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第五章
33 諦めきれない想い【微BL要素あり】 ユリウス視点
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『穢れの刃』に関する文書を探し、私は砂漠の民の国、アルマスへ行っていて、つい先程屋敷に戻った。
「おかえりなさいませ、ユリウス様」
オリオンが私を出迎える。
この屋敷には私と、家令兼執事のオリオンと側仕えのアルテダしかいない。
あとの使用人達はワイアットの宮殿にいた下働きで名前も知らない。
クロエはワイアットの宮殿に側室として住んでいるが、私は彼女を暫く抱いていない。彼女への気持ちが何だか冷めてしまった。
元々そこまで好きだと思ってたわけでもないので、冷めるのも早い。
ただ、約束は約束なので、側室とした。彼女もそれで満足しているらしい。
他に男が欲しいと言ったので、子を作らぬならと許可した。
ワイアットには、二日に一度の割合で、ゲートを潜り帰っている。後宮への『渡り』もしていない。国の首脳陣達は、私が世継ぎを作らないことに危機感を抱いている。
ワイアットに戻るたびに妃を貰え、この女はどうだと、我先に自分の娘達を押し付けてくる。困ったものだ。
正直、私は性欲について、前よりも淡白になってしまった。したいと思わなくなった。本当に必要な女となら致したいと思うが、適当な女と出来なくなってしまった。
別にオリオンに相手をさせているわけでもない。
奴に自分の身体を与えたのは、自分が弱気になっていた、あの一夜だけだ。
金輪際、あんな事は有り得ない。
ただ、たまに……アリア様を想って自分を慰める事はある。
主にこれで満足してるのが、性的に淡白になった原因であると私は思っている。
オリオンが夕食の支度が出来たというので、食堂に行き、食事を取った。
食後の紅茶を飲んでいると、オリオンがアズライル様が来たと言うが、いつもとは違い、何だか私に会わせたく無いようだった。
どうしたんだ? と思った時、オリオンの後ろから若い男が強引に食堂に入ってきた。
そのお顔を見て私は驚いた。
その姿は中性的な男性ではあるが、目元と鼻筋がアリア様にとても似ていた。
「ユリウス、砂漠の民の国、アルマスはどうだった?」
「あっ、えっ、?」
その声はアズライル様だった。
私がアズライル様に見とれ、動揺していたのが分かったのか、アズライル様はくすりと笑い言った。
「地上に長く居すぎて光が消えた。光が無いので我だと分からぬか?」
「アリア様に……とてもよく似ております」
「ああ、アリアの母神が我の顔をベースに見目を造ったと申してたから、少し似てるやも知れん」
「立っておらず座れ、我も座る」
「はっ、はい」
アズライル様は神殿の像や書物では老齢の男性像で描かれている。誰がこんな若く美しい男をそこから想像できるか? 出来ない。
しかも、アリア様に似ている。それだけで私は緊張してしまっていた。
オリオンがアズライル様に紅茶を出し、厨房に下がった。
「我はエルフの里に行ってみたが、あちらは何も無かった。古い文献や書はあれども、『穢れの刃』に関するものは皆無だった」
「あんな遠くまで、お疲れになったでしょう」
「いやいや、ゲートで飛べばあっという間。我のゲートはプレイスマークなどいらぬゆえな」
「そうでしたか」
「して、そなたはどうであった? 砂漠の民の国、アルマスは」
「とうとう文書が見つかりました」
私は空間収納に放り込んでおいた、アルマスの13支部族のうちの1部族から得た、古書を取り出し、テーブルに置いた。
「これは各地の口伝をまとめて書にした物なんですが、5章の所にティオキア公国の王は『穢れの刃』を5本の剣に分けて、それぞれの部下に持たせた。と書いてあるんです」
「どれ」
アズライル様はその古書を読み、暫く考え込んでいた。
「これが史実なら、『穢れの刃』は5本になり、危険が5倍になったと言うことだな?」
「……そうなりますね」
「我はもうそろそろ、天界に帰らなければいけない。ユリウス、そなたにこの後の調査も任せたいのだが……良いか?」
「ええ、ぜひ、私に任せて下さいませ」
「うむ」
アズライル様は紅茶を飲んだ。
「そなたは国も持ち、別に仕事もし、多忙であるのに、すまんな」
「いえ、アズライル様や、アリア様のお力になれるなら、それは嬉しいです。私にとって喜びですから」
「そなたはこざかしい所があるが、……基本悪の気質は無いんだがなぁ……」
「?」
「いや、そなたもアリアに恋などせねば、普通に幸せになれたと思うのだが……」
「私はアリア様に出会えて良かったと思いますよ。あんな激しい感情を女に対して感じた事はありませんから」
「……アリアがもし複数の人間を愛する事が出来たなら、そなたもあんな手段になど、出なくて良かったのにな……」
「仕方ありません、私が悪いんです、彼女を想うあまり……自分だけの物にしようとした。嫌われて当然です」
「あれは、そう簡単に他人を嫌いになれるような者ではない。我と違いあれには人の心がある。人を慈しみ、愛し、情を掛け、時には己をすり減らす事もある。だが、それに気づく者がいくらいるのか……? 人間など身勝手な生き物だというのに、信じようとする。自分が傷ついてもだ。……あれは馬鹿だ」
「アリア様は優しいのですよ……こんな私にも」
「人の心があるばかりに、複数を愛するを良しとせず、唯一人に拘る。だが、今のままでは変異したスキルのせいで、アリアは危険な目に遭う事になるだろう。本当に人の心とは厄介な物だ」
危険なら私が守りたい。
「私が守ります。彼女を」
「レイジェスも同じ事を言っていた。が、お前には得るものが何もないぞ? レイジェスはアリアの愛を得ているが、お前は何も無い。それでもそう言うか?」
「ええ、何度でも言います。彼女を守ると。……何も得れなくてもいいのです。彼女が私のことを知らなくても。……影にて彼女を守る、それはたぶん、自己満足なんでしょうけどね」
「ふむ」
「では屋敷へ帰る」
「もうですか?」
アズライル様は眉間に皺を寄せて言った。
「そなた、我はアリアではないぞ? そんな熱い目をしてこちらを見るな」
「そんな目をしていたとは、失礼しました」
自分では意識してなかったが、似ているなと、つい見てしまったからか。
アズライル様はゲートで隣の屋敷に帰ってしまった。
静かになったからか、オリオンが食堂に戻って来た。
「アズライル様はお帰りに?」
「ああ」
「私はびっくりしましたよ、光の無いアズライル様は……」
「アリア様に似ていたな」
「……ええ、アズライル様は中性的なお顔立ちですがね」
「アズライル様のお顔をベースに母神様がアリア様の見目を造ったと伺った」
「なるほど」
私は風呂に入った後、自室に戻り寝台に寝転んだ。
アズライル様が、アリア様が複数の人間を愛せたら、もっと簡単なのにというニュアンスで話していたのを思い出した。
確かに、アリア様が複数を愛せれば、私も夫にして貰えたかも知れない……いや、無理か。私は彼女に嫌われている。
それに皇王である私が彼女の第二夫……正直プライドが許せない。確かに、愛されれば順番など関係ないと思う反面、第二の夫という地位が私の皇王という地位と比例していない事に納得がいかない。結局彼女が夫を沢山持つ事が出来ても、自分が一番でなくては嫌だと感じている、私は我儘な男だった。
「はぁ……溜息が出るな」
しかし、アリア様は可愛らし過ぎる。
さっきまで会っていたアズライル様の顔を思い出すと、アリア様の顔が浮かんだ。
ああ、そう言えば、幻術を掛けるのに、彼女の口に私の指を入れた。
私の指先で触れた彼女の唇、歯肉。ぬるっとした濡れた感触が自分の指に蘇る。
私は自分の部屋着の裾から手を入れて自分の中心を触った。
風呂で着替えた時に下着は履いて来なかった。
それは既に半分ほど起きていて、先端からは汁が少し垂れていた。右手でそれを優しく扱きながら、彼女の感触、姿を思い出す。
私の夢想の中の彼女は私のことを好いてくれている。
『ユリウス様……好き、大好き。リアのこと好きにして』
裸の彼女が私の上に乗っている。
騎乗位で腰を振り、私をイかせようとする彼女。
『んっ、んっ、ぁああん、あぁ! ぃいいっ!』
上から紅潮した頬で私を見つめる瞳。
彼女の汗が私の首筋にぽとりと落ちて流れていく。
私は右手を素早く動かした。
『もっ、もぅだめ! きちゃうぅ、ユリウス様、一緒に! リアと来てっ! んっ、い、イクうぅっ、んんっ!』
私は夢想の中の彼女と一緒に達した。
自分の手のひらに白濁の液がべっとりと付いていて、現実に目覚める。
アクアウォッシュをした。
ここから暫くは賢者タイムだ。
「こんな事ばかりしてるから、他の女と致す気になれないんだよな」
ちなみに、私の夢想は自分の幻影魔術スキルを使っているので、かなり本物に近いと思って頂けると分かりやすいと思う。
そう、まるで本物のアリア様と致しているような気分だということだ。
それではクセになって当たり前の話だ。
しかし、あのレイジェスが浮気をしていたとは驚きだ。
つての者によると『集団蜜花強姦事件』の被害者の一人だという。神殿長だったディディエが逮捕された時に交合っていた少女で、とても美しかったという話だ。
レイジェスは見目は美しく女共が惹かれるタイプかも知れないが、性格は朴訥とした所があり、女と遊ぶようなタイプでは無い。
あの男が自分のあれを勃起させて扱かれたというから驚きだ。
しかも、レイジェスがアリア様とは別れて君と結婚すると、その女に言ったという。
何かの魔術に掛かっていたのか? というくらい有り得ない話だ。
レイジェスは、別れて結婚すると言ったのは、女が勝手に言ってるだけで、自分は言ってないと言ったが、勃起したことは否定しなかった。
大体、会ってすぐ勃起とは、どんな状況だ? とツッコミを入れたくなる。
セバスが言うには、グレーロック城の風呂で、彼女が入っているのを知らずに、偶然入ったらしい、とのことだった。
レイジェスに裏切られて、アリア様は悲しんでいないんだろうか?
彼女の心が傷ついていないか、それが気になった。
彼女が複数の男を同時に愛せたら……私が彼女を慰めるのに。
私は頭を振った。
私は彼女に嫌われている……。それに、私は諦めたはずだ、彼女を。
しかし、諦めきれずにレイジェスにあんな事を言ってしまった。
心の中で愛すると。
諦めなければいけないのに……。
今日は仕事帰りに屋敷に寄れとコモンが言った。例の通信機器の試作品を見せてくれると言う。前々から見たいと思っていたので、当然私はその誘いを受け、屋敷にお邪魔した。
夕食の時間だと言うのに、彼の婚約者のシエラ様は嫌な顔ひとつせずに私を迎え入れた。シエラ様はミルクティのようにも見えるクリーム色の髪を後ろで編みこみ一纏めにしている。幾つか垂れている後れ毛が、年の割りに色っぽい。瞳は薄い水色で大きく輝いている。クリーム色の睫は長く、瞳に薄い影を作り出していた。鼻筋はつんと先に筋が通っていて、唇は薔薇色に艶を帯びている。相変わらず可愛らしい方だった。
食前酒を飲みながら、彼の作った通信機器を見せてもらった。本当に小さくて、手のひらに収まるサイズだった。これが世間に出るようになれば、歴史はすぐに変わるだろう。それくらいの代物だ。まったくこいつは天才では無かろうか?
我が国にこの存在を欲しいと思ってしまった。
食事が終わり談話室に行くと、ほぼコモンは酔っ払っていて、私の相手はシエラ様がしてくれていた。
何気ない話ばかりしていたのだが、私は酔っていた。
つい、想像してしまった。
まだこんなに幼いシエラ様が大の男二人と閨事をしている所を。外見的には可愛らしい少女だ。少女というよりも幼女に近いかも知れない。
そんな彼女が……。
私は、コモンに全て聞いていた。彼らの秘密を。だから知っている。
コンコンとドアがノックされ、執事がワインを置いて行った。
あの執事がシエラ様の愛人か……。
しかし、私は気になった。二人の男を受け入れる、その愛情は二人の男達のどちらに比重が掛かっているのか? まったく同じとは言えないだろう。
二人の人間に同じくらいの愛情を注げるとは思わない。
私がその事をシエラ様に聞くと、やはりシエラ様も分からない様だった。
ただ、その愛情の形や比重がどうであれ、彼女がどちらも大切に想っているのは事実だと感じ取る事は出来た。
私はアリア様の事を諦めた。
いや、正しくは諦めようと努力している、が、中々諦めきれない。
ほんの少しの光を見出しては自分を自制し、『諦めろ』と繰り返す。
だが、私の心の中だけ、そこだけなら許されるのではないかと、ひっそり彼女を想っている。
シエラ様は私を『認めない』と言った。
私はアリア様に随分酷い事をした。彼女の親友であるシエラ様だ、当たり前だろうそう言うのは。
執事がまた現れて、急遽シエラ様の姉が来るという。
コモンに以前相談された案件だったので、私はその女を観察した。
シエラ様と姉妹であるはずなのに、その女は躾がまったくなっていなかった。
シエラ様は令嬢執事である、現執事が子供の頃からお世話し、躾けたと聞いて納得した。育てる人間で、こうも結果が違うのかと、ある意味新鮮だった。
適当にあしらっていると、彼女は大人しく帰った。
彼女も帰ったし、私もゲートを開いて帰ることにした。
ゲートを開き屋敷に帰るとオリオンが苛立った様な顔で待っていた。
「お帰りなさいませ、ユリウス様」
「うむ」
「どこへ寄ってらしたんですか?」
棘のある物言いに辟易した。
「コモンの所だ、通信機器の試作品を見せて貰った。……しかし、お前の言いようは、まるで女の様だな?」
「わ、私はこんな時間まで帰らないユリウス様に、何かあったのではと心配していただけです」
私の両肩を掴むその手を、私は力を込めて外した。
「止めろ、私に触れるな……」
「ユリウス様、お慕いしております……」
オリオンは私の腕を掴み、見つめてくる。その瞳は真剣だ。
「お前の気持ちは以前に聞いて分かっている。だが、あの時も言った。応えるのは一度だけと。私はお前のことを愛しているわけでは無い。部下として大事に思っている。この気持ちは何があっても変わらない。お前を解雇したくない。だから……、もうその話は止めろ」
「ユリウス様……」
「離せ、私はもう寝る」
私はオリオンの掴んだ腕を振り払って自室に戻った。
オリオンを解雇しようと思えばすぐ出来る。
だが、長い付き合いもあり、気心も知れた奴を解雇するのは気が引けた。
そしてオリオンの気持ちも分からなくもない。
奴は私と一緒だ。
自分の気持ちを諦めきれないでいる。
いつかは諦めてくれるといいが……。私は独り溜息をついた。
「おかえりなさいませ、ユリウス様」
オリオンが私を出迎える。
この屋敷には私と、家令兼執事のオリオンと側仕えのアルテダしかいない。
あとの使用人達はワイアットの宮殿にいた下働きで名前も知らない。
クロエはワイアットの宮殿に側室として住んでいるが、私は彼女を暫く抱いていない。彼女への気持ちが何だか冷めてしまった。
元々そこまで好きだと思ってたわけでもないので、冷めるのも早い。
ただ、約束は約束なので、側室とした。彼女もそれで満足しているらしい。
他に男が欲しいと言ったので、子を作らぬならと許可した。
ワイアットには、二日に一度の割合で、ゲートを潜り帰っている。後宮への『渡り』もしていない。国の首脳陣達は、私が世継ぎを作らないことに危機感を抱いている。
ワイアットに戻るたびに妃を貰え、この女はどうだと、我先に自分の娘達を押し付けてくる。困ったものだ。
正直、私は性欲について、前よりも淡白になってしまった。したいと思わなくなった。本当に必要な女となら致したいと思うが、適当な女と出来なくなってしまった。
別にオリオンに相手をさせているわけでもない。
奴に自分の身体を与えたのは、自分が弱気になっていた、あの一夜だけだ。
金輪際、あんな事は有り得ない。
ただ、たまに……アリア様を想って自分を慰める事はある。
主にこれで満足してるのが、性的に淡白になった原因であると私は思っている。
オリオンが夕食の支度が出来たというので、食堂に行き、食事を取った。
食後の紅茶を飲んでいると、オリオンがアズライル様が来たと言うが、いつもとは違い、何だか私に会わせたく無いようだった。
どうしたんだ? と思った時、オリオンの後ろから若い男が強引に食堂に入ってきた。
そのお顔を見て私は驚いた。
その姿は中性的な男性ではあるが、目元と鼻筋がアリア様にとても似ていた。
「ユリウス、砂漠の民の国、アルマスはどうだった?」
「あっ、えっ、?」
その声はアズライル様だった。
私がアズライル様に見とれ、動揺していたのが分かったのか、アズライル様はくすりと笑い言った。
「地上に長く居すぎて光が消えた。光が無いので我だと分からぬか?」
「アリア様に……とてもよく似ております」
「ああ、アリアの母神が我の顔をベースに見目を造ったと申してたから、少し似てるやも知れん」
「立っておらず座れ、我も座る」
「はっ、はい」
アズライル様は神殿の像や書物では老齢の男性像で描かれている。誰がこんな若く美しい男をそこから想像できるか? 出来ない。
しかも、アリア様に似ている。それだけで私は緊張してしまっていた。
オリオンがアズライル様に紅茶を出し、厨房に下がった。
「我はエルフの里に行ってみたが、あちらは何も無かった。古い文献や書はあれども、『穢れの刃』に関するものは皆無だった」
「あんな遠くまで、お疲れになったでしょう」
「いやいや、ゲートで飛べばあっという間。我のゲートはプレイスマークなどいらぬゆえな」
「そうでしたか」
「して、そなたはどうであった? 砂漠の民の国、アルマスは」
「とうとう文書が見つかりました」
私は空間収納に放り込んでおいた、アルマスの13支部族のうちの1部族から得た、古書を取り出し、テーブルに置いた。
「これは各地の口伝をまとめて書にした物なんですが、5章の所にティオキア公国の王は『穢れの刃』を5本の剣に分けて、それぞれの部下に持たせた。と書いてあるんです」
「どれ」
アズライル様はその古書を読み、暫く考え込んでいた。
「これが史実なら、『穢れの刃』は5本になり、危険が5倍になったと言うことだな?」
「……そうなりますね」
「我はもうそろそろ、天界に帰らなければいけない。ユリウス、そなたにこの後の調査も任せたいのだが……良いか?」
「ええ、ぜひ、私に任せて下さいませ」
「うむ」
アズライル様は紅茶を飲んだ。
「そなたは国も持ち、別に仕事もし、多忙であるのに、すまんな」
「いえ、アズライル様や、アリア様のお力になれるなら、それは嬉しいです。私にとって喜びですから」
「そなたはこざかしい所があるが、……基本悪の気質は無いんだがなぁ……」
「?」
「いや、そなたもアリアに恋などせねば、普通に幸せになれたと思うのだが……」
「私はアリア様に出会えて良かったと思いますよ。あんな激しい感情を女に対して感じた事はありませんから」
「……アリアがもし複数の人間を愛する事が出来たなら、そなたもあんな手段になど、出なくて良かったのにな……」
「仕方ありません、私が悪いんです、彼女を想うあまり……自分だけの物にしようとした。嫌われて当然です」
「あれは、そう簡単に他人を嫌いになれるような者ではない。我と違いあれには人の心がある。人を慈しみ、愛し、情を掛け、時には己をすり減らす事もある。だが、それに気づく者がいくらいるのか……? 人間など身勝手な生き物だというのに、信じようとする。自分が傷ついてもだ。……あれは馬鹿だ」
「アリア様は優しいのですよ……こんな私にも」
「人の心があるばかりに、複数を愛するを良しとせず、唯一人に拘る。だが、今のままでは変異したスキルのせいで、アリアは危険な目に遭う事になるだろう。本当に人の心とは厄介な物だ」
危険なら私が守りたい。
「私が守ります。彼女を」
「レイジェスも同じ事を言っていた。が、お前には得るものが何もないぞ? レイジェスはアリアの愛を得ているが、お前は何も無い。それでもそう言うか?」
「ええ、何度でも言います。彼女を守ると。……何も得れなくてもいいのです。彼女が私のことを知らなくても。……影にて彼女を守る、それはたぶん、自己満足なんでしょうけどね」
「ふむ」
「では屋敷へ帰る」
「もうですか?」
アズライル様は眉間に皺を寄せて言った。
「そなた、我はアリアではないぞ? そんな熱い目をしてこちらを見るな」
「そんな目をしていたとは、失礼しました」
自分では意識してなかったが、似ているなと、つい見てしまったからか。
アズライル様はゲートで隣の屋敷に帰ってしまった。
静かになったからか、オリオンが食堂に戻って来た。
「アズライル様はお帰りに?」
「ああ」
「私はびっくりしましたよ、光の無いアズライル様は……」
「アリア様に似ていたな」
「……ええ、アズライル様は中性的なお顔立ちですがね」
「アズライル様のお顔をベースに母神様がアリア様の見目を造ったと伺った」
「なるほど」
私は風呂に入った後、自室に戻り寝台に寝転んだ。
アズライル様が、アリア様が複数の人間を愛せたら、もっと簡単なのにというニュアンスで話していたのを思い出した。
確かに、アリア様が複数を愛せれば、私も夫にして貰えたかも知れない……いや、無理か。私は彼女に嫌われている。
それに皇王である私が彼女の第二夫……正直プライドが許せない。確かに、愛されれば順番など関係ないと思う反面、第二の夫という地位が私の皇王という地位と比例していない事に納得がいかない。結局彼女が夫を沢山持つ事が出来ても、自分が一番でなくては嫌だと感じている、私は我儘な男だった。
「はぁ……溜息が出るな」
しかし、アリア様は可愛らし過ぎる。
さっきまで会っていたアズライル様の顔を思い出すと、アリア様の顔が浮かんだ。
ああ、そう言えば、幻術を掛けるのに、彼女の口に私の指を入れた。
私の指先で触れた彼女の唇、歯肉。ぬるっとした濡れた感触が自分の指に蘇る。
私は自分の部屋着の裾から手を入れて自分の中心を触った。
風呂で着替えた時に下着は履いて来なかった。
それは既に半分ほど起きていて、先端からは汁が少し垂れていた。右手でそれを優しく扱きながら、彼女の感触、姿を思い出す。
私の夢想の中の彼女は私のことを好いてくれている。
『ユリウス様……好き、大好き。リアのこと好きにして』
裸の彼女が私の上に乗っている。
騎乗位で腰を振り、私をイかせようとする彼女。
『んっ、んっ、ぁああん、あぁ! ぃいいっ!』
上から紅潮した頬で私を見つめる瞳。
彼女の汗が私の首筋にぽとりと落ちて流れていく。
私は右手を素早く動かした。
『もっ、もぅだめ! きちゃうぅ、ユリウス様、一緒に! リアと来てっ! んっ、い、イクうぅっ、んんっ!』
私は夢想の中の彼女と一緒に達した。
自分の手のひらに白濁の液がべっとりと付いていて、現実に目覚める。
アクアウォッシュをした。
ここから暫くは賢者タイムだ。
「こんな事ばかりしてるから、他の女と致す気になれないんだよな」
ちなみに、私の夢想は自分の幻影魔術スキルを使っているので、かなり本物に近いと思って頂けると分かりやすいと思う。
そう、まるで本物のアリア様と致しているような気分だということだ。
それではクセになって当たり前の話だ。
しかし、あのレイジェスが浮気をしていたとは驚きだ。
つての者によると『集団蜜花強姦事件』の被害者の一人だという。神殿長だったディディエが逮捕された時に交合っていた少女で、とても美しかったという話だ。
レイジェスは見目は美しく女共が惹かれるタイプかも知れないが、性格は朴訥とした所があり、女と遊ぶようなタイプでは無い。
あの男が自分のあれを勃起させて扱かれたというから驚きだ。
しかも、レイジェスがアリア様とは別れて君と結婚すると、その女に言ったという。
何かの魔術に掛かっていたのか? というくらい有り得ない話だ。
レイジェスは、別れて結婚すると言ったのは、女が勝手に言ってるだけで、自分は言ってないと言ったが、勃起したことは否定しなかった。
大体、会ってすぐ勃起とは、どんな状況だ? とツッコミを入れたくなる。
セバスが言うには、グレーロック城の風呂で、彼女が入っているのを知らずに、偶然入ったらしい、とのことだった。
レイジェスに裏切られて、アリア様は悲しんでいないんだろうか?
彼女の心が傷ついていないか、それが気になった。
彼女が複数の男を同時に愛せたら……私が彼女を慰めるのに。
私は頭を振った。
私は彼女に嫌われている……。それに、私は諦めたはずだ、彼女を。
しかし、諦めきれずにレイジェスにあんな事を言ってしまった。
心の中で愛すると。
諦めなければいけないのに……。
今日は仕事帰りに屋敷に寄れとコモンが言った。例の通信機器の試作品を見せてくれると言う。前々から見たいと思っていたので、当然私はその誘いを受け、屋敷にお邪魔した。
夕食の時間だと言うのに、彼の婚約者のシエラ様は嫌な顔ひとつせずに私を迎え入れた。シエラ様はミルクティのようにも見えるクリーム色の髪を後ろで編みこみ一纏めにしている。幾つか垂れている後れ毛が、年の割りに色っぽい。瞳は薄い水色で大きく輝いている。クリーム色の睫は長く、瞳に薄い影を作り出していた。鼻筋はつんと先に筋が通っていて、唇は薔薇色に艶を帯びている。相変わらず可愛らしい方だった。
食前酒を飲みながら、彼の作った通信機器を見せてもらった。本当に小さくて、手のひらに収まるサイズだった。これが世間に出るようになれば、歴史はすぐに変わるだろう。それくらいの代物だ。まったくこいつは天才では無かろうか?
我が国にこの存在を欲しいと思ってしまった。
食事が終わり談話室に行くと、ほぼコモンは酔っ払っていて、私の相手はシエラ様がしてくれていた。
何気ない話ばかりしていたのだが、私は酔っていた。
つい、想像してしまった。
まだこんなに幼いシエラ様が大の男二人と閨事をしている所を。外見的には可愛らしい少女だ。少女というよりも幼女に近いかも知れない。
そんな彼女が……。
私は、コモンに全て聞いていた。彼らの秘密を。だから知っている。
コンコンとドアがノックされ、執事がワインを置いて行った。
あの執事がシエラ様の愛人か……。
しかし、私は気になった。二人の男を受け入れる、その愛情は二人の男達のどちらに比重が掛かっているのか? まったく同じとは言えないだろう。
二人の人間に同じくらいの愛情を注げるとは思わない。
私がその事をシエラ様に聞くと、やはりシエラ様も分からない様だった。
ただ、その愛情の形や比重がどうであれ、彼女がどちらも大切に想っているのは事実だと感じ取る事は出来た。
私はアリア様の事を諦めた。
いや、正しくは諦めようと努力している、が、中々諦めきれない。
ほんの少しの光を見出しては自分を自制し、『諦めろ』と繰り返す。
だが、私の心の中だけ、そこだけなら許されるのではないかと、ひっそり彼女を想っている。
シエラ様は私を『認めない』と言った。
私はアリア様に随分酷い事をした。彼女の親友であるシエラ様だ、当たり前だろうそう言うのは。
執事がまた現れて、急遽シエラ様の姉が来るという。
コモンに以前相談された案件だったので、私はその女を観察した。
シエラ様と姉妹であるはずなのに、その女は躾がまったくなっていなかった。
シエラ様は令嬢執事である、現執事が子供の頃からお世話し、躾けたと聞いて納得した。育てる人間で、こうも結果が違うのかと、ある意味新鮮だった。
適当にあしらっていると、彼女は大人しく帰った。
彼女も帰ったし、私もゲートを開いて帰ることにした。
ゲートを開き屋敷に帰るとオリオンが苛立った様な顔で待っていた。
「お帰りなさいませ、ユリウス様」
「うむ」
「どこへ寄ってらしたんですか?」
棘のある物言いに辟易した。
「コモンの所だ、通信機器の試作品を見せて貰った。……しかし、お前の言いようは、まるで女の様だな?」
「わ、私はこんな時間まで帰らないユリウス様に、何かあったのではと心配していただけです」
私の両肩を掴むその手を、私は力を込めて外した。
「止めろ、私に触れるな……」
「ユリウス様、お慕いしております……」
オリオンは私の腕を掴み、見つめてくる。その瞳は真剣だ。
「お前の気持ちは以前に聞いて分かっている。だが、あの時も言った。応えるのは一度だけと。私はお前のことを愛しているわけでは無い。部下として大事に思っている。この気持ちは何があっても変わらない。お前を解雇したくない。だから……、もうその話は止めろ」
「ユリウス様……」
「離せ、私はもう寝る」
私はオリオンの掴んだ腕を振り払って自室に戻った。
オリオンを解雇しようと思えばすぐ出来る。
だが、長い付き合いもあり、気心も知れた奴を解雇するのは気が引けた。
そしてオリオンの気持ちも分からなくもない。
奴は私と一緒だ。
自分の気持ちを諦めきれないでいる。
いつかは諦めてくれるといいが……。私は独り溜息をついた。
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