剣と盾の怪奇録

六連星碧透

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口止め料

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祖父の葬儀がつつが無く終わった晩。
仏間に入ると、白地に赤い金魚柄の主張が激しいシャツを着た叔父さんが、一人で模造の短刀を手に何やら空を斬っていた。耳元で、こっちも金魚が大きく揺れている。
まずいところに居合わせたかもしれない。
静かに回れ右するより前に、叔父さんが振り向いた。
人一人殺った後みたいな目で射抜かれ、次は僕の番かと観念する。凄い速さで短刀をしまうと、勢いよく僕に近付き肩を抱く。
首でも締められるのかと、身体が強張った。

「コンビニ行かねえ?」
「外で証拠隠滅ですか」
「は?」


車中で、叔父さんはゲラゲラ笑っていた。

「人殺しの経験はないね。今後も予定はない」
「あったら困りますよ……」

叔父さんに連れ出され、車で十分くらいの場所にあるコンビニに向かっている。
夜十一時過ぎ。
街灯もほとんど無い道を進むと、闇から滲み出るように、コンビニの明かりが見えた。
まだ昼間の熱気が溶け切らないのか、じんわりと暑い。適当に飲み物を買って先に外に出ていたら、遅れて出て来た叔父さんにアイスを差し出される。
ラムネ味のアイスキャンデー。
叔父さんは不敵に笑う。

「口止め料な」
「くちどめりょう?」

受け取ってから首を傾げる。
叔父さんは既に自分の分の同じアイスを袋から出して食べ始めていた。
僕もお礼を言って、とりあえず倣う。

「さっき仏間で見たもんの」
「ああ、」

アイスを舐めた舌先が、冷たさで痺れる。
遅れて、懐かしい甘さが染みた。
これ、昔よく祖父に買ってもらってたアイスキャンデーだ。

「邪魔してしまったんですね」
「んや、そういうもんではない。無いが喋られると面倒。いろいろ」

後は黙ってアイスを齧っている。
さっきのあの短刀は、祖父の身体に安置されていた魔除けの短刀だった。
そこまで思い出してから、考えるのを止める。

「このアイスキャンデー、まだ売ってたんですね。もう無くなったと思ってました」

叔父さんの視線を感じる。
アイスを咥えたまま見れば、それは何とも言えない目で、反応に困る。
夜に見る水みたいな。暗いけど綺麗で、僕は吸い込まれそうになる。
というか、口止め料がアイスて。今更じわじわ来る。
叔父さんは不意に近付いて来ると、僕の頭をめちゃくちゃに撫で回す。

「むぐっ!?」
「食い終わったらその辺少し回って帰るか。何も無いけど」

僕はだだっ広い駐車場で改めて周りを見渡す。確かに、何かありそうにも無い。

「山中に置き去りとかしないでくださいね」
「俺まだそんな風に見えんの?」

アイスを食べ終えたと同時に、叔父さんが笑い出した。








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