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第四章
20 流星祭 五
しおりを挟む私とレイジェス様はお城の即売会が12の刻で終わるとゲートでお屋敷へ戻った。
護衛のアーリンとセドリックもだ。サーシャは後片付けと趣味仲間の打ち上げがあるからと一緒には帰ってこなかった。
食堂でお昼を食べて、夜の6の刻から始まる晩餐会まで暇を持て余していると、コモン様がシエラ様と一緒にお屋敷に来た。
執事のメルヴィンと侍従長のベティも一緒だ。
二人はコモン様に雇われ、メルヴィンさんは令嬢執事では無く、普通の執事になった。普通の執事の方が仕事量が多く大変らしい。ベティさんも、侍従長として雇われ、新しい使用人達が増えて指導が大変だと言っていた。
シエラ様は預かり子制度で今コモン様のお屋敷で一緒に住んでいる。
私は預かり子制度なんて知らなかったんだけど、私自体も預かり子だったらしい。
今日初めて聞いた気がする。あ、大分前にコモン様が私の事を預かり子って言ってたか……あれが制度の呼び名だとは思わなかったよ……。
私から見てテーブルの右側に、シエラ様を真ん中にレイジェス様側にコモン様、私の方側にメルヴィンさん、その隣にベティさんが座った。
セバスとローレンスが二人でお茶を入れてると食堂の空間が揺らめいてゲートが開いた。ユリウス様がオリオンと一緒に現れた。
「おや、コモンも来てたのか」
「やぁ、ユリウス、レイジェスの隣に引っ越したんだって?」
「お前は私がワイアットの皇王だと分かっても変わらないな?」
「変わって欲しいのかい? でも俺はいつでもこのままだけどね。ワイアットって行った事が無いから、今度招待してくれよ?」
「ふむ……それもいいかもな、いずれ招待しよう」
ユリウス様はそう言うといつもの席に座った。そしてオリオンもその隣、レイジェス様側に座った。
「ユリウス様はワイアット皇国の皇王だったんですってね」
シエラ様がユリウス様に直接言った。
「ええ、隠していてすいません」
「こんなにお若いのに……凄いですわ……見目も素敵ですし、さぞお持てになるでしょう?」
ユリウス様はくくくっと笑った。
「私に愛の告白などする者はいませんよ」
「どうして?」
「私にそんな事をすれば不敬罪になりますから、ワイアットは色々複雑なしきたりがあって面倒なのですよ」
「「へ~」」
シエラ様だけでなく私まで同調してしまった。
「あ、そう言えば、コモン、君が陞爵すると聞いたが?」
ユリウス様が聞くとコモン様が答えた。
「ああ、王宮の小広間で三日後に【爵位の儀】がある。一定の地位以上の者にはガブリエル王から招待状が来る事になっているけど、まだ来ていないかい?」
「うちには一週間ほど前にきたぞ」
とレイジェス様が言った。
「何故私の所に来ないんだ!」
ユリウス様がむっとしているのを見てオリオンが少し驚いている様だった。
「え? ユリウス様、招待状は来ていましたが、もしかして出席なさるのですか? 私は行かないと思って断ってしまいましたが……」
「行くに決まってるだろう? ……友人の晴れの席なんだから」
ユリウス様が当たり前の様にそう言って、レイジェス様が飲んでいた紅茶を噴いた。
「友人て……お前、そんなにしおらしい性格だったか?」
大人気無く嫌味を言うレイジェス様。
ユリウス様はぶすっとしている。
「申し訳ありませんでした、ユリウス様。至急、出席する旨お伝えして来ます」
「あ、うちの通信室を使っていいですよ」
セバスがオリオンを通信室へ連れて行った。
「アリア様、わたくしまたアリア様とお茶会がしたいのですけど、よろしいかしら?」
シエラ様が私に声を掛けた。
「ええ、いつ頃にしますか?」
「そうですね、コモン様の【爵位の儀】が終わってからが良いので、五日後位はいかがですか? こちらに馬車を廻します」
「あら、では待っていますね」
私がにこりと返事するとシエラ様はほっとした様な顔をした。
「そうだ、レイジェス、通信機器の魔道具の試作品が出来たぞ?」
レイジェス様がぱっと顔を明るくした。
「おおおっ! さすがだな、コモン!」
「いや、感想は使ってみてから言ってくれよ」
「今日は持って来てないのか?」
「通信の魔道具の話をするつもりじゃなかったからなぁ」
二人の話を聞いていたユリウス様が、その話に興味を持った。
「ん、その通信の魔道具と言うのは?」
「ああ、ユリウス、今ってさ、通信機器が大きくて一室使うだろ? 小さく出来ないかとレイジェスと一緒に考えていてさ、ほら、持ち運びができればいつでもどこでも連絡が出来るから便利だろう? だから小さくしてみた」
へ~携帯電話みたいな物か。
「それは歴史が変わるくらいの発明だな」
ユリウス様がそう言うとレイジェス様が付け足す様に言った。
「コモンは既に歴史を変えているぞ? 私達が使っている魔石灯を発明したのはこいつだ。今回の叙爵はそれが功績として認められたからだ」
え! それってエジソンみたいな存在じゃないですかっ!
コモン様って実は凄いんだ~!
「……なんだとっ!? 知らなかった、魔石灯がコモンが発明しただなんて。凄いじゃないか!」
ユリウス様が驚いている。
「分かんない理屈とか、疑問に思った事とかはレイジェスに聞いたけどな。はは」
コモン様は褒められて照れた様で、笑って誤魔化していた。
シエラ様もこの話は聞いたのは初めてだった様で、驚いた顔をしていた。
私達は晩餐会の時間までお互いに色々な話をして盛り上がった。
和気藹々とした様子は、グレーロック城にいた時を私に思い出させた。
夕の5の刻半になり、そろそろ晩餐会に行く仕度をするという事でこの場はお開きになった。と言っても、私はドレスから黒いアバヤに着替えるだけで、レイジェス様も貴族服に着替えるだけだ。皆さんきちんとした服装でお屋敷に来ていたので、そのまま行くそう。
ユリウス様はもうゲートを開いて一人でお城に行ってしまった。
コモン様は馬車で行くのも面倒なのでレイジェス様のゲートで行こうと待っていた。
レイジェス様の着替えが終わると皆でゲートでお城へ行った。
お城へ着くと、晩餐会の会場前に二人の係員がいて、招待状を確認された。前もって参加人数を伝えてあるのでうちの場合、レイジェス様と私が参加の二名参加になる。護衛の二人と、執事のセバスは晩餐会参加人数に入らないらしい。会場内には入れるけど食事は食べられないとか、ちょっと悲しいよね。
セバスを可哀想な目で見ると、私がそういう視線を送った理由が分かったらしくて
こめかみを押さえながら「私は大丈夫ですよ?」と言われてしまった。
席に名前の札が置いてあるそうで、レイジェス様がさくっと席に着いた。
「リアはここだ、私の隣」
少し高い壇になっているところに横長にテーブルが置いてあり、そこにはガブリエル王様の椅子とお客様様らしき椅子が置いてあった。
会場には縦に長いテーブルが十程並べられ、私達は会場の真ん中のテーブルで、ガブリエル王の前辺りに位置する場所だった。
なのでレイジェス様は王様側のテーブルの端に座り、私はレイジェス様の左に座った。
次々に席が埋められて行く中、私達の前に座ったのはユリウス様だった。
ちなみに席順は爵位の順になってるらしく、コモン様はまだ(次期)伯爵なので席が遠い。
「何故お前がここにいるんだ? パタークの王子があの壇にいるなら、お前もあちらだろうが」
不機嫌にレイジェス様が言うとユリウス様がむっとして答えた。
「たぶん、私を城で雇って貰うにあたって、特別視しないで欲しいと言ったからか?」
「それだ。あのアホ王め、こんな腹黒い奴の言う事を素直に聞くとは……パタークの様な小国の機嫌を取るなら大国の機嫌を取るのが普通だが……宰相が馬鹿なのか?」
「ガブリエル王にはガブリエル王の考えがお有りなのでは? レイジェス様はすぐ批判的になりがちです。少しの間位、様子を見るとか出来ないのですか?」
私が薄い目でレイジェス様を見るとしょぼんとしてしまった。それを見ているユリウス様はキョトンとしている。
「……くっくっ。貴女は本当に私に色んな面を見せてくれますね、面白い」
ん? そんなに面白い事してないですけど……。
レイジェス様がテーブル下で私の手を握ってきてじっと私を見つめた。
叱られたわんこの様な瞳だ。うううぅ。
「ごめんなさい、ちょっと言い過ぎました」
私がレイジェス様の首に腕を絡めてほっぺにちゅっとすると、わたしの頬にもちゅっとした。
「どうだ? 羨ましいだろ? ユリウス」
「ぐぬぬぬ……」
「はぁ……」
小学生男子かっ! 全くもぅ……。
暫くすると会場は晩餐会の招待客で埋め尽くされ、ガブリエル王とパタークの王子であるリューク様が現れ、手前中央のテーブルに座った。
ガブリエル王は宰相のアダムにマイクを渡され、挨拶をした。
「今宵は流星祭二日目を何事も無く迎えられ、非常に良かったと思う。年々プリストンの芸術文化はレベルが高くなってきているが、それを楽しむ下地も無くてはならない。より良い未来を築く為、全ての者達が美しい物を美しいと感じたり、文字を認識出来る世の中にして行きたいと思う。プリストン王国に栄えあれ! 乾杯!」
「「「乾杯!」」」
私のはお酒じゃなくてトウミジュースだった。
次々に料理が運ばれ給仕の数がえらいことになっている。テーブルとテーブルの間がそんなに広く無いので、給仕の人も通るのに一苦労だと思う。
私はメインディッシュのお肉を食べてもう一口でおなか一杯になってしまった。
たぶん、これは神饌じゃなくて普通のお肉なんだと思う。
「どうしたんです? アリア様、食べないのですか?」
ユリウス様が聞いてきた。
「これは神饌じゃ無いから、一口食べたらお腹が一杯になってしまって……もう食べられ無さそう」
「ふむ、前もって食べられる物を言っておけば良かったな」
とレイジェス様が渋い顔をする。
「今日はこのトウミジュースでいいです」
「君はただでさえ小さいんだから……屋敷に戻ったら何か摘むと良い」
私は頷いた。
トウミジュースをごくごく飲んでると視線を感じた。一箇所からじゃなくて三箇所。
右から来る視線は分かるから、後で見る事にしたけど、あと二つの視線が気になってそちらを見ると豪華な神官服を着た茶色い髪の男だった。私がそちらを見ると何故かこちらを見るのを止めた。もう一人はユリウス様側の席にの方にいるけど、私達の席よりすこし下位の位置にいる。
くすんだ金髪をオールバックにしている中年の男だった。瞳の色までは見えない。私がその男を見ると、やはり目をそらして隣にいた同じ髪色の若い男と話を始めた。
何だったんだろう?
「気付いたか?」
ユリウス様がそう言って、レイジェス様が頷いた。
「神官服を着てる方は新しい神殿長だな。見た事がある」
レイジェス様が言うとユリウス様が視線を右にやった。
「あいつは分かるか?」
多分私の事を見ていた、金髪の中年の男の人の事だと分かった。
「あれは……カートラット伯爵……」
私はその聞いた事のある名前を聞いて少し驚いた。
「知り合いか?」
「いや、リアの友達のエリザベス様の父上だ」
「アリア様のお友達の父上?」
やっぱりエリザベス様のお父さんだったんだ……。でも、どうして? あんなに絡みつく様な視線で見ていたんだろう? それに、エリザベス様は燃える様な赤毛なのに、お父さんらしき人はくすんだ金髪だった。
「しかし、あいつは不躾にリアを見すぎだ」
「ああ、さっきから私も気になっていた」
二人がそう言って壇上のテーブルに座っているルーク様を見て睨む。
そう、三つの視線のうちの最後の視線はルーク様だった。
私は今日黒いアバヤを着ている。飲み物を飲んだりするからマスクは外しているけど、魅了の効果が低くなるから、そんなに見られるのはおかしいと思うんだけどなぁ……。普通のドレス姿だったら見られるのは分かるんだけど……。
私も二人の視線に釣られてルーク様を見た。虎耳がぴょこぴょこ動いてる。
「ぷっ」
あっ! 私は急いで口元を押さえた。
私が笑った物だから二人共ルーク様の虎耳の動きを見て笑った。
「くっ、くくくっ」
レイジェス様は笑うのを、一応押さえようとしている様だ。
「ふっ」
ユリウス様は完全にルーク様を馬鹿にしていた。
私達がルーク様を見て笑ったのがばれてしまって、ルーク様がバン! とテーブルを叩いた。
「お前達、失礼だぞ! 私を見て笑うとはっ!」
楽しいざわめきがあったその場がしーんとなってしまった。
ガブリエル王が呆れてルーク様を見ている。
「ルーク殿、他の者が見ておる、一旦落ち着かないか?」
ルーク様は渋々椅子に座ってお酒をがぶがぶ飲んでいた。
その後は私はトウミジュースを飲んでるだけだったけど、皆食事をして晩餐会はそれなりに楽しく終わった。
ちなみに護衛二人は私達のテーブルが見える所で遠かったけど、一応護衛してくれていたそうで、セバスは執事達のグループでお茶会をしていたらしい。
そう言えば前にも執事グループでお茶会とかってやっていた気がする。
晩餐会が終わると戴冠式をやった大広間に誘導された。
会場にいた人々が人の流れに沿って大広間へ行く。レイジェス様は私が踏まれない様に抱き上げてくれた。
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