魔術師長様はご機嫌ななめ

鷹月 檻

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第五章

2 イズモ会議 一

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 今日はイズモ会議の日だというのに少し目覚めが悪かった。

 昨夜夕食を終えたあと、私はお屋敷の礼拝室にハンドベルの音を響かせてみた。誰もいなかったら通信は出来ない。レイジェス様が待ってるかな? と思ったら対応したのは護衛のセドリックだった。
レイジェス様は帰宅してからすぐ食事を取り、暫く礼拝室で読書をしていたけど、セバスに用事があると呼ばれたらしい。その間私から連絡が来るかも知れないからとセドリックが留守番をする事になった。

「あら、セドリックもアーリンと一緒に休暇を取れば良かったのに。わたくしがいなければやる事が無くて暇でしょ?」
「兄さんは休み無く働いてますから。俺を養う為に休みも無く働いてるのに申し訳なくって。それに、姫様はいないけど、ここで姫様の連絡待ちをするのも俺の仕事かなって思う。今みたいに公爵様がいない時、こうして時間を稼げますから。そろそろ戻って来るんじゃないでしょうか」

 セドリックがそう言った時に後ろから礼拝室の扉の開く音が聞こえた。

「公爵様が来たので代わりますね」

 そう言ってセドリックはレイジェス様に場所を変わったんだと思う。ガサゴソと物音が聞こえたあとレイジェス様の声が聞こえた。

「おお、アリアか、どうだ? そちらは」

 過去に迷い込んでいた私はレイジェス様の声を聞くのは二月ふたつき振りだった。なんだか鼻がつんとしてきて、思わず涙声になった。

「レイジェス、さまぁっ……!!」
「どうした? 鼻声だぞ? 泣いているのか? 何かあったのか?」
「だって、だって、……久しぶり過ぎて……」
「久しぶり? 君は今日の朝そちらに行ったばかりだろ? まったく、もう寂しいのか? リアは甘えん坊だな」
「早くお屋敷に帰りたいよぅ……」
「そんな事を言うと、やはり君はまだ子供なんだなぁ~とすごく思うな。イズモ会議はもう始まったのか?」
「ううん、明日からです」
「終わったらすぐ帰ってきなさい。待っている」
「はい!」

 レイジェス様との通信はそれで終わったけど、その後、私は寝台のお布団の中で色々と考え込んでいた。
過去に迷い込んでいた時の記憶が所々穴が開いている様に感じた。気のせいかと思ったけど、フェリシアンと別れる時に父神様が、フェリシアンが私にスキルを使ったと言っていた。
もしかして、フェリシアンが私に使ったスキルとは記憶消去なのかも知れない。だから自分の記憶に穴が開いてるような感覚があるんじゃないかと思う。
でも、フェリシアンが私に、何故?
考えてみたけど、理由は分からない。
そして考え込んで眠るのが遅くなったせいか今朝の目覚めが良くなかった。




 コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

「どうぞ?」
「ラノです。朝食の準備が出来ていますので、起きて下さい」
「ありがとう、仕度をしてから行きます」

 天使のラノはぺこりとお辞儀をして下がった。
朝食を終えたあと、私と父神様とオートマタは、オートマタが開いたゲートを潜ってイズモ会議が開かれる『混沌の狭間』へ向かった。





 混沌の狭間のロビーには他の惑星ほしから来た神達が沢山いた。ちいさな天使達がその神様達を会議室に案内していた。
私達にも担当の天使が付いて会議室へ案内される。
会議室に入るとそこは円形になっていて手前に講壇があり、奥には逆U字型の長い机が3段あり、等間隔で段差になっていた。机に沿って綺麗に椅子が整列されている。
席は100席ほどはありそうだった。

「アズライル様のお席は手前の左側になっております」

 天使が言ってその場所を指差す。私と父神様ちちがみはそこに座った。
他の席にも続々と来た神達が座っていき、あっという間に席は埋まった。
私はぐるりと会場内を見渡した。母神のベテル様を探していて発見した。

「父神様、母神様ははがみがいます! あっちに!」

 私が指を差すと父神様に指を差すなと怒られた。
母神様は会議室に入ってきた扉から、私達とは反対の右側の下から二段目にいた。

「……殿方と一緒にいますね……」
「あれはベテルの一番目の夫だ。あの二人で地球を管理している」
「父神様は母神様と元から創造夫婦になる予定だったのですか? 普通の閨関係もある夫婦じゃなくて?」
「我が結婚したいと言い出した時はベテルもまだ独り身で、普通の夫婦になる予定でいたが……、ベテルの気が変わったんだろう……。だが、我は創造夫婦でも良いと思っている。お互い惑星を持つ身であるしな」
「どうして気が変わっちゃったんでしょ?」
「……我には分かりかねる。いきなり一番目の夫を持ったからな。我には何の話も無かった」
「それって振られ……」
「黙れっ!」

 父神様に横睨みされて私は両手で自分の口を押さえた。

「後でベテルに声を掛ける」
「え?」
「そなたも久しぶりに話したいであろう?」
「はい!」

 私が父神様と話しているとオートマタが講壇に上がった。講壇には据え置き型のマイクが置いてあり、そこに向かって言った。

みなの者、静粛に。今回の議会の進行はノルン様が行う。それでは、ノルン様、ナナシ様、こちらへどうぞ!」

 オートマタがそう言うと会議室の両扉が天使達によって開かれ、そこから黄金に輝く炎の様な光体がふわふわと浮かんで現れた。
私はその光体を見て驚いた。あのワイアットで見た夢の中の炎の様な光体と、色は違うがそっくりだった。
じっと見ていると、その光体の後ろには床にまで届くほどの長い白い髪の女性がいた。その顔は白い艶のある仮面を被り隠されている。
多分、光体の方が【ナナシ様】で白髪ロングの女性の方が【運命の女神、ノルン様】なんだろうなと思った。
二人が現れると場がざわざわと騒がしくなった。

「ナナシ様と運命の女神がイズモ会議に出席など、滅多に無いぞ! 何かあったのか!?」

 オートマタが素早く講壇を下り、ノルン様がそこに上がった。

「これから皆に説明するので静まりなさい」

 会議室内はノルン様の一言で静まった。

「私はここに集まる皆さんの、50の惑星に調査に赴きました。それは、今現在この宇宙を蝕む小さなウィルスがどこまで広がっているかの調査です」
「宇宙を蝕むウィルスだと!? なんだそれは!?」
「そんな話聞いた事が無いぞ!」
「ワシも長らく生きておるが、そんな話は聞いたことが無いぞ……」

 ノルン様の言葉に騒然とする場内。

「どうぞ皆さん、お静かに。調査した結果、被害の出ている惑星は『混沌の狭間』『地球』『アズライル神の名も無き惑星』の3つでした。他の惑星には被害が及んでいませんでした」

 ノルン様がまじめにお話をしているのに、私は少し気になった事があった。

「父神様の惑星って、まだお名前が無いままなんですね? 付ければいいのに」
「ふむ、良き名が浮かばず放置してたが、たしかに『アズライル神の名も無き惑星』という呼び方は長すぎて言いずらいな」
「父神様の名前まんま付けちゃうと、こういう会議で惑星の名前を言われてるのか、自分の名前を言われているのか分からないから、まんまはやめた方がいいですよ?」
「ふむ……そなたなら、なんと付ける?」
「う~ん、アズライルから取って、『アズル』……なんか違うなぁ~。語呂が良くないし、ちょっとエロい感じが。あっ、『アズイル』なんてどうですか? 言い易いし、エロい感じもしないです~」
「『アズイル』か……」

 父神様は顎をさすって頭をコクコク動かしていた。
ノルン様は続けて言う。

「この、『世界を滅亡に導くウィルス』は何者かによって作られた物である事がわかりました。そして無機物に対応するワクチンを『混沌の狭間』の管理人であるオートマタが作りました。ですが、未だ生物に対応するワクチンは作られておらず、何か案があれば出して欲しいと思い、今回のイズモ会議に『有識ある惑星主神』である皆様を招いたのです」
「……そんな訳の分からない物をどうにかしろって言われてもなぁ……いつものイズモ会議とは違うって事か……」

 二段目の席、中央にいた男の神が呟いてその場はシーンと鎮まりかえった。
私はワイアットで見た夢を思い出した。
確か、夢の中であの青白い炎の様な光体は言っていた。

『ワクチンを作った』と。

 あれはただの夢だったの? 夢にしてはあの光体は酷く切羽詰まってた様に感じた。
ただの夢かも知れないから、こんな場所で発言するのはどうかと思う。
でも、夢じゃなくて、本当にあの光体さんがいて、私に話しかけていたとしたら?
私は隣の父神様を見上げて言った。

「父神様、わたくしのおでこに父神様のおでこを重ねて下さいませ」
「んん?」

 父神様は不思議に思いながらも私の額に自分の額をくっ付けた。

「……これは!?」
「言った方がいい?」

 父神様が頷いたので、私は手を上げた。

「は~い!」

 し~んとした会議室に子供の甲高い声が響いた。

「子供神? 珍しいな」

 三段目席に座ってるおじいさんが言って、こちらをじろじろと見る。

「……どうしたんです? アリア」

 運命の女神ノルン様がこちらに顔を向けた。艶のある白い仮面でその表情は見えない。

「わたくし、少し前に夢を見たんです。その夢の中にそちらにいる『ナナシ様』の様な青白い炎の光体がいて、ワクチンを作ったと言っていました」
「なんですって!?」

 ノルン様が驚いていると、つかつかとオートマタが私の机の前まで来て言った。

「その光体は他に何か言っていましたか?」
「えっと……」

 私は頭の中であの時の事を必死で思い出す。

「……一人で行くのが怖かったから、ウィルスを作って彼女と逝こうとしたと。でも、失敗して世界が崩壊に繋がる様な事をしてしまったと。こんな結果になると思わなかったって」
「それだけですか?」
「自分はもう意識だけの薄っぺらい存在で、魂の輪廻の中に戻れないって。けどこのままじゃ世界は崩壊しちゃうから、それは自分の望んだことじゃなくて、だからワクチンを作ったから、崩壊を止めてって……」
「それを何故あなたに言ったんですか?」
「分からないですよ、そんな事! でも、崩壊を止められるのは私ともう一人だけって言ってて、……もう一人の名前はよく聞こえなかったです」
「大変興味深いお話ですね。……夢にしては」

 オートマタはスタスタと歩いて戻り、再び講壇のノルン様の一歩後ろに付いた。

「他に話のある者は挙手を」

 ノルン様が言うと父神様が手を上げた。

「アズライル、どうぞ」
「アリアの心を読んだ。我が思うにアリアが言っている青白い光体とは『9代目のナナシ様』の事だと思うのだが?」

 父神様がそう言うと会議室がざわざわとどよめいた。

「9代目ナナシ様はとっくにお亡くなりになっている!」
「まさか、先代のナナシ様が世界を滅ぼすウィルスを作っただとっ!?」
「どうなっているんだ!?」
「静まりなさい! ……今の所、被害のある場所は三箇所。それ以外の惑星の者はあまり手助けにはならない様ですね……。宴を大広間に用意してあります。天使達、皆さんを御案内して。会議はこれにて終了、『地球の神』と『名も無き惑星の神』はこの場に残るように」

 ノルン様がそう言うと、天使達が神々を宴の催される大広間へ案内した。
残ったのは『混沌の狭間』『地球』『名も無き惑星』の関係者のみだった。

「ベテル、その後地球の天界の様子はどうですか?」
「ノルン様が直接お越し頂いて、ワクチンを投与して頂いてからは以前とは見違える位綺麗になっています」
「微妙に崩壊はしているはずだけど……維持は出来ている様ね?」
「はい、おかげさまで」
「貴方達も宴に行きなさい。天使達、御案内して」

 ノルン様は母神様と次席神の夫を大広間に案内させた。

「アズライル、アリア、二人ともこちらにいらっしゃい」

 ノルン様に言われて父神様と二人で前に進むとノルン様が講壇から下りてきて、それに続いてオートマタ、ナナシ様も私の前に立った。

「初めまして、アリア。私は『運命の女神』ノルンです。あなたの事はずっと見ていましたよ。あなたに酷いことをしたらアズライルが大陸を滅ぼすと言った様ですが……ストップさせたのは私です。あなたなら分かるわよね? あなたに酷いことをして大陸が滅んだらどれだけの者が死ぬか。それがどれだけ恐ろしい事なのか」

 私は頷いた。もちろん自分に酷い事はされたくない。
だけど、人にも死んで貰いたくない。

「初めましてアリア。私はナナシ、君とは会うのは初めてだが、ずっとアリアチャンネルを見ていた。……思っていたよりも実物は小さいのだな」

 ナナシ様に小さいと言われて私がしょんぼりすると、ナナシ様は焦った様だった。
黄金の炎が揺らめいていた。

「あっ、もしかして、気にしていたのか? どうやら失礼を致した様だ。すまない」
「い、いえっ」

 ナナシ様は凄く偉い神様なのに、私がまだ子供だから気を使ってくれているんだ、と思うと何だか申し訳ない気がした。

「アリア、私はあなたにまだ聞きたい事がある。私の研究室まで来て欲しい」

 オートマタがそう言うと、父神様が顎でオートマタの後ろを差した。
『付いていけ』という事らしい。
なので、私はオートマタに付いていく。
私の後ろではノルン様、ナナシ様、父神様が大広間へ向かう。

「では、あとでな、アリア」
「はい」

 父神様と言葉を交わしてから思った。
さっき聞かれた事は全部答えたのに、まだ何を聞きたいんだろう?
聞きたいならこの場所でも構わないのに、何故研究室まで?
私の頭の中は、疑問符で一杯だった。

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