魔術師長様はご機嫌ななめ

鷹月 檻

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第五章

28 フェリシアンの過去を追う

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 朝、歯がむずむずして弄るとその歯がぽろっと抜けた。舌で触ってみると血の味がして中央上の前歯が両方無くて、思わずびっくりして叫んだ。

「ぎゃあああああああっ!!」

 私は飛び起きた。レイジェス様も私の叫びに驚いて飛び起きた。

「ど、どうしたっ!?」
「レイジェス様ぁああっ、わたくしの、は、前歯が無いいいいっ!」

 涙目で抱きつくとよしよしと頭を撫でられた。

「落ち着いたか? 昨日寝ぼけて自分で一本抜いてたぞ? この今抜けたのは自然ぽいな? 殆ど血が出ていない」

 血が出ていないと言いつつアクアウォッシュしてくれた。ヒールも。

「前歯が無いなんて、カッコ悪すぎます……」
「仕方ないだろう? 成長の途中なんだから」

 私はブルカに着替えて食堂に紅茶を飲みに行った。レイジェス様はもうちょっと眠ると言って寝た。
食堂に行くと、いつもいる父神様がいない。でもなぜかユリウス様がいた。

「おはようございます、アリア様」
「おはようございますユリウス様」
「何だか気がすぐれぬ様子ですが?」
「え~? ブルカを着てるのに、分かるの?」

 そりゃわかりますよ、とユリウス様は優しげに笑った。

「実は昨日と今日、立て続けに前歯が抜けちゃって、カッコ悪いんです。こんな顔、他人様に見せられない……」
「ああ、そんな事なら幻術を掛けておきましょうか? 生えそろったら自然に解けるようにもできますよ?」
「え? そんな事出来るのっ!?」
「私のスキルは幻術魔法で、種類がいくつもあるんですよ。貴方を意のままに操ったのも幻術魔法のうちの1つです」

 ああ、あの術か……。私は急にあの監禁されていた時の事を思い出し、体が震えた。
それを、ユリウス様が見て悲しげな表情になった。

「すいません、やっぱり嫌ですよね……」

 ユリウス様は変わった。……あの時のユリウス様じゃない。

「いいえ、……お願いします」
「ただ、幻術を見せる場所に触れなければいけませんが……大丈夫ですか? 貴方は私を嫌ってますから……」

 そう言えば、諦めて貰うために、『貴方なんか大嫌い』と言っていたんだった……。

「……大丈夫」

 私はユリウス様の前に立って、ブルカのフードを脱いだ。

「口を開けて下さい」

 私が口を開けると、ユリウス様は自分の指をゆっくりと私の口の中に入れた。
唇に少し触れて、前歯の歯茎をなぞって指を止めた。何か呪文を小声で唱えている。
呪文が終わるとすぐにその指は抜かれて、ユリウス様は私の口の中から抜いた自分の指を舐めた。
私が驚いていると、ユリウス様が言った。

「もう、ちゃんと掛かっていますよ? そこの窓でご自分をご覧になったらいかがです?」

 そう言われて、早速窓で自分を映し見た。にかっと笑うと歯があった。

「ありがとう! ユリウス様!」

 私がユリウス様に抱きつくと、ユリウス様は凄く驚いていた。
抱きついている所にセバスが入ってきて怒った。

「何をしてらっしゃるんです! 姫様! 婚約者以外の男性に抱きつくなど、淑女らしからぬ行為ですよ!」
「あぅ、ごめんなさい、セバス……」
「席に着いて下さい、姫様」
「は~い」
「返事は伸ばさない!」
「はいっ!」

 私が怒られているのを見て、ユリウス様が笑った。私はブルカを頭から被った。
でも、これで、レイジェス様には可愛いままの私を見て貰える!
良かった。
私が朝食の紅茶を飲んでいると、ユリウス様が昨夜の事を聞いてきた。

「で、クリスティア=ラファランとはどのような子なんですか?」
「凄く綺麗な子です。目の覚めるような美少女です! こう、白金色の髪がきらきら艶めいていて、瞳なんか水色でぱっちりしてて、もぉ~凄い可愛かったです」
「アリア様より?」
「え? わたくしなんて足元にも及びませんでした。力んでお顔のお手入れをしてから行ったんですけどねぇ……敗北ですよ、敗北」
「私はアリア様の方が美しいと思いますがねぇ……」

 クリスティア様を見たこともないくせに、ユリウス様はしょげてる私を励まそうとして、そんな優しい言葉を掛けてくれた。
気を使わせてしまって申し訳ない。

「あ、でも、本当に美しい子で、きっと……ユリウス様も彼女を見たら、好きになっちゃうかもです」
「それは有り得ませんね」

 即否定された。

「あっ、でも、たぶん、性格は、わたくしの方がいいかな~なんて思うわけですよ。見た目で負けてても、中身はわたくしのほうが! みたいな、あはっ」
「そうでしょうね、アリア様の性格は一緒にいて心地が良い。私も貴方の性格が好きですよ」
「あ、ありがとうございます!」
「ユリウス様、うちの姫様を口説きになるのは止めていただけますか?」

 セバスがそんな風に言って、私は驚いた。

「え? え? 今のって……?」
「では、また、アリア様」

 ユリウス様はフッと笑って席を立ち、ゲートで自分の屋敷に戻った。

「セバス? 今のって……」

 セバスはこめかみを押さえて私に言った。

「気付きましょう姫様? あれは完全に口説いてましたよ? 普通の女性なら落ちているでしょう。まぁ、……姫様の場合、鈍すぎて口説かれている事自体、気付いて無かったようですが」
「えっ? でも、ユリウス様は諦めたって……」
「昨夜の旦那様の浮気の件が響いてるんだと思います。裏切るなら私が貰おうと、ユリウス様は思ったのでは? 私だってそう思いたくもなりますよ、あんな話を聞いたら」

 そう言うとセバスは厨房へ行ってしまった。

『私だってそう思いたくもなりますよ』

 セバスの言葉が頭に残った。え? セバス? え?
聞き間違い? ……まさか! セバスだよ~……。




 それから私は城へ出仕するレイジェス様を見送ってから部屋へ篭った。護衛の二人には部屋の外に立ってもらっている。父神様が来ても入れないでねと言ってある。
やっと一人になった。
という事でまた日記を見ます。
レイジェス様がいると見られないから、お城に行ってる間しか見られない。
私は寝台の上に上がり空間収納を開いて日記の4冊目から6冊目までを出した。
前回4冊目で私が登場し、私の事が書かれていた。

『私は彼女の可愛らしいペニスを口に含み、彼女が達した時にはその精液を飲んだ』
『どうやら、彼女は私を愛してくれているようだ、私の舌を受け入れてくれた』

 この文章読んで、前回私は記憶の欠片みたいな映像を思い出した。そして、具合が悪くなって、日記を読むのをやめて放り出した。
改めて文字を読み直すと、気付いた事がある。『彼女のペニスを口に含み』と書いてある。私は過去に行った時も帰ってきた時も女の子だった。
という事は、記憶を失くしている間に男の子になった可能性が高い。何で? 何か理由があって男の子になったんだろうけど。思い出そうとしても何も覚えてない。
仕方無いので日記を読み進める事にした。

 私が去った次の日、フェリシアンは自分の日記を読んで驚いていた。
父神様が過去の人全員の記憶を消去したから、もちろんフェリシアンも私の記憶が無い。なのに自分の筆跡で書いた日記や絵画が私の存在を示していて、私の事を愛してるとまで書いてあった。そんな存在を忘れるなんて、自分は記憶操作されているに違いないと、フェリシアンは悟った。そこで4冊目が終わる。

 5冊目は最初から、どうすれば記憶の封印が解けるか? という謎を解くために王立図書館に行って調べたり、自分に何回も封印解除の魔法を掛けたりしていた。
そして5冊目の終わり、ついに鏡を使った記憶反射封印の術で封印解除されたと書いてあった。記憶反射封印の術って何だ? さっぱりわからないや。

 6冊目は記憶封印を解除して、思い出した心の痛みが書いてあった。
私の事を失った悲しみが痛いほど連ねてあった。
けど、私にまた会う事を目標に、生きていく決心をしたようだった。それからのフェリシアンは自分の息子がまた庇護者に選ばれるべく、同じ人生を歩みながら、自分の未来を変える術はないのかと悪戦苦闘していた。
……そう、フェリシアンは自分が死んでしまう事を、私との会話で予測していた。
自分が死ぬと分かっているのに、その考えを打ち消して生きていこうとする、フェリシアンの生命力を凄く感じた。その源が自分だと思うと、凄く擽ったい感じがした。

 6冊目まで読んで、私は読んだ分を空間収納に入れて、7冊目を出した。今日はここまで、これを読んだら終了にしよう。

 7冊目には今までと同じく過ごそうと、書いてあった。ただ、以前より静かに周りを注意して見回すことにしたとのことだ。
何が歴史の変異点になるか分からないからだ。そう注意して見るうちにフォスティーヌさんが病気になった。
何の病気か分からず、移るかも知れないので、なるべくレイジェス様は離れるようにフォスティーヌさんに言われていたらしい。
けど、ある日、フォスティーヌさんが眠っている時にレイジェス様はお部屋に入ってしまった。フォスティーヌさんはもう絶対レイジェス様が入ってこないように、敢えて酷い言葉を言って遠ざけた。
その時、フォスティーヌさんはフェリシアンに懺悔の言葉を言っていた。

『わたくしはなんて酷い母親なの? あの子を愛してるのに傷つけた! 今すぐ抱きしめてあげたい……でも、出来ない!』

 これ、あの時の事だ。レイジェス様が言ってた……。
レイジェス様が病気に掛からないように、守りたくて言った言葉だったんだ……。

 フェリシアンはこの病気が何となくおかしいなと思っていた。それは単なる感だったけど、日に日に体が弱くなっていくフォスティーヌさんを見ているのはフェリシアンにはきつかったみたいだった。フォスティーヌさんの世話は最初はフェリシアンがしていたけど、側仕えの女の人に任せることにしたらしい。
けど、急速に体調は悪くなって行った。
フェリシアンはある人物を疑っていた。もしかして、その人がフォスティーヌさんに毒を仕込んだのかもと。
だけど、フェリシアンはこの時点で悩んでいた。
真実を突き止め、フォスティーヌさんを救うことが私が来た未来への道に繋がるのか、それとも、フォスティーヌさんが病気のまま亡くなってしまうのが、私が来た未来なのか? 彼は自分の妻の病気を疑い調べながらも……何もしなかった。
フェリシアンは自分の妻が亡くなる未来を、私が来た未来だと感じたようだった。

 7冊目はそこで終了していて、読んでて溜息が出た。
私が行かなければ、フォスティーヌさんはフェリシアンが助けてくれたんじゃないか? そんな事実に涙が出そうになった。
レイジェス様のお母様が死んだのは……私のせいじゃないか。
私が面白半分に、天界に居たときに『逆行』の呪文なんて唱えてしまったから……。
私は日記をしまって、外にいる護衛二人に声を掛けて中に入るように言った。

「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど、プリストン王国って、人が亡くなった時は火葬? 土葬?」
「プリストンではアズライル神様を奉ってるんで、復活信仰が強いですね、だから基本土葬ですよ? どうしたんですか? 姫様」

 アーリンが私の質問に答えて不思議そうにする。何でもないのと誤魔化した。

「あ、そうそう、姫様、報告が。セレファスが毎日商会に朝出勤することになりました」
「あらどうして?」
「姫様の秘書のルイーズ様が、旦那様は感がするどいから、書類だけ誤魔化してもばれるかも知れないと、商会に顔をだすようにしろと言ったそうです。だから調査は商会に朝行ったあとそこから行ってるとのことです」
「そう、本人がいいならいいけど、お世話掛けて申し訳ないわね……」
「本人はシチュエーションが本当に諜報の者っぽくて、気に入ってるらしいです」
「ならいいけど」
「あと、合図に商会の旗入れの筒を使いたいとの事でした」
「旗入れの筒?」
「商会のドアの左隣にあるでしょう? 斜めに出ている突起が。あれは祝日とかに国旗を掛ける場所なんですけど、あれを合図にしたいとの事で、何でも『調査結果終了』の合図が赤い旗で、『至急連絡いたいしたい』が黄色の旗、青い旗は『調査が全部終了して、何も無い』とのことだそうです。で、旗が出てるときに俺が行けば、姫様とは殆ど文書で済むでしょ? って話です」
「あら、それいいですね。じゃあ、早速追加でお仕事して頂きたい事があるの。お手紙、書くから少し待っていて?」
「はい」

 私は自分の部屋で手紙を書いた。
調査して欲しい事はふたつ。
1つ目はフェリシアン=アルフォード公爵について。お墓が土葬だということで掘り起こして棺桶の中を確認して欲しいと。できれば、確認したあとは気付かれないように細工して欲しいと書いておいた。 これ、無茶かなぁ……。
そして2つ目はクリスティア=ラファランについて、先日起こった神殿での『幼女集団蜜花強姦事件』の被害者で、現在はグレーロック城から誘拐されてどこにいるか分からない。この子の過去の経歴や実家、家族など調べて欲しいと書いた。
封筒にしまい、蝋を垂らし、私の印を押した。
そしてセドリックに渡した。

「じゃ、お願いね、セドリック」
「はい、行ってきます、じゃあ、あとはよろしく、アーリン」
「ええ、分かってますよ。さぁ、アリア様、やっと二人っきりになれますね!」
「変質者よりアーリンの方が怖い気がするんですけど~!」

 セドリックは笑いながら出て行った。
昼食を取り終わり部屋に戻った時だった。私の部屋の前でセドリックが待っていた。

「前回の調査が終わっていた様で、調査結果を持ってきました」

 部屋に護衛二人と入り、調査結果の封筒を貰う。結構大きめだ。
私はそこから書類を取り出して長椅子で読んだ。
エラは公爵様と離婚後とある男爵と再婚。
だが、その男爵は数年後に病死。
その後2年ほどしてから今度は子爵と結婚。この方は結婚後1年後に亡くなられた。
老衰らしい。そうとう年齢がいっていたのか。
そしてさらに2年後、今度は伯爵と再婚。そしてこの伯爵も2年後に病気で死んでいる。今は独身で再婚相手を探すべく、あちこちの舞踏会や晩餐会、パーティなどに顔を出しているらしい。

 セレファスからの独自見解には『彼女は後妻業の女』だと書いてあった。結婚して夫を殺してお金を稼ぐ人の事らしい。
この結婚相手の死亡率からするにそれは当たっていると思う。
他にも書類が入っていて、それには結婚したあと、亡くなった男性の資産がどういう風にエラに流れて行ったのかが詳しく書いてあった。
よくこんな短時間でこんなに詳しく調べられたなぁ~と、凄く関心してしまった。

「セドリック、凄い詳しく調べてあって驚いたわ。まだ頼んで日も浅いのに」
「セレファスは仕事が楽しいみたいですからね」





 夜、寝台に入るとレイジェス様が不思議な顔をして私を見つめていた。

「? どうしたの?」
「いや? 何かが違うなぁと……あっ! 歯だ! 抜けたのに何故ある?」
「今気付いたの!? おそっ! ……ユリウス様に幻術を掛けて貰いました。無いのに有るように見えるんですよ? こんな事が出来るなんて凄いですね~」

 レイジェス様はぼりぼりと頭を掻いていた。

「あのなぁ、リア、私の前で他の男を褒めるな」
「あっ……」

 ごめんなさいと言おうとしたらキスされた。歯の抜けた所の歯茎を舌でなぞられた。

「ふむ、舌でさわるとただの歯茎なんだな。幻術だから、そんなものか」
「でも、見た目は変じゃないでしょ?」
「君はどんな時も変じゃないぞ?」

 女の子はいつでも可愛く見られたいんですよ。
まったくレイジェス様は分かってないな~。
その後は二人で気持ち良い事をしてから寝た。

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