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第五章
36 開かれた記憶の謎 レイジェス視点
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「これは一体どういう事なんだ……こんな風にアリアが錯乱するなんて……きちんと事情を説明してくれるんだよな? ユリウス」
「……説明しろと言われても、どこまで話していいのか……」
私はさっきまで、屋敷の二人の寝室で気を失っていたアリアの手を握っていた。
夢でも見ていたのか、彼女は空に手を伸ばし、私がその手を握った。そして目覚めるといきなり錯乱。何度も私を裏切った、許すな、殺せと言う彼女。
今日は平日で仕事日だ。昼休憩で抜けていたユリウスから、屋敷で彼女が倒れたと連絡を貰い来てみたら、倒れたのは私の屋敷でではなく、ユリウスの屋敷でだった。
変に勘繰りたくなるのも仕方無いだろう。
「セバス、アリアを見ていてくれ。ユリウス、談話室に来い」
ユリウスは大人しく私に付いてきた。一体何があったのか?
談話室に入り、お互い長椅子に座った。
「何故アリアがお前の屋敷に行ったんだ?」
「……アリア様はレイジェス、お前に秘密にしている事があった」
「秘密? アリアが私に? ……何の事だ?」
「アリア様はお前に知られたくないと言っていた。それを言っていいのか……」
「言え。全て吐け」
「……アリア様は記憶を一部何者かに操作され、失っていた。記憶が封印されていたんだ。それで私に解除を願い出た」
「……記憶の封印だと? ……誰にだ?」
「そこまでは私も知らない」
「アズライル様か?」
「いや、アズライル様に記憶の解除を願い出たら断られたと言っていた」
「……何? アズライル様が断った? どうしてだ」
「記憶の封印解除は彼女の為にならないと言っていたそうだ」
「……すると、アリアはアズライル様に断られたからユリウス、お前の所に行ったのか?」
「……そうだ」
私は溜息が出た。
セバスによると護衛の二人のうち、アーリンはシエラ様のお茶会への招待状を急なおつかいとしてお願いされていて、セドリックに関しては一緒に商会に行くとセバスに言って出かけていたらしい。
それが、出かけたのは商会では無く、隣のユリウスの屋敷だった。
付いていたセドリックも、玄関を出てから商会には行かないと言われて、ユリウスの屋敷に連れて行かれたというから、何もかも、アリアが嘘を付き人を騙し、考え行動した結果なのだろう。自業自得と言えば仕方無いが、あの錯乱の仕方はさすがにおかしい。
「封印解除して欲しいと言っても、アズライル様が断った事まで知っているお前が、何故解除を引き受けた?」
「お礼にアリア様からのキスが欲しいと、諦めさせるつもりで言ったら、本当にキスされた。だから……解除した」
「はっ!? アリアがお前にキスしただと!?」
「ああ」
「それ自体が私を裏切っているんだが……」
「アリア様は凄く封印を解除したがっていた。だから私にキスをするのも、やむを得ないと思ったんじゃないか」
「そんな代償を払って得た記憶で自分が壊れてしまうなど……愚かだ!」
しかし、私を裏切ったと言っていたのはユリウスとのキスの事では無いと思う。
あんなに激しい自己嫌悪に落ち、自分を殺してくれなど、たかがキスでなるか?
「他に、何か知らないか?」
ユリウスは酷く困ったような顔をした。
「何だ? 言ってくれ」
「……レイジェスを裏切ったと言っていた」
「ああ、それはさっきも言っていた。どういう意味で裏切ったと言っているのか分からないが」
「……あの人を愛してしまった。許されないと言っていた」
「……あの人? 誰の事だ。誰を愛した? 大体リアはいつも私と一緒にいる。平日はほぼ護衛と一緒で屋敷にいるし、休日は私と一緒だ。一人で誰かと会う時間など無いと思うが……」
「……フェリシアン=アルフォード公爵様と言っていた。レイジェス、お前の亡くなった父上だ」
「……はっ!?」
私の顔は表情が抜けて間抜けになっていたと思う。思ってもみなかったことを言われて。かなり驚いた。
「私の父上だと……!? そんな馬鹿な? 父上は私が16歳の時、もう8年も前に亡くなっているんだぞ? 冗談も大概にしてくれ」
「……本当に亡くなっているのか?」
ユリウスが真剣に言って思い出した。最近父上の墓が荒らされ、遺骨が盗まれたと。
……本当に遺骨は盗まれたのか? 誰が何の為に?
それより、元から骨が無かったと考えるほうが合っているんじゃないか?
父上は生きていた……!?
そんな馬鹿な。ちゃんと葬式をしたぞ、私は。そして地中に、父上の棺を埋めた。
立ち会った。
だが……その時、棺桶の中までは見なかった。
もう棺桶の蓋は閉められていて、土に埋められた。
けれど、儀式としてはそれが普通だ。葬式をして棺桶に入った姿を来てもらった客人に見せる。私もその時に棺桶に入っている父上の姿を見た。
だが、埋める時には中は見ていない……。
もしかして、本当に生きているのかも知れない……。
だが、いつアリアと知り合う機会があった? あるわけない、アリアはほぼ私と一緒に日々を過ごしていたんだぞ?
「……お前がアリアを眠らせてくれたから、今回は落ち着いたが……それも長くはないんだろう?」
「ああ」
「また目覚めたらどうすればいいんだ……。またあのように取り乱し、錯乱したアリアを見なければいけないのか?」
「……また、記憶を封印するか? 私ならばそれは簡単に出来る」
「……そうすると、また記憶を取り戻そうと、今回みたいな件になりかねないという事だよな……?」
「その可能性はある。フラッシュバック的な物が起きるから、気になるだろう」
どうすればいいのか考えあぐねていた。
もう一度記憶を封印しても今回のようになるなら、封印せずに今のままありのままの自分を受け入れ消化するしかない。
それがまだ子供のアリアに出来るのか? あんなに取り乱して……。
よほど酷い記憶だったのだろうか?
「……アズライル様に相談したらどうだろうか?」
ユリウスがそんな事を言い出した。
アズライル様に解除を断られ、ユリウスの所に行ったのに、それではアズライル様は怒るんじゃないだろうか……。
「お前が封印を解除したことも、白状しなければいけないんだぞ? 分かってるのか?」
「……それでも、あのままのアリア様を見ていられない。アズライル様は何か知っているはずだ」
「……」
私は心を決めて、アズライル様に相談する事にした。ユリウスも一緒に行くと付いてきた。
お部屋のドアをノックして、声を掛ける。
「アズライル様、レイジェスです。至急お話があります。アリアが封印を解除しました」
ドアはバン! と勢いよく開けられた。
「何だと!? 何故そのようなことに!」
私はユリウスを親指で差した。
「こいつのせいです。ユリウスが解除した」
「馬鹿者がっ! ……して、アリアは?」
「錯乱して、殺せと言われました。なので、ユリウスが催眠を掛け、眠らせています」
「……そうか。ここにはキールとリシュフェルがいる。あまり話を聞かれたくない」
「では談話室へ行きますか?」
「そうする」
また談話室へ移動すると私は呼び鈴を押し、エドアルドに紅茶の用意をさせた。
暫くしてエドアルドがティーセットを用意して談話室に来た。皆に紅茶を配ると一礼して、部屋を出て行った。
アズライル様とユリウスが並んで長椅子に座っていた。私はテーブルを挟んだ向かい側に一人で長椅子に座っている。
「アズライル様、アリアは一体何に苦しんでいるんでしょうか?」
アズライル様は眉間に皺を寄せて言った。
「レイジェス、お前への罪悪感だ」
「はっ? 私ですか?」
「あれは……くそっ! 言わねばならんのかっ!」
「どうしたんです……? アズライル様……」
ユリウスが取り乱したアズライル様に聞いた。
「アリアはある人物を愛したと思い込んでいる。それは愛じゃない。我はアリアの心を読んだ。だから分かる。あれは愛情ではなく、同情と度重なる求愛への情に絆された、ただそれだけに過ぎない感情だった。だが、アリアは同情でそのような事をしたという、自分の感情が許せなくて、愛情という感覚にそれを置き換えた。我にはそのようにはっきり分かる。我は人間で無いゆえ、感情に関してはありのまま理解する。だが、アリアは違った。アリアは人の心を持っている。同情で情を交わすのは相手に失礼だという気が心の根底にあるようだった。だから愛情という感覚に置き換えたかったんだろう」
「ん? では彼女は私を裏切ったわけでは無いということですか?」
「そこは微妙だ。情に絆されてキスはしただろうしな」
「……誰だその相手は……?」
私はアリアがキスをしたと聞いて眉間を押さえた。怒りが込み上げてくる。
やはり私を裏切ったのか。
「フェリシアン=アルフォード……?」
ユリウスがその名前を言って、アズライル様が目を見開いた。
「ユリウス、何故それを……」
「アリア様が錯乱した時に仰ってました。フェリシアンを愛したと。でも、彼はもう亡くなっている。どういう事です?」
「レイジェス、そなた本当に覚えてないのか?」
アズライル様が私を見据えて言ったが、『私が覚えてない?』何をだ?
「何の事でしょうか?」
「……いや、分からないなら良い」
何の事だかさっぱり分からないが、取り敢えず、この先のことを考えなければいけない。
「私は記憶をもう一度封印せずに、今のありのままの状態をアリアが自分で認めて受け入れ、消化していくしかないと思っている」
「レイジェス、お前がいればそれは困難だろう。お前への罪悪感がアリアを狂わせるのだから」
「ではどうすれば……」
「まぁ、お前とアリアが婚約を解消し、離れれば、アリアも罪悪感に苛まれることは無いだろう。そうすれば少しずつ元に戻るかもしれんな」
「……私にアリアと別れろと言う事か?」
私はアズライル様を視線で殺せるくらい睨んだ。
「例えの話だ。そうするのが一番楽なだけの話だということだ」
「他には無いのでしょうか? アズライル様」
ユリウスが問うがその顔は険しい。
「あとはお前がアリアを許し受け入れる事が出来るかどうかじゃないのか?」
「私を裏切ったのに、受け入れろと?」
「別れるのは嫌なんだよな?」
「……許せないかも知れない。彼女とちゃんと話をしたい」
「あれには一部言葉に制限が掛かっている。人間に話してはいけない事は語れないよう設定してある」
「だから、お前と話し合っても言葉にならない事もあるかも知れん」
「それでも……何も話をしないよりはマシだ。彼女が目覚めたらちゃんと話し合いたい」
アズライル様は溜息を吐いていた。
私たちが紅茶を飲んでいると、セバスが来てアリアが目覚めたと言った。
私はひとり寝室へ向かった。
部屋には鍵を掛けた。防音の魔法が聞いている寝室だ、誰も私たち二人の話を聞くことは出来ないだろう。
「アリア……」
「レイジェス様……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
アリアの顔は泣いたせいか瞼が赤く腫れていた。鼻も赤くなって、その表情は酷い。
「取り敢えず、落ち着くんだ」
私は寝台に上がり、アリアを抱き寄せた。そしてぽんぽんと背中を叩く。
「リア、思うところはあると思うが、まず順序を追って説明してくれ。私はちゃんと君と話し合いたい。私を裏切って悪いという気持ちがあるなら……、私に誠意を見せてくれ。ちゃんと話し合おう」
最初彼女は凄く戸惑っていた。それは話せる内容と話せない内容があるからだろうと私は推測した。
彼女は暫くしてから頷いて、口を開いた。
「わたくし、ミスをして凄く前に行っちゃったんです」
「……凄く前?」
「レイジェス様はその時、4歳でした」
「……えっ?」
何の話をするのかと思ったら、いきなり出だしで訳の分からない話になっている。
私が4歳?
「それは、過去に行ったということか?」
「はい、神呪で。でも、帰る呪文を教えて貰うのを忘れていて、お迎えが来るまで二月ほど、こちらに戻ってこれませんでした。だから、わたくしがお屋敷に戻ってレイジェス様と会ったのは二月以上振りだったんです」
ちょっと待て、天界に彼女が行って、帰って来たのは五日後位だぞ? 二月も過去に行っていたということか? 天界にいる間に? もしかして時間の流れが違うのか?
「私は五日ぶりに君と会ったと思ってた。君は違ったんだな?」
「最初に行った日に過去で迷子になって、二月過ごし、戻ってきたら最初に行った日でした」
やはり時間の流れが違ったようだ。
「で? どうして、君は私を裏切ったんだ?」
「……だって、レイジェス様は4歳なんだもん……キスをしただけです。他には悪さはしてません」
「ちょっと待て! 君は4歳の私に会ったのか?」
アリアは上目遣いで私を見つめた。また泣きそうな顔をしている。
「会いました。抱っこしてぎゅってして、一緒に寝て……キスもしちゃいました。だけど4歳のレイジェス様にそれ以上はしちゃだめでしょ……?」
「だから、…………他の男と致したのか?」
「してない」
「嘘だ。なら何故私を裏切ったと言った?」
「……フェリシアンはとても寂しい人だった」
「まさか、本当に私の父と……?」
「フェリシアンには凄く好きな人がいて、もう亡くなってしまった人なんだけど、私にその人の面影を感じていたみたい。フェリシアンは幼女趣味の人だったから、大人の女はまったくダメで……だからか、すぐにわたくしに愛の告白をしたり、結婚を申し込んできました」
「父上が幼女趣味!? そんな馬鹿な? 母上の他に第二夫人までいたんだぞ? しかも、私には異母兄までいる」
「そのお兄さんとは血が繋がってないわ。父親はフェリシアンじゃなくて、スタンリーだから」
「スタンリー!?」
「フェリシアンは凄く孤独だった。愛する事が出来るのが子供だけなんだもの。自分は悪魔だって言ってた。あんな寂しそうな悪魔いないと思う」
「……」
「わたくしがフェリシアンとしたのはキス。あと、身体が寂しかった時に男子化して自慰をしてたらフェリシアンが来て、自慰を見ていたいと言ったから、見せました。その時にフェリシアンも自慰をしてました。わたくしが達する時、フェリシアンはわたくしの物を咥えて、私はフェリシアンの口の中で達しました」
「本当にそれだけか? それなら、神の恵みと大して変わらないじゃないか」
「全然違う、それとは……。わたくしは、ずっとフェリシアンを否定してたの。結婚なんかしない、あなたの気持ちには応えられない、わたくしにはレイジェス様がいるからって。断ってた。だけど、心の中でフェリシアンの存在が段々大きくなって行った」
「……」
「ある日、気がつくと、私はキスを受け入れてた。いつもは受け入れないのに。やめて! って、拒否してたのに、受け入れてた!」
アリアの大きな瞳から涙がぽろぽろと溢れる。それは寝台の布団に吸い込まれて行った。
「落ち着け、落ち着くんだ……」
「わたくし、レイジェス様が好きなのに、なのに、そうやってフェリシアンを受け入れた自分が許せなくて……うっ、ううっ、ふっ」
「君のは同情だ。愛する人を亡くした孤独な父上の傷を癒そうとしただけだ。そんなの愛でも何でもない、同情だ!」
「でも、わたくし、フェリシアンの力ない子供のような姿に、愛しさを感じた。これは同情なんかじゃない! ……愛情だと思う」
私はこれだけ話をして、やっとアズライル様が言っていた事が分かった。
やはり彼女は同情と愛情を履き違えている。
「では聞く。リア、君は私を愛しているんだろう?」
「……ええ、ごめんなさい」
「謝らなくていい、私の父上を想う気持ちと、私を想う気持ちは一緒か?」
アリアは狼狽し、動揺した。なんて答えようかと戸惑っている。
「それは……違う」
「どう違うんだ? 愛しているんだろう? 私も父上も」
「……レイジェス様の事は好き、愛してる、一緒に気持ち良くなりたい。二人で幸せに過ごしたい、そう思う。だけど、フェリシアンの事は……寂しくて、可哀想な人だと思う……私が一緒にいてあげなきゃって……思うの。それって、愛情じゃないの?」
私は彼女を抱き寄せた。ぎゅっと強く抱きしめ、自分の存在を示す。
「父上はもう亡くなった。過去の亡霊に苛まされるのは止めろ。君の想いは、はっきり言う、『同情』だ。しかも『情に絆されている』この、情に絆された状態は愛情と似ていることもある。まだ幼い君は、それを見極めれずに愛情と勘違いをしたんだ。情に絆されるとはな、情に惹きつけられて、心や行動の自由が縛られる事を言う。だから、君が感じた気持ちは愛情なんかじゃない」
「……そんな」
「君が愛してるのは私だけだ。そうだろう?」
私が彼女の額にキスをし、見下ろすと、彼女はゆっくり視線を上げて私を見つめた。
瞳がきらきらと輝いていた。
「……はい」
彼女が返事をしたあと、深呼吸をして続けて言った。
「でもまだあるの」
私はその言葉にドキッとした。父上の事だけじゃないのか!?
「ユリウス様と……キス、しちゃった」
私はじと目で彼女を見た。
「ん。封印解除して貰う為にしたんだろう?」
「……知ってたんですか?」
「ユリウスが吐いた」
「レイジェス様、もっと怒るかと思った」
「怒りたいが、私もリアの事は言えない。クリスティアに大事な所を触られ扱かれたからな、はははっ」
「ユリウス様とはまだあるの……」
私がユリウスに聞いたのはキスだけだ。他に何があると言うんだ。
「封印解除する時に、意識を同調しないといけなかったんだけど、意識体同士で……えっと、エッチな事をして達しないと、意識は同調しないの。それで、そういう事をして……気持ち良くなっちゃった……。ごめんなさい……」
「実際致したわけでは無いんだな?」
「はい。意識体同士だけです。でも感触とか凄くリアルで……」
「……そうか。分かった」
ユリウスは後で半殺しだな。
こんな大事なことを言わないとは、私に何かされると怯えたか?
「もうないのか?」
「そんなに沢山あったら困るでしょ……」
『ヒール!』
私がヒールを掛けると、アリアの瞼の腫れはすぐに治まった。
私は自分の心が意外にも落ち着いているのに驚いた。もっと彼女に裏切られたと怒りで心が一杯になるかと思っていたが、彼女の話を聞いていて、そうはならなかった。きっと彼女が素直だからだと思う。
彼女が裏切ったというから、正直言うと蜜花でも失ったのかと思っていた。そんな考えをする私は、少し薄汚れているのかも知れない。
彼女は単にキスを受け入れたという感情面で、裏切ったという意識を強く感じてしまったんだろうと思った。
しかし、私が彼女と4歳の時に会って、一緒に眠ってキスをした? ぎゅっと私を抱きしめてたというが、まったく覚えていない。
……あっ! そうだ……、私はある夜、独りが寂しくて眠れなかった。
そんな時、誰かが私にうさぎのぬいぐるみをくれた。あれは……!!
『リアお姉ちゃん』だ。私はそれを思い出すと激しい頭痛がした。
「くっ……!」
私の記憶の中に彼女はいた。今と同じ姿だった。
「どうしたの!? レイジェス様、大丈夫?」
心配そうに私を覗き込む。
彼女に初めて会った時、どこか懐かしく感じたのは、このせいだったのか。
ぎゅっと抱きしめると安心感が広がる。
私が小さな頃は、彼女が私を抱きしめてくれていた。
私をぎゅっと……。
彼女から暖かな陽の香りがしたのを覚えている。
そう、彼女はあの時と何も変わらず、あの姿のままここにいた。
変わったのは年を重ねた自分だけだった。
「……説明しろと言われても、どこまで話していいのか……」
私はさっきまで、屋敷の二人の寝室で気を失っていたアリアの手を握っていた。
夢でも見ていたのか、彼女は空に手を伸ばし、私がその手を握った。そして目覚めるといきなり錯乱。何度も私を裏切った、許すな、殺せと言う彼女。
今日は平日で仕事日だ。昼休憩で抜けていたユリウスから、屋敷で彼女が倒れたと連絡を貰い来てみたら、倒れたのは私の屋敷でではなく、ユリウスの屋敷でだった。
変に勘繰りたくなるのも仕方無いだろう。
「セバス、アリアを見ていてくれ。ユリウス、談話室に来い」
ユリウスは大人しく私に付いてきた。一体何があったのか?
談話室に入り、お互い長椅子に座った。
「何故アリアがお前の屋敷に行ったんだ?」
「……アリア様はレイジェス、お前に秘密にしている事があった」
「秘密? アリアが私に? ……何の事だ?」
「アリア様はお前に知られたくないと言っていた。それを言っていいのか……」
「言え。全て吐け」
「……アリア様は記憶を一部何者かに操作され、失っていた。記憶が封印されていたんだ。それで私に解除を願い出た」
「……記憶の封印だと? ……誰にだ?」
「そこまでは私も知らない」
「アズライル様か?」
「いや、アズライル様に記憶の解除を願い出たら断られたと言っていた」
「……何? アズライル様が断った? どうしてだ」
「記憶の封印解除は彼女の為にならないと言っていたそうだ」
「……すると、アリアはアズライル様に断られたからユリウス、お前の所に行ったのか?」
「……そうだ」
私は溜息が出た。
セバスによると護衛の二人のうち、アーリンはシエラ様のお茶会への招待状を急なおつかいとしてお願いされていて、セドリックに関しては一緒に商会に行くとセバスに言って出かけていたらしい。
それが、出かけたのは商会では無く、隣のユリウスの屋敷だった。
付いていたセドリックも、玄関を出てから商会には行かないと言われて、ユリウスの屋敷に連れて行かれたというから、何もかも、アリアが嘘を付き人を騙し、考え行動した結果なのだろう。自業自得と言えば仕方無いが、あの錯乱の仕方はさすがにおかしい。
「封印解除して欲しいと言っても、アズライル様が断った事まで知っているお前が、何故解除を引き受けた?」
「お礼にアリア様からのキスが欲しいと、諦めさせるつもりで言ったら、本当にキスされた。だから……解除した」
「はっ!? アリアがお前にキスしただと!?」
「ああ」
「それ自体が私を裏切っているんだが……」
「アリア様は凄く封印を解除したがっていた。だから私にキスをするのも、やむを得ないと思ったんじゃないか」
「そんな代償を払って得た記憶で自分が壊れてしまうなど……愚かだ!」
しかし、私を裏切ったと言っていたのはユリウスとのキスの事では無いと思う。
あんなに激しい自己嫌悪に落ち、自分を殺してくれなど、たかがキスでなるか?
「他に、何か知らないか?」
ユリウスは酷く困ったような顔をした。
「何だ? 言ってくれ」
「……レイジェスを裏切ったと言っていた」
「ああ、それはさっきも言っていた。どういう意味で裏切ったと言っているのか分からないが」
「……あの人を愛してしまった。許されないと言っていた」
「……あの人? 誰の事だ。誰を愛した? 大体リアはいつも私と一緒にいる。平日はほぼ護衛と一緒で屋敷にいるし、休日は私と一緒だ。一人で誰かと会う時間など無いと思うが……」
「……フェリシアン=アルフォード公爵様と言っていた。レイジェス、お前の亡くなった父上だ」
「……はっ!?」
私の顔は表情が抜けて間抜けになっていたと思う。思ってもみなかったことを言われて。かなり驚いた。
「私の父上だと……!? そんな馬鹿な? 父上は私が16歳の時、もう8年も前に亡くなっているんだぞ? 冗談も大概にしてくれ」
「……本当に亡くなっているのか?」
ユリウスが真剣に言って思い出した。最近父上の墓が荒らされ、遺骨が盗まれたと。
……本当に遺骨は盗まれたのか? 誰が何の為に?
それより、元から骨が無かったと考えるほうが合っているんじゃないか?
父上は生きていた……!?
そんな馬鹿な。ちゃんと葬式をしたぞ、私は。そして地中に、父上の棺を埋めた。
立ち会った。
だが……その時、棺桶の中までは見なかった。
もう棺桶の蓋は閉められていて、土に埋められた。
けれど、儀式としてはそれが普通だ。葬式をして棺桶に入った姿を来てもらった客人に見せる。私もその時に棺桶に入っている父上の姿を見た。
だが、埋める時には中は見ていない……。
もしかして、本当に生きているのかも知れない……。
だが、いつアリアと知り合う機会があった? あるわけない、アリアはほぼ私と一緒に日々を過ごしていたんだぞ?
「……お前がアリアを眠らせてくれたから、今回は落ち着いたが……それも長くはないんだろう?」
「ああ」
「また目覚めたらどうすればいいんだ……。またあのように取り乱し、錯乱したアリアを見なければいけないのか?」
「……また、記憶を封印するか? 私ならばそれは簡単に出来る」
「……そうすると、また記憶を取り戻そうと、今回みたいな件になりかねないという事だよな……?」
「その可能性はある。フラッシュバック的な物が起きるから、気になるだろう」
どうすればいいのか考えあぐねていた。
もう一度記憶を封印しても今回のようになるなら、封印せずに今のままありのままの自分を受け入れ消化するしかない。
それがまだ子供のアリアに出来るのか? あんなに取り乱して……。
よほど酷い記憶だったのだろうか?
「……アズライル様に相談したらどうだろうか?」
ユリウスがそんな事を言い出した。
アズライル様に解除を断られ、ユリウスの所に行ったのに、それではアズライル様は怒るんじゃないだろうか……。
「お前が封印を解除したことも、白状しなければいけないんだぞ? 分かってるのか?」
「……それでも、あのままのアリア様を見ていられない。アズライル様は何か知っているはずだ」
「……」
私は心を決めて、アズライル様に相談する事にした。ユリウスも一緒に行くと付いてきた。
お部屋のドアをノックして、声を掛ける。
「アズライル様、レイジェスです。至急お話があります。アリアが封印を解除しました」
ドアはバン! と勢いよく開けられた。
「何だと!? 何故そのようなことに!」
私はユリウスを親指で差した。
「こいつのせいです。ユリウスが解除した」
「馬鹿者がっ! ……して、アリアは?」
「錯乱して、殺せと言われました。なので、ユリウスが催眠を掛け、眠らせています」
「……そうか。ここにはキールとリシュフェルがいる。あまり話を聞かれたくない」
「では談話室へ行きますか?」
「そうする」
また談話室へ移動すると私は呼び鈴を押し、エドアルドに紅茶の用意をさせた。
暫くしてエドアルドがティーセットを用意して談話室に来た。皆に紅茶を配ると一礼して、部屋を出て行った。
アズライル様とユリウスが並んで長椅子に座っていた。私はテーブルを挟んだ向かい側に一人で長椅子に座っている。
「アズライル様、アリアは一体何に苦しんでいるんでしょうか?」
アズライル様は眉間に皺を寄せて言った。
「レイジェス、お前への罪悪感だ」
「はっ? 私ですか?」
「あれは……くそっ! 言わねばならんのかっ!」
「どうしたんです……? アズライル様……」
ユリウスが取り乱したアズライル様に聞いた。
「アリアはある人物を愛したと思い込んでいる。それは愛じゃない。我はアリアの心を読んだ。だから分かる。あれは愛情ではなく、同情と度重なる求愛への情に絆された、ただそれだけに過ぎない感情だった。だが、アリアは同情でそのような事をしたという、自分の感情が許せなくて、愛情という感覚にそれを置き換えた。我にはそのようにはっきり分かる。我は人間で無いゆえ、感情に関してはありのまま理解する。だが、アリアは違った。アリアは人の心を持っている。同情で情を交わすのは相手に失礼だという気が心の根底にあるようだった。だから愛情という感覚に置き換えたかったんだろう」
「ん? では彼女は私を裏切ったわけでは無いということですか?」
「そこは微妙だ。情に絆されてキスはしただろうしな」
「……誰だその相手は……?」
私はアリアがキスをしたと聞いて眉間を押さえた。怒りが込み上げてくる。
やはり私を裏切ったのか。
「フェリシアン=アルフォード……?」
ユリウスがその名前を言って、アズライル様が目を見開いた。
「ユリウス、何故それを……」
「アリア様が錯乱した時に仰ってました。フェリシアンを愛したと。でも、彼はもう亡くなっている。どういう事です?」
「レイジェス、そなた本当に覚えてないのか?」
アズライル様が私を見据えて言ったが、『私が覚えてない?』何をだ?
「何の事でしょうか?」
「……いや、分からないなら良い」
何の事だかさっぱり分からないが、取り敢えず、この先のことを考えなければいけない。
「私は記憶をもう一度封印せずに、今のありのままの状態をアリアが自分で認めて受け入れ、消化していくしかないと思っている」
「レイジェス、お前がいればそれは困難だろう。お前への罪悪感がアリアを狂わせるのだから」
「ではどうすれば……」
「まぁ、お前とアリアが婚約を解消し、離れれば、アリアも罪悪感に苛まれることは無いだろう。そうすれば少しずつ元に戻るかもしれんな」
「……私にアリアと別れろと言う事か?」
私はアズライル様を視線で殺せるくらい睨んだ。
「例えの話だ。そうするのが一番楽なだけの話だということだ」
「他には無いのでしょうか? アズライル様」
ユリウスが問うがその顔は険しい。
「あとはお前がアリアを許し受け入れる事が出来るかどうかじゃないのか?」
「私を裏切ったのに、受け入れろと?」
「別れるのは嫌なんだよな?」
「……許せないかも知れない。彼女とちゃんと話をしたい」
「あれには一部言葉に制限が掛かっている。人間に話してはいけない事は語れないよう設定してある」
「だから、お前と話し合っても言葉にならない事もあるかも知れん」
「それでも……何も話をしないよりはマシだ。彼女が目覚めたらちゃんと話し合いたい」
アズライル様は溜息を吐いていた。
私たちが紅茶を飲んでいると、セバスが来てアリアが目覚めたと言った。
私はひとり寝室へ向かった。
部屋には鍵を掛けた。防音の魔法が聞いている寝室だ、誰も私たち二人の話を聞くことは出来ないだろう。
「アリア……」
「レイジェス様……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
アリアの顔は泣いたせいか瞼が赤く腫れていた。鼻も赤くなって、その表情は酷い。
「取り敢えず、落ち着くんだ」
私は寝台に上がり、アリアを抱き寄せた。そしてぽんぽんと背中を叩く。
「リア、思うところはあると思うが、まず順序を追って説明してくれ。私はちゃんと君と話し合いたい。私を裏切って悪いという気持ちがあるなら……、私に誠意を見せてくれ。ちゃんと話し合おう」
最初彼女は凄く戸惑っていた。それは話せる内容と話せない内容があるからだろうと私は推測した。
彼女は暫くしてから頷いて、口を開いた。
「わたくし、ミスをして凄く前に行っちゃったんです」
「……凄く前?」
「レイジェス様はその時、4歳でした」
「……えっ?」
何の話をするのかと思ったら、いきなり出だしで訳の分からない話になっている。
私が4歳?
「それは、過去に行ったということか?」
「はい、神呪で。でも、帰る呪文を教えて貰うのを忘れていて、お迎えが来るまで二月ほど、こちらに戻ってこれませんでした。だから、わたくしがお屋敷に戻ってレイジェス様と会ったのは二月以上振りだったんです」
ちょっと待て、天界に彼女が行って、帰って来たのは五日後位だぞ? 二月も過去に行っていたということか? 天界にいる間に? もしかして時間の流れが違うのか?
「私は五日ぶりに君と会ったと思ってた。君は違ったんだな?」
「最初に行った日に過去で迷子になって、二月過ごし、戻ってきたら最初に行った日でした」
やはり時間の流れが違ったようだ。
「で? どうして、君は私を裏切ったんだ?」
「……だって、レイジェス様は4歳なんだもん……キスをしただけです。他には悪さはしてません」
「ちょっと待て! 君は4歳の私に会ったのか?」
アリアは上目遣いで私を見つめた。また泣きそうな顔をしている。
「会いました。抱っこしてぎゅってして、一緒に寝て……キスもしちゃいました。だけど4歳のレイジェス様にそれ以上はしちゃだめでしょ……?」
「だから、…………他の男と致したのか?」
「してない」
「嘘だ。なら何故私を裏切ったと言った?」
「……フェリシアンはとても寂しい人だった」
「まさか、本当に私の父と……?」
「フェリシアンには凄く好きな人がいて、もう亡くなってしまった人なんだけど、私にその人の面影を感じていたみたい。フェリシアンは幼女趣味の人だったから、大人の女はまったくダメで……だからか、すぐにわたくしに愛の告白をしたり、結婚を申し込んできました」
「父上が幼女趣味!? そんな馬鹿な? 母上の他に第二夫人までいたんだぞ? しかも、私には異母兄までいる」
「そのお兄さんとは血が繋がってないわ。父親はフェリシアンじゃなくて、スタンリーだから」
「スタンリー!?」
「フェリシアンは凄く孤独だった。愛する事が出来るのが子供だけなんだもの。自分は悪魔だって言ってた。あんな寂しそうな悪魔いないと思う」
「……」
「わたくしがフェリシアンとしたのはキス。あと、身体が寂しかった時に男子化して自慰をしてたらフェリシアンが来て、自慰を見ていたいと言ったから、見せました。その時にフェリシアンも自慰をしてました。わたくしが達する時、フェリシアンはわたくしの物を咥えて、私はフェリシアンの口の中で達しました」
「本当にそれだけか? それなら、神の恵みと大して変わらないじゃないか」
「全然違う、それとは……。わたくしは、ずっとフェリシアンを否定してたの。結婚なんかしない、あなたの気持ちには応えられない、わたくしにはレイジェス様がいるからって。断ってた。だけど、心の中でフェリシアンの存在が段々大きくなって行った」
「……」
「ある日、気がつくと、私はキスを受け入れてた。いつもは受け入れないのに。やめて! って、拒否してたのに、受け入れてた!」
アリアの大きな瞳から涙がぽろぽろと溢れる。それは寝台の布団に吸い込まれて行った。
「落ち着け、落ち着くんだ……」
「わたくし、レイジェス様が好きなのに、なのに、そうやってフェリシアンを受け入れた自分が許せなくて……うっ、ううっ、ふっ」
「君のは同情だ。愛する人を亡くした孤独な父上の傷を癒そうとしただけだ。そんなの愛でも何でもない、同情だ!」
「でも、わたくし、フェリシアンの力ない子供のような姿に、愛しさを感じた。これは同情なんかじゃない! ……愛情だと思う」
私はこれだけ話をして、やっとアズライル様が言っていた事が分かった。
やはり彼女は同情と愛情を履き違えている。
「では聞く。リア、君は私を愛しているんだろう?」
「……ええ、ごめんなさい」
「謝らなくていい、私の父上を想う気持ちと、私を想う気持ちは一緒か?」
アリアは狼狽し、動揺した。なんて答えようかと戸惑っている。
「それは……違う」
「どう違うんだ? 愛しているんだろう? 私も父上も」
「……レイジェス様の事は好き、愛してる、一緒に気持ち良くなりたい。二人で幸せに過ごしたい、そう思う。だけど、フェリシアンの事は……寂しくて、可哀想な人だと思う……私が一緒にいてあげなきゃって……思うの。それって、愛情じゃないの?」
私は彼女を抱き寄せた。ぎゅっと強く抱きしめ、自分の存在を示す。
「父上はもう亡くなった。過去の亡霊に苛まされるのは止めろ。君の想いは、はっきり言う、『同情』だ。しかも『情に絆されている』この、情に絆された状態は愛情と似ていることもある。まだ幼い君は、それを見極めれずに愛情と勘違いをしたんだ。情に絆されるとはな、情に惹きつけられて、心や行動の自由が縛られる事を言う。だから、君が感じた気持ちは愛情なんかじゃない」
「……そんな」
「君が愛してるのは私だけだ。そうだろう?」
私が彼女の額にキスをし、見下ろすと、彼女はゆっくり視線を上げて私を見つめた。
瞳がきらきらと輝いていた。
「……はい」
彼女が返事をしたあと、深呼吸をして続けて言った。
「でもまだあるの」
私はその言葉にドキッとした。父上の事だけじゃないのか!?
「ユリウス様と……キス、しちゃった」
私はじと目で彼女を見た。
「ん。封印解除して貰う為にしたんだろう?」
「……知ってたんですか?」
「ユリウスが吐いた」
「レイジェス様、もっと怒るかと思った」
「怒りたいが、私もリアの事は言えない。クリスティアに大事な所を触られ扱かれたからな、はははっ」
「ユリウス様とはまだあるの……」
私がユリウスに聞いたのはキスだけだ。他に何があると言うんだ。
「封印解除する時に、意識を同調しないといけなかったんだけど、意識体同士で……えっと、エッチな事をして達しないと、意識は同調しないの。それで、そういう事をして……気持ち良くなっちゃった……。ごめんなさい……」
「実際致したわけでは無いんだな?」
「はい。意識体同士だけです。でも感触とか凄くリアルで……」
「……そうか。分かった」
ユリウスは後で半殺しだな。
こんな大事なことを言わないとは、私に何かされると怯えたか?
「もうないのか?」
「そんなに沢山あったら困るでしょ……」
『ヒール!』
私がヒールを掛けると、アリアの瞼の腫れはすぐに治まった。
私は自分の心が意外にも落ち着いているのに驚いた。もっと彼女に裏切られたと怒りで心が一杯になるかと思っていたが、彼女の話を聞いていて、そうはならなかった。きっと彼女が素直だからだと思う。
彼女が裏切ったというから、正直言うと蜜花でも失ったのかと思っていた。そんな考えをする私は、少し薄汚れているのかも知れない。
彼女は単にキスを受け入れたという感情面で、裏切ったという意識を強く感じてしまったんだろうと思った。
しかし、私が彼女と4歳の時に会って、一緒に眠ってキスをした? ぎゅっと私を抱きしめてたというが、まったく覚えていない。
……あっ! そうだ……、私はある夜、独りが寂しくて眠れなかった。
そんな時、誰かが私にうさぎのぬいぐるみをくれた。あれは……!!
『リアお姉ちゃん』だ。私はそれを思い出すと激しい頭痛がした。
「くっ……!」
私の記憶の中に彼女はいた。今と同じ姿だった。
「どうしたの!? レイジェス様、大丈夫?」
心配そうに私を覗き込む。
彼女に初めて会った時、どこか懐かしく感じたのは、このせいだったのか。
ぎゅっと抱きしめると安心感が広がる。
私が小さな頃は、彼女が私を抱きしめてくれていた。
私をぎゅっと……。
彼女から暖かな陽の香りがしたのを覚えている。
そう、彼女はあの時と何も変わらず、あの姿のままここにいた。
変わったのは年を重ねた自分だけだった。
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