戦闘員A(雑魚)、中身は伝説のフィクサー。~洗脳が効かなかったので、無能な幹部を裏から操り、窓際姫を悪の女帝にプロデュースします~

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第7話:総統の孫娘、エゴサに泣く

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「……やっぱり、私、悪の組織の幹部なんて向いてないんだわ」

 ボロアパートの二〇一号室。夕暮れの光が差し込む中、アルティナがパイプ椅子の上で体育座りをしながら、液晶の割れたスマホを見つめていた。その長い睫毛には、涙の粒がたまっている。

「イーッ!?(閣下、いかがなされました!? まさか、先ほどスーパーで買った納豆のタレが上手く開けられなかったのですか!?)」

 俺は慌てて雑巾を放り出し、過剰なほどにオロオロと取り乱して見せた。

「違うの、クロウ……これを見て」

 彼女が差し出した画面には、ネット上の匿名掲示板――「謎の爆発事故・被害報告スレ」が表示されていた。アビスが引き起こした戦闘や略奪が「テロ」や「事故」として処理されているこの世界で、そこは一般市民の悲鳴が渦巻く場所だった。

『昨日の爆発、うちの店もめちゃくちゃだよ。テロなんて消えてなくなれ』 『犯人の組織は、人の心を持ってない悪魔だ。地獄に落ちろ!』

 アルティナの肩が、小さく震える。

「……彼らの言う通りよ。私たち、やってることは最低だわ。おじい様……総統のことは尊敬しているけれど、こんなに多くの人を悲しませてまで、世界を征服しなきゃいけないの?」

(……お嬢様、あなたは本当に「いい人」すぎる。そして、いい人であるがゆえに、この手の書き込みが持つ『毒』にあまりにも無防備だ)

 俺は心の中でシニカルなため息をついた。周囲に他の戦闘員がいないことを確認し、跪いて彼女を慰める「忠実な僕」のポーズを維持したまま、ボイスチェンジャーを切る。

「(……閣下。その書き込み、すべてを真に受ける必要はありませんよ)」

「ひっ……!?」

 アルティナの全身が「ビクッ!」と跳ね上がった。  機械的な「イー」という加工音ではない。耳元で響いたのは、冷徹なまでに落ち着いた、加工されていない男の地声。

「あ……あな、た……今、なにを……? その声、どうしたの……?」

 アルティナは弾かれたように椅子から立ち上がり、持っていたスマホを床に落とした。銀色の瞳が恐怖と困惑に激しく揺れ、震える指先が俺を指す。

「だ、誰……? あなた、本当にクロウなの? 喋れるの? 洗脳はどうしたのよ……ッ!」

 彼女が悲鳴を上げようとするより早く、俺はさらに声を潜め、彼女の意識をこちらへ繋ぎ止めるように告げた。

「(お静かに、アルティナ閣下。……事故で洗脳チップが壊れましてね。ですが、本部にバレれば俺は即廃棄、あなたも『欠陥品を隠匿した』として責任を問われるでしょう。……俺を売って共倒れになるか、それとも俺の知恵を借りてこの泥舟を立て直すか。……賢明なあなたなら、選べますね?)」

「……っ!」

 アルティナは言葉を失い、金魚のように口をパクパクとさせていた。無理もない。昨日までマヌケに「イー」と叫んでいた部下が、いきなり「心中か協力か」という極論を突きつけてきたのだ。

 彼女は俺の顔仮面と自分の手を交互に見つめ、何度も生唾を飲み込んだ。やがて、極限の緊張状態の中で、彼女は絞り出すように声を出す。

「……わかった、わかったわよ……。報告なんてしない、できないわよ、そんなの。……でも、信じられない。あなた、一体何者なの……?」

「(ただのザコですよ。……さて、話を戻しましょう。掲示板がどうしたっていうのでしたっけ?)」

 俺が平然と話を促すと、アルティナはまだ混乱に頬を赤らめながらも、促されるままにスマホを拾い上げた。

「あ、ええ……そう、これ。私たちが世界を苦しめてるっていう書き込みが……」

「(……よく見てください。この『店が壊された』と書いているユーザー。投稿のタイミングが、他の批判コメントと秒単位で一致しているものが多すぎる。……さらに、批判の直後に必ず特定のヒーローを称賛する流れができている。……これは自然な怒りというより、誰かが意図的に世論の熱量を操作している形跡に見えます。永田町……私の故郷でよく使われる、印象操作の初歩的な手口ですよ)」

 アルティナは、まだ俺の正体への衝撃から抜け出せない様子で、呆然と画面を見つめた。

「操作……? 誰かが、わざと怒りを煽っているっていうの?」

「(ええ。目的は分かりませんが、少なくとも画面の向こうにいるのは、純粋な被害者ばかりではないということです。……騙されて落ち込んでいる暇はありませんよ、お嬢様。あなたはもっと、自分を強く持っていい)」

「自分を……? 私が……?」

「イーッ! イーッ!(……という夢を、昨夜見ました閣下ッ! さあ、元気を出してください! 掲示板なんて、嘘っぱちばかりですッ!)」

 俺は再び「マヌケな新人」へと戻り、わざとらしく地団駄を踏んで見せた。  アルティナは呆然としたまま、しばらく俺を見つめていた。その瞳からは先ほどまでの絶望が消え、代わりに正体不明の部下への、言いようのない期待と不安が入り混じっていた。

「クロウ……あなた、本当にとんでもない爆弾《ひみつ》を抱えてるのね……。でも、ありがとう。少しだけ、楽になったわ」
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