婚約破棄された悪役令嬢は何もかも失いました

東山りえる

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2話

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リヒャルト様の声が、まるで遠い世界の出来事のように聞こえる。

私の婚約者だった人が、私の罪を、声高に叫んでいる。

「リリアーナが私に相談してくれなければ、私は気づくことすらなかった! まさか君が、これほどまでに陰湿な女だったとは!」

リヒャルト様の隣で、リリアーナ嬢が楚々とした姿で涙を拭う。

「リヒャルト様、もうおやめくださいまし。マリアム様も、きっと悪気があったわけでは……。わたくしが、リヒャルト様とお話ししていたのが、いけなかったのですわ」

その言葉は、火に油を注ぐだけだと、彼女は知っているはず。

健気で心優しい自分と、嫉妬に狂った悪女の私。

その対比を、満場の貴族たちに見せつけている。

「リリアーナ、君は優しすぎるんだ。だが、悪は正されねばならない」

リヒャルト様はそう言うと、侮蔑の視線を再び私に向けた。

「皆様もお聞きください! マリアムは、リリアーナのティーカップに虫を入れたり、夜会で着るはずだったドレスを切り裂いたりしたのです! 全ては、私の気を引くためだったと、そうとしか考えられない!」

事実無根の罪状が、次から次へと並べ立てられる。

違う。

違う、私はそんなことしていない。

そう叫びたいのに、喉が張り付いたように声が出ない。

周りを見渡しても、助け舟を出してくれる人は誰もいなかった。

今までお茶を飲み、にこやかに談笑していた夫人たちも、扇で口元を隠し、ひそひそと何かを囁き合っている。

幼い頃から共に学んだ友人たちでさえ、戸惑いの表情を浮かべ、私から目をそらすだけ。

誰もが、公爵家のリヒャルト様の言葉を信じ、私を罪人だと見なしている。

この場所に、私の味方は一人もいない。

たった一人で、断頭台に立たされているかのような、絶対的な孤独。

「……様、マリアム様」

誰かが、私の腕をそっと引いた。

見れば、我が家の執事が、青ざめた顔で私を見ている。

「奥様と旦那様がお呼びです。こちらへ……」

この場から連れ出してくれる。

その事実に少しだけ安堵したけれど、それは新たな地獄への入り口に過ぎなかった。

リヒャルト様は、私たちが去るのを黙って見ている。

その目は、まるで汚物でも見るかのように冷え切っていた。

もう、何もかもおしまいだ。

輝かしい未来も、誇りも、愛も。

一夜にして、私は全てを失った。

私は、まるで操り人形のように執事に腕を引かれ、輝くシャンデリアの光に背を向けた。

背中に突き刺さる、無数の好奇と軽蔑の視線を感じながら。

もう二度と、この場所に戻ることはないだろう。

私の世界から、光が消えた瞬間だった。
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