戦闘員A(雑魚)、中身は伝説のフィクサー。~洗脳が効かなかったので、無能な幹部を裏から操り、窓際姫を悪の女帝にプロデュースします~

祝日

文字の大きさ
9 / 16

第9話:暴走ベルトと、泥舟の逃走

しおりを挟む
「――ガッ、ハッ……! 汚い……、汚いトラックだ。反吐が出るぞ、第7支部……!」

 逃走用の軽トラックの荷台。デッドホーンは、ひび割れた装甲から青い火花を散らしながら、吐き捨てるように言った。本部のエリートにとって、この錆びついた軽トラに乗せられること自体、耐え難い屈辱なのだろう。

 「ご、ごめんなさい、デッドホーン閣下! でも、今はこれしかなくて……!」

 助手席から身を乗り出し、アルティナが必死に謝る。だが、ハンドルを握る俺の目は、バックミラーに映る「黄金の死神」を捉えていた。

 「(……。格を気にする前に、しっかり掴まっておくことです)」

 不意に、運転席から響いた声。それは加工された機械音声でも、ましてや怪人の鳴き声でもない。低く、冷徹で、淀みのない「人間の男」の声だ。

 「っ!? だ、誰だ! 戦闘員以外の何者が潜んでいる!」

 デッドホーンが荷台で身構え、周囲を凝視する。だが、そこにはボロを纏った一人の戦闘員――俺しかいない。

 「クロウ……! いいの? デッドホーン閣下の前で……!」

 助手席のアルティナが息を呑んだ。彼女は俺が喋れることも、その知略も知っている。だが、本部の幹部怪人の前で、クロウがその「素の口調」を晒すことは、致命的な機密の漏洩に等しい。

 「(構いません。……デッドホーン様。格を気にする前に、自分の腹に空いた穴を気にしたらどうです。関節の潤滑油が漏れ、装甲のパテは剥がれかけている。本部の補給が止まっているあなたでは、もう一撃たりとも耐えられないはずだ)」

 「貴様……、ただの戦闘員ではないな!? その落ち着き、その喋り……ただの末端が持てる空気ではない! 何者だ、貴様は!」

 デッドホーンが、恐怖すら混じった声を上げる。名もなき兵卒の一人にすぎないはずの存在から、自分を値踏みするような冷徹な言葉を投げかけられ、彼は混乱に陥っていた。

 「(ただの秘書ですよ。……今は、第7支部の。デッドホーン様、いい加減に理解してください。ドラクマ局長は、あなたを救う気なんて微塵もありません。新鋭のレオにあなたをぶつけて、適当なところで『処分』させる。……。今日のこの状況は、ただのリストラですよ)」

 「リストラだと……!? この俺が、あの小僧に始末されるというのか!」

 「ブレイブ・シュートッ!」

 レオの叫びと共に、黄金の光弾がトラックの側面を掠めた。凄まじい熱気が車内に流れ込み、アルティナが悲鳴を上げて身を縮める。俺は必死にハンドルを抑え込み、横転しそうなトラックを立て直した。

 「(ええ。このまま逃げても、あなたのボロボロの身体ではどのみち保たない。……ですが、あいつに一矢報いる方法はあります。……。いいですか、デッドホーン様。あいつの懐に潜り込み、あいつの『ベルト』を掴んでください)」

 「……ベルトだと? 何の意味がある!」

 「(あいつの力の源を直接叩けば、一時的に出力が逆流する。……。そこを私が狙撃し、あいつを無力化します。……。ドラクマの計算を狂わせ、あなたの手でヒーローを地に這わせる。……。エリートの最期として、これ以上の舞台はないでしょう?)」

 嘘だ。  ベルトを掴んだ瞬間に暴発が起きることは、秘書の目には明らかだった。だが、プライドの高いこの老兵を動かすには、「自分の手でヒーローを倒す」という餌が必要だ。

 デッドホーンは絶句した。俺の言葉に含まれる圧倒的な「真実味」と、背後に迫る本物の死。かつてのエリート怪人が、完全に俺の誘導に飲み込まれている。

 「(拒否するなら、ここで降りて勝手に肉片になってください。……。生き残る道は、俺の指示に従うことだけだ)」

 バックミラー越しに、レオが最後の跳躍を見せた。黄金の光が夜の闇を白く染め、トラックを真上から押し潰さんとする。

 「イーッ! イイィィッ!(閣下、デッドホーン様! 下がってくださいッ! ここからは私の『演出』ですッ!)」

 俺は再び怪人の鳴き声を上げ、急ブレーキをかけた。タイヤが悲鳴を上げ、砂煙が舞う。トラックがレオの真下で急停止した。限界を迎えたレオのベルトが、いよいよ臨界点を超えようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚
ファンタジー
 戦国大名の若君・斎藤新九郎は大地震にあって崖から転落――――気付いた時には、剣と魔法が物を言い、魔物がはびこる異世界に飛ばされていた。 「これは神隠しか?」  戸惑いつつも日本へ帰る方法を探そうとする新九郎  ところが、今度は自分を追うように領地までが異世界転移してしまう。  家臣や領民を守るため、新九郎は異世界での生き残りを目指すが周囲は問題だらけ。  領地は魔物溢れる荒れ地のど真ん中に転移。  唯一頼れた貴族はお家騒動で没落寸前。  敵対勢力は圧倒的な戦力。  果たして苦境を脱する術はあるのか?  かつて、日本から様々なものが異世界転移した。  侍 = 刀一本で無双した。  自衛隊 = 現代兵器で無双した。  日本国 = 国力をあげて無双した。  では、戦国大名が家臣を引き連れ、領地丸ごと、剣と魔法の異世界へ転移したら――――? 【新九郎の解答】  国を盗って生き残るしかない!(必死) 【ちなみに異世界の人々の感想】  何なのこの狂戦士!? もう帰れよ!  戦国日本の侍達が生き残りを掛けて本気で戦った時、剣と魔法の異世界は勝てるのか?  これは、その疑問に答える物語。  異世界よ、戦国武士の本気を思い知れ――――。 ※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも投稿しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

おっさん冒険者のおいしいダンジョン攻略

神崎あら
ファンタジー
冒険者歴20年以上のおっさんは、若い冒険者達のように地位や権威を得るためにダンジョンには行かない。 そう、おっさんは生活のためにダンジョンに行く。 これはそんなおっさんの冒険者ライフを描いた生活記である。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

処理中です...