虹瞳〜落ちているモノを拾って食べてはいけません〜

詩悠

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2 .旅路

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 私には誰にも言えない秘密がある。

 怖いことが起こりすぎて頭がおかしくなったのかもしれない。

 そう思ってしまうくらい、自分の見ているモノが信じられないし、気持ちわるい。

 しかも、他の人たちにはソレは見えていないらしい。だから、私は自分の見ているモノを誰にも打ち明けることも相談することもできないでいる。

 自分の見ているモノは信じられないけど、まったくの幻想を見ているのだとも思えなくて……。

 次はあの子かも知れない……だから……あの子にはなるべく近寄らないようにしよう。




**********


 
 鬼を公民館ごと爆破してから二週間後、樹たちは鬼を倒すすべを教えてくれるという町を探しに旅立った。
 しかし、それは樹たちの住んでいた街から、「西南西の方角にある」という情報だけで、他の情報、例えば、そこまでの距離やどんな町なのか、どの辺りにあるのかなど……詳しいことは何も分からない状況だった。
 鬼は退治できたものの、街の一画を田や畑を含め、めちゃめちゃにしたと、なかば追放のような形での旅立ち。
 それでも、新たな町を目指す者たちに悲痛な顔は見えない。
 むしろ、現状に手詰まり感を抱いている者も少なからずいて、もうすぐ農繁期を迎えるこの時期に堂々と出て行けることを喜んでいる者たちもいるくらいだ。

 

 「麗那ちゃん、日奈ちゃん大丈夫か?」

 翔が大きなバックパックを背負い歩いている日奈と麗那に声をかける。

「「大丈夫です。」」

 二人そろって元気に答えるが

「私は大丈夫じゃないわ~。ちょっと休憩しましょうよ。」

 坂口さつきがを上げる。

「まだ、歩き出したばっかりだろ。」

「アラサーにはすでに休憩の時間よ! 一時間に一回は休憩を入れなきゃ。後が続かないでしょ。」

「そうですね。 休憩しましょうか。進路の確認も改めてした方がいいでしょうからね。」

 さつきと愛叶が言い争いを始めそうな雰囲気になり、翔が慌てて間に入る。
 小河内地区から歩き出してから、ちょうど一時間。目的地まで、どれほどかかるかのか分からない旅で、早々に雰囲気が悪くなるのは勘弁して欲しかった。
 年少の者よりも年長の者を気遣い、先に声をかけるべきだったなと少し自省し、次からは年長者に真っ先に声をかけようと心にメモし、翔は畑のそばに腰をおろす。
 
 
 さつきは確かにアラサーだが、看護士でもあり、気軽に病院にかかることの出来ない現在ではとても貴重な存在だ。専門職の意見は終点がいつになるかはっきりしない旅において、おざなりにはとても出来ない。体調を崩したときに診てもらうことも、もちろん必要だが、体調を崩さないように助言をもらうこともとても大切なことだ。

 出発前に何度か話し合いの場はもったのだが、十代、二十代が中心の今回の旅。
 追い出されるように出発したとはいえ、鬼を討伐した興奮も残ったままの旅立ちだ。少し、浮き足立っていたのかも知れない。


 翔は左腕にはめているクォーツタイプの腕時計のストップウォッチアラームを10分にセットし、足を伸ばす。
 流星群の飛来の前に奮発して買ったこの腕時計はソーラー式で電池要らずの最新式。電池は要らないが、蓄電池の交換は15年後。きっと、もう蓄電池は交換はできないだろうが、それまでは充分に活躍してくれるはず。
 安い買い物ではなかったし、当時ずいぶんと悩んで買ったが、今となってはこの時計の購入は正解だったと確信している。
 ソーラー式に、それまでより長期保証の蓄電池。防水、防塵機能はもとより、電波時計、日付、月齢、ストップウォッチ機能まで、沢山の機能が付き、なおかつデザインにもこだわっている、ちょっといかついこの腕時計を翔は気に入っていた。

 翔は視線を時計から外し、正面を見る。正面には電車の線路と、線路の直ぐ側に転がっているテトラポットが見える。海岸線からは二百m以上離れているが、5年前の震災の津波で流されてきたテトラポットがそのまま放置されていた。
 線路と海岸線までの間には家々が密集し、スーパーなどもあったが、全ては瓦礫とかし、土台しか残ってない場所も多い。屋根にテトラポットが乗っている家もある。
 この五年間に何度も見た風景なのに、いつまでたっても馴染むことのできない風景だ。かと言って、以前の風景を咄嗟に思い出せないほどにはこの衝撃的な風景は目に焼きついていた。

 車も電車も全く通らないのなら、新幹線の線路や東名高速道路を歩いたほうが、西に行くのには近道だが、この五年間の間にトンネルは塞がっていることが確認されており、歩いても通行は不可能だ。
 海岸線沿いも瓦礫が多過ぎて歩くのには適さないため、JR在来線の線路、国道、県道、高速道路と歩ける道を選びながら、進んで行くことになる。
 ここまでは昔からある参拝道を歩いてきた。ここからはしばらく、在来線の線路を歩く予定だ。 
 
 バックパックの外側のポケットに入れてある水筒から水をひと口飲むと、時計のアラームが鳴る。翔は立ち上がり、アラームを止めると、改めてアラームを一時間後にセットし、まだ座っている者たちに声をかけた。

 今回の旅は総勢12名で、そのほとんどが鬼の討伐に関わった者たちだ。その誰ひとり欠けることなく、目的地まで無事にたどり着きたい。
 
 




 
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