魔術師長様はご機嫌ななめ

鷹月 檻

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第四章

4 捜索 レイジェス視点

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 それは私が職場の城で昼休みを終えて事務所に戻って来た時だった。
師団事務員のエマから屋敷から通信があり、至急屋敷に戻れとの連絡があったと聞いた。私はコモンにすぐその件を話し、早退をして屋敷に戻る事にした。
ゲートを開いて屋敷に戻ると皆が騒然としている。
どういう事だ? 何が起こった?
セレネが食堂に来いと言うので食堂に行くと皆が集まっていた。
だが、その中にアリアの姿が無い。
私は嫌な予感がした。セバスが険しい顔で私に告げた。

「姫様が攫われました」

 嫌な予感が的中した。
私は自分の席に座った。
エドアルドが紅茶を持ってきて、それを飲んで心を静める。

「で、状況は? どういう状況で攫われた? 護衛はついていたのか?」

 私が聞くとセバスが状況説明をした。

「アーリンとリリーが付いていました。攫ったのは……ユリウス様です」

 私は目を見開いてセバスを見た。

「何だと……!?」

 アーリンが険しい顔でその時の状況を話しだした。

「最初はクロエ様に声を掛けられたのです、でも声色がいつもと違い、私が牽制するとレイピアで応戦して来ました。…あれは結構な手練れです。辺境伯爵令嬢の動きでは無かった」

 アーリンは悔しそうな顔をしていた。
続いてリリーもその時の状況を話しだした。

「私がアーリンに言われて姫様と商会に避難しようとしたら、執事のオリオンが逃げ道を封鎖し、私と戦う事になりました。私は前回の神殿長の件で魔術師は手ごわいと思いましたから、自分にマジックプロテクトを掛けて魔法防御を上げたのですが、オリオンに不意打ちを食らい、アリア様と手が離れました。その時です、何も無い空間からいきなりユリウス様が現れました」
「…ゲートでは無くてか?」
「ゲートは何回も旦那様が使っているのを見ています、だからわかります。あれはゲートでは無く…多分ですが、姿を消す魔法を使っていたのかも知れません」
「姿を消す魔法……個有スキル系か」
「それだけでは無く、言葉で人を操っていました。アーリンと私は動くなと言われて身動きが出来なかったんです。私は魔法防御を70%まで上げていたのにっ! まったく役に立たなかった!」

 リリーはダン! とテーブルを拳で叩いた。

「姫様にもユリウス様は自分の手を取るように操っていました。そして、ゲートを開いてワイアット皇国へ行きました」
「ワイアット皇国だと!?」
「それについてはアランの報告を待ってからですね。先に姫様の居場所を特定しましょう、旦那様」

 セバスはそう言うと食堂のテーブル一杯にアズライル大陸の大きな地図を広げた。
私はローブの内ポケットから杖を出し空で魔方陣を書いて地図にぶつけた。
すると魔方陣は消え、赤い光がワイアット皇国の北の方で光っていた。
この光はアリアに付けさせているダイヤのピアスと連動している。
だが、大体の場所しか分からない。

「もう一度やって頂きますよ?」

 セバスは広げた大きな地図を片付けて、今度はワイアット皇国のさっき赤く光った辺りが大きく載ってる地図を出した。
私はさっきと同じように魔方陣を描き、地図にぶつけた。すると赤く光った場所は【白青はくせい宮殿】という所だった。
セバスが渋い顔をして言った。

「そこは皇族の居住区ですね」
「……皇族だと?」

 バン! と大きな音を立てて食堂の扉を開いてやって来たのはアランだった。

「セバスに言われて聞き込みしてきたら大変な事が分かった」
「何が分かったんです?」

 セバスがメガネのブリッジを押さえて聞いた。

「レーヴェン辺境伯爵には息子と娘がいるにはいたが…二人共金髪だ! 銀髪じゃねぇ! 息子と娘を知ってる奴に確認した」
「と言う事は……なるほど……分かりました。謎が解けました」

 セバスはうんうんと頷いている。

「どういう事だセバス? 何が分かった?」
「今のワイアット皇国の皇王の名前を旦那様は知っていますか?」
「いや……知らない」
「ユリウス=ワイアット=シルヴェストル、と言うのですよ」
「なっ……もしかして……」
「ツアーリ自身が辺境伯爵になりすまし、アリア様に近づいた、という所でしょうか……随分と大掛かりで手の込んだやり方だ。どうりで諜報の者の姿を見ないはずですよ。皇王自身が潜んでいるんだから、諜報の者など必要無かったでしょうね」

 セバスが険しい顔でそう答えた。

「ではあいつがゼフィエルも……」
「命令しただけでしょう、ユリウス様は」
「本物のレーヴェン辺境伯爵兄妹も行方知れずだ」

 アランが報告した。

「もうとっくに消されているでしょう。生きていればそこから足が付く」

 エドアルドが無表情に言った。
その場が静まり返る。

「姫様は……姫様は大丈夫ですよね!?」

 リリーがセバスに縋りつく様に言ったがその答えは厳しかった。

「命の危険は無いと思いますが……蜜花は失われているかも知れません……」
「そんな事は無い! 姫様は今日男子姿で出掛けていた。神呪を解かなければ蜜花を失うことは無い!」

 アーリンがそう反論すると、セバスはそれを聞いて少しほっとした顔を見せた。

「なら、まだ救いはあるかも知れません。これからどうしますか? 旦那様」

 私はバン! とテーブルに両手を付いて立ち上がった。

「アリアを取り返しに行く!」
「姫様がもし穢されていたら……?」

 私はセバスを睨んだ。

「関係ない、アリアは私の物だ……奪われたら取り返す! それだけだ! 今から皇国を攻めに行く! 付いて来たい者は付いてくるが良い! 付いて来ない者は屋敷で待機していろ!」
「「「「「うおおおおお!!」」」」」

 食堂が雄叫びで盛り上がった。

「セバス、戦闘の準備を!」
「承知しました」

 その場にいたオーティスがエドアルドに小声で呟いた。

「あんな大国を攻めに行くって……大丈夫なんでしょうか?」
「象も蜂1匹では死なないかもしれませんが、何匹かで戦えば殺せるかも知れません」
「危険過ぎます! まさかエドアルドさんも行く気ですか!?」
「主人が行くと言うのに、執事である私が行かない選択をする訳が無い。もちろん行きますよ?」

 オーティスが溜息をした。

「エドアルドさんは、そんな風に熱くなるタイプだと思ってませんでした。……気をつけて行ってきて下さい…」

 エドアルドはきょとんとした顔でオーティスを見た。

「もしかして、心配してくれています?」
「心配!? 誰が貴方なんかっ!」
「…そうですか」
「…してますよ…もぅ!」

 オーティスは顔を赤くして厨房へ消えた。





 
 私は自分の部屋で長椅子に座りテーブルに6個のダイヤを置いて次々にマジックプロテクトを付与していった。これを身に付ければ魔法防御が30%アップする。先ほどの状況を聞くに、対ユリウス戦では魔法防御が最大の要だと思った。
私自身は既に魔法防御は100%あり、幻術系や状態異常系の魔法は大抵効かない。
だからアリアの魅了が私に効いているのは凄く謎だが、魔法防御は100%が上限では無いという事なのか? と推測している。

 結局戦闘に付いて来ると言った者は六名だった。
セバス、エドアルド、アラン、アーリン、リリー、サーシャの六名だ。
まぁ、命の危険もあるのだ、屋敷の者全員を参加させるわけにはいかない。
六名もいればアリアを奪還する位、何とかなるだろう。少人数で出来る戦略を取らねば被害が大きくなる。
私が思案していると部屋の扉をノックしてセバスが現れた。

「補給物資を皆に持たせました」
「うむ、…そう言えばセバス、私は一つ疑問に思っている事がある」
「…何でしょう?」
「私が朝出仕する時にリアの姿を見た時、彼女はアメシストのペンダントをしていたはずだ。先ほどの状況を聞くに、一番先に彼女に触れたのはユリウスだ。だったら……ユリウスはあのペンダントの効果で眠るはずだ。なのにそんな事も無く、彼女は攫われてしまった。……また私のマジックアイテムが不発だったという事なのか?」

 セバスは私の話を聞いて、険しい顔をして言いずらそうに言った。

「あれは…既に一度発動してしまっていたのです」

 私はその言葉を聞いても意味が分からなかった。

「どういう事だ……?」
「グレーロック城にいた時に一度発動しています。それから姫様は発動した事を旦那様に内緒にしていたのです。私にはあとで必ず言うからと言っていたのですが、その様子からするとまだおっしゃって無かった様ですね?」

 は? 私は彼女から何も聞いていない。
発動したということは、何者かに触れられたという事か。

「詳しく話せ」

 セバスは私にそう言われて説明しだした。サーシャに押されてユリウスに囲い込まれていたアリアがキスしてしまった事、その時私と行き違いがあり、アリアが私に言いずらくて黙って欲しいと言われていた事などをさっくりと話した。

「……あの馬鹿め…。普段は大事な事は相談して欲しいなどと私にぬかしている癖に、自分はどうなんだ! 何も話してくれていないではないか! あのペンダントが発動していれば……彼女は攫われなかったかも知れないのに!」
「旦那様に嫌われたくないとおっしゃってましたから……」
「彼女の心が私にあるのは分かっている。そんな事故の様なキスなど……キスと呼べる代物じゃない! 責めるはずなど無いのにっ! ……ユリウスの事だってだ、言ってくれれば奴と親しくなどしなかった! あいつがずっと私の近くにいてアリアを狙っていたのかと思うと寒気がする。変態野郎め!」

 私はクローゼットから服を取り出し着替えを始めた。今着ている師団のローブは内勤用だった。目的地に着くまでには暫く時間が掛かる。
師団の戦闘服を空間収納にぶち込んで、野営旅用の服に着替えた。

「セバス、そこにあるダイヤをワイアットへ行く者に配れ」
「はっ」

 セバスはダイヤを持って部屋を出て行った。





 
 私は皆を食堂に集めた。

「では作戦会議を始める」
「この人数でワイアットに乗り込むって、そりゃ無茶だろ? あそこは皇国軍がいるんだぜ? 軍に出てこられちゃ皆無駄死にだ!」

 アランがテーブルをガツンと拳で叩く。

「それは大丈夫ですよ。ワイアットは今獣人国パタークと揉めてます。軍はほぼそちらに行っている」

 ルイスがアランに反論した。

「ひとつ言って置く事がある、最重要はアリア奪還だ。無駄な戦いはするな、分が悪ければ引け! 深追いはするな」
「「「「「「おう!」」」」」」
「私の計画を述べる。まず、私の北の領地の城までゲートで行く。そこから召喚獣でメヌットまで行く。メヌットはワイアットの南にある小さな町だ。そこまでは北の領地から二日ほど掛かる。メヌットに着くまでは野宿をする」
「そのメヌットって町から、ワイアットの宮殿まではどれくらいかかるのです?」
「召喚獣で30分位だと思われます」

 セバスがアーリンの質問に答えた。

「メヌットまで二日もかかるなんて……姫様が心配です!」

 リリーが不安そうに叫んだ。

「はやる気持ちは分からなくはないが、いざという時に動けないのでは困る。皆きちんと休憩を取って行動して欲しい」
「攻め手はどうするおつもりですか?」

 エドアルドが顎を撫でつつ聞いた。

「普通に南の正門から攻める。皆はな」
「俺達は陽動って事か?」

 アランが言ったので私は頷いた。

「私は北の裏口から宮殿内に入るつもりでいる。アリアを奪還できたら合図に花火を打ち上げる、そうしたら皆メヌットへ集合しろ」
「そんなに上手く行くんでしょうか……」

 アーリンが不安を漏らした。

「天空に雷神剣の魔方陣を描く」

 セバスとエドアルドが目を見開いた。

「なんだそりゃ……?」

 アランはあの術を知らない様だ。

「見れば分かる」

 私はそれだけ言うと作戦会議を終了した。外玄関前にゲートを開くので仕度を終えた者はそこへ来るように言った。

「旦那様、本当に雷神剣の魔方陣を描くおつもりですか!?」

 セバスが窘める様に怒鳴った。
エドアルドがセバスと並んでこちらを見る。

「私の大事な宝を奪ったんだ、報いは受けて貰わないとなぁ?」

 私が薄い笑顔を向けるとエドアルドが言った。

「それではワイアットの首都が滅びます」

 相変わらずエドアルドは無表情だ。

「構わないだろ?」
「それではワイアットとプリストンが戦争になってしまいます!」

 セバスが焦って言うが、私は二人の言う事は気にしてなかった。
大体、私のアリアを奪ったユリウスが悪い。
戦争になる? 上等だ。そしたらあの地を焼き尽くしてやる。
だが、セバスがうるさいので一応言っておいた。

「…まぁ、手加減するようには…する」

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