会社では無能、家では妹に「ダサい社畜」と見下される俺。実は世界を熱狂させる神配信者につき。

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第1章:道化たちの狂宴

第8話:先輩社員「当日の接待はお前な」神を迎える準備を、神本人(俺)に押し付ける滑稽さ(※その準備、全部無駄です)

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そして、ついに『GDソリューションズ創立記念パーティー』の当日がやってきた。

会場は都内の一等地に立つ高級ホテルの大宴会場。 シャンデリアが輝き、豪華な料理が並び、着飾った社員たちがグラスを片手に談笑している。 会社の資金がショート寸前だというのに、見栄のためだけに数千万円をかけた「最後の晩餐」だ。

俺はスタッフ用のチープなスーツを着て、会場の隅で機材の最終チェックをしていた。

「おい佐藤くん! こんなところにいたのか!」

声をかけてきたのは、少し大きめのタキシードに着られているような男――田中先輩だ。 彼は額に脂汗を浮かべながら、分厚いファイルを俺の胸に押し付けてきた。

「これ、当日の『ゼウス様接待マニュアル』! 僕が徹夜で作ったんだから、一字一句読み込んで頭に入れといてよね!」

「……接待マニュアル、ですか?」

パラパラと中身を見る。 『ゼウス様は気難しいので目は合わせないこと』 『水はフランス産の硬水しか飲まない(要準備)』 『機嫌を損ねたら土下座して場を繋ぐこと』

……なんだこれは。 俺は水道水でもガブガブ飲むし、誰かに土下座されたら引くぞ。 ネットの噂を鵜呑みにしたのか、田中の妄想なのか知らないが、デタラメにも程がある。

「あの、田中先輩。これ、根拠はあるんですか?」 「うるさいなぁ! 天才っていうのは大体偏屈なんだよ! いいかい佐藤くん、今日の君の役割は『壁』だ。ゼウス様が会場入りしたら、君は荷物持ちとドアの開け閉めだけをやりなさい」

田中は鼻息荒く、自分の蝶ネクタイを直した。

「対談やインタビュー、記念撮影……そういう『華やかな表舞台』は、全部この僕が担当するから。君みたいな地味な社員が映り込んだら、会社のイメージダウンだし、放送事故になっちゃうでしょ?」

「……なるほど。僕は裏方に徹しろと」 「そ! わかってるじゃん。君は無能だけど、影が薄いところだけは才能あるからねぇ。あ、もしゼウス様が怒り出したら、君が泥をかぶってね? 僕は次期幹部候補として、傷つくわけにいかないからさ」

ニタニタと笑う田中。 要するに、「美味しいところは全部自分が持っていくが、リスクは全部お前に押し付ける」ということだ。

「さ、ついてきて。ここがゼウス様の控室だ」

田中が案内したのは、会場の奥にあるVIP専用の個室だった。 最高級の革張りソファに、無駄に豪華なフルーツの盛り合わせ。

「いいかい? ゼウス様は『顔出しNG』だから、配信はこの部屋からリモートで行う手筈になってる。君はここで待機して、ゼウス様が到着したらお茶を出して、機材のセッティングをしてあげること」

「……わかりました。田中先輩は?」 「僕は社長たちとロビーで『お出迎え』の準備があるんだよ。……あ、そうだ」

田中は部屋を出て行こうとして、ふと思い出したように振り返った。

「ゼウス様が来たら、絶対に余計な口を利くなよ? 君の口臭が移ったら大変だ。用が済んだら部屋の隅で直立不動! わかったね?」

「はい、承知しました」

俺が深く頭を下げると、田中は満足そうに「よし!」と頷き、小走りで出て行った。

バタン。 重厚なドアが閉まり、広いVIPルームに俺一人が残される。

静寂。 俺はゆっくりと顔を上げ、ソファに深々と腰を下ろした。 目の前のフルーツ盛り合わせからマスカットを一粒摘み、口に放り込む。

「……バカな奴だ」

田中よ。 お前が必死にロビーで待っている『ゼウス様』は、もうここに到着しているぞ? お前が「荷物持ちをしろ」「口を利くな」と命令した、この俺がな。

奴は俺をここに押し込めることで、「自分だけが目立つ」つもりでいる。 だが、それは俺にとっても好都合だ。 この部屋には俺一人。誰の目も気にせず、自由に『ゼウス』になれる。

俺は鞄から愛用のボイスチェンジャーと、配信用のハイスペックノートPCを取り出した。 手際よくホテルの回線に接続し、先ほど設置した社内サーバーへのハッキングツールを起動する。

モニターには、会場の様子が映し出されている。 カメラをロビーの映像に切り替えると、そこには滑稽な光景が映っていた。

「おい田中! どうなっているんだ! ゼウス様はまだ来ないのか!」 「も、申し訳ありません社長! ずっと待っているんですが、姿が見当たらず……!」

舞台袖で、権田社長と田中先輩が青ざめた顔で言い争っている。 リムジンで乗り付けてくるはずのゼウスを出迎え、媚びを売る計画だったのだろう。だが、いつまで待ってもゼウスは現れない。

俺はマイクのスイッチを入れる前に、社長のスマホへ一通のメールを送信した。 差出人は『ZEUS_Official』だ。

『裏口から入室した。堅苦しい挨拶は嫌いなので、スタッフに案内させて直接VIPルームに入った。 お前たちの顔を見るのは配信上だけでいい。さっさとパーティーを始めろ』

画面の中の社長が、スマホを見て「お、おおっ!?」と声を上げるのが見えた。

「き、来ているそうだ! すでにVIPルームに入っておられると!」 「ええっ!? いつの間に……さすが神出鬼没のカリスマですね!」 「挨拶不要とは……やはり気難しい方だ。おい田中、すぐに進行を始めろ! ゼウス様をお待たせするな!」

こうして、彼らは俺の姿を確認することなく、なし崩し的に開演を決めた。 何もかも、俺の掌の上だ。

「……あー、あー。テステス。……よし」

スピーカーから響くのは、世界中を熱狂させる、低く、威厳に満ちた『神』の声。

さあ、時間だ。 田中先輩、君が作ったマニュアルにはこう書いてあったな? 『機嫌を損ねたら土下座』だと。

安心しろ。 今日の配信が終わる頃には、お前たちはマニュアルがなくても、勝手に地面に頭を擦り付けることになるからな。

俺は不敵な笑みを浮かべ、配信開始のカウントダウンボタンを押した。
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