8 / 16
第8話:ヒーローは遅れてやってくる(はずだった)
しおりを挟む
アビス第7支部の主な任務は、侵略のための「資材調達」と、それに対する「ヒーローの迎撃」……を装った、事実上の撤退戦だ。
今日の現場は、海岸沿いの寂れた倉庫街。アルティナ様が指揮を執り、俺を含む戦闘員たちが「それっぽく」木箱を運び出す。
「……ねえ、クロウ。本当に『彼』が来るのかしら」
アルティナが、中身が空のコンテナを転がしながら、震える声で俺を振り返った。彼女が怯えているのは、最近この湾岸地区で猛威を振るっている新鋭のヒーロー――『ブレイブ・レオ』のことだ。
黄金の獅子を模したアーマーに身を包み、圧倒的な機動力で怪人を粉砕する正義の味方。その出現予測はアビス本部でも重要視されており、今日の作戦の「メインゲスト」でもある。
「イーッ、イイッ……(閣下、お気持ちは分かります。ですが本部の予測では、十五分以内にレオが現れる確率は極めて高い。……。いつでも逃げられるよう、私の近くに)」
俺は周囲を警戒しながら「イー」と短く鳴き、彼女を促して倉庫の出口に近い位置へ移動させる。だが、俺の心臓は先ほどから嫌な鼓動を刻んでいた。
(……怖い。直撃したら死ぬ。もし本当にレオが現れたら、俺のような末端の戦闘員なんて、指先一つで挽肉にされる。……。だが、それとは別の『嫌な予感』が止まらないんだ)
俺は逃げ道を確保するふりをして、周囲を観察した。
(……おかしい。あの、倉庫の入り口付近に止まっている数台のワゴン車は何だ? 地元の業者のようだが、タイヤの沈み込みが深い。それに……あそこに立っている作業服の男たち)
一見、工事関係者のように見える。だが、その視線は俺たちの略奪行為への恐怖ではなく、まるで獲物を待つハンターのように鋭く、それでいて「現れる瞬間」を確信しているかのように落ち着き払っていた。
(あの立ち居振る舞い、どこかで見た。……そうだ、永田町だ。独占情報のリークを受けたメディアの記者や、特定の画角を狙うお抱えカメラマンの目つきだ。なぜ奴らは、この場所と時間にヒーローが現れることを『事前に確信』している?)
その直後、俺の疑念は、空を切り裂く轟音によって現実となった。
「ブレイブ・アッパーッ!」
爆音と共に倉庫の天井が崩落し、瓦礫の雨が降る直撃した。砂煙の中から現れたのは、眩いばかりの輝きを放つ黄金のヒーロー、ブレイブ・レオその人だった。
「そこまでだ、悪の組織アビス! 貴様たちの好きにはさせん!」
レオが逆光を背負って着地し、完璧な決めポーズをとる。その瞬間、物陰の「作業服の男たち」が一斉に、プロ仕様の望遠レンズを向けた。驚いたことに、レオはわずか数センチだけ、より「映える」角度へ足の位置を微調整した。
(……待て、今こいつ、カメラを見たか? 戦闘中だぞ? それに今の動き……まるで『撮られること』を前提にしたアクションじゃないか)
レオが動き出す。俺は必死に身を隠したが、そこでさらなる違和感に気づいた。 レオの繰り出す攻撃は、逃げ惑う俺たちを直接狙うのではなく、俺たちが逃げる先に『置いて』あるのだ。
(……なんだ? わざと外しているのか? いや、違う。俺たちが逃げ惑う姿を背景にして、自分が最も美しく見える位置に技を放っているんだ。……まるで、演出された特撮映画の現場に放り込まれた気分だぞ)
レオの攻撃は、俺たちの脇にあるコンテナやドラム缶を派手に粉砕していく。そのたびに火花が飛び、カメラマンたちがシャッターを切る。
(ふざけるな。俺たちは、こいつをスターにするための『やられ役』に選ばれたってことか? ……。だが、おかしい。何かが、予定調和を外れ始めている……?)
レオの動きが、唐突に荒っぽくなった。 華麗な演舞だったはずの動作が、ガタガタと崩れ始める。俺の目の前で、レオが振り抜いた拳。それは狙っていたコンテナを逸れ、隣にいた先輩戦闘員の鼻先数ミリを掠めた。
空気を裂く轟音。掠めただけで、地面のコンクリートがクレーターのように爆ぜた。
(……おい、待て。今の威力は何だ? 『見せるためのパフォーマンス』にしては、火力がデタラメすぎる。……レオの様子も変だ。あいつ、自分の右腕を必死に抑えて……)
そこで初めて、俺はレオの腰にある黄金のベルトを見た。 「ガ、ギギギィ……ッ!」という、金属が無理やり擦り合わされるような悲鳴。そして、スリットから漏れ出す異常な熱気と、不気味な火花。
(……そうか。あのベルト、出力がバグってやがるんだ。撮影のために、無理やり出力を引き出して『見栄えの良い破壊』を演じようとした結果、システムがオーバーヒートを起こして制御不能に陥ってるのか……!?)
レオが右拳を振り上げる。その拳に収束していく光は、もはや制御可能な正義の力ではなかった。周囲の空気が熱膨張で歪み、地面の砂利が勝手に跳ね上がる。
(……まずい、あれは死ぬ。戦闘不能にするための技じゃない。……。あのベルト、暴発寸前だ!)
死の質量が、巨大な拳となって先輩戦闘員の頭上に振り下ろされようとした、その時――。
「グオォォォーッ!!」
重厚な角を持つ怪人が、爆炎を突き破って割り込んだ。
「あ……あなたは、第4支部のデッドホーン閣下!? どうして……!」
アルティナが驚愕の声を上げる。そこにいたのは本部のエリート、デッドホーンだった。
だが、その姿を見た俺は絶句した。 かつて本部の式典で見かけた、漆黒に輝く威厳ある重装甲はどこにもなかった。今の彼の体は、無数のひび割れを無理やりパテやガムテープで塞ぎ、関節からは潤滑油が涙のように漏れ出している。本来なら即座に換装すべき装甲が、文字通り「死ぬまで使い倒す」と言わんばかりの継ぎ接ぎだらけで維持されていた。
「……アルティナ様、お下がりを。……チッ、本部のこの俺が、こんな泥臭い後始末に駆り出されるとはな」
デッドホーンの声は、装甲の隙間から漏れる蒸気の音に混じって掠れていた。彼がレオの拳を受け止めるたび、そのボロボロの腕が悲鳴を上げ、金属の破片がパラパラと地面にこぼれ落ちる。
(……なるほど。読めたぞ。本部は、この制御不能になった『不良品』のヒーローに、予算を削られ整備すら受けさせてもらえない『不良債権』のデッドホーンをぶつけたんだ。両方まとめて潰し合いをさせて、カメラの前で不祥事ごと闇に葬るつもりか……!)
俺の頭の中で、元秘書としての冷徹な計算が、恐怖を上回った。
(……ふざけるな。そんな汚い『リストラ』、俺の目の前で完遂させてたまるか。……。デッドホーン閣下、悪いがあなたの命、俺がもっといい値段で買い取らせてもらいますよ)
「イーッ! イイィィッ!(デッドホーン閣下、早くトラックへ! ここは俺が案内しますッ!)」
俺は、震える足でトラックのエンジンをかけた。
今日の現場は、海岸沿いの寂れた倉庫街。アルティナ様が指揮を執り、俺を含む戦闘員たちが「それっぽく」木箱を運び出す。
「……ねえ、クロウ。本当に『彼』が来るのかしら」
アルティナが、中身が空のコンテナを転がしながら、震える声で俺を振り返った。彼女が怯えているのは、最近この湾岸地区で猛威を振るっている新鋭のヒーロー――『ブレイブ・レオ』のことだ。
黄金の獅子を模したアーマーに身を包み、圧倒的な機動力で怪人を粉砕する正義の味方。その出現予測はアビス本部でも重要視されており、今日の作戦の「メインゲスト」でもある。
「イーッ、イイッ……(閣下、お気持ちは分かります。ですが本部の予測では、十五分以内にレオが現れる確率は極めて高い。……。いつでも逃げられるよう、私の近くに)」
俺は周囲を警戒しながら「イー」と短く鳴き、彼女を促して倉庫の出口に近い位置へ移動させる。だが、俺の心臓は先ほどから嫌な鼓動を刻んでいた。
(……怖い。直撃したら死ぬ。もし本当にレオが現れたら、俺のような末端の戦闘員なんて、指先一つで挽肉にされる。……。だが、それとは別の『嫌な予感』が止まらないんだ)
俺は逃げ道を確保するふりをして、周囲を観察した。
(……おかしい。あの、倉庫の入り口付近に止まっている数台のワゴン車は何だ? 地元の業者のようだが、タイヤの沈み込みが深い。それに……あそこに立っている作業服の男たち)
一見、工事関係者のように見える。だが、その視線は俺たちの略奪行為への恐怖ではなく、まるで獲物を待つハンターのように鋭く、それでいて「現れる瞬間」を確信しているかのように落ち着き払っていた。
(あの立ち居振る舞い、どこかで見た。……そうだ、永田町だ。独占情報のリークを受けたメディアの記者や、特定の画角を狙うお抱えカメラマンの目つきだ。なぜ奴らは、この場所と時間にヒーローが現れることを『事前に確信』している?)
その直後、俺の疑念は、空を切り裂く轟音によって現実となった。
「ブレイブ・アッパーッ!」
爆音と共に倉庫の天井が崩落し、瓦礫の雨が降る直撃した。砂煙の中から現れたのは、眩いばかりの輝きを放つ黄金のヒーロー、ブレイブ・レオその人だった。
「そこまでだ、悪の組織アビス! 貴様たちの好きにはさせん!」
レオが逆光を背負って着地し、完璧な決めポーズをとる。その瞬間、物陰の「作業服の男たち」が一斉に、プロ仕様の望遠レンズを向けた。驚いたことに、レオはわずか数センチだけ、より「映える」角度へ足の位置を微調整した。
(……待て、今こいつ、カメラを見たか? 戦闘中だぞ? それに今の動き……まるで『撮られること』を前提にしたアクションじゃないか)
レオが動き出す。俺は必死に身を隠したが、そこでさらなる違和感に気づいた。 レオの繰り出す攻撃は、逃げ惑う俺たちを直接狙うのではなく、俺たちが逃げる先に『置いて』あるのだ。
(……なんだ? わざと外しているのか? いや、違う。俺たちが逃げ惑う姿を背景にして、自分が最も美しく見える位置に技を放っているんだ。……まるで、演出された特撮映画の現場に放り込まれた気分だぞ)
レオの攻撃は、俺たちの脇にあるコンテナやドラム缶を派手に粉砕していく。そのたびに火花が飛び、カメラマンたちがシャッターを切る。
(ふざけるな。俺たちは、こいつをスターにするための『やられ役』に選ばれたってことか? ……。だが、おかしい。何かが、予定調和を外れ始めている……?)
レオの動きが、唐突に荒っぽくなった。 華麗な演舞だったはずの動作が、ガタガタと崩れ始める。俺の目の前で、レオが振り抜いた拳。それは狙っていたコンテナを逸れ、隣にいた先輩戦闘員の鼻先数ミリを掠めた。
空気を裂く轟音。掠めただけで、地面のコンクリートがクレーターのように爆ぜた。
(……おい、待て。今の威力は何だ? 『見せるためのパフォーマンス』にしては、火力がデタラメすぎる。……レオの様子も変だ。あいつ、自分の右腕を必死に抑えて……)
そこで初めて、俺はレオの腰にある黄金のベルトを見た。 「ガ、ギギギィ……ッ!」という、金属が無理やり擦り合わされるような悲鳴。そして、スリットから漏れ出す異常な熱気と、不気味な火花。
(……そうか。あのベルト、出力がバグってやがるんだ。撮影のために、無理やり出力を引き出して『見栄えの良い破壊』を演じようとした結果、システムがオーバーヒートを起こして制御不能に陥ってるのか……!?)
レオが右拳を振り上げる。その拳に収束していく光は、もはや制御可能な正義の力ではなかった。周囲の空気が熱膨張で歪み、地面の砂利が勝手に跳ね上がる。
(……まずい、あれは死ぬ。戦闘不能にするための技じゃない。……。あのベルト、暴発寸前だ!)
死の質量が、巨大な拳となって先輩戦闘員の頭上に振り下ろされようとした、その時――。
「グオォォォーッ!!」
重厚な角を持つ怪人が、爆炎を突き破って割り込んだ。
「あ……あなたは、第4支部のデッドホーン閣下!? どうして……!」
アルティナが驚愕の声を上げる。そこにいたのは本部のエリート、デッドホーンだった。
だが、その姿を見た俺は絶句した。 かつて本部の式典で見かけた、漆黒に輝く威厳ある重装甲はどこにもなかった。今の彼の体は、無数のひび割れを無理やりパテやガムテープで塞ぎ、関節からは潤滑油が涙のように漏れ出している。本来なら即座に換装すべき装甲が、文字通り「死ぬまで使い倒す」と言わんばかりの継ぎ接ぎだらけで維持されていた。
「……アルティナ様、お下がりを。……チッ、本部のこの俺が、こんな泥臭い後始末に駆り出されるとはな」
デッドホーンの声は、装甲の隙間から漏れる蒸気の音に混じって掠れていた。彼がレオの拳を受け止めるたび、そのボロボロの腕が悲鳴を上げ、金属の破片がパラパラと地面にこぼれ落ちる。
(……なるほど。読めたぞ。本部は、この制御不能になった『不良品』のヒーローに、予算を削られ整備すら受けさせてもらえない『不良債権』のデッドホーンをぶつけたんだ。両方まとめて潰し合いをさせて、カメラの前で不祥事ごと闇に葬るつもりか……!)
俺の頭の中で、元秘書としての冷徹な計算が、恐怖を上回った。
(……ふざけるな。そんな汚い『リストラ』、俺の目の前で完遂させてたまるか。……。デッドホーン閣下、悪いがあなたの命、俺がもっといい値段で買い取らせてもらいますよ)
「イーッ! イイィィッ!(デッドホーン閣下、早くトラックへ! ここは俺が案内しますッ!)」
俺は、震える足でトラックのエンジンをかけた。
0
あなたにおすすめの小説
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
アポカリプスな時代はマイペースな俺に合っていたらしい
黒城白爵
ファンタジー
ーーある日、平穏な世界は終わった。
そうとしか表現できないほどに世界にモンスターという異物が溢れ返り、平穏かつ醜い世界は崩壊した。
そんな世界を自称凡人な男がマイペースに生きる、これはそんな話である。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる