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1・雨が降る
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夕暮れ時、太陽が沈み赤く染まりだした町を、いつものように散歩する。今日は雨の予報じゃないけれど、カバンには赤い折りたたみ傘をいれて。
通りがかった喫茶店に新メニューと張り紙が貼られていたので、ガラスケースを覗くと、よくある紺色の半袖セーラー服を着たわたしが写った。いつも通り、味気ない顔。
期待した新メニューは、心惹かれるものでは無かったので、足を進める。
坂の多いこの町。観光客の人は歩くのに、大変そうに汗を流しているけど、この町で生まれ育ったわたしには慣れたものだ。
今日も高台まで行って、海と町を見てこよう。
町を見下ろせる高台は、小さな公園の様になっていて、いくつかベンチがあり、崖の端の部分には、人が落ちないように青色の柵が立っている。
柵の前は、辺りに邪魔をするものがないから、よく風が吹いているけど、今日は一段と大きな風が吹いていた。雲がもの凄いスピードで動いている。
こういう時は天気が悪くなりやすいんだけど、雨、降っている場所無いかな?
そう思って探してみるけど、見当たらない。雨を引き連れそうな雲も分からない。……空だけみれば分かる様に、天気予報士にでもなろうかな。
なんて、ふざけた事を考える。
でも、今日も雨が降らないなんて最近全然降らないな、せっかく新しい傘買ったのに。
肩に掛けていたスクバから、折りたたまれた傘を取り出す。
ポピーのような、落ち着いているけど華やかな赤色。模様は一切入って無いけど、すごく可愛い。
ゆっくり広げて、傘を差す。
下から見たら、雨も降ってないのに、なんで傘を差しているんだろうって思われているんだろうな。
そのまま町を見下ろしていると、日がだいぶ落ちてきた。もう、夕暮れも終わるような時間。
……そろそろ、帰ろう。
開いていた傘を閉じようとした時の事だった。
「結羽!」
呼ばれたのはわたしの名前じゃない。だけど、大きな声に思わず振り向く。
そこにいたのは、茶髪の大学生くらいの優男風な男。幽霊でも見たかの様な酷い顔をしている。
必死にこちらに走っていた彼は、わたしが振り向いた事で絶望と安著が混ざり合ったみたいな顔をして歩みを止め、膝を付き項垂れる。
なんだったの?
辺りを見回すけど、わたしと彼以外に人はいない。
じゃあ、誰を呼んだの?
……変な人だと思うけど、彼は両膝に手を置いて、項垂れたまま動かないから、心配になる。
わたしが傘を閉じ鞄にしまっても、彼は動かない。
一歩、彼に近づいた。
「あの、大丈夫ですか?」
私が声を掛けると、彼はゆっくりと口に出した。
「……すみません」
帰ってきたのは、その一言だけ。
相変わらず、項垂れたまま。
これから、どうすれば良いんだろう。
返事は出来るくらいだし、ほっておく? でも、大丈夫とは、返さなかったし。
項垂れたままの彼を見ていると、ぽつり、地面に水玉が落ちた。
雨、降ってきた?
少し期待しながら空を見上げるけど、雨は降っていない。
ただ、彼の元にだけ、水玉が落ちて、雨模様が出来ていく。
この人、泣いているんだ。
通りがかった喫茶店に新メニューと張り紙が貼られていたので、ガラスケースを覗くと、よくある紺色の半袖セーラー服を着たわたしが写った。いつも通り、味気ない顔。
期待した新メニューは、心惹かれるものでは無かったので、足を進める。
坂の多いこの町。観光客の人は歩くのに、大変そうに汗を流しているけど、この町で生まれ育ったわたしには慣れたものだ。
今日も高台まで行って、海と町を見てこよう。
町を見下ろせる高台は、小さな公園の様になっていて、いくつかベンチがあり、崖の端の部分には、人が落ちないように青色の柵が立っている。
柵の前は、辺りに邪魔をするものがないから、よく風が吹いているけど、今日は一段と大きな風が吹いていた。雲がもの凄いスピードで動いている。
こういう時は天気が悪くなりやすいんだけど、雨、降っている場所無いかな?
そう思って探してみるけど、見当たらない。雨を引き連れそうな雲も分からない。……空だけみれば分かる様に、天気予報士にでもなろうかな。
なんて、ふざけた事を考える。
でも、今日も雨が降らないなんて最近全然降らないな、せっかく新しい傘買ったのに。
肩に掛けていたスクバから、折りたたまれた傘を取り出す。
ポピーのような、落ち着いているけど華やかな赤色。模様は一切入って無いけど、すごく可愛い。
ゆっくり広げて、傘を差す。
下から見たら、雨も降ってないのに、なんで傘を差しているんだろうって思われているんだろうな。
そのまま町を見下ろしていると、日がだいぶ落ちてきた。もう、夕暮れも終わるような時間。
……そろそろ、帰ろう。
開いていた傘を閉じようとした時の事だった。
「結羽!」
呼ばれたのはわたしの名前じゃない。だけど、大きな声に思わず振り向く。
そこにいたのは、茶髪の大学生くらいの優男風な男。幽霊でも見たかの様な酷い顔をしている。
必死にこちらに走っていた彼は、わたしが振り向いた事で絶望と安著が混ざり合ったみたいな顔をして歩みを止め、膝を付き項垂れる。
なんだったの?
辺りを見回すけど、わたしと彼以外に人はいない。
じゃあ、誰を呼んだの?
……変な人だと思うけど、彼は両膝に手を置いて、項垂れたまま動かないから、心配になる。
わたしが傘を閉じ鞄にしまっても、彼は動かない。
一歩、彼に近づいた。
「あの、大丈夫ですか?」
私が声を掛けると、彼はゆっくりと口に出した。
「……すみません」
帰ってきたのは、その一言だけ。
相変わらず、項垂れたまま。
これから、どうすれば良いんだろう。
返事は出来るくらいだし、ほっておく? でも、大丈夫とは、返さなかったし。
項垂れたままの彼を見ていると、ぽつり、地面に水玉が落ちた。
雨、降ってきた?
少し期待しながら空を見上げるけど、雨は降っていない。
ただ、彼の元にだけ、水玉が落ちて、雨模様が出来ていく。
この人、泣いているんだ。
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