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第五章
24 クリムゾン城【義理近親姦】 エリザベス視点
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そのお屋敷は正方形より少し横に長い形をしていた。外壁がクリーム色で屋根は灰色がかった青い色だった。所々円柱の塔があり、その塔の屋根は円錐型だった。
この屋敷の名前をお父様は『クリムゾン城』と名付けた。
庭には、6月から7月にかけて咲く、真紅の薔薇の花がいたる所に植えられていた。
そのお屋敷の見た目は屋敷と言うよりも、城と称した方が当て嵌まっていると私も感じた。
こんな物を二人の新居の為に5年も前から建てていたと聞いて呆れるしかない。5年前と言えば私はまだ6歳だった。お父様の熱意には驚きの連続だ。
私がお屋敷に見とれていると、荷馬車が門前に着いた。そこに本館のお屋敷から走ってきた使用人達が来て、次々と荷物を運んでいく。
クリムゾン城の家具はもう買い揃えて整っていた。後は私のドレスその他の荷物とお父様の荷物を運び込めば終了だった。
ちなみに、お父様は執事のジェイドと侍従長のヨランダ、側仕えのクレアをこちらの屋敷に呼んだ。料理人と使用人も半分こちらに連れてきた。
『ランベールお兄様達が困りませんか?』と聞いたら、『あちらの館には秘密が無いから、人を雇うのは楽だろう?』と言われた。
お父様がこちらに呼んだ人達は、お父様の秘密を薄っすら知っていても、口外しない口の堅い者達だった。それは長年働いてきて、お父様に仕えている年配の者が多かった。
お屋敷の中に入ると中は、水色にも見える薄い紫色の壁紙が張られていた。玄関を入ってすぐの床は、象牙色の大理石で覆われていた。奥へ続く長い廊下や二階へ続く階段は赤味を帯びた木材で仕上げられていた。
早速、階段を駆け上がって、自分の部屋へ行ってみた。そこはクリーム色の壁紙と深紅の絨毯、家具は、全て赤味を帯びた木材で作られていた。統一性があって美しく見える。寝台は白く薄い布地のレースが天蓋として掛かっていて、お姫様の眠る場所の様に見えた。使用人達が私の荷物を持って来て、次々と部屋に収納して行った。自分の部屋は確認したので、お父様の部屋に行ってみた。
お父様の部屋は私の真向かいで、私の部屋より少し広かった。寝台も私と一緒に寝れるようにと大きめな作りになっている。
壁の色は薄いグレーに黒の唐草の様なアラベスク模様が描かれていて、とてもシックで落ち着いた印象を受けた。床には濃紺の絨毯が敷かれている。応接セットの長椅子は、目の覚めるような鮮やかな紫色をしていた。家具は私の部屋の赤味を帯びた木材では無く、黒味を帯びた艶のある木材を使って作られていた。こちらの部屋の家具は全てそれで統一されて、大人が住む部屋の印象を受けた。
寝台には天蓋が付いていて、布は薄い紫のレースの布地だった。
ここで私とお父様が……。
夜の事を考えると心拍数がかなり上がった。
「エリー」
不意に声を掛けられて飛び上がった。
「お父様!」
「あ、驚かせてすまない。ランベールとマリウスがお祝いに来たんだが……」
「あら、すぐ行きます」
私はお父様の手を握った。そんな私をお父様が見た。
「え? 握ってはいけませんでした?」
「い、いやっ、あっ、すまん」
「行きましょう? お父様」
「ああ」
食堂へ行くとランベールお兄様とマリウスお兄様がいた。
食堂のテーブルには丸いケーキが置いてあり、『結婚おめでとう!』の文字がチョコレートで書かれていた。
「ケーキは僕からのお祝いのプレゼントだよ」
「ありがとうございます、ランベールお兄様」
執事のジェイドがそれをすっと持って行き、ナイフで切り分けて皆がいつも座る席に配り始めた。紅茶も入れている。
マリウスお兄様はリボンが掛かっている小さな木箱を私に差し出した。
「開けてみて」
私が木箱を明けるとそこには白い絹の布地の上に二つのペンダントが並べられていた。それは太陽と三日月をモチーフにしたペンダントで、太陽の方はピンクゴールドのペンダントで、丸い輪になっている太陽の外の部分に、放射状に細い線が模様で描かれていた。中の部分にはルビーが飾られて、ゆらゆら揺れる造りになっている。三日月の方はプラチナで出来ていて、太陽より大きくて、左側が開いた三日月の形をしている。三日月の上の部分には小さなダイアが埋め込まれていた。お父様も気になったのか私の横から覗き込んだ。
「素敵……」
「だが、何故二つある?」
お父様が聞いてお兄様が微笑んだ。
「これはペアペンダントになってるんですよ。こう重ねると……」
マリウスお兄様が木箱からペンダントを二つ取り出してテーブルに重ねて置いた。
大きな三日月の中に、小さな太陽のペンダントを重ねると、それは二つでひとつになった。
「ねっ? こうなるんです。二人がいつまでも仲良くいられるようにと、私からのプレゼントです」
「ああ、ありがとう、マリウス。こんなプレゼントは始めて貰った。感激だ」
お父様がお兄様を抱きしめて感謝していた。
「お兄様、わたくしからもありがとうございます」
「ああ、エリザベス、幸せにおなり」
「なんだか、僕のプレゼントと随分差がついた様に感じるんだが?」
ランベールお兄様が拗ねてしまった。
「お茶も出来たようだし、皆席に着け」
お父様がそう言うと皆、席に着いた。執事も侍従長もいつの間にか食堂を出て行って、家族だけになっていた。
「この度、私は内々に、エリーと婚姻の儀を致す事となった」
「「おめでとうございます、父上」」
「うむ。だが、……これは法に触れる事でもある。お前達を信用しているから、こうして話しているが……、婚姻の儀が済んでから、ここにいるランベール、マリウス、エリザベスの誰かが福祉課に通報すれば……間違いなく私は処刑される。私はそれを覚悟しているが、どうか通報しないでくれ、頼む。私は今一番幸せだ。エリーが婚姻の儀を承諾してくれて、だから死にたくは無い。長男であるランベールはゆくゆくは家督を継ぎ、あの本館に住んでもらう。爵位もランベールが次期伯爵だ。商会もお前が会頭となって、皆を引っ張って行かなければいけない。だが、マリウス、お前には大してやれるものが無い。将来的にはあの別館をお前にと思っている。商会は副会頭の役職を与えるつもりでいるが、それくらいしかお前には出来ない。他に何か、私で出来る事があるか? あったら言ってくれ」
お父様の言葉にマリウスお兄様は言った。
「私は父上の事を通報する気なんて無いですよ。私にだって、人には言えない秘密のひとつやふたつありますから、父上の気持ちは分かります。だから心配しないで下さい。父上が与えてくれる物だけで結構満足してるんです。私はランベール兄さんとは違って、無責任なところがありますから」
マリウスお兄様はそう言って笑った。
「僕も父上を通報したりしないですよ。父上を尊敬してますし、愛情を沢山注いで育てて頂きましたから」
ランベールお兄様もそう言って微笑んだ。
「二人ともありがとう」
お父様は二人に頭を下げた。
その後は昼食代わりにケーキを食べ紅茶を飲んで少し話をした。
そしてマリウスお兄様は本館に帰って、ランベールお兄様は談話室へ行った。
「ランベールには立会人の役をして貰う事になっているから、残って貰う」
お父様が私の耳元に小声で囁いた。
立会人て結婚式の誓いのか。
「あと、後出しで悪いんだが、もうひとつ伝えたい事があった」
「ええ……? 嫌です絶対!」
「まだ何も言ってないんだが……」
「こんなぎりぎりになって言うなんて、絶対嫌な事でしょ? お父様の性格なんてもう分かってますから!」
「どうしても……ダメか?」
「もぅっ! ……何をさせる気なんですか? わたくしに……」
「エリーの裸の絵を残したい。本当は5歳くらいからのを残したかったんだが、そんな事をして嫌われるのが怖かった。だから出来なかったんだが、今からでも構わない、今、この年齢のエリーの姿を残しておきたいんだ」
「お父様」
「ん?」
「変態過ぎるわ」
「すまん、自覚はしてる。だが、エリーが成人したときに……私の……が……としても……」
「え? 何? 聞こえないわ、お父様」
「私のあれが大人の君に反応しなくなったとしても、それを糧に生きられる、いや勃起出来るかも知れないと思って!」
「え? お父様、永遠に私を愛するって言いましたよね?」
「永遠に愛してるぞ、今もこの先もずっと。心は。だけど体がいうことを聞くかどうかはその時にならないとわからない。ちゃんと身体も愛したいんだ。だからそれを糧にだな……」
「その絵を道具にして大人のわたくしと致すと言う事?」
「端的に言えばそうなる。だが、その道具は必要ない可能性もある。それは未来に至らないと分からない。でも、そんな風になっても、ずっと私の心は変わらない。エリーが一番大事だ。愛してるんだ。死ぬまで君を愛し続けたい」
お父様が真剣に私に言う言葉を聞いて、私は少女趣味って大変なんだなと思った。
成長する中の一通過点の部分しか愛せないなんて、何て寂しい事だろう。
私が成長し、大人になるという事は、お父様はさらに年を取るという事だ。だけど、お父様の中では私の一通過点の時間が最高であり、そこに何もかもが集約されている。同じ時間を過ごして、私が成長しても、お父様は年を取っただけで、心はそこに取り残されてしまうのかも知れない。
そう考えると、お父様は凄く孤独なんじゃないかと思った。
「もぅ……、仕方の無いお父様ね。いいわ、絵を描いても」
「……本当にか?」
「ええ」
「わ、私と繋がっている所も描かせたい……」
私は白い目でお父様を見た。
「もぅ、本当に変態ね! いいわよ!」
「怒ってるのか?」
「怒ってないわ。ちょっと呆れただけです。……でも、絵描きを頼むの? 口の軽い者に当たれば通報されてしまうわ?」
「ランベールに描かせる。あれは絵が上手だし、家族だ。他人にエリーの肌は見せたくない」
「お父様、初夜は止めてね? いくらお兄様でも見られたくない」
「分かってる、今日は誓いの立会人だけだ。終了すればすぐ帰る」
「そう、よかった」
「では着替えてきなさい」
「はい、お父様」
自分の部屋に行って、お父様から頂いた花嫁衣装の木箱を開けて、私の顔は引きつった。中に入っていたのは白い透け透けのベビードールに、やはり透け透けの胸当てと紐ショーツ。それにガーターベルトと白い長い靴下。そして花嫁のベールらしき物。これでは結婚衣装と言うよりも、『下着』だ
今気付いたけど、木箱の横には白い花で作られた小さなブーケもあった。
立会人にランベールお兄様も来ると言うのに、本気でこの格好をさせようとしているの? ため息が出た。
思うところは沢山あったけど、取り合えず花嫁衣裳? を着てみた。見事に透け透けで、花嫁のベールを被ってその長いベールを身体に巻きつけ、なるべく見えないようにしたけど、ベール自体も透けてて隠し様が無かった。ブーケを持ちながらベールを巻きつけて隠すとブーケが落ちそうになるし。
一応姿見で自分を確認したけど、あまりの破廉恥な格好に涙が出そうになった。
そんな中、部屋をノックする音がした。
「私だ、結婚式は私の部屋でするから、用意が出来たら来なさい」
「えっ、ええ、分かりました」
ため息をして、私はお父様の部屋のドアをノックした。
「どうぞ」
お父様の声がして中に入ると、縦に細長い聖書台の前にランベールお兄様が立っていた。神官が着るような詰襟の白い服を着て筒状の帽子を被っている。
お父様はさっきまであった、伸びていたお髭が無くなっていた。薄いグレーの燕尾服みたいな貴族服を着て、ネクタイは深紅のクロスタイをしていて中央をダイアのタイピンで留めていた。昨夜はぼさぼさだった髪も、いつもの様にオールバックできっちりと固められていた。くすんだ金髪の細い一房が額に掛かっている。
こちらを見つめて微笑む青い瞳。
途端に自分の格好が恥ずかしくなった。
「じゃあ、二人とも、僕の前に」
「「はい」」
「では始めます。汝、ラザロ=カートラットは、エリザベスカートラットを妻とし、
悪しき時も良き時も、貧しき時も富める時も、病める時も健やかなる時も、共に二人で歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、添い遂げる事を、この婚姻の誓約のもとに誓いますか?」
「はい、誓います」
「汝、エリザベス=カートラットは、ラザロ=カートラットを夫とし、悪しき時も良き時も、貧しき時も富める時も、病める時も健やかなる時も、共に二人で歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、添い遂げる事を、この婚姻の誓約のもとに誓いますか?」
「はい、誓います」
「では誓約の指輪を」
ランベールお兄様がそう言って、聖書台に置いてある小さな箱を開けるとそこには指輪が二つ入っていた。お父様はそこから小さい方の指輪を取り、私の薬指に嵌めた。指輪の宝石は私の髪色と同じルビーで、台座のリングはピンクゴールドだった。
「エリザベスもここから取って、お父様に嵌めてあげるんだよ」
お兄様が言ったので、私は頷いて指輪を取った。サファイアが飾られたプラチナのリングを、お父様の左手の薬指に嵌めた。
「では誓いのキスを」
お父様が私の花嫁ベールの顔の部分を上げようとして、身体に巻きつけていた部分がはらりと落ちた。
「あっ、あっ、見えちゃうっ」
私が慌てているのも構わずお父様は私の両頬を包みこみ、舌を絡めるキスをした。
私の頭の中は、お兄様に見えちゃうっ! それで一杯だった。
「では、これにて結婚式を終わります。父上、エリザベス、お幸せにね」
「ああ、ありがとう、ランベール」
「それでは本館へ帰りますね」
「ああ、気をつけて」
「お兄様、また」
お兄様が去ってほっとした私は、自分が身体を隠してない事に気付いた。
そしてその姿をお父様が見ている事にも気付いてしまった。
「ねぇ、お父様、これが花嫁衣裳ってどういうことなんです?」
「んっ、ああ、似合っているぞ?」
「はぁああっ?」
「男にはロマンというものがあってだな……」
「お兄様に見られて、凄く恥ずかしかった。お父様の馬鹿」
「それでも着てくれたんだな、ありがとう、エリー」
「喜ぶかと思って。……お父様が」
「愛し合おう! エリー!」
「えっ? えっ? まだ夜じゃないわっ!?」
「もう結婚式は済んだ。愛し合える。夜じゃなくても」
お父様は折角格好良く着こなしている貴族服の上着を脱いで、長椅子の背に掛けた。シャツやズボンも脱いで次々長椅子にぽいぽいと置いて行った。
そうして裸になって私の前に立った。
「エリーはブーケをテーブルに置いて、ベールを取るだけでいいな」
そう言って私からブーケを取りテーブルに置いて、ベールを取って長椅子の背に掛けた。
お父様が私を抱き上げ寝台へ連れて行く。
私の喉はごくりと鳴って、心を決めるしか無いと思った。
この屋敷の名前をお父様は『クリムゾン城』と名付けた。
庭には、6月から7月にかけて咲く、真紅の薔薇の花がいたる所に植えられていた。
そのお屋敷の見た目は屋敷と言うよりも、城と称した方が当て嵌まっていると私も感じた。
こんな物を二人の新居の為に5年も前から建てていたと聞いて呆れるしかない。5年前と言えば私はまだ6歳だった。お父様の熱意には驚きの連続だ。
私がお屋敷に見とれていると、荷馬車が門前に着いた。そこに本館のお屋敷から走ってきた使用人達が来て、次々と荷物を運んでいく。
クリムゾン城の家具はもう買い揃えて整っていた。後は私のドレスその他の荷物とお父様の荷物を運び込めば終了だった。
ちなみに、お父様は執事のジェイドと侍従長のヨランダ、側仕えのクレアをこちらの屋敷に呼んだ。料理人と使用人も半分こちらに連れてきた。
『ランベールお兄様達が困りませんか?』と聞いたら、『あちらの館には秘密が無いから、人を雇うのは楽だろう?』と言われた。
お父様がこちらに呼んだ人達は、お父様の秘密を薄っすら知っていても、口外しない口の堅い者達だった。それは長年働いてきて、お父様に仕えている年配の者が多かった。
お屋敷の中に入ると中は、水色にも見える薄い紫色の壁紙が張られていた。玄関を入ってすぐの床は、象牙色の大理石で覆われていた。奥へ続く長い廊下や二階へ続く階段は赤味を帯びた木材で仕上げられていた。
早速、階段を駆け上がって、自分の部屋へ行ってみた。そこはクリーム色の壁紙と深紅の絨毯、家具は、全て赤味を帯びた木材で作られていた。統一性があって美しく見える。寝台は白く薄い布地のレースが天蓋として掛かっていて、お姫様の眠る場所の様に見えた。使用人達が私の荷物を持って来て、次々と部屋に収納して行った。自分の部屋は確認したので、お父様の部屋に行ってみた。
お父様の部屋は私の真向かいで、私の部屋より少し広かった。寝台も私と一緒に寝れるようにと大きめな作りになっている。
壁の色は薄いグレーに黒の唐草の様なアラベスク模様が描かれていて、とてもシックで落ち着いた印象を受けた。床には濃紺の絨毯が敷かれている。応接セットの長椅子は、目の覚めるような鮮やかな紫色をしていた。家具は私の部屋の赤味を帯びた木材では無く、黒味を帯びた艶のある木材を使って作られていた。こちらの部屋の家具は全てそれで統一されて、大人が住む部屋の印象を受けた。
寝台には天蓋が付いていて、布は薄い紫のレースの布地だった。
ここで私とお父様が……。
夜の事を考えると心拍数がかなり上がった。
「エリー」
不意に声を掛けられて飛び上がった。
「お父様!」
「あ、驚かせてすまない。ランベールとマリウスがお祝いに来たんだが……」
「あら、すぐ行きます」
私はお父様の手を握った。そんな私をお父様が見た。
「え? 握ってはいけませんでした?」
「い、いやっ、あっ、すまん」
「行きましょう? お父様」
「ああ」
食堂へ行くとランベールお兄様とマリウスお兄様がいた。
食堂のテーブルには丸いケーキが置いてあり、『結婚おめでとう!』の文字がチョコレートで書かれていた。
「ケーキは僕からのお祝いのプレゼントだよ」
「ありがとうございます、ランベールお兄様」
執事のジェイドがそれをすっと持って行き、ナイフで切り分けて皆がいつも座る席に配り始めた。紅茶も入れている。
マリウスお兄様はリボンが掛かっている小さな木箱を私に差し出した。
「開けてみて」
私が木箱を明けるとそこには白い絹の布地の上に二つのペンダントが並べられていた。それは太陽と三日月をモチーフにしたペンダントで、太陽の方はピンクゴールドのペンダントで、丸い輪になっている太陽の外の部分に、放射状に細い線が模様で描かれていた。中の部分にはルビーが飾られて、ゆらゆら揺れる造りになっている。三日月の方はプラチナで出来ていて、太陽より大きくて、左側が開いた三日月の形をしている。三日月の上の部分には小さなダイアが埋め込まれていた。お父様も気になったのか私の横から覗き込んだ。
「素敵……」
「だが、何故二つある?」
お父様が聞いてお兄様が微笑んだ。
「これはペアペンダントになってるんですよ。こう重ねると……」
マリウスお兄様が木箱からペンダントを二つ取り出してテーブルに重ねて置いた。
大きな三日月の中に、小さな太陽のペンダントを重ねると、それは二つでひとつになった。
「ねっ? こうなるんです。二人がいつまでも仲良くいられるようにと、私からのプレゼントです」
「ああ、ありがとう、マリウス。こんなプレゼントは始めて貰った。感激だ」
お父様がお兄様を抱きしめて感謝していた。
「お兄様、わたくしからもありがとうございます」
「ああ、エリザベス、幸せにおなり」
「なんだか、僕のプレゼントと随分差がついた様に感じるんだが?」
ランベールお兄様が拗ねてしまった。
「お茶も出来たようだし、皆席に着け」
お父様がそう言うと皆、席に着いた。執事も侍従長もいつの間にか食堂を出て行って、家族だけになっていた。
「この度、私は内々に、エリーと婚姻の儀を致す事となった」
「「おめでとうございます、父上」」
「うむ。だが、……これは法に触れる事でもある。お前達を信用しているから、こうして話しているが……、婚姻の儀が済んでから、ここにいるランベール、マリウス、エリザベスの誰かが福祉課に通報すれば……間違いなく私は処刑される。私はそれを覚悟しているが、どうか通報しないでくれ、頼む。私は今一番幸せだ。エリーが婚姻の儀を承諾してくれて、だから死にたくは無い。長男であるランベールはゆくゆくは家督を継ぎ、あの本館に住んでもらう。爵位もランベールが次期伯爵だ。商会もお前が会頭となって、皆を引っ張って行かなければいけない。だが、マリウス、お前には大してやれるものが無い。将来的にはあの別館をお前にと思っている。商会は副会頭の役職を与えるつもりでいるが、それくらいしかお前には出来ない。他に何か、私で出来る事があるか? あったら言ってくれ」
お父様の言葉にマリウスお兄様は言った。
「私は父上の事を通報する気なんて無いですよ。私にだって、人には言えない秘密のひとつやふたつありますから、父上の気持ちは分かります。だから心配しないで下さい。父上が与えてくれる物だけで結構満足してるんです。私はランベール兄さんとは違って、無責任なところがありますから」
マリウスお兄様はそう言って笑った。
「僕も父上を通報したりしないですよ。父上を尊敬してますし、愛情を沢山注いで育てて頂きましたから」
ランベールお兄様もそう言って微笑んだ。
「二人ともありがとう」
お父様は二人に頭を下げた。
その後は昼食代わりにケーキを食べ紅茶を飲んで少し話をした。
そしてマリウスお兄様は本館に帰って、ランベールお兄様は談話室へ行った。
「ランベールには立会人の役をして貰う事になっているから、残って貰う」
お父様が私の耳元に小声で囁いた。
立会人て結婚式の誓いのか。
「あと、後出しで悪いんだが、もうひとつ伝えたい事があった」
「ええ……? 嫌です絶対!」
「まだ何も言ってないんだが……」
「こんなぎりぎりになって言うなんて、絶対嫌な事でしょ? お父様の性格なんてもう分かってますから!」
「どうしても……ダメか?」
「もぅっ! ……何をさせる気なんですか? わたくしに……」
「エリーの裸の絵を残したい。本当は5歳くらいからのを残したかったんだが、そんな事をして嫌われるのが怖かった。だから出来なかったんだが、今からでも構わない、今、この年齢のエリーの姿を残しておきたいんだ」
「お父様」
「ん?」
「変態過ぎるわ」
「すまん、自覚はしてる。だが、エリーが成人したときに……私の……が……としても……」
「え? 何? 聞こえないわ、お父様」
「私のあれが大人の君に反応しなくなったとしても、それを糧に生きられる、いや勃起出来るかも知れないと思って!」
「え? お父様、永遠に私を愛するって言いましたよね?」
「永遠に愛してるぞ、今もこの先もずっと。心は。だけど体がいうことを聞くかどうかはその時にならないとわからない。ちゃんと身体も愛したいんだ。だからそれを糧にだな……」
「その絵を道具にして大人のわたくしと致すと言う事?」
「端的に言えばそうなる。だが、その道具は必要ない可能性もある。それは未来に至らないと分からない。でも、そんな風になっても、ずっと私の心は変わらない。エリーが一番大事だ。愛してるんだ。死ぬまで君を愛し続けたい」
お父様が真剣に私に言う言葉を聞いて、私は少女趣味って大変なんだなと思った。
成長する中の一通過点の部分しか愛せないなんて、何て寂しい事だろう。
私が成長し、大人になるという事は、お父様はさらに年を取るという事だ。だけど、お父様の中では私の一通過点の時間が最高であり、そこに何もかもが集約されている。同じ時間を過ごして、私が成長しても、お父様は年を取っただけで、心はそこに取り残されてしまうのかも知れない。
そう考えると、お父様は凄く孤独なんじゃないかと思った。
「もぅ……、仕方の無いお父様ね。いいわ、絵を描いても」
「……本当にか?」
「ええ」
「わ、私と繋がっている所も描かせたい……」
私は白い目でお父様を見た。
「もぅ、本当に変態ね! いいわよ!」
「怒ってるのか?」
「怒ってないわ。ちょっと呆れただけです。……でも、絵描きを頼むの? 口の軽い者に当たれば通報されてしまうわ?」
「ランベールに描かせる。あれは絵が上手だし、家族だ。他人にエリーの肌は見せたくない」
「お父様、初夜は止めてね? いくらお兄様でも見られたくない」
「分かってる、今日は誓いの立会人だけだ。終了すればすぐ帰る」
「そう、よかった」
「では着替えてきなさい」
「はい、お父様」
自分の部屋に行って、お父様から頂いた花嫁衣装の木箱を開けて、私の顔は引きつった。中に入っていたのは白い透け透けのベビードールに、やはり透け透けの胸当てと紐ショーツ。それにガーターベルトと白い長い靴下。そして花嫁のベールらしき物。これでは結婚衣装と言うよりも、『下着』だ
今気付いたけど、木箱の横には白い花で作られた小さなブーケもあった。
立会人にランベールお兄様も来ると言うのに、本気でこの格好をさせようとしているの? ため息が出た。
思うところは沢山あったけど、取り合えず花嫁衣裳? を着てみた。見事に透け透けで、花嫁のベールを被ってその長いベールを身体に巻きつけ、なるべく見えないようにしたけど、ベール自体も透けてて隠し様が無かった。ブーケを持ちながらベールを巻きつけて隠すとブーケが落ちそうになるし。
一応姿見で自分を確認したけど、あまりの破廉恥な格好に涙が出そうになった。
そんな中、部屋をノックする音がした。
「私だ、結婚式は私の部屋でするから、用意が出来たら来なさい」
「えっ、ええ、分かりました」
ため息をして、私はお父様の部屋のドアをノックした。
「どうぞ」
お父様の声がして中に入ると、縦に細長い聖書台の前にランベールお兄様が立っていた。神官が着るような詰襟の白い服を着て筒状の帽子を被っている。
お父様はさっきまであった、伸びていたお髭が無くなっていた。薄いグレーの燕尾服みたいな貴族服を着て、ネクタイは深紅のクロスタイをしていて中央をダイアのタイピンで留めていた。昨夜はぼさぼさだった髪も、いつもの様にオールバックできっちりと固められていた。くすんだ金髪の細い一房が額に掛かっている。
こちらを見つめて微笑む青い瞳。
途端に自分の格好が恥ずかしくなった。
「じゃあ、二人とも、僕の前に」
「「はい」」
「では始めます。汝、ラザロ=カートラットは、エリザベスカートラットを妻とし、
悪しき時も良き時も、貧しき時も富める時も、病める時も健やかなる時も、共に二人で歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、添い遂げる事を、この婚姻の誓約のもとに誓いますか?」
「はい、誓います」
「汝、エリザベス=カートラットは、ラザロ=カートラットを夫とし、悪しき時も良き時も、貧しき時も富める時も、病める時も健やかなる時も、共に二人で歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、添い遂げる事を、この婚姻の誓約のもとに誓いますか?」
「はい、誓います」
「では誓約の指輪を」
ランベールお兄様がそう言って、聖書台に置いてある小さな箱を開けるとそこには指輪が二つ入っていた。お父様はそこから小さい方の指輪を取り、私の薬指に嵌めた。指輪の宝石は私の髪色と同じルビーで、台座のリングはピンクゴールドだった。
「エリザベスもここから取って、お父様に嵌めてあげるんだよ」
お兄様が言ったので、私は頷いて指輪を取った。サファイアが飾られたプラチナのリングを、お父様の左手の薬指に嵌めた。
「では誓いのキスを」
お父様が私の花嫁ベールの顔の部分を上げようとして、身体に巻きつけていた部分がはらりと落ちた。
「あっ、あっ、見えちゃうっ」
私が慌てているのも構わずお父様は私の両頬を包みこみ、舌を絡めるキスをした。
私の頭の中は、お兄様に見えちゃうっ! それで一杯だった。
「では、これにて結婚式を終わります。父上、エリザベス、お幸せにね」
「ああ、ありがとう、ランベール」
「それでは本館へ帰りますね」
「ああ、気をつけて」
「お兄様、また」
お兄様が去ってほっとした私は、自分が身体を隠してない事に気付いた。
そしてその姿をお父様が見ている事にも気付いてしまった。
「ねぇ、お父様、これが花嫁衣裳ってどういうことなんです?」
「んっ、ああ、似合っているぞ?」
「はぁああっ?」
「男にはロマンというものがあってだな……」
「お兄様に見られて、凄く恥ずかしかった。お父様の馬鹿」
「それでも着てくれたんだな、ありがとう、エリー」
「喜ぶかと思って。……お父様が」
「愛し合おう! エリー!」
「えっ? えっ? まだ夜じゃないわっ!?」
「もう結婚式は済んだ。愛し合える。夜じゃなくても」
お父様は折角格好良く着こなしている貴族服の上着を脱いで、長椅子の背に掛けた。シャツやズボンも脱いで次々長椅子にぽいぽいと置いて行った。
そうして裸になって私の前に立った。
「エリーはブーケをテーブルに置いて、ベールを取るだけでいいな」
そう言って私からブーケを取りテーブルに置いて、ベールを取って長椅子の背に掛けた。
お父様が私を抱き上げ寝台へ連れて行く。
私の喉はごくりと鳴って、心を決めるしか無いと思った。
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※カクヨムさんにも掲載中
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※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
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