた達この水晶玉に手を乗っけな。男は左手、女は右手だ」
レイジェス様も私もおばあちゃんに言われた通り水晶玉に手を乗せた。レイジェス様と私の手が重なっている所におばあちゃんが何か呪文をごにょごにょ言うと重なった手から赤い紐がふよふよ現れて水晶玉に消えて行った。
「よし! 分かったよ! 二人の相性は凄く良い、100%が最高として99%って所か」
「おおお!」
レイジェス様が喜ぶとおばあちゃんは続けた。
「だが、数多くの困難や試練が訪れる……それを二人で乗り越えられたなら、あんた達は凄く幸せになれる。運命の二人って事だね」
「もし乗り越えられなかったら?」
私が聞くとおばあちゃんはお手上げのポーズで言った。
「だったら、そこで試合終了だよ、二人は終わりさ」
私がしょんぼりするとレイジェス様が言った。
「リア、何かあっても二人で乗り越えれば良いだけだ」
「そうそう、一人では難しい事も二人でなら解決できるだろ? 簡単な事だよ」
おばあちゃんは笑って言った。
簡単なのかな? でもレイジェス様が幸せになると言われて喜んでいる。
その笑顔を見ると少しほっとした。
私のせいでロリコン領主とか言われているから、ちょっと引け目を感じている自分に気付いた。
占いの料金は100ギルで凄く安かった。こういうのって2000ギル以上かかりそうと思うんだけど、随分親切なお値段だな~ってびっくり、これじゃあ儲からないよ、生活出来るの? おばあちゃんの事がちょっと心配になった。
私達は占いの館を出た後、射的をやった。私の背が届かないので足台をお店の人が貸してくれた。
そして、またしてもこの店でも【ロリコン領主】とレイジェス様は呼ばれた。
「おじさん! 違うから! レイジェス様はロリコンじゃないの!」
「まぁまぁ、お嬢ちゃんみたいな可愛い子だったら、俺でも血迷うと思うからさぁ、俺は理解あるぜ?」
「本当に違うんだってば!」
「もう良い、リア」
レイジェス様は別に怒ってるでもなく、普通の顔をしていた。
「誰にどう言われようと、どうでもいい。私が君を愛してる事に変わりは無い。私の事は気にするな」
「でも、レイジェス様ぁ……」
私が泣きそうな顔になっているとレイジェス様はフッと笑った。
「君だって歳を取るのだから、こういう風に言われるのは君が私の歳に追いつくまでの間だけだ。成人なんてあっという間だ、時の流れは早い」
「さすが領主様! こんな立派な領主様が旦那様になるなんて、お嬢ちゃん良かったね」
「……はい!」
レイジェス様と私は射的で沢山お菓子をゲットした。射的で落とした的の紙箱の中には、飴やら焼き菓子やらが入っていた。店主さんはその菓子箱を大きな袋一つに纏めて入れてくれた。
「えへへ~大漁ですね!」
「まぁ、リアの機嫌が良くなって良かった」
うむむ? いつも機嫌が悪くなって苦労しているのは私の方なのに。
「そろそろ準備しに城に戻るぞ」
「はい」
私がとととっとレイジェス様に付いて行くと遅い、と言われて抱き上げられた。
やっぱり抱き上げられている方がレイジェス様の歩みが速い。
「ねぇねぇ、次は? 何をするの?」
「これからが私の仕事の本番だ」
「ほにょ?」
レイジェス様は私を縦抱きしてお城にスタスタと歩いて行った。城の南口の前庭では、エドアルドがガーデンパーティの準備をしている。セバスやサーシャも手伝っていて、他にも沢山の使用人がテーブルやグラスの準備をしたりしていた。
どうやら立飲みパーティらしい。
セバスがレイジェス様に気付いてこちらへやって来た。
「旦那様、5の刻までに出来ますか?」
「まだ4の刻だ、余裕だな」
「では、ここだと邪魔になるので適当な場所でお願いしますね」
「わかった」
レイジェス様は私を抱っこしたままゲートを開いて北棟の秋桜の間に行った。そしてバルコニーに続く扉を開けて外へ出た。そこで私を降ろすと指で空に何かを書いて放り投げると、空をぐるっと見回し、暫く睨んでいた。
一体何をやっているのか? 謎だ。
空を睨み終わると私と手を繋いでまたゲートを開いて潜ったそこは、南棟のバルコニーだった。レイジェス様はまた空を見て、ぐるっと辺りを睨め回す。さっきと同様暫くその状態でいると、はぁ~っと深呼吸をした。
「終わったぞ」
「え? 何をやっていたのです?」
「ああ、結界を張っていたのだが……あとで説明する」
レイジェス様が私と手を繋いで開いたゲートを潜ると、前庭に出た。
せかせか動いているセバスに話しかけた。
「セバス、結界を張り終えた」
「様子は堀でご覧になるんでしたよね?」
「ああ」
「では何か摘む物を持たせましょう」
セバスは近くにいたサーシャに持ち運び出来る軽食とワインの準備をするように言った。
辺りは大分薄暗くなってきて、前庭の魔石灯が石畳に沿って点灯された。
ふとグレーロック城を見るとお城も魔石灯でライトアップされている。
「ねぇ、レイジェス様、先程は……」
言いかけたらサーシャが籐のピクニックバスケットを持ってきた。中には食べ物やワインの他にお皿やカトラリーの他にグラス、ワインオープナーも入っている。
「お待たせしました、こちらをどうぞ」
サーシャはそのバスケットをレイジェス様に渡した。私がサーシャを見ると、
姫様には重いですからね、と言われた。
「もう、頃合も良いと思うし、私は堀に行くぞ」
「ええ、セバスさんに伝えて置きます」
私はレイジェス様と手を繋いで城の西側の草地を歩いていた。どこに行くかは分からないけど手を引かれて行くので多分目的地が有るんだろうと思う。
少し歩くと湖の様に広い堀が見えて、そこに小さな桟橋が掛かっていて、黒いゴンドラがあった。
「少し坂になってる、気をつけなさい」
桟橋に行く途中の草地が急な坂になっていた。私は転ばないように足を踏ん張りながら歩いた。
レイジェス様は桟橋から突き出た柱に縄で繋いであるゴンドラを引き寄せた。
「押さえているから先に乗って」
そう言われて足を一歩掛けるも、ぐらぐら揺れて怖くて、それ以上進めなくてレイジェス様を見上げると困った様な顔をされてしまった。
「まったく……では、私が先に乗る」
レイジェス様は器用に縄紐をぎゅっと持ちながら船にとん、と乗った。
「ほら、おいで」
左手で縄を押さえているので片手を私に伸ばした。私がその手を取ろうとして近づくと、ぐいっと胴を持って引き寄せられた。
「いつも大胆な癖に、変な所で怖がりだな? 君は」
片手で胴を抱き寄せられたまま答えた。
「怖くないもん、レイジェス様と一緒だし……」
「わかったわかった」
「もぅ!」
抱き上げられながら、わちゃわちゃっとレイジェス様の胸を叩くとグラッとゴンドラが揺れた。
「こら、船の上で暴れるな!」
私は大人しく抱っこされた。
レイジェス様はそっとゴンドラの椅子に座ったあと、左の足元にあった丸いスイッチを足で押した。
するとす~っとゴンドラが動き出した。どうやら自動操縦でゴンドラと呼ばれるこの細長い船は動いているらしい。
空が夕暮れを越えて濃紺色に染まって来た。薄く星がちらちら光って見える。
レイジェス様は空間収納からランタンを出して船の先頭に付けた。
「ゆっくりでいいから向かい側の席に移りなさい」
私は四つん這いになって匍匐前進で向かい側のクッションのある椅子に座った。
意外と座り心地が良い。
私がドレスの皺を直しているとレイジェス様がバスケットから子供用ワインを出してグラスに注いで私に渡した。そのあと紙袋に包まれた玉子サンドも渡された。
レイジェス様も自分のワイングラスを出して大人用のワインを注ぐ。
そして、すっと私の目の前にグラスを出した。
私もグラスを出して、二つのグラスが重なってカチンと音を鳴らす。
「「乾杯!」」
私もレイジェス様も一口ごくんと飲んでから、ふぅ~~っと言った。
お互い顔を見合わせて笑う。
「さっきしていたのは?」
「ああ、説明すると言ったな、結界を町の天空に張っていた」
「結界? 何のために?」
「灯篭を飛ばすのは意外と危険なのだ。昔は落ちてきた灯篭で森が火事になったり、人が怪我をしたりした。なので祖父の代から天空に結界を張る事にした。もし、灯篭が落ちてきても町や森に落ちないように、その結界内で落下する灯篭を塵となる様に魔法陣を組み込んだ」
「へ~事故が起きないようにするのは良い事ですね。でも空を見ても何もありませんね? 結界って目に見えないんですか?」
「これから灯篭を空に飛ばしてその美しさを観覧しようと言う時に、空一面に魔方陣があっては見え難いだろうが……。だから不可視化している」
あ、そうか。私がへ~と感心したように言うと、レイジェス様はこめかみを押さえていた。
「まだ飛ばすまで時間があるな……不可視化の魔法をちょっと解こう」
レイジェス様は杖なんか必要ないと言うだけあって、空を見ただけで不可視化の魔法が解けた様だ。薄い金色の発光した丸い線が幾つも重なり合った魔方陣が、天空一杯に埋め尽くされていた。1個1個の魔方陣に文字が書き込んである。そんなのが町の空一面を覆うように、隅々まで空が埋め尽くされているのを見ると圧巻だ。
私は口を開けて空を見ていた。
「……レイジェス様って……凄いんですね」
これだけの魔方陣を天空に展開するって、どんだけMPが必要なんだろう? 普通の人じゃ無理だよね……。
「……少しは……、私の事を見直してくれたか?」
「ええ! 凄いです!」
レイジェス様が笑って瞬きすると、不可視化の魔法を元に戻したのか、空は普通に夕闇に飲まれていた。
今のって瞬きで不可視化の魔法を掛けたって事だよね? いくら無媒体魔法持ちでも、そんな事出来るんだ?
私は飲みかけだったワインをぐいっと飲み干して紙に包まれた玉子サンドを食べた。
レイジェス様もバスケットから玉子サンドを出して食べている。
ゴンドラはゆっくりと城の南門に向かって進んで、町ではぽつぽつと明かりが点き始めた。小さな町の夜景、堀の水面がそれを反射する。
「もうそろそろか? さっき行った南のバルコニーがあるだろう? あそこから、セバスが自分の灯篭を飛ばす。それを合図に一斉に飛ばすから、そろそろ用意しておこう」
レイジェス様は空間収納から私と自分の灯篭を出して、目の前に置いた。
「リアにも火を点けなさいと言いたい所だが、君の火は全てを燃やし尽くしそうだ、私が点けよう」
黒いうさぎの絵がある灯篭に先に火を点け、私に渡したあと、自分の白いうさぎの灯篭に火を点ける。
レイジェス様がお城を見上げると南のバルコニーから灯篭が一つ飛び立った。
ふわりと夜空に舞い上がって行く柔らかい灯り。
「セバスの灯篭が飛び立った。ほら、一斉に舞い上がるぞ」
辺りを見るとお城の前庭から、町の広場から、各自の家から次々に灯篭が夜空に舞い上がり飛び立って行く。天鵞絨の様な濃紺の夜空にオレンジ色の温かみのある光が幾千と散らばり、それは堀の水面に映り込み、永遠に続く天の川の様にも見えた。
「いつまでも見ていないで、私達の灯篭も飛ばすぞ?」
「あ、はい。あんまり綺麗過ぎて見入ってしまいました」
灯篭を手に持ったあと、私とレイジェス様はお互い目を合わせて言った。
「「せーのっ!」」
二人一緒に手を離した灯篭はゆっくりと手から離れ舞い上がる。仲良く夜空を飛んでいく白いうさぎと黒いうさぎの灯篭。
それは大きな光の塊りの一部となって、もうどれが私の物だか分からない。
でも、二つの灯篭はきっとあのどこかに一緒に漂っている。
光はどんどん舞い上がって遠くに飛んで行った。
「……とても綺麗ですね」
「ああ……綺麗だ」
レイジェス様はまだ空を見上げていた。
コンテストの出場者は二十名ほどで、皆そこに待機していた。
ふぃに声を掛けられた。
「アリア様ですよね?」
振り向くと町長さんの娘さんがいた。薄桃色の髪を揺らしている。
「えっと……」
娘さんは微笑んだ。
「私はキャロル=ファーナービー、15歳よ。昨日挨拶をしようと思ったら、席を立たれましたからね」
「あ、昨日は失礼しました。多分、お兄様ですよね? あの方が魅了されていたので、わたくしはもうお部屋を出た方が良いと思いましたの」
「ええ、お食事会の時、セバス様に聞いたわ、【無自覚の魅了】とかいう変な特殊スキルをお持ちだそうで?」
なんだろう? 見た目ふわふわな甘い感じなのに、言葉遣いが一々棘とげしい感じがするのは気のせいか?
「此処にいると言うことは、キャロルさんも出場なさるの?」
「それは、私の方こそ言いたい言葉です、子供なのに出るおつもりですか?」
「う、受付では良いですよって言われましたもん」
キャロルは、あはははと乾いた笑いをした。
「アリア様がいなければ、私はレイジェス様の愛人になれたのにねぇ?」
私はむっとした。
レイジェス様は私の事が大好きだもん、キャロルが可愛い系でふわ甘女子でも振り向かないもん!
そのやり取りを見ていたアーリンが口を挟んだ。
「キャロル、公爵様は幼女趣味だ。お前には靡かない」
「アーリン、レイジェス様は幼女趣味じゃないってば!」
私がアーリンに抗議するとその手で制止された。
「まぁ、いいけど、だって私、レイジェス様より、セバス様の方が好みですから。優しくて、クールでストイックな感じ、堪らないわ! あそこの蜜が滴っちゃう! 早く私を愛人して欲しい! ああ、……あの方の肉棒で突き上げられたいわ!」
私はアーリンに両耳を押さえられた。
「貴様! 何て下品な事を姫様の前で言うんだっ! 恥を知れ! 恥を!」
私は耳を塞がれているのでアーリンが何を言ってるか分からない。
アーリンの両手に力を込めて外そうとするけど、アーリンが抵抗して押さえていようとする。
「あら、護衛騎士さんはウブね? まだ蜜花をお持ちなのでしょうか? そんな物は早く散らした方がいいわよ? 大体あなたいくつ? もうおばさんじゃない、いつまで後生大事にその花を咲かせているの?」
「このクソ女がっ! 犯すぞ!」
「あらあら、怖い護衛騎士さんですこと、でも残念ね、あなたには橘が無いわ?」
アーリンが険しい顔で何か言い返しているけど、私には聞こえなくて、しかも、アーリンに押さえられているし、どうしたらいいか分からなかった。
「アリア様もうちのお兄様にして貰えばいいのにね」
「……何だと?」
アーリンの表情が変わった。
「うちのお兄様の橘は凄くいいの。私はそれで女になったのよ?」
「は? キャロル、貴方は実の兄と致したと言うんですか?」
「ええ、そうよ? プリストン王国では蜜花を守る法律はあるけど、兄妹で閨事をしてはいけないなんて言う法律は無いわ? まぁ、結婚は出来ませんけどね」
「法律で禁止してなくてもタブーってもんがあるでしょう? それが分からないなら犬畜生以下だ」
「なんと言われても、どうでもいいわ? だって気持ち良ければ、それでいいじゃない? あなたもうちの兄にしてもらう? 護衛騎士さん?」
アーリンは舌打ちをして言った。
「悪いが、私は蜜花持ちじゃないからね? あと、口の利き方は相手を選んでするんだな、貴様の姫様や私に対する侮辱は忘れない。今は姫様がいるから許すが……次会った時は許さない。覚悟しておけ雌豚!」
「ふん!」
アーリンが何か言い放ったあと、キャロルは別の出場者の所に行った。
私は耳栓を解除して貰えたけど、アーリンが渋い顔をしている。
「どうしたの? アーリン、何か嫌な事でも言われちゃった? 大丈夫?」
アーリンは屈んで私の頭を撫でた。
「私の心配などしなくても良いのに……大丈夫ですよ、何ともありません」
暫くすると実行委員会のスタッフさんが来て、皆出て下さいと呼ばれた。
二十人全員に一番から二十番の数字が書かれた丸い胸札が配られて、それを付けるように言われた。キャロルは十九番で、私は二十番で最後だった。
実行委員会のテント前で一人ひとり自己紹介や自己アピールをしている。
順番待ちの人達は右端に集まって一塊になっていた。
自己アピールは歌ったり、踊ったりが多い。中には一人演劇や横笛を持って来て演奏している子もいた。そして十九番、キャロルの名前が呼ばれて、キャロルは中央に出て縄紐を取り出した。
「あの女、何をするつもりだ?」
アーリンが眉間に皺を寄せた。
キャロルは縄紐を後ろから廻して両手に持った。
「……あれはもしかして……縄跳び!?」
こんな場で縄跳び? 体力測定じゃあるまいし……と思ったら、ベンチに座っていた男性客達の視線がその胸元に釘付けになっていた。
キャロルは平民で、私の様なドレスは着ていない。膝下少し越えたぐらいの長さのスカートのワンピースで、ボディスがぎゅっと締められていて胸元の谷間がぷるんぷるんと揺れる。足元も縄紐を飛ぶたびに何故か下着を履いてないのでちらちらとお股の薄桃色の毛が見え隠れする。
こんなだもん、そりゃベンチ側の男性の視線は釘付けになるでしょう。
ちなみに、レイジェス様やセバスがいる所からは見えないけど、ユリウス様やコモン様には丸見えなんだろうな~と思ってしまった。
「姑息な手段をっ!」
アーリンが悔しそうな顔をして、吐き捨てるように言った。
「姫様も縄跳びをしましょう!」
アーリンが真面目な顔で言うけど、私のちっぱいじゃ揺れませんてば。
ドレスの裾も長くて、縄跳びなんてしたら転んじゃうし、子供が縄跳びしてもね?
全然色気が無いと思うんです。
「わたくしは普通に歌を歌います」
「……そうですか」
私の縄跳び姿が見たかったのか、アーリンは残念そうな顔をした。
「はい、次の方! 二十番、アリア=アズライル様8歳で~す!どうぞ!」
私は呼ばれたのでとととっとサーシャのいる中央に行った。
そして、優雅に淑女を挨拶をする。姿勢はまっすぐ、ふんわりとドレスを摘むように持つ。そして令嬢の微笑み! ってハンナ先生が言ってた。これはセットでするんですよって。
「アリア様は領主様の婚約者様で女神で~す! では姫様! あ、じゃなかった、アリア様、自己紹介をどうぞ!」
スタッフの人が低めに設定してくれたスタンドマイクで私は自己紹介をした。
「皆様こんにちは、アリア=アズライル8歳です。今日はこのようなイベントに出るのが初めてで、凄くどきどきしています。自己アピールではわたくしの作曲した歌を歌いたいと思います。皆さんよろしくお願いします」
私はここで両手で投げキッスをした。そして両手を挙げて手を振る。
するとユリウス様が立って手を振っているのが見えた。皆座ってるので凄い目だってる。何だか可笑しくなってしまって、私は笑った。
「音楽を奏でる魔道具はありませんが、どうしましょうか?」
とサーシャが言う。
「いらないわ。アカペラで歌うから」
サーシャが頷き、左横へ下がったので私は深呼吸した。
私は【夜空の星に願いを込めて】という曲を歌った。
これは女神マティオン様が降臨した時に二曲目に歌った曲だ。
しんみりした感じの静かな曲でアカペラに合う。
あの時はマティオン様のオーケストラで歌ったけどね。
私が歌い出すとすぐに空から花が降って来た。ベンチに座っている観客の人達がざわざわとざわめいた。
私が歌い終わる頃には、石畳の広場は薄桃色のプルメリアに埋め尽くされていた。
そして広場に拍手が響いた。
「はい、皆さん! 慌てないで下さいね~、その花は触れると光の泡になって消えますから! 片付けなくても結構ですよ~!」
サーシャがそう言うと花を蹴ったおじさんが、本当に光の泡になったのを見て驚いていた。私がそのおじさんに微笑えむと、おじさんは照れてぺこっと頭を下げた。
「では出場者の一番から十番までの方は左に寄ってください。十一番から二十番までの方は右に寄って下さい。これから第一次審査の結果を発表します!こちらの実行委員会の八名の審査委員がこの出場者の中から第二次審査へ進む十名を選びます! 審査委員が番号札を上げた方が第二次審査へ進めますからね!よ~く見て下さいね!……では、審査員の方々、札を上げちゃって下さい!!」
審査委員はレイジェス様、セバス、町長さん、知らないおじさん二人と知らないおばさん一人、そして町長さんの息子さん(何故か)と20代中盤位の男の人の八名だった。その人達がぱぱぱぱっと数字の書いてある札を上げていく。
私にはレイジェス様、セバス、町長さんの息子さんの3票が入った。町長さんと知らないおじさん二人はキャロルに入れているからキャロルも三票。知らないおばさんは十二番の女の子に、20代の男の人は三番の女の子に入れていた。
「これはどうした事でしょう! 票が偏ってしまっています! ではこの4人は勝ちぬけで、あと6名選んで貰いましょう!」
レイジェス様とセバスが何か話し合っている。
「では、いきますよ? 審査委員の皆様、札を上げて下さい!」
レイジェス様とセバスは札を上げなかった。町長さんは一番を、知らないおじさん二人は五番と六番を、知らないおばさんは九番を、町長の息子さんは十四番を、20代の男の人は十七番を上げた。
「では、今上げられた札の、一番、五番、六番、九番、十四番、十七番は合格です! 先程の三番、十二番、十九番、二十番の方達と共に第二次審査で戦って頂きます! ではお着替えターイム! 出場者の方達は控え室で着替えをお願いしますね~!」
不合格者はサーシャから参加賞のペンを受け取ってベンチの席の方へ散らばった。私達合格者は簡素住宅の控え室に行った。
「あはははっ! アリア様みたいなお子様も残れたのですね」
嫌味っぽくキャロルに言われた。
この人、なんでこんなに突っかかってくるんだろう? 私何かした? まぁ、最初に出会った時に不躾な態度取っちゃったけど、そこまで目の仇みたいにされる程酷い事してないつもりだけどなぁ……だって、あの時私が応接室から出ないとお兄さんが魅了されておかしくなってたかも知れないんだよ? って言っても信じられないかぁ……。
「雌豚! 姫様に話しかけるな! 穢れる!」
アーリンがキャロルの態度に怒って牽制する。
「まぁまぁ、アーリン。ねぇ、キャロル、貴方は何故そんなにわたくしにきつく当たるの?」
「……別に、きつく当たってなんかないわ」
「そうですか……」
し~んとしてしまった。いけない事でも聞いちゃった?
三すくみ状態になっていると皆さんもう水着に着替え終わっていた。私も慌てて水着に着替えようとするけど、デザインどうしよう? 皆ビキニの上下で色っぽい格好しているけど、私のこのちっぱいじゃね……?
自分の胸を見て唸っているとアーリンが言った。
「皆さん色っぽい感じですけど、姫様は可愛らしいので良いんじゃないですか? 逆に目立つと思いますよ?」
「そぉ?」
私は苺の模様のフリルが4段になって重なっているチューブトップのブラと下もフリルが4段になっているパンティにしてみた。チューブトップは細いネックホルダーの紐が付いていて首の後ろでリボン結びになっている。
可愛いけど、お腹がぽてっとして見えるのが難か。
なんせ私、胸よりお腹が出てる……子供だから仕方ないよねー。
さっきイカ焼き食べたしねー。
「こんなのどう? アーリン」
「ふぁああああ! 可愛らしいです! 尊すぎます! 眩しいです!」
お腹が出てるのに、そんな風に褒めてくれるなんて、アーリンて優しいなぁ。
ふと見ると、キャロルも水着に着替え終わっていた。
その姿は凄かった。
薄い白いレースで出来たマイクロビキニだった……。どう頑張らなくても乳首もお股の毛も見えちゃってた。
「あ、あの、その格好で出場するのっ!?」
「ええ、そうよ? 何か問題でもある?」
「問題でしょ? それって見えちゃってるわ?」
「ええ、わざと見える様にしてますから」
「……見えちゃって、恥ずかしくないの?」
私が不思議そうに聞くと笑われた。
「これだからお子様は……見えると殿方が喜ぶでしょ? そうすると札が上がるわ?」
「でも、審査員に女性の方もいましたよ?」
「女の審査委員は一人だけだったじゃない」
いや~レイジェス様なんて、おっぱいちら見せだけで退場なのに、それはさすがにまずいでしょっ!
セバスはどうなんだろう? でもエメラダ様のおっぱい見た時すんごい不機嫌な顔してた様な? キャロルの乳首だけじゃなくって、お股の毛まで見たら……うわ~何気にセバスの方が反応が怖い気がしてきた。
「もうちょっとマシな水着に変えられますけど? わたくし着衣の神呪が使えるので」
「私の邪魔をする気?」
キャロルがむっとした顔で腕を組んで私を見下ろす。
「私は優勝を狙っているの!賞金10万ギルとギレス旅行券よ! ゲットしたらセバス様と一緒に旅行に行くわ!」
「え? セバスが行くって言ったのですか?」
「ええ、食事会で私が優勝したら行くとおっしゃったわ?」
「お前が優勝しないと思ったからそう言ったんでしょうに、空気も読めないのかお前は?」
アーリンが嫌味っぽく笑いながら言った。
「やめて、アーリン」
「ですが、姫様……!」
私達が言い合いをしているとスタッフの人が呼びに来た。
なので私達十名は広場のテント前の右に集まっていた。
一人ずつ呼ばれてスリーサイズを発表されて、今度は審査員が点数の札を上げるらしい。1点から10点までの札があり、八名の審査委員が全員満点を出すと80点という計算になる。
1番から中央に行き、右から左までを歩いてまた中央に戻りポーズを取るとそこでスリーサイズが暴露され、あ、じゃなかった発表されて、点数の札が上げられる。
「一番さんのスリーサイズは……バスト88! ウエスト67! ヒップ90!ちょっとお尻が大きな安産体型と言ったところでしょうか? でも素晴らしい括れです! 男からしたら堪りませんね!では審査員の皆様、点数の札をお願いします!」
サーシャがそう言うとぱぱぱぱぱぱっと札が上がった。
「1点、1点、5点、5点、6点、5点、6点、3点、全部で32点! では一番さんはそのまま左に寄ってお待ち下さい!」
レイジェス様もセバスも厳しいなぁ、1点しか上げないなんて……。
私は自分のぽて腹を見た。う~んマイナスされないよね?
そんな感じで審査は進んで、みんな30点前後が多かった。
「では十九番の方、どうぞ~!」
マントを羽織っていたキャロルがテント前中央に行くとマントを外してぽいっと観客席に投げた。すると
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉおおっ!!」」」」」
と轟くような低音の歓声が響いた。おじさん達の熱い唸りだ。
「「「見えるっ! 見えるぞっ!」」」
おじさん達が興奮している。
「「「ピンク色の陰毛じゃああ!」」」
おじさんだけじゃなく、どうやらおじいちゃんも混じっている様だ。
「みなさ~ん! お静かに! これから十九番さんのスリーサイズを発表しま~す!」
「「「うおぉぉ~いいぞおおお!」」」
「まず、バスト~~~!90! ウエスト59! ヒップ~89! なんと見事なボンキュッボンなバディ!さて、優勝は十九番さんか~?」
観客席から「十九番!」コールが始まった。
「凄い人気ですね、アーリン」
「あれは人気でも何でもないですよ、姫様。みんなキャロルの体が目当てなだけです」
「砂時計みたいな体型ですものね、羨ましいわ……」
「私は姫様みたいなちっぱいの方が好きですけどねぇ~」
アーリンがそう言った後に「しまった!」と焦った顔をしたので、私は笑った。
「では審査員の皆様、点数の札をお願いします!」
ぱぱぱぱぱぱっと札が上がった。
レイジェス様とセバスは札を上げてなかった。
「これはどうした事でしょう! 審査委員長である領主様が札を上げません! これでは得点は0点になってしまいます! ああ、そして領主様の執事であるセバスさんも札を上げてません! これも0点ですね! 次に10点、10点、10点、1点、5点、5点、得点は全部で41点! 二名が0点なのが得点が上がらなかった原因ですね! でもこの得点が今の所一位です!」
サーシャはキャロルに左に寄るように言って、キャロルは左に寄ったあと私とアーリンを睨んだ。
「懲りない女だ、腹の立つ……」
アーリンがイライラしているのが伝わってくる。
「まぁまぁ、そんなにカリカリしないの」
「では次は二十番の方~!」
「呼ばれちゃった、行ってきますね、アーリン」
「頑張って! 姫様!」
私はととととっと中央に行った。
「あらまぁ何て可愛らしい苺の水着でしょう! 初々しいですね! では、二十番さんのスリーサイズを発表しま~す!」
サーシャがそう言うと実行委員会の席の方からガタンと音がした。何やらレイジェス様が暴れていて、それをセバスが止めている。
「おおっと、どうやら領主様は婚約者のスリーサイズを皆様に知られたくない様です! だがしかし! 発表しなければいけないルールなのです! 残念ですね、領主様! あ、私のお給料は減らさないで下さいよ? 私はセバスさんに言われて司会をやっているだけですからね!」
サーシャ……これ、後で絶対セバスに叱られちゃうよ? 何やってんだか……。
「ではまず、バストから~! バスト51、ウエスト53、ヒップ52! 見事な寸胴体型です! しかも、胸よりお腹が出ているぽて腹体型です! もう、幼女趣味な殿方には涎物ですね! では審査委員の皆様、点数の札をお願いします!」
もう、寸胴体型とかぽて腹とか、サーシャが私をディスり過ぎる件について。
うん、後で文句を言おう。
「うおおおおお! 10点、10点、10点……全ての審査委員が10点だっ! 全部で80点満点! 優勝は二十番さんです!」
私は目をぱちぱちして審査員席を見た。レイジェス様やセバスはまぁ、身内だから? 分かるけど、他の人までどうして? と思って見ると、審査委員の皆様の私を見る目が熱い……。うん、これ皆さん魅了に掛かってるっぽい。
え? でも女の人まで? 違うよね?
私の疑問に答えるべくサーシャが女性審査委員にマイクを向けた。
「女性の貴方がこの子に10点満点を入れた理由を教えて下さい!」
「だって、私も女よ? 色気満載の男に媚びた格好より、その子自体の可愛らしさを表現した水着の方が良いじゃない? 結局可愛かったのよ、二十番が」
私はそれを聞いてぺこりと頭を下げた。
「では優勝賞金の授与を始めます! 審査委員長こちらへどうぞ!」
サーシャが言うとレイジェス様が賞金10万ギル&副賞ギレス一週間の旅行券と書いてある大きなパネルを持って来て私に渡した。
「優勝おめでとう!」
そう言ってパネルを私に渡した時にほっぺにちゅっとして、小声で言った。
「今すぐその水着を解除しろ!」
レイジェス様を見ると顔はにこやかだけど、全然笑ってる様に見えなかった。
私は速攻で解除の呪文を唱えてドレス姿に戻った。
おおおおっとまわりがどよめく。
「では、2位以下の方達は参加賞のペンを取りに来て下さ~い」
私がほくほくしてるとキャロルが近くに来て言った。
「ずるいわよ! 裏で手を回すなんて!」
「え?」
「どうせ、審査委員にお金でも配ったんでしょ? じゃなきゃ子供が優勝なんてあるわけ無いじゃない!」
「お金なんて配ってません」
アーリンとセバスが私達に寄って来た。
「また絡んでるのか、この馬鹿女が!」
アーリンが罵倒するとセバスは制止した。
「ちょっと待って下さい、姫様の前で何をやってるんです! 君達は!」
「セバス様ぁ~優勝したら私と旅行に行って下さる約束でしたのにぃ、このお方がずるをして、私は優勝出来ませんでした! 仕方ないですから、旅行に行くお金は私が出しますわ?」
キャロルがそう言ってセバスの腕に自分の体を絡めるとセバスは物凄い勢いでそれを払った。
「何を言ってるんです? 貴方は。貴方が優勝するわけ無いじゃないですか、姫様がいるのに」
「え、でも一緒に旅行に行っても良いと……」
「あの時私はゴロ付き共に絡まれてましたよね? 貴方の父上に呼ばれた食事会なのに、一緒に旅行に行くと言わねば暴力を振るうと脅されていたんですよ? そりゃ行きますと言うでしょう。その場ではね」
やっぱりセバスを助けにいくべきだったじゃない! 私は思わずレイジェス様を睨んだ。そうしたらレイジェス様は視線を泳がして、私から目を逸らした。
……まったく。
「で、でも、私の事を愛人にするって言ったじゃないですか!」
「あそこで話した事は全て脅されていたから肯定しただけに過ぎません。それに貴族の約束は全て書類が必要になるのですよ? 愛人になるにも愛人契約が必要です。そんな事さえ知識のない貴方に貴族の愛人など無理ですよ」
「そんなぁ~」
キャロルはスケスケのマイクロビキニのままへたっと石畳の床に崩れ落ちるように座った。
そんな姿を見ると何だか可哀想だなと思ってしまった。
アーリンがセバスと何か話していてセバスが私に近づいて来た。
「同情しなくて結構ですからね? アーリンから報告を受けましたが、相当侮辱された様ですね?」
「侮辱っていうか、意地悪を少し?」
セバスが眼鏡越しに私を薄い目で見る。
「……人が良いのも程ほどにお願いしますよ? 貴方は公爵夫人となられる方なんですからね? 侮辱を受け入れるという事は、アルフォード公爵家が下に見られると言うことになります。下々の者には厳しく接して下さいませ」
「セバスさん、私が後でお仕置きと躾をして置きましょう」
アーリンがそう言うとセバスはにっこりして言った。
「そうですか、では、もう二度と逆らえなくなるように躾けて下さい」
私がげんなりしているとセバスが私のパネルを持った。
「姫様にはこのパネルは大きすぎます。私が預かりますね」
丁度邪魔だな~と思ってたから預かってもらえて助かった。そして二人共実行委員会のテントに戻ったので、私もベンチに戻るとベンチに一緒にいた皆さんにぱちぱちと拍手された。
「美人コンテスト優勝おめでとうございます! やはり、あの中ではアリア様が一番輝いていましたね!」
そうユリウス様が言うけど、大袈裟過ぎる。正直みんな魅了に掛かっていただけだもん。魅了に掛かって無かったら、キャロルじゃないけど、誰も子供なんて選ばないと思う。ああ私、なんだか考え方がちょっと捻くれてる。
まぁ、副賞のギレス帝国旅行が目当てだったんだし、当たったし、良しとしよう!
これでギレス帝国に旅行に行ったついでに米を大量に買える! わーい!
「ゴホン! え~ではコンテスト終了のお知らせをします!以上を持ってコンテストは全て終了です! そして、お知らせが有ります! 夕の5の刻からグレーロック城にてガーデンパーティがあります! 入場料500ギルでワイン飲み放題です! どうぞ皆様お城へお越し下さいませ!」
へ~ガーデンパーティなんてやるんだ~。
今3の刻だからもうちょっと時間があるか。
サーシャが言い終えると皆がばらばらとテントの解体を始めた。そしてレイジェス様とセバスが私達の所に来た。
「もう、テントを仕舞うのですか?」
「ああ、毎年こうだ。あとは灯篭を飛ばして終了だからな」
「へ~」
私は解体されて行くテントや、片付けられる細長いテーブルを見ていた。
すると後ろからひょいっと抱き上げられてびっくりした。
「ああ、これからはアーリンは付いてこなくていいぞ、好きに出店を回れ」
「はっ!」
「さて、行くぞ」
「え?」
「私は色々やる事があるんだ、さっさとリアと遊ばないと時間が無くなる!」
「んん?」
「ようするに、出店を回るぞ? って事だ」
私の顔がぱああっと明るくなった。
「ええ! 行きましょ行きましょ!」
先程も出店をぐるりと回ったけど、食べ物の屋台だけでなく、射的やスライムボール釣りやボール投げとかもあった。
私を縦抱きしたままレイジェス様が歩いていると、紫色の布で覆われた小さな館が目に入った。表の看板には【マドリードの母、占いの館】と書いてあった。
名前が怪しすぎる……。私がその館をじっと見ていると、レイジェス様が興味深げにその館を見だした。
「ふむ、怪しい店だが、入ってみるか?」
「え? ……でも、ぼったくられそうですよ?」
「ぼった? 取り合えず入ろう」
私はレイジェス様に抱っこされたままその館に入った。
館の天井が低いので、レイジェス様は私を降ろして屈んで行った。
店の奥には艶のある紫の占い衣装を着たおばあちゃんが椅子に座っていた。口元も布で覆っていて、目の辺りだけ出している、見るからに怪しいおばあちゃんだ。
そのおばあちゃんの目の前には丸い水晶玉がある。
「何を占える?」
レイジェス様が聞くとおばあちゃんの皺枯れた声で答えた。
「何でも占えるよ?」
「では、私とリアの相性を占ってもらおうか」
え。悪く出たら嫌だな~……父神様は私とレイジェス様は相性が良いって言ってたけど……。
「その子は娘かい?」
「いや、私の婚約者だ」
おばあちゃんが目を丸くした。
「あんたが噂のロリコン領主かい!?」
ロリコン領主って噂になってるんだ~……。
私がレイジェス様を見ると、麗しい顔はぶすっとなって眉間に皺が凄く寄っていた。
「なんとでも好きに言うが良い」
「ほぉ? 随分男らしく言い切ってくれるじゃないか! よし、占おう。あんた達この水晶玉に手を乗っけな。男は左手、女は右手だ」
レイジェス様も私もおばあちゃんに言われた通り水晶玉に手を乗せた。レイジェス様と私の手が重なっている所におばあちゃんが何か呪文をごにょごにょ言うと重なった手から赤い紐がふよふよ現れて水晶玉に消えて行った。
「よし! 分かったよ! 二人の相性は凄く良い、100%が最高として99%って所か」
「おおお!」
レイジェス様が喜ぶとおばあちゃんは続けた。
「だが、数多くの困難や試練が訪れる……それを二人で乗り越えられたなら、あんた達は凄く幸せになれる。運命の二人って事だね」
「もし乗り越えられなかったら?」
私が聞くとおばあちゃんはお手上げのポーズで言った。
「だったら、そこで試合終了だよ、二人は終わりさ」
私がしょんぼりするとレイジェス様が言った。
「リア、何かあっても二人で乗り越えれば良いだけだ」
「そうそう、一人では難しい事も二人でなら解決できるだろ? 簡単な事だよ」
おばあちゃんは笑って言った。
簡単なのかな? でもレイジェス様が幸せになると言われて喜んでいる。
その笑顔を見ると少しほっとした。
私のせいでロリコン領主とか言われているから、ちょっと引け目を感じている自分に気付いた。
占いの料金は100ギルで凄く安かった。こういうのって2000ギル以上かかりそうと思うんだけど、随分親切なお値段だな~ってびっくり、これじゃあ儲からないよ、生活出来るの? おばあちゃんの事がちょっと心配になった。
私達は占いの館を出た後、射的をやった。私の背が届かないので足台をお店の人が貸してくれた。
そして、またしてもこの店でも【ロリコン領主】とレイジェス様は呼ばれた。
「おじさん! 違うから! レイジェス様はロリコンじゃないの!」
「まぁまぁ、お嬢ちゃんみたいな可愛い子だったら、俺でも血迷うと思うからさぁ、俺は理解あるぜ?」
「本当に違うんだってば!」
「もう良い、リア」
レイジェス様は別に怒ってるでもなく、普通の顔をしていた。
「誰にどう言われようと、どうでもいい。私が君を愛してる事に変わりは無い。私の事は気にするな」
「でも、レイジェス様ぁ……」
私が泣きそうな顔になっているとレイジェス様はフッと笑った。
「君だって歳を取るのだから、こういう風に言われるのは君が私の歳に追いつくまでの間だけだ。成人なんてあっという間だ、時の流れは早い」
「さすが領主様! こんな立派な領主様が旦那様になるなんて、お嬢ちゃん良かったね」
「……はい!」
レイジェス様と私は射的で沢山お菓子をゲットした。射的で落とした的の紙箱の中には、飴やら焼き菓子やらが入っていた。店主さんはその菓子箱を大きな袋一つに纏めて入れてくれた。
「えへへ~大漁ですね!」
「まぁ、リアの機嫌が良くなって良かった」
うむむ? いつも機嫌が悪くなって苦労しているのは私の方なのに。
「そろそろ準備しに城に戻るぞ」
「はい」
私がとととっとレイジェス様に付いて行くと遅い、と言われて抱き上げられた。
やっぱり抱き上げられている方がレイジェス様の歩みが速い。
「ねぇねぇ、次は? 何をするの?」
「これからが私の仕事の本番だ」
「ほにょ?」
レイジェス様は私を縦抱きしてお城にスタスタと歩いて行った。城の南口の前庭では、エドアルドがガーデンパーティの準備をしている。セバスやサーシャも手伝っていて、他にも沢山の使用人がテーブルやグラスの準備をしたりしていた。
どうやら立飲みパーティらしい。
セバスがレイジェス様に気付いてこちらへやって来た。
「旦那様、5の刻までに出来ますか?」
「まだ4の刻だ、余裕だな」
「では、ここだと邪魔になるので適当な場所でお願いしますね」
「わかった」
レイジェス様は私を抱っこしたままゲートを開いて北棟の秋桜の間に行った。そしてバルコニーに続く扉を開けて外へ出た。そこで私を降ろすと指で空に何かを書いて放り投げると、空をぐるっと見回し、暫く睨んでいた。
一体何をやっているのか? 謎だ。
空を睨み終わると私と手を繋いでまたゲートを開いて潜ったそこは、南棟のバルコニーだった。レイジェス様はまた空を見て、ぐるっと辺りを睨め回す。さっきと同様暫くその状態でいると、はぁ~っと深呼吸をした。
「終わったぞ」
「え? 何をやっていたのです?」
「ああ、結界を張っていたのだが……あとで説明する」
レイジェス様が私と手を繋いで開いたゲートを潜ると、前庭に出た。
せかせか動いているセバスに話しかけた。
「セバス、結界を張り終えた」
「様子は堀でご覧になるんでしたよね?」
「ああ」
「では何か摘む物を持たせましょう」
セバスは近くにいたサーシャに持ち運び出来る軽食とワインの準備をするように言った。
辺りは大分薄暗くなってきて、前庭の魔石灯が石畳に沿って点灯された。
ふとグレーロック城を見るとお城も魔石灯でライトアップされている。
「ねぇ、レイジェス様、先程は……」
言いかけたらサーシャが籐のピクニックバスケットを持ってきた。中には食べ物やワインの他にお皿やカトラリーの他にグラス、ワインオープナーも入っている。
「お待たせしました、こちらをどうぞ」
サーシャはそのバスケットをレイジェス様に渡した。私がサーシャを見ると、
姫様には重いですからね、と言われた。
「もう、頃合も良いと思うし、私は堀に行くぞ」
「ええ、セバスさんに伝えて置きます」
私はレイジェス様と手を繋いで城の西側の草地を歩いていた。どこに行くかは分からないけど手を引かれて行くので多分目的地が有るんだろうと思う。
少し歩くと湖の様に広い堀が見えて、そこに小さな桟橋が掛かっていて、黒いゴンドラがあった。
「少し坂になってる、気をつけなさい」
桟橋に行く途中の草地が急な坂になっていた。私は転ばないように足を踏ん張りながら歩いた。
レイジェス様は桟橋から突き出た柱に縄で繋いであるゴンドラを引き寄せた。
「押さえているから先に乗って」
そう言われて足を一歩掛けるも、ぐらぐら揺れて怖くて、それ以上進めなくてレイジェス様を見上げると困った様な顔をされてしまった。
「まったく……では、私が先に乗る」
レイジェス様は器用に縄紐をぎゅっと持ちながら船にとん、と乗った。
「ほら、おいで」
左手で縄を押さえているので片手を私に伸ばした。私がその手を取ろうとして近づくと、ぐいっと胴を持って引き寄せられた。
「いつも大胆な癖に、変な所で怖がりだな? 君は」
片手で胴を抱き寄せられたまま答えた。
「怖くないもん、レイジェス様と一緒だし……」
「わかったわかった」
「もぅ!」
抱き上げられながら、わちゃわちゃっとレイジェス様の胸を叩くとグラッとゴンドラが揺れた。
「こら、船の上で暴れるな!」
私は大人しく抱っこされた。
レイジェス様はそっとゴンドラの椅子に座ったあと、左の足元にあった丸いスイッチを足で押した。
するとす~っとゴンドラが動き出した。どうやら自動操縦でゴンドラと呼ばれるこの細長い船は動いているらしい。
空が夕暮れを越えて濃紺色に染まって来た。薄く星がちらちら光って見える。
レイジェス様は空間収納からランタンを出して船の先頭に付けた。
「ゆっくりでいいから向かい側の席に移りなさい」
私は四つん這いになって匍匐前進で向かい側のクッションのある椅子に座った。
意外と座り心地が良い。
私がドレスの皺を直しているとレイジェス様がバスケットから子供用ワインを出してグラスに注いで私に渡した。そのあと紙袋に包まれた玉子サンドも渡された。
レイジェス様も自分のワイングラスを出して大人用のワインを注ぐ。
そして、すっと私の目の前にグラスを出した。
私もグラスを出して、二つのグラスが重なってカチンと音を鳴らす。
「「乾杯!」」
私もレイジェス様も一口ごくんと飲んでから、ふぅ~~っと言った。
お互い顔を見合わせて笑う。
「さっきしていたのは?」
「ああ、説明すると言ったな、結界を町の天空に張っていた」
「結界? 何のために?」
「灯篭を飛ばすのは意外と危険なのだ。昔は落ちてきた灯篭で森が火事になったり、人が怪我をしたりした。なので祖父の代から天空に結界を張る事にした。もし、灯篭が落ちてきても町や森に落ちないように、その結界内で落下する灯篭を塵となる様に魔法陣を組み込んだ」
「へ~事故が起きないようにするのは良い事ですね。でも空を見ても何もありませんね? 結界って目に見えないんですか?」
「これから灯篭を空に飛ばしてその美しさを観覧しようと言う時に、空一面に魔方陣があっては見え難いだろうが……。だから不可視化している」
あ、そうか。私がへ~と感心したように言うと、レイジェス様はこめかみを押さえていた。
「まだ飛ばすまで時間があるな……不可視化の魔法をちょっと解こう」
レイジェス様は杖なんか必要ないと言うだけあって、空を見ただけで不可視化の魔法が解けた様だ。薄い金色の発光した丸い線が幾つも重なり合った魔方陣が、天空一杯に埋め尽くされていた。1個1個の魔方陣に文字が書き込んである。そんなのが町の空一面を覆うように、隅々まで空が埋め尽くされているのを見ると圧巻だ。
私は口を開けて空を見ていた。
「……レイジェス様って……凄いんですね」
これだけの魔方陣を天空に展開するって、どんだけMPが必要なんだろう? 普通の人じゃ無理だよね……。
「……少しは……、私の事を見直してくれたか?」
「ええ! 凄いです!」
レイジェス様が笑って瞬きすると、不可視化の魔法を元に戻したのか、空は普通に夕闇に飲まれていた。
今のって瞬きで不可視化の魔法を掛けたって事だよね? いくら無媒体魔法持ちでも、そんな事出来るんだ?
私は飲みかけだったワインをぐいっと飲み干して紙に包まれた玉子サンドを食べた。
レイジェス様もバスケットから玉子サンドを出して食べている。
ゴンドラはゆっくりと城の南門に向かって進んで、町ではぽつぽつと明かりが点き始めた。小さな町の夜景、堀の水面がそれを反射する。
「もうそろそろか? さっき行った南のバルコニーがあるだろう? あそこから、セバスが自分の灯篭を飛ばす。それを合図に一斉に飛ばすから、そろそろ用意しておこう」
レイジェス様は空間収納から私と自分の灯篭を出して、目の前に置いた。
「リアにも火を点けなさいと言いたい所だが、君の火は全てを燃やし尽くしそうだ、私が点けよう」
黒いうさぎの絵がある灯篭に先に火を点け、私に渡したあと、自分の白いうさぎの灯篭に火を点ける。
レイジェス様がお城を見上げると南のバルコニーから灯篭が一つ飛び立った。
ふわりと夜空に舞い上がって行く柔らかい灯り。
「セバスの灯篭が飛び立った。ほら、一斉に舞い上がるぞ」
辺りを見るとお城の前庭から、町の広場から、各自の家から次々に灯篭が夜空に舞い上がり飛び立って行く。天鵞絨の様な濃紺の夜空にオレンジ色の温かみのある光が幾千と散らばり、それは堀の水面に映り込み、永遠に続く天の川の様にも見えた。
「いつまでも見ていないで、私達の灯篭も飛ばすぞ?」
「あ、はい。あんまり綺麗過ぎて見入ってしまいました」
灯篭を手に持ったあと、私とレイジェス様はお互い目を合わせて言った。
「「せーのっ!」」
二人一緒に手を離した灯篭はゆっくりと手から離れ舞い上がる。仲良く夜空を飛んでいく白いうさぎと黒いうさぎの灯篭。
それは大きな光の塊りの一部となって、もうどれが私の物だか分からない。
でも、二つの灯篭はきっとあのどこかに一緒に漂っている。
光はどんどん舞い上がって遠くに飛んで行った。
「……とても綺麗ですね」
「ああ……綺麗だ」
レイジェス様はまだ空を見上げていた。
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