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しおりを挟む王城の地下深くに設けられた、特別牢。
そこに、アイゼン・ヴォルグは囚われていた。
かつての栄華を思わせるものは何一つない、冷たく湿った石の独房。
そこで彼は、父親であるヴォルグ侯爵と対面していた。
「……何の用だ、父上」
アイゼンは、壁に寄りかかったまま、父親を睨みつけた。
その瞳には、反省の色など微塵もない。あるのは、やり場のない怒りと憎しみだけだった。
「アイゼン。我々は、もう終わりだ」
ヴォルグ侯爵は、憔悴しきった顔で呟いた。
権力の座から引きずり下ろされた彼は、もはやただの初老の男にしか見えない。
「終わり?何を言っている!こんなことが、許されるはずがない!全ては、あのローズ・ティールが仕組んだ罠だ!あの悪女が、私を陥れるために!」
「罠だと?我々が長年行ってきたことが、全て明るみに出ただけではないか!」
「うるさい!私は知らなかった!武器の密売など、私は何も聞かされていなかったぞ!」
アイゼンは、醜く責任転嫁を始める。
自分が甘い汁を吸っていたことなど、棚に上げて。
「お前は、家の当主となる男だったのだぞ!知らなかったでは済まされん!」
「父上こそ!なぜ、もっと上手くやらなかった!なぜ、あの女に証拠を掴ませるような、間抜けな真似をしたんだ!」
親子は、互いを罵り始めた。
その姿は、かつて王都の頂点に君臨した大貴族の見る影もない、ただの獣のようだった。
「全て、お前のせいだ。お前が、あの辺境伯の小娘にうつつを抜かし、婚約破棄などと騒ぎ立てなければ、こんなことには……!」
「リリアナは関係ない!悪いのは、あのローズだ!あの女が、初めから私を騙していたんだ!あの静かな顔の下で、ずっと私を嘲笑っていたに違いない!」
アイゼンの脳裏に、夜会の日のローズの姿が蘇る。
あの自信に満ちた、美しい微笑み。
あれは、勝利を確信した者の笑みだったのだ。
「許さない……。絶対に、許さないぞ、ローズ・ティール……!」
アイゼンは、壁を殴りつけた。
彼の拳から血が滲む。
「私は、こんなところでは終わらない。必ず、ここから出て、あの女に復讐してやる。私を侮辱したこと、後悔させてやるんだ……!」
その瞳は、狂気の光を宿していた。
彼は、何も学んでいなかった。何も理解していなかった。
ただ、プライドを傷つけられたことへの憎しみだけが、彼の心を支配していた。
牢獄の獣は、まだ牙を失ってはいなかった。
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