魔術師長様はご機嫌ななめ

鷹月 檻

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第五章

27 火花散る

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 今日私は早々に起きて、グレーロック城へ行く準備をした。
と言っても朝食を取るだけだけど。
凄く朝早く食堂に行ったのに、父神様もユリウス様もいた。 二人とも早起きだな~。
「皆様おはようございます」
「うむ、おはよう」
「おはようございます、アリア様」
「おはようございます、姫様」

 セバスがトウミ紅茶を注いでくれた。

「セバス、わたくし今日はパンも少し頂きたいの」
「珍しいですね姫様が」
「ちょっと腹ごしらえをして行かないと戦えませんから。リンクのジャムも付けて下さる?」
「承知しました」

 ユリウス様が疑問に思った様で私に聞いた。

「戦うって、アリア様は何と戦うおつもりで?」
「なっ、内緒です」

 そして、昨夜レイジェス様と話してて思った疑問があった。みんな大人の男だし、参考に聞いてみようと思った。

「ねぇ、セバス、セバスは普通の男よね?」
「は? う~ん、何を持ってして、普通と言うのかわかりませんが、ごく普通だと思いますが?」
「じゃ、セバスに質問ね? もし9歳の美少女が裸で自分に抱きついてきたら、勃起しちゃう?」

 セバスを含めてそこにいた全員が噴いた。

「はっ? 姫様いきなり何を……」
「わたくし真面目に聞いていますの。真面目に答えて下さい?」

 私がセバスを見上げるとセバスは頬を赤くして私から目を逸らした。
まぁ、恥ずかしい質問しちゃったから、そんな反応されちゃうか。

「こ、好みの外見の少女でしたら勃つかも知れません」

 セバスがそう答えると父神様もユリウス様もうんうんと頷いていた。

「えっ!? セバスは幼女趣味じゃないでしょ? それなのに勃つの!?」
「我が娘神ながら、なんという際どいセリフを何度も朝っぱらから……」
「はぁ、失礼しました。だって驚いたんだもん。大人の男の人は子供になんて反応しないと思ってたから……」

 その言葉にユリウス様がぴくりと反応した。

「私の国は比較的犯罪の少ない国ですが、それでもたまに犯罪が起きる。その中でも最も多いのが強姦ですが、被害は大人の女よりも女児の方が多いんですよ? しかも犯人は皆、成人男性だ」
「ええっ!?」
「しかも犯人は皆、幼女趣味というわけでもない。大人の女が好きな普通の男達ですよ。それを踏まえると、子供だから普通の成人男性は勃起しないなんて戯言です。誰にでも有り得る話ですよ。少女に勃起するなんて。美少女なら尚更だ。だから、気をつけて下さい? アリア様。普通の大人の男だからと安心しない事ですよ」
「そうだな。ユリウスの言うとおりだ」
「……じゃあ、9歳の少女に反応するのは、正常な男の人でも有り得る事なんですね! 良かった!」

 バンッ! という扉を開ける音がして、私が振り向くとそこには、眉間に皺を寄せて立っているレイジェス様がいた。
物凄く機嫌の悪そうな顔をしている。

「リア! 皆に何を喋った!? 昨夜のあれを話したのか!?」
「昨夜のあれ……?」

 ユリウス様が怪訝けげんな顔でレイジェス様を見る。
私は話をそらすために別の話を振った。

「あっ、そういえば、ワイアットは父神様が行って大騒ぎだったのでは?」

 レイジェス様は私が話を誤魔化そうとしたのが分かった様で、黙って自分の席に着いた。

「上位責任者のみにしか謁見はさせなかったので、そこまで大騒ぎではありませんでしたが、ちょっとした騒ぎにはなってましたね」
「ちゃんと『神の取籠』を回収したぞ。『能力封じの首輪と足輪』もスペアがあったので回収してきたが、あれは人が作った物だな。我の空間収納に全て入れた」
「そうですか、それは良かったです」
「だが、『穢れのやいば』が無くなっていた」
「私も皇国の古い歴史書を調べたら、少しだけ記述があったのを発見したので、存在したのは事実だと思うのですが、いつ失ったのか、全然分からないのです。今、つての者や歴史学者、考古学者などに調べさせているところです」
「あれが存在したのは事実だ。ミレイユが死んだのだから。神を殺せるのはあの『穢れの刃』だけだ。あんな物が出回っていては、そなたも殺される可能性があるという事だぞ、アリア」

 それを聞いてレイジェス様が真顔になった。

「アリアは私が守る。私の命に代えても」

 その表情を見て、レイジェス様が本当に死んでしまいそうに感じて怖くなった。

「止めて下さい! そんな風に言うの!」

 私が叫ぶと、その場はしーんと静まってしまった。
セバスが私の目の前に焼きたての丸いパンを置いた。リンクのジャムも添えてある。
私は気まずい静けさの中むしゃむしゃとパンを食べた。
今、皆、私をどう守るか頭の中で考えてると思う。今でさえ、護衛が二人も付いて、お屋敷は不審者が通常ルート以外で入り込むと警報がなるシステムなのに。
これ以上どう、私を守るっていうの? 私のせいで誰か死んじゃうなんて絶対嫌だ。
強くならなきゃ、強くならなきゃ……!
私が強くならないと皆死んじゃう!





 私は朝食を終えて先に部屋に戻った。
レイジェス様にゲートを開いてもらわないとグレーロック城に行けない。私は部屋でレイジェス様を待った。
部屋の扉が開けられて、レイジェス様が入ってきた。

「朝からあんな話をされる私の身にもなってくれ、心臓に悪い」
「皆様に、浮気心を起こしたのがばれたら、気まずいと思っただけでしょ?」
「君がこんなに根に持つタイプだとは思わなかった」
「でも、大人の男性も普通に9歳の少女に勃つこともあると分かりましたよ?」
「んっ? そ、そうなのか?」
「だから、レイジェス様が真性の幼女趣味だという、わたくしからの誤解は一応解けました」

 私がにこにこした顔で言うと、レイジェス様が呆れていた。

「本当に信用されてないんだな……私は」

 私はその言葉を無視してレイジェス様に言った。

「じゃ、お城にゲートを開いて下さい」
「ん? そのドレス姿で行くのか? 気のせいか、珍しく着飾っているように見えるが?」
「当たり前ですよ! 気合入れましたよ! だって負けたくないもんっ!」
「はっ? 負ける?」
「だって、レイジェス様は気がついてないかも知れませんけど、貴方、超絶メンクイですよ? わたくし、レイジェス様が女の子の見目を褒めたのは、シエラ様しか知りません! そのシエラ様でさえ、レイジェス様のブツはおっきした事がございませんわ? という事は……敵はシエラ様よりも超絶美少女という事ですよ! 手抜きの姿でなんて行けるもんですかっ!」
「敵って……」

 レイジェス様は私が一気に言い切った言葉に、圧倒されて固まっていた。
私はその姿を見てはっと我に戻る。

「あら、わたくしとした事がはしたない……。まぁ、ともかく、この勝負には絶対負けませんっ!!」
「私はあちらに君をやるのが不安になってきた……私も一緒に行こうか?」
「そう言って、またクリスティアさんに会いたいんですか!?」
「そんなわけない!」

 私が絡んで来たのが面倒に感じたのか、レイジェス様はゲートを開いた。

「クリスティアと言い争いはしないようにな。気をつけて行っておいで」
「はい、行ってきます!」





 私がゲートをくぐるとそこはグレーロック城の食堂だった。
そこにいたのはエドアルドの他に二人の女性と二人の女の子だった。
突然現れた私に驚いていたので、私はお辞儀した。
その場にいたエドアルドがいち早く私に対応する。

「姫様、どうされました? 旦那様に会いに?」
「レイジェス様ならお屋敷にいるわ。それより、クリスティアさんて方にお会いして、確認したい事がございます。お呼びしていただけると助かるんですが?」
「クリスティア様ですか?」
「クリスティアなら知ってる、私と同室だから、呼んできましょうか?」

 その部屋にいた女の子が言うので、私はお願いした。
エドアルドが近くの談話室を開けてくれると言う。
それは食堂の三つ先にある部屋だった。
エドアルドがクリスティアさんが食堂に来たら、ここに連れて来ると言い、私はこの部屋で待つようにと言われ、応接セットの椅子に座っていた。

 暫くすると談話室のドアが開いて、一人の少女が入ってきた。
エドアルドはトレーにティーセットを乗せ一緒に入ってきた。
思わず私も立ち上がる。

 少女はとても美しかった。薄い水色のドレスから伸びた乳白色の腕。膝にまで届いている波打つ白金色の髪、こちらを睨む瞳はドレスと同じ薄い水色をしている。小さな真紅色の形のいい唇が、無作法に言った。

「私をこんな所に呼ぶなんて何?」
「あなたがレイジェス様に突き飛ばされたと聞いて、怪我をしてないか気になったもので。もし怪我をしているようなら、ヒールしようかと思ったの」

 エドアルドがレイジェス様の名前をだすと驚いていた。

「はぁっ? 私が怪我したらヒールしてやるなんて、 あんた、あのお兄さんの何なの?」
「わたくしはレイジェス様の婚約者です」
「あっ、やっぱ、あのお兄さん、幼女趣味なんだ? へ~……随分、凄い美少女を婚約者にしたものね? ……」

 クリスティアは私の近くに来て匂いを嗅いだ。

「……でも、あんた臭いわ」
「臭い? そんなに臭いかしら?」

 私は自分の匂いを嗅いでみたけど、特に臭くない。微かにトウミの匂いがするかなぁ? とは思うけど。このトウミの匂いは体質っぽい。洗っても取れないし。
私が自分の匂いを嗅いでいると、エドアルドが言った。

「姫様は臭くなんてないですよ」

 そう言って紅茶をテーブルに置いて、私の斜め後ろへ立った。

「で、あんた、名前はなんて言うの? お姫様」
「わたくしは……」
「名乗らなくて結構ですよ、姫様」

 エドアルドが私の後ろで言った。私は思わず振り向いてしまった。珍しくエドアルドが機嫌の悪そうな顔をしている。一瞬だったけど。
そしてエドアルドが口を開いた。

「あなたこそ、お名前は何と申しましたか?」
「ふん、下賎な者に名前は名乗らせないってこと? いいわ、教えてあげる。私の名前はクリスティア=ラファラン。美の女神に愛された少女。ほら見て?」

 クリスティアはくるっと身体を回転させてにっこり微笑んだ。
その姿は神話に出てくる妖精のようだった。

「私、美しいでしょ? あんたの愛する婚約者さんが勃起するのも、仕方ないわよね? 彼、私に言ったわ。『君とやりたい』って。婚約者とは『できない』とも言ってたわ?」
「レイジェス様はそんな事、言わない!」

 レイジェス様がお城から戻ってきた夜、私に話したことはあれが全てだ。
レイジェス様の言った事が、嘘か本当かは分からないけど、彼の表情を見た限りでは本当だと思った。レイジェス様は私に嘘を付くのが苦手なようで、嘘を付こうとすると露骨に顔にでる。だから、嘘を付いてるのはクリスティアだと思う。
何でこんな嘘を!? 私は彼女を睨んだ。
私とクリスティアの間に見えない火花が散った気がした。

「いいえ? 言ったわよ? 私を愛してるって、『君と結婚したい、婚約は解消する』とも言ったわ?」
「そんな事言わないってば!!」

 私が叫ぶと、エドアルドが私の肩を掴んで振り向かせた。

「姫様、落ち着いて下さい。彼女は姫様の心を乱そうとしているだけです。姫様のする事は彼女の怪我の確認だったのではないのですか?」
「あっ……」

 私が我に帰るとエドアルドが言った。

「クリスティア様、貴方の様子をみるに、怪我はしてなさそうですね? ヒールもこちらからの金銭的な補償もいらなさそうですが?」
「私を金目当ての売女のように言うのは止めて頂戴! 失礼ね!」
「では何もいらないと言うことで?」
「ええ。でも、あのお兄さんは欲しいわ。私、気にいちゃった。だってカッコイイんだもん。あの人」
「ダメ! レイジェス様はわたくしの婚約者だもん!」

 クリスティアは私の言葉を軽く笑い飛ばした。

「私が出てきたくらいで、そんなにぐらぐら揺れているあなたと、私におっ勃つようなお兄さんの恋愛って……そう長く続くようには思えないけど?」
「そんな事ないっ!」

 エドアルドが私の腕を掴んだ。

「姫様、落ち着いて下さい、……落ち着いて。相手のペースに乗ってはダメです」
「でもっ……!」
「クリスティア様、話は終わりました。もう戻ってもいいですよ」
「人のことを呼び出しておいて、用はもう済んだから行けって、勝手よね~。だから、私だって、この私を呼び出した女が誰か分かる権利があったっていいと思うのよ。貴方のお名前はなんて言うのかしら?」

 エドアルドがぎゅっと私の手首を握る。

「答えてはダメです」

 どうして? 名前を言うだけなのに?

「……アリア=アズライル……」
「……アズライル?」
「アズライル様は父神です」

 そう答えると、クリスティアは腹を抱えて笑い出した。

「あはははっはああ、ああ……おかしい! どうりでトウミ臭いと思った。天界の匂いがするのは当たり前かっ!」
「「……」」

 私とエドアルドは、いきなり人が変わったようなクリスティアに驚いた。

「なるほどねぇ~……。まぁ、今日の所は大人しく戻るわ。じゃあ、またね女神サマ。あんたの婚約者にもよろしく」

 クリスティアは談話室を出て行った。
エドアルドが私を見下ろすと溜息をついた。

「私は姫様に名乗るなと申しましたが?」
「名前くらい名乗っても問題ないんじゃ?」

 エドアルドはこめかみを押さえて言った。

「色々な情報を調べるには、名前が重要なんです、そこから情報が洩れて行く」
「……ごめんなさい、エドアルド」
「所で、旦那様は昨夜城に泊まったはずですが……もしかして、その時に彼女をお手つきにしたと言う事ですか?」
「いえ、そうじゃないの」

 私はエドアルドに昨夜の事を話した。

「この話はわたくしがしたということ……黙ってて貰えます?」
「そういう訳にはいきません、一応セバスにも報告し、タウンハウスでも検討しなくてはいけない問題かと思います」
「どうして?」
「クリスティア様の雰囲気が……とても普通の少女に見えませんでした。私は、彼女の裏に何かあるのではないか、と危惧しております」
「確かに、何だか変な感じがしましたよね。でもわたくし、レイジェス様に怒られちゃうわ。そんなことをエドアルドに言ったのか!? って」
「旦那様の場合、周りの方々にどう思われても自業自得です。ただ、セバスの場合、激怒して旦那様に殴りかからないかと心配ですね」
「セバスが?」

 私が驚いているとエドアルドは溜息をひとつして言った。

「とりあえず、こちらでもクリスティア様を監視しておきましょう」
「そ、そこまでする、ことなのかな?」
「用心の為ですよ」

 その後、私は庇護者様直通のゲートで、タウンハウスのお屋敷に戻った。
レイジェス様は談話室で本を読んでいた所で、丁度その膝の上に乗っかってしまった。

「お帰り、リア」
「ただいまです」

 ぎゅっと抱き寄せて頭の匂いを嗅がれる。

「レイジェス様、ごめんなさい」
「ん、どうした?」
「えっと、クリスティアさんとは二人きりになれなくて、エドアルドに話を聞かれてしまいました。で、ちゃんと説明しなさいって言われて、話しちゃった。怒られる前に言っておこうと思って」
「……エドアルドは何か言ってたか?」
「レイジェス様の場合、『自業自得』って。あと、彼女は怪しいから監視すると言ってました」
「……そうか」

 レイジェス様は眉間を押さえていた。

「レイジェス様、ごめんなさい、わたくしが言っちゃったから……」
「よいよい、エドアルドの言うとおり、私の自業自得だ」

 その日は普通に過ぎていった。お昼を食べて、父神様はどこかへ出かけていた。
例の『穢れの刃』の事をユリウス様と手分けして調べているっぽい。

 それは夕食を終え、お風呂上がりの事だった。
レイジェス様とお風呂を上がり部屋に戻ろうとしてた所、セバスが慌てた様子で来て、レイジェス様のお部屋でお話を始めた。

「実は先程、エドアルドから通信連絡がありまして、例のクリスティア様が何者かにさらわれたそうです」
「何者かとは?」
「同室の少女によると黒ずくめの衣装を着た二人の男が部屋の中に入ってきて攫ったと言ってます」
「その女の子は大丈夫だったの?」
「とっさに寝た振りをしたそうで、何もされていないそうです」
「そう、良かった」
「黒い衣装……まさか、ユリウスじゃないよな?」
「ユリウス様じゃないでしょ?」
「一応確認しましょう」

 セバスが確認しようと強く言って、そうする事になった。
談話室に呼ぶという事で、レイジェス様と私は談話室に場所を移った。
暫くするとユリウス様が来たみたいだけど、私は長椅子に座ってうとうとしていた。
今日は朝から気合を入れて早起きしてしまったから、眠たくてたまらない。

「なんだ、こんな遅くに私を呼ぶとは……ああ、アリア様の姿を見たのは久しぶりな気がする」
「最近はブルカを着ている事が多いですからね」

 とセバスも頷く。

「ユリウス、お前、クリスティアという少女を攫ったか?」
「クリスティア? 聞いたことも無い……誰だそれは」
「旦那様の浮気相手ですよ」

 セバスがイラっとしたように言うとユリウス様は声を荒げた。

「何だと!? 浮気!? ……アリア様がいるのにか! やはりレイジェスにアリア様は任せられない!」
「待て待て、ユリウス、セバスも誤解だ!」
「誤解? 裸を見た上に勃起して、そこを扱かれてしまったとか。それにアリア様とは婚約解消してクリスティア様と結婚すると言ったそうですね?」
「本当にそんな事を言ったのか!? 何の為に私が、つらい思いをしてアリア様を諦めたと思ってるんだ! 許せん! 下衆野郎め!」
「何で話がそんな事になってるんだ!? 本当に誤解だ! アリアに確認してくれ!」

 ユリウス様は私がうとうとしているのを見て言った。

「アリア様はまだうとうとしているだけで、寝ているわけじゃない、大きな声を出すのはよそう。で、何故私がお前の浮気相手を攫ったと思ったんだ?」
「クリスティアを攫った奴が黒ずくめの衣装の男達だった」
「そんな者は沢山いる。諜報の者は黒ずくめが多いだろう? それに私だったら、逆にその子をレイジェスの近くに置いておく。その子とお前がくっつけば、アリア様がもう一度私を見てくれる可能性もあるからな。攫っても私には利も得も何一つ無い」

 その言葉にはレイジェス様もセバスも納得した様だった。
ユリウス様は話が終わると私の顔を少しの間見ていた。

「あんな、姿が見えなくなるブルカなど、着なければいいのに」

 そう言ってからゲートを開いて自分の屋敷に戻った。

「なぁ、セバス、結婚云々の話は本当に誤解だぞ?」
「クリスティア様本人が言っていたとエドアルドが申していましたが?」
「はぁっ!?」
「姫様と別れて、クリスティア様と一緒になると約束をしたと、本人が言っていたとエドアルドが言っておりました」
「そんな馬鹿なっ!」
「取りあえず、クリスティア様拉致の件はアランとルイスに調べさせましょう」
「……ああ」

 セバスが談話室を出ていくとレイジェス様は私を抱き上げた。

「まだ起きているよな? あれはクリスティアの嘘だからな? 本気にしてくれるなよ?」
「……う、……ん」

 レイジェス様は私を抱き上げたままゲートを開いて寝室へ行った。
寝台に乗せられると何だか凄く、前歯がむずむずした。

「むずむずするうううぅ」

 私は半分寝て、半分起きているような状態で、歯をいじっていたら、抜けた。
そうするとすっきりして、ゆっくりと眠りに引き込まれて行った。

「アリア?」

 レイジェス様は私の手に血が付いてたのを見て驚いていた。すぐ指先に持っていた歯のせいだと分かり、ヒールとアクアウォッシュをされた。
抜けた歯はレイジェス様がサイドテーブルの引き出しに入れていた。
そして、レイジェス様は私の隣で寝た。
私の頭の匂いを嗅いで。

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