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第四章
14 流星祭前日
しおりを挟むとうとう明日が流星祭だ。流星祭は二日に渡って行われる。初日には国立劇場で催し物が行われる。今年は午前の部で騎士団の剣舞と演劇があり午後の部で私の歌のコンサートとその後にまた別の演劇があるらしい。二日目は午前中は何も無く、午後に晩餐会と舞踏会がある。城の小広間では二日に渡って自作の絵画、漫画や小説の即売会が行われ、貴族街には食べ物の屋台や物売りなどの出店が出る。
私はコンサートに向けてCUTEのメンバーと別館の小広間で歌の練習をしていた。
ギィィと扉を開ける大きな音がして、視線を移すとセバスだった。
「練習中に申し訳ございません、少しよろしいですか?」
私はCUTEのメンバーに挨拶をして席を外した。
「どうしたの?」
「アンヌがアバヤを持ってまいりました。本当は昨日届くはずだったんですけどねぇ……」
「急なお願いでしたもの、仕様がないわ?」
「で、合わせますか? あと、旦那様が注文していた舞踏会用のドレスを来ています」
「まぁ、いつのまに……レイジェス様ったら」
セバスはクスリと笑って言った。
「姫様がドレスを作るのに良いお顔をしないからでしょう」
「まぁ、いいわ、で、いつもの採寸部屋でいいのかしら?」
「ええ、お願いします」
「じゃ、一緒に行きましょう?」
私はセバスと手を繋いだ。
お屋敷の小広間に入るとアンヌといつもの採寸の女の子が二人いた。
「期日を過ぎまして大変申し訳ございません!」
アンヌが深々と頭を下げて謝る。採寸の女の子達もアンヌを見習ってぺこりと頭を下げた。
「こちらも急なお願いでしたから、仕方が無いですわ。流星祭には間に合ったのですし、問題ないですよ」
「そう言って頂けると助かります……」
「で、見せていただけますか?」
アンヌは木箱に入ったアバヤを広げて見せた。
それは淡い黄色身を帯びた象牙色で、左肩から右足元まで斜めにピンク、赤、黄色、青の花の刺繍がされていた。頭の被る部分と背中にもその花の刺繍があった。
「……これはとても素晴らしいです、手間が掛かったでしょ?」
「ええ、刺繍に殆どの時間が掛かってしまい遅くなってしまったのです。なのでピンクと黒のアバヤには縁取りを縫い付けてあるだけになってしまいました」
私はそのピンクと黒のアバヤも見せてもらった。両方とも生地の質が良くて手触りが滑らかで、縁取りはビーズらしきものが縫い付けてあった。この作りをみると、これも結構時間が掛かっただろうと思う。
「どれも素晴らしいわ、さすがエドモンド商会ですね」
私はアンヌに微笑んだ。
「多分、この刺繍のアバヤをコンサート用に作って下さったのよね?」
「ええ、後ろにも刺繍をしてあるので、背を見せても華やかです」
「じゃあ試着させて下さい」
私はセバスがいるのでパーテーションの向こうに行った。いつもは男性がいなければそのままそこで着ちゃうけどね。
今着ているエンパイヤドレスの後ろの編み紐をアンヌが解いて、アバヤを着せてくれた。一応口元のマスクも付いていた。
「そちらは歌を歌う時は外せます。なるべく姿を見せないようにとおっしゃってたので、一応マスクも作りました」
「マスクがあれば普段でも着れますね、可愛いし」
私は後ろにある鏡に向いて見た。正面から見て後ろを向いて後姿も自分で見てみる。うん、可愛い!
「気に入りました、ありがとう、アンヌ」
「そうおっしゃって頂けると私達も作った甲斐がございます」
私は元のドレスに着替え直した。エドモンド商会の人達は納品が終わるとすぐに帰った。
「姫様、お茶はいかがですか?」
セバスに言われて喉が渇いていたのに気付く、ずっと歌を歌ってたからなぁ。
「頂くわ」
セバスの後をてくてくと食堂に付いて行った。
自分の席に座ってお茶を待っていると新しく入ったフットマンのローレンスがお客様を連れてきた。
ローレンスが連れてきたのはユリウス様だった。途端に私は身構えてしまった。
「こんにちは、アリア様」
「こ、こんにちは、ユリウス様」
ユリウス様はすっと私の斜め左の椅子に座った。
「引越しの荷物がやっと落ち着きましてね、ご挨拶にマドレーヌをお持ちしました」
後ろにいたオリオンが焼き菓子の入った紙箱を出して私の前に置いた。
「……睡眠薬とか、入ってないですよね……?」
「……ふふ、まさか。私は貴方の事は諦めましたよ? 貴方は私の義母さんになるんですから」
「……おかーさんて……わたくしまだ8歳なんですけど。こんなに大きな息子は要りませんわ?」
私が頬を膨らましているとセバスが厨房からワゴンにお茶セット乗せて現れた。
「……何故ユリウス様が!?」
「ローレンスが通しちゃった」
私がそう言うとセバスがローレンスをぎりっと睨んで、ローレンスは縮こまってしまった。
「まぁまぁ、セバス、私にもお茶を下さい」
ユリウス様がそう言うと、セバスはぶすっとした顔で聞いた。
「ブラウンティですよね?」
セバスは渋い顔をしてユリウス様にブラウンティを、私にはトウミ紅茶を出した。
「今日は万華鏡の一枚をお持ちしましたよ。ローレンスに渡してあります」
そういうとセバスがローレンスに話しかけて絵画を取りに行った。
今日はアーリンは非番でいない。食堂には私とユリウス様、オリオンの三人となった。サーシャやリリーはお屋敷のどこかを掃除しているんだろう、此処にはいない。
「さ、攫わないでね……」
私は少し涙目になっていた。閉じ込められて怖かった事を思い出してしまった。
「……もう攫いません。本当に貴方の事を諦めたんですよ」
「……」
「結局、私は貴方が男だと愛する事が出来なかった。女の子の貴方しか認められなかったんです。あんなに愛していると思っていたのに、その体を愛せなくて……私は酷いジレンマに陥っていた。こんな風に人を好きになったのは初めてです。だからか……私は認めたく無かったんです。自分の愛情が、たかが性別を超えられないなんて」
「それは……普通じゃないですか? わたくしだってレイジェス様が女だなんて分かったら悩むし、愛せないかもですよ」
「でも、アルフォード公爵は違う。君が男でも女でも子供でも変わりなく愛しているじゃないか。それが本物の愛じゃないのか? 私はそんな風に思える彼が羨ましい」
「本物かどうかなんて誰にも分からないです。多くの人が異性を愛するし、同性だったら抵抗有る人も無い人もいるでしょうし、年齢も関係有る人もいれば無い人もいる。条件が合わなくて愛せないなんて本当に普通の事ですよ。条件も全て取っ払って何もかも無くても……愛してくれる人もいるかもだけど、それが本当の愛かと言ったらそれも違う気がします。わたくしが思うに、レイジェス様が変わってるんです。あの方は変人です」
ユリウス様は私の方を見て目を瞬いた。
「まぁ、確かに彼は変わってるかもな」
「そうですよ」
私がそう言うと、ユリウス様の後ろにいたオリオンがユリウス様の肩に手を置いた。
けれどユリウス様は何故かその手を払っていた。
私がトウミ紅茶を飲むと、ユリウス様もつられた様にブラウンティを飲んだ。
食堂の窓から暖かい日差しが入って来て、なんだかのどかな時間を過ごしている様に感じた。
少し前はあんな事があったのに……。
私がまったりしているとセバスが戻ってきて、ユリウス様がセバスに話があると言って食堂の大扉から外に出て行った。窓ガラス越しに二人が何かを話しているのが見えた。
セバスとユリウス様が今まで親しく話をしている所など見た事が無かったから、凄く不思議だった。何を話してるんだろう……?
二人で話を終えて食堂に戻ってくるとセバスは厨房に行ってしまった。
「ユリウス様は明日から出仕するのですか?」
「ええ、そうですよ」
「書記官で復帰するのですか?」
「ええ、今はヒューイットが休職中で人手が足りないですからね、私が書記官で入って、流星祭の後に二名新しく採用になった者が来る予定です」
「え? どうしてヒューイット様は休職してるんですか?」
「なんでも体調が悪いとか言ってたそうですよ」
「レンブラント様とはどうなったのか知ってますか?」
「私よりアルフォード公爵の方が詳しいと思いますがね?」
「貴方に攫われたりで、自分のことで手一杯で、レイジェス様には聞いてませんでした。今ヒューイット様のお話を聞いて気になったんですよ。そう言えばどうなったんだろう……って」
「……二人は別れるつもりだったらしいですが、ヒューイットが蜜花を失ったことをヒューイット側の両親が知ってしまって、別れさせないと揉めたみたいですよ。もしかして妊娠しているかも知れないからと……日が経てば妊娠しているかどうか分かるので結果次第じゃないでしょうか? 子が出来ていれば結婚するだろうし、出来ていなければ別れるでしょう」
「ヒューイット様は具合が悪いとお仕事を休んでいるんですよね?」
「ええ」
これはもう妊娠確定では? たしか妊娠初期って具合悪くなるんだよね? よくわかんないけど。
「所で、アリア様は流星祭に出られるんですよね?」
「へ? えっと舞踏会の事ですか? コンサートの事ですか?」
「え、コンサートもやるのですか?」
「ええ、国立劇場で初日の午後にやります」
「それって今からでも見れますか? チケットとか必要ですか?」
「わたくし、ちょっとわかりません。レイジェス様に聞いたら分かると思いますよ?」
「う~ん……アルフォード公爵が素直に教えてくれると思えませんね」
「あ、じゃあセバスに聞いたら分かると思うわ」
私は普段滅多に使わない、テーブルに置いてある呼び鈴を押した。
「何かございましたか!?」
セバスが慌てて出てきた。
「ユリウス様がわたくしのコンサートを見たいのですって、チケットって必要ですか?」
「姫様のコンサートは大変人気がありまして、チケットは完売しております。誰かに譲って頂くしか無いのでは?」
ユリウス様は眉間に皺を寄せていた。
「オリオン、すぐ手配しろ。必ず手に入れるようにな」
「はっ」
オリオンは食堂を出て行ってしまった。
「ねぇ、二人共、さっきは何を話していたの?」
私が首を傾げて聞くとユリウス様ははははっと笑った。
「セバスが余りにも有能なのでスカウトしていたのですよ、私の所で働かないか? とね」
「ええ!? だめよ? セバスはうちの執事なんだから! 誰にも上げませんよ?」
私がそう言うと何故かセバスがくくくっっと笑っている。
何か可笑しい事言ったかな?
夜、寝台の中でレイジェス様にアバヤが来て可愛かった事や、ユリウス様が来た事を話すとちょっと不安顔だった。
自分がいないとまた攫われるんじゃないかと、心配しているみたいだった。
でもユリウス様は本当に私の事を諦めたみたいだということを説明した。レイジェス様の事を羨ましく思ってたというと、意外だったらしく少し驚いていた様に思う。万華鏡の一枚も、返してもらったと言ったら見たいといわれて見せた。
レイジェス様は絶句していた。
「こ、こんなものをハンスが……!? けしからん!」
そう言いながら、しっかり私の大事な部分を見ちゃってるレイジェス様を白い目で見た。で、今日も愛し合って寝た。
その時にレイジェス様の液を飲んだら微妙に味が変わった様な気がした。
前はしょっぱくて苦かったのに、微妙にさっぱりとした甘さのある感じになっていた。白濁の液って、味が変わるの? それとも気のせい……?
これならお口に入れても、飲んでも全然平気じゃない? と思った。
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