魔術師長様はご機嫌ななめ

鷹月 檻

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第四章

21 流星祭 六

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 大広間へ誘導された人々は真ん中を通る赤い絨毯を中心に左右に分かれた。
その赤い絨毯をガブリエル王はつかつかと歩いて来て王座の前にくるりと立って皆を見た。レイジェス様、私、ユリウス様、コモン様達は左のグループに、ルーク様は右のグループにいた。
ガブリエル王が大きな声で始まりを告げた。

「これより流星祭の舞踏会を始める! 皆の者よ、今日は楽しめ、そして踊れ!」

 わぁ~っと拍手が鳴り響き、ガブリエル王は中央へ歩み出た。
そう、ガブリエル王が踊れ! と言ってもまだ踊っちゃいけないのを皆知っている。
決まりでは王様が位の高い女性と踊った後に皆が踊り出す。
前回の戴冠式後の舞踏会でちゃんとセバスに教えて貰ったもんね~。

「ほら、リア、ガブリエル王が待ってる、早く行け!」

 レイジェス様に背中を押されて、人ごみからもぞもぞと抜けてガブリエル王の前にでた。

「またお前は変な格好を。黒い塊りだな」
「ちょと待って下さい、雲を出しますから、キントーン!」

 ぶわっと足元に雲が出た。
すぅっと浮き上がってガブリエル王より少し下の目線に留める。

「準備はいいか?」
「ええ」

 ガブリエル王が私に手を差し出して私は手を乗せた。すぅっと引っ張られるようにして踊りは始まった。
後から宮廷楽団が音楽を奏でる。
踊りながらガブリエル王が話しかけてくる。

「お前、その格好は何なのだ? この前もピンクの塊りだったな?」
「あ、これはアバヤって言いまして、着ていると魅了を防ぐ効果があるのですよ」
「何だとっ!? ……それはお前にとって必須だな?」
「そうなんですよ~最初は微妙かな? と思ったんですけど、アバヤも慣れると可愛いですね~。頭の白いお花と胸の白い花は側仕えのリリーが付けてくれました」

 と呑気に言ってみた。

「ふむ、黒に白い花は映えるな」
「そういえば、王様は好きな方と上手く行ってるんですか?」
「いや……きちんと話をした事も無い」
「まだ片思いか~! ほっといたら取られちゃいますよ?」
「ふむ、お前、人の事より、自分の事はどうなんだ? ユリウス殿を夫とするのか?」
「夫っ!?」

 私の華麗なステップが一瞬止まった。動揺し過ぎた。

「神籍を持つ者は何人とも婚姻が結べる。あんな大国のツアーリが我が国の城で書記官として働いてまでお前と一緒に居たいと思うのだぞ? その思いは相当だろうが……応えてやれ」

 私はほっぺたをぷ~っと膨らませて、また踊り始めた。

「それって国王命令ですか?」
「いや、そういう訳じゃない」
「ユリウス様の気持ちは分かりますけど……でも誘拐された時にきちんとお断りの返事をしました。確かに神籍の者は何人でも婚姻が結べるかも知れないけど……わたくしは唯一人の人と、ずっと一緒が良いのです。それはユリウス様じゃないの」
「そうか」
「わたくしも質問がひとつあります」
「なんだ?」
「何故あんなに小国であるパタークを持て成すのですか? 本来なら大国であるワイアットを持て成すのでは?」
「ああ……ユリウス殿が特別視をするなと言っていたからな? それに私は……猫好きなんだ。どうもあの虎耳や虎尻尾を見てしまうと近くに置いておきたくなる」
「はぁっ!?」

 私は真面目な顔でガブリエル王がふざけているのかと思った。

「触りたくなって、むずむずしてしまう。尻尾を掴んだ前科があるお前なら、私の気持ちが分かるだろうが」
「分かりますけど、触っちゃダメですよ? しっぽや耳を触るのは求愛行動だって側仕えが言ってましたよ? え? もしかして……ガブリエル王が好きな方って……」
「違うわっ! アホがっ!」
「酷いですぅ」
「私は単に、猫好きのもふもふ好きなだけだ」
「そうですか、つまんないですね」

 私達は一曲踊り終え、挨拶をして離れた。
レイジェス様の元に戻ると機嫌が悪い。なんかデジャブ。

「レイジェス様~ほら、踊りましょうよ?」
「ガブリエル王と随分楽しそうだったな?」
「ええ、まぁそれなりに?」
「……」
「じゃあ、レイジェス様が嫌なら、ユリウス様と踊ってきます」
「待て待て待て! どうしてそうなるっ!」
「え? わたくしと踊るのは嫌なのかと……」

 私がしょんぼりするとレイジェス様は頭を掻き毟った。

「あーーー! 私が悪かった! 許せ! ……焼餅だ」
「分かってます。ふふふっ、踊りましょ?」
「まったく……君には完敗だ」

 レイジェス様は私が差し出した手をぎゅっと握って踊り出した。
そうして私はレイジェス様と4回まで踊ってしまった。
舞踏会では同じ人とは4回までしか踊れない決まりになっている。

「もう4回踊ってしまった、つまらん」
「シエラ様と踊ったらいかがですか? シエラ様はお化粧臭くないって言ってたじゃないですか」
「ふむ、コモンに聞いてからだな」

 私が窓際で涼んでいるとユリウス様が来た。

「私と踊って下さいませんか?」
「……レイジェス様に聞かないと……」

 私がそう言うとユリウス様はレイジェス様に声を掛けた。

「レイジェス、私はアリア様と踊りたい。少しの間貸して欲しい」

 レイジェス様は思いっきり渋い顔をした。

「言っておくが……キスはダメだ。尻も触るなよ?」
「……分かってる」
「リアが良いと言ったら許可する」
「分かった」

 ちょっと離れていてあんまり二人の話は聞こえなかったけど、ユリウス様の表情を見ると許可が出たのかな? と思った。

「……アリア様が良いと言えば踊っていいと許可が出た」

 私はユリウス様の目の前にすぅっと手を伸ばした。

「では、楽しみましょう? リードして下さいね?」
「ええ!」

 私はユリウス様とも4回踊った。ユリウス様は紳士的な態度で私に接したと思う。
変な所を触られるんじゃないかと思ったけど、そんな事も無く無事踊り終えれた。
レイジェス様はぶらぶらしてるのも暇だったのかシエラ様と4回踊った。
またシエラ様の事を可愛らしいと褒めていて、私はついイラっとして足をわざと踏んづけてしまった。
シエラ様はレイジェス様のあと、ユリウス様とも踊っていた。
私はコモン様と踊らなかった。誘われなかったし、自分でも踊りたいとも思わなかったしね。レイジェス様がシエラ様と踊り終えるとすぐに女の人の輪が出来ていて揉みくちゃにされていた。次の相手は私よ! と何やら諍いが起きている。
それを観察するように見ていたら声を掛けられた。

「おい、ちっこいの」
「へ? わたくし?」
「何だその間抜けな返事は」
「あ、すいません……」

 ルーク様は虎耳と尻尾は可愛いんだけど……この難癖を付けるのが何とも言えないわ~。

「お前、私と踊れ!」

 ん?

「……」
「聞こえなかったか? 私と踊れ!」
「えっと、あのぅ、それって命令ですか?」

 私が聞くと頭を振った。

「命令では無い」
「……そうですか~。じゃあお断りします。ごめんなさい」

 私はぺこりとお辞儀してレイジェス様の方に行こうとした。

「待て!」
「?」
「何故私の誘いを断る!? 私はパタークの王子だぞ!」
「……そんな事言われても……だって嫌なんだもん」
「嫌……だとっ!? この私の誘いが嫌だと言うのかっ!?」

 ルーク様が声を荒げたので近くにいたユリウス様が来た。アーリンとセドリックも異変を感じすぐ来た。

「どうされました、アリア様?」
「ルーク様から踊りを申し込まれたので、断ったら怒ってしまって……」
「なっ! 結果的に言えばそうだが、私の心を踏みにじるからだろうがっ!」
「命令ですか? って聞いたら違うって言ったから、じゃ嫌ですって言っただけなのに」

 ユリウス様が私とルーク様の間に入った。

「ちょっと待って下さい二人共、注目を浴びてます。少し落ち着いて」

 レイジェス様が女の人達の輪から逃げる様にこちらへ来た。

「どうした? 何を揉めている?」
「わたくしは何もしてませんよ? 踊りを申し込まれて断っただけです」

 私が言ったあと続けてユリウス様が言った。

「そうしたらルークが怒ったそうだ」
「ふむ、誘う時どの様に誘った?」
「私と踊れと言った」

 ルーク様がそう言うと、レイジェス様とユリウス様は顔を見合わせて言った。

「「そりゃ断られるだろう」」
「何故だっ! 俺はパタークの王子だぞ! 馬鹿にしてるのか!」

 その物言いにアーリンがぷちっと切れた。

「ふざけるなっ! 貴様私の姫様に自分と踊れだと? 【この哀れなオス豚と踊って下さいませ!】と言うのが正解だろうが! そんな事も分からんのか、この豚……いや、虎野郎はっ!」
「……アーリン、変な誤解が増える言い方はやめましょう?」

 私はこめかみを押さえた。セドリックはアーリンの物言いに驚いて笑っていた。

「わたくし、レイジェス様にルーク様に近づくなと言われてましたよね?」
「ああ……言ったな」
「何故そんな事を言った!」

 とルーク様がレイジェス様を睨む。

「この人、しつこいし、煩いから踊って上げてもいいですか?」
「ふむ……一回だけなら」
「……わたくしも一回以上は踊りたくないですわ」

 ルーク様が何だか文句を言っていて煩い。

「アリア様、嫌なら無理をする事は無い」

 ユリウス様がそう言ったけど、この虎さんは人の言う事なんて聞いてくれなさそうだった。我侭勝手に色々言って、面倒だったからさっさと踊って終了にしたい、ってのが私の本音だった。

「さぁ、踊りましょ? 虎耳さん?」

 私は手を伸ばして首を傾げた。

「ん、……ああ」

 私はステップを踏んだ。

「お前のステップは軽い……」
「まぁ、雲に乗ってますからね」
「他の女は重いのに」
「大人と子供は体重が違うでしょ?」
「それもそうか」
「ねぇ、そのしっぽって先の方まで感覚があるの?」
「感覚はある。普通に手みたいなモンだ」
「へ~」
「私は……女から求められたのは初めてだった、凄く驚いた」
「は?」
「私に求愛しただろうがっ!」
「え? ああ、あれは知らなかったんですよ、本当にごめんなさい」
「あれからお前の事が頭から離れない……どうしてくれるんだ……」
「えっと、だから、あれは知らなくてやっちゃった事で……」
「私と結婚しろ。責任を取れ!」
「わたくしみたいな小さな子に責任取れって……おかしいですよぅ、それにわたくし婚約してますから」
「あんな優男のどこがいいんだ……」

 ルーク様はレイジェス様を軽蔑する様な目で見た。

「レイジェス様はすっごく強いですよ? ワイアットだってほぼ一人でボロボロにしちゃった様な物ですから」
「ん? お前を取り戻す為に軍を率いたのでは無いのか?」
「そんな事してませんよ~」
「腰抜けか」
「違います! レイジェス様は立派です! やっぱりわたくし、貴方が好きじゃないわ。酷い事言ってばっかり」

 曲が終わった所で私はお辞儀してルーク様から離れた。
もう一曲と言われたけど、断った。だって最初から一曲だけって話だったし。
レイジェス様の元に戻ると何を話したか聞かれたので、結婚を申し込まれて断った事を言ったら、レイジェス様はこめかみを押さえていた。

「やっぱりなぁ……こうなると思ったんだ……だからあいつに近づくなと言ったのに……」
「それはアリア様のせいじゃないだろう、あの馬鹿虎が悪い」

 ユリウス様が私を庇った。

「あまりに執着が激しいと攫う方もいますからね、気をつけないと」

 アーリンがユリウス様をちらりと見ながら言った。

「私はもう攫わない」
「信じられるか!」

 アーリンはまだユリウス様を敵視している様だ。よっぽど私の首に首輪が付いていたのが許せなかったらしい。
私がこんな風に揉めている中、シエラ様は着々と色んな方と踊っていた。ガブリエル王とも踊っていた。他にはコモン様の魔道具の特許関係と販売会社関係の貴族達とも踊っていたらしい。凄い、何か、出来る奥様って感じだ。
それに比べて私は、変なお兄さんに好かれて揉めちゃってる……とほほだよ。
私がしょんぼりしているとゴーン、ゴーン、ゴーンと鐘が鳴った。

「なぁに? あの音」
「ん、外へ行く時間だ」
「外?」

 レイジェス様は私を抱っこした。
皆が係りの人に誘導されて中庭に出て行った。シエラ様も下を歩いていると人混みで危険なので、コモン様に抱っこされていた。

「もうすぐだから空を見ていなさい」
「空?」

 今の時間は夜の12の刻の少し手前、中庭にある時計塔が12の刻丁度を指した時だった。夜空にヒュン、ヒュンと流れ星が落ちて行く。最初数える程度だった流れ星がどんどん数を増してヒュンヒュン流れて行く。
濃紺の夜空は、白い流星の尾が流れを引いて薄明るく照らされていた。
それは暗かった空一杯に咲く、すすきの穂を連想させた。

「……わぁああ」

 数え切れない流星群。私は願いを込めて、三回心の中で呟いた。

【レイジェス様といつまでも一緒にいられますように……】

「綺麗だろう? この流星群が流れる時が、流星祭の終わりを告げる時だ」
「凄い、綺麗です……夜空がこんなに明るいなんて……」

 レイジェス様は私が空を見上げるのを見つめて言った。

「来年も君とこの景色を……また見たい」
「……絶対ね?」

 私はレイジェス様の頬にちゅっとキスをした。

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