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夏の風物詩Ⅰ

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「あっちいな」

 俺はマーズベル湖の畔で、ビーチパラソルを地面に差し、アウトドアチェアに座りながら、海パン状態で汗を流していた。

 本日のマーズベルの気温は35℃。季節は7月と夏真っ盛りだ。

「たまにはこういうゆっくりした日もいいな。一昨日の五芒星会議ペンタグラム・サミットは何か知らんが疲れた。やっていることはいつものほうがハードなのに」

「仕方ないよ。慣れない事だったし、オストロン連邦国の貴族達といっぱいお話したしね」

 ミクちゃんはそう言いながら、俺の横にある円型のテーブルに置いている、マンゴージュースを手に取った。俺は思う。ミクちゃんの水着姿は眩しい。いつもと違う新鮮なミクちゃんの姿。そのせいか、ミクちゃんがジュースを飲んでいるだけで、妙に色気を感じてしまう。

 ゴクッ。ゴクッ。そう音が聞こえてくるかのようだ。

「はあ~。美味しいね」

「そうだよな」

 俺もそう言いながらマンゴージュースを手に取った。そして眺めている光景は、国民達が畔で足元くらいまで浸けて遊んでいるところだ。

 ランベリオン、ノア、ミーシャ、アリシア、アリス、ベルゾーグ、フィオナ、メイでビーチバレーをしているのだ。そしてアマミヤはというと、既に戻って来て子供達も連れて来た。連れて来たのは黒髪の少年カイルと、赤毛の少女ユイだ。2人はどうやら10歳らしいが、泳ぐという習慣が無かった為、アマミヤと3人で砂遊びをしている。

「平和だね」

「もう俺達とっくにこっちの世界に馴染んだな」

「確かにそうだね。でもまさかこんなに一気に国民が増えるとは思ってなかったよ」

「もはや、登場人物多すぎだもんな。まるで少年漫画だ」

「そうだね。でも戦力も多いのはいいことだよ。五芒星会議ペンタグラム・サミットで、戦力が偏りすぎって妬まれていたし」

「確かにそうだな」

「そういえばベリトさんは?」

 ミクちゃんはそう言って辺りをキョロキョロと見渡していた。

「ベリトならマーズベルの防衛に回っているよ。何か☆を3つに戻したら余計に張り切ったんだ。休めって言っても魔族の体力舐めないで下さいってドヤ顔されたんだけど」

「そうなんだ。フィオナさんは一緒に遊びたかっただろうに」

 そう話をしていると、カイルが走って来た。

「ナリユキお兄ちゃんジュース取っていい!?」

 カイルが真っすぐな目で俺を見てきた。子供の眼差しって何とキラキラしているのでしょう。

「いいぞ」

 俺はそう言って、左隣にあるクーラーボックスを指した。

 カイルはゴソゴソと漁ってはある飲み物を取り出した。

「これ美味しそう!」

 そう言って取ったのは、アルコール度数3%の桃のチューハイ。

「それはお酒だから駄目!」

 様子を見に、後から追いかけて来た、ビキニの上にシャツを着ているアマミヤが、カイルを注意していた。何だろ。オカンにしか見えない。

「えっ!? これジュースじゃないの?」

「それはお酒だから、カイルにはまだ飲ませることはできないの。ほら、このリンゴジュースとかどうかな? 果汁100%だよ」

「うん。桃が駄目ならそれ飲む」

 そう言って取り出したリンゴジュース果汁100%の500mlのペットボトル。当たり前と言えば当たり前だろうが、俺達の国は前の世界と何ら変わりなくなっている。それにヴェストロさんの交渉したお陰で、値段は張るがガソリンなどを輸入できるから、オスプレイやアパッチなどの軍事兵器も数台所有できる。自国でも入手できるが、とてもじゃないが量が少ない。ということでヴェストロさんに頼んだわけだ。

「俺も管理だけじゃなくて何か生み出さないとな」

「手から何でも出せるスキルで既にお金になっているのに、まだ自分で稼ごうと思っているんですか?」

 と、アマミヤからコメントを頂戴した。

「皆頑張っているからな。俺も何かしないとなって」

「十分できていますよ。前の世界ではチーフという役職だったから、管理と営業の両刀だったかもしれませんが、今は社長なんですから、国民が倒れない為にどうすればいいかだけを考えてくれたらいんですよ」

「それって何かむず痒いよな」

「何か変なところで不器用なのは、昔から変わらないですね」

「そうか?」

「そうです」

 そう話していると、ミクちゃんが何故かクスクスと笑っていた。

「どうした?」

 俺とアマミヤが同時にミクちゃんを見ると。

「本当に仲がいいなって」

 すると、アマミヤの顔が何故か赤くなっていた? え? 何で?

「まあそんなことより、そろそろ準備するぜ」

「だね!」

 俺とミクちゃんがそう言うと、アマミヤは頭の上にクエッションマークを浮かべていた。手からBBQセットを出すと、アマミヤは目を光らせていた。

「え? もしかして異世界でBBQをするんですか?」

「そうだぜ。炭とかも全部用意している。そこに段ボールの箱あるだろ?」

「成程。そしたら、ジュースのクーラーボックスの隣にあるのはもしかして――」

「お肉です」

 ミクちゃんがそう言ってガッツポーズをとっていた。

「最高。アードルハイムじゃ、こんなこと考えられない」

「だろうな」

 俺は一通り準備した。炭と着火剤をコンロの中に入れて、マッチ棒をそのままコンロの中に突っ込む。足りなからったまた追加する。熱無効Ⅴのお陰で、熱くも無いし、火傷もすることもないので「あっちぃ!」って騒ぎ立てることもない。何ともまあ便利なスキルでしょう。こんなところで役に立つとは正直思っていなかった。

「ミクちゃんそろそろ皆を呼んでくれ」

「了解。皆~! こっちに来て~!」

 そうミクちゃんが呼ぶと、皆は何だ何だと集まって来た。

 俺は中央にテーブルと、その周りにアウトドアチェアを人数分を置いた後、皆に座ってもらった。

「ナリユキ殿。何をされるのだ?」

「そうですよナリユキ様。私に任せて頂ければ」

 と、手伝いたいがりのランベリオンとアリシア。

「俺とミクちゃんからの日頃のお礼ってことで、皆にBBQバーベキューを体験してもらいたいんだ」

 そう言って俺とミクちゃんがお肉を焼いていくと、皆が前のめりになってお肉が焼ける様を見ていた。

「でも冷静に考えれば我の火なら一発だが?」

「こうした体験も悪くないだろ? 俺っぽくないって言いたいんだろ?」

「そうだ。珍しいなと思って」

「拙者には分かるぞ。ナリユキ殿は我々に、前の世界の文化を教えてくれている。それにこうやって新しい事を我々が目の当たりにすることで、新鮮さを脳に植え付け、楽しい想い出を作ってくれているのだ」

「おお。当たっているじゃん。ベルゾーグにそう言われると思ってなかった」

 俺がそう言うと、ベルゾーグはフフンと鼻を伸ばした。

「出来てきたから盛り付けていくね」

 ミクちゃんはそう言って焼きあがったお肉を紙皿に盛り付けた。

「皆、好きな飲み物取ってくれ。チューハイ、ハイボール、ワイン何でもありだ!」

 すると、ランベリオンとベルゾーグは真っ先にクーラーボックスを漁った。その後に皆、自分が好きな飲み物をとっていく。俺はミクちゃんと2人で白ワインを飲むことにしている。

「それでは乾杯!」

「乾杯!」

 俺の合図で皆、お酒を口の中に運んだ。その後はお肉を美味しいそうに頬張っていた。「美味い!」という感想が俺にとっては最高の至福だ。


 
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