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市場での出会いから数日後、私は領主の館の執務室で、領地の産物に関する資料に目を通していた。
「やはり、販路の拡大が急務ね。この素晴らしい品々を、領内だけで消費しているのはもったいないわ」
特に私の目を引いたのは、最近になって領内で栽培が始まった、新しい品種のブドウだった。糖度が非常に高く、ワインの原料として最適のはずだ。
(これを商品化できれば、大きな財源になるかもしれない…)
そんなことを考えていると、執事が部屋に入ってきた。
「お嬢様、街の商人が面会を求めておりますが、いかがいたしますか?」
「商人?どこの者かしら?」
「それが、最近になって頭角を現してきた『ベルク商会』の者だと名乗っておりますが…」
ベルク商会。その名前に、私は聞き覚えがなかった。新興の商会なのだろう。
「面白そうね。会ってみましょう。ここへ通してちょうだい」
「かしこまりました」
やがて、執事に案内されて執務室に入ってきた人物を見て、私は我が目を疑った。
「どうも!ベルク商会のウルスラだ!あんたがここの責任者かい?」
そこに立っていたのは、先日市場でぶつかった、あの嵐のような青年だったからだ。
彼もまた、私を見て目を丸くしている。
「あんたは…この前の市場の…!?」
「ええ、その節はどうも」
まさかこんな形で再会するとは思わなかった。彼は私が領主の娘だとは気づいていないようだ。「責任者」という言葉から、私が父である領主の代理か何かだと思っているのだろう。都合がいいので、訂正はしないでおいた。
「それで、ベルク商会のウルスラ様。本日はどのようなご用件で?」
私がビジネスライクな口調で尋ねると、彼は咳払いを一つして、真剣な表情になった。
「ああ、そうだった。単刀直入に言う。この領地で採れる新しいブドウを、俺の商会で独占的に扱わせてはもらえないだろうか?」
彼は、私がちょうど注目していたブドウの話を持ち出してきた。
「まあ、話が早くて助かるわ。私も、そのブドウの販路を探していたところですの」
「本当か!?」
ウルスラは、ぱあっと顔を輝かせた。
「だが、どうして『独占的』に?他の商会にも声をかければ、もっと良い条件を引き出せるかもしれませんわよ」
私の問いに、彼は自信に満ちた笑みを浮かべて答えた。
「他の奴らに、このブドウの本当の価値は分かりゃしない。俺なら、こいつを最高のワインにして、王都の貴族どもにだって高値で売りつけてみせるぜ」
「王都に…?」
「ああ。俺には、王都のレストランや酒場に独自のコネがある。あんたたちが作る最高のブドウと、俺の販路。手を組めば、とんでもない商売ができると思わないか?」
彼の言葉には、不思議な説得力があった。身分や家柄ではなく、己の才覚一つで成り上がってきた男特有の、力強い自信がみなぎっている。
私は、目の前の男に強い興味を抱いた。
「面白い提案ね。気に入ったわ。前向きに検討しましょう」
「本当か!よし!」
彼はガッツポーズをして、子供のようにはしゃいでいる。その裏表のない姿に、私は思わず笑みをこぼした。
「ただし、条件があるわ。まずは、あなたの商会がどれほどのものか、私に見せてちょうだい」
「望むところだ!じゃあ、今度、俺の仕事場に来てくれよ。見せてやるぜ、平民の底力ってやつをな!」
彼はそう言うと、満足そうに頷き、再び嵐のように去っていった。
(面白い人…いえ、面白い商人だわ)
私は、彼が残していった熱気に当てられたように、頬が少し火照っているのを感じていた。退屈だった私の日常が、少しずつ色づき始めた瞬間だった。
「やはり、販路の拡大が急務ね。この素晴らしい品々を、領内だけで消費しているのはもったいないわ」
特に私の目を引いたのは、最近になって領内で栽培が始まった、新しい品種のブドウだった。糖度が非常に高く、ワインの原料として最適のはずだ。
(これを商品化できれば、大きな財源になるかもしれない…)
そんなことを考えていると、執事が部屋に入ってきた。
「お嬢様、街の商人が面会を求めておりますが、いかがいたしますか?」
「商人?どこの者かしら?」
「それが、最近になって頭角を現してきた『ベルク商会』の者だと名乗っておりますが…」
ベルク商会。その名前に、私は聞き覚えがなかった。新興の商会なのだろう。
「面白そうね。会ってみましょう。ここへ通してちょうだい」
「かしこまりました」
やがて、執事に案内されて執務室に入ってきた人物を見て、私は我が目を疑った。
「どうも!ベルク商会のウルスラだ!あんたがここの責任者かい?」
そこに立っていたのは、先日市場でぶつかった、あの嵐のような青年だったからだ。
彼もまた、私を見て目を丸くしている。
「あんたは…この前の市場の…!?」
「ええ、その節はどうも」
まさかこんな形で再会するとは思わなかった。彼は私が領主の娘だとは気づいていないようだ。「責任者」という言葉から、私が父である領主の代理か何かだと思っているのだろう。都合がいいので、訂正はしないでおいた。
「それで、ベルク商会のウルスラ様。本日はどのようなご用件で?」
私がビジネスライクな口調で尋ねると、彼は咳払いを一つして、真剣な表情になった。
「ああ、そうだった。単刀直入に言う。この領地で採れる新しいブドウを、俺の商会で独占的に扱わせてはもらえないだろうか?」
彼は、私がちょうど注目していたブドウの話を持ち出してきた。
「まあ、話が早くて助かるわ。私も、そのブドウの販路を探していたところですの」
「本当か!?」
ウルスラは、ぱあっと顔を輝かせた。
「だが、どうして『独占的』に?他の商会にも声をかければ、もっと良い条件を引き出せるかもしれませんわよ」
私の問いに、彼は自信に満ちた笑みを浮かべて答えた。
「他の奴らに、このブドウの本当の価値は分かりゃしない。俺なら、こいつを最高のワインにして、王都の貴族どもにだって高値で売りつけてみせるぜ」
「王都に…?」
「ああ。俺には、王都のレストランや酒場に独自のコネがある。あんたたちが作る最高のブドウと、俺の販路。手を組めば、とんでもない商売ができると思わないか?」
彼の言葉には、不思議な説得力があった。身分や家柄ではなく、己の才覚一つで成り上がってきた男特有の、力強い自信がみなぎっている。
私は、目の前の男に強い興味を抱いた。
「面白い提案ね。気に入ったわ。前向きに検討しましょう」
「本当か!よし!」
彼はガッツポーズをして、子供のようにはしゃいでいる。その裏表のない姿に、私は思わず笑みをこぼした。
「ただし、条件があるわ。まずは、あなたの商会がどれほどのものか、私に見せてちょうだい」
「望むところだ!じゃあ、今度、俺の仕事場に来てくれよ。見せてやるぜ、平民の底力ってやつをな!」
彼はそう言うと、満足そうに頷き、再び嵐のように去っていった。
(面白い人…いえ、面白い商人だわ)
私は、彼が残していった熱気に当てられたように、頬が少し火照っているのを感じていた。退屈だった私の日常が、少しずつ色づき始めた瞬間だった。
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