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Qとの対峙Ⅴ

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「サイスト・クローバ――!? 一体どうなっているんだ? というか、それだったら顔知っていただろ!? ノックの記憶の中に絶対にいたはずだぞ! そもそもその説明はお前が言っていたじゃないか! 何でこの人の顔知らない――みたいな素振りを見せていたのだ」

「五月蠅いな。忘れていたんだよ。俺は基本的に興味ないからな」

「興味無さすぎるだろ!」

 俺はカリブデウスの声が五月蠅いので耳を塞いだ。

「耳を塞ぐな!」

「ビービー喚くな。俺が人の顔と名前を覚えられないのは今に始まったことじゃないだろ。諦めろ」

「開き直るなこの馬鹿!」

「五月蠅いな。本当に消すぞ」

「今は喧嘩をしている暇ではないだろ! 我は今回に限っては絶対に間違っている事は言っておらん!」

「分かった。分かった。俺が悪かった」

 俺はカリブデウスを流してサイスト・クローバーの体から魔石を取り出した。魔石そのものは虹色に輝く石だ。

「カリブデウス。血を拭ってくれ」

 するとカリブデウスは目を細めて俺の事を見ていた。

「何だ?」

「別に?」

 するとカリブデウスは俺に掌を向けてきた。

 かけられた水はバケツを思い切りひっくり返したような水の量だった。俺が思っていた量と違う。

「お前わざとだろ?」

「何の事だか?」

 カリブデウスはそうニヤニヤと笑みを浮かべていた。魔石にあった血も、俺の手についていた血も流れ落ちたが、あとで絶対にぶん殴ってやる。

「それにしても魔石で人蘇らせることができるとはな」

「それは俺も知らなかった。ただそれほど強大なパワーが魔石にはあるということだ」

「成程な。で? スキルはこの人間のものじゃないと言っていたな? アレはどういうことだ?」

「あの赤い馬鹿みたいに威力が高いエネルギー波も、戦闘フィールドを大聖堂からこの森にやったのもコイツのスキルじゃないということだ」

「じゃあ一体誰の?」

「それは知らん。死んでいる人間が状況に合わせて話をしていた意味も全然分からないし、そもそも本物のディアン公爵は一体どこにいるかも分からない。完全に奴の掌の上で踊っていたわけさ」

「そこまで用心棒深いのか?」

「そうとしか考えられない。ディアン公爵は何らかの方法で、ノックが殺された事を知って身の危険を感じたんだ。俺が言っただろ? あの大聖堂にいるって」

「ああ。何であの場所なのかは結局聞かずに済んだが」

「ディアン公爵はいつもあの時間帯に大聖堂にいるんだ。理由までは分からなかったけどな。それで影武者を用意しておいて、本物はその間にどこかへ逃げたいう仮説を立てる事ができる」

「成程な――しかし、それならばディアン公爵がQキューだと言いふらすことができれば、奴は動きにくくなるのではないか?」

 カリブデウスはそう言って呑気に笑っていた。

「馬鹿か――」

「なぬっ!?」

 カリブデウスは眉間に皺を寄せて俺の顔を見てきた。

「仮に俺達が正体を突き止めたとしても、信じる人は少ない」

「何故だ?」

「簡単な話だ。理由は2つある。まず俺達はノックを殺したという事実がある。ノックはカルカラでも顔が割れている男で、ああ見えて評判は良かったらしい。そんな有名な権力者を殺した冒険者パーティーの発言を誰が真に受けるんだ?」

「た――確かに」

 俺の主張で、カリブデウスのさっきまでの勢いが完全に消えていた。

「それに俺の心臓喰らいカルディア・グールの情報は共有することができない。ナリユキ・タテワキのように他者に記憶を共有することができないんだ。つまり俺がいくら主張しても嘘だと言い切れる。まあ、俺が言った事信じないと殺すと脅せばどうなるか分からんがな」

「それは人としてどうなんだ? 相変わらずお前の倫理観はバグっているな」

「ということだ。証明させる方法はない。心臓喰らいカルディア・グールで得たノックの情報では、ディアン公爵がQキューだと証明できるような証拠はないからな」

「成程。なかなか厳しいな」

「まあ仕方ない事だと思っている。とりあえず依頼主には報告しておいた方がいいな。ここが何処かも分からないから人を見つけよう。それで手紙を送るんだ」

「分かった。とりあえずスカーの所へ戻ろう」

「ああ。その前にお前は殺戮の腕ジェノサイド・アームを持って行ってくれ。装着型だから取り外せるはずだ。無理ならコイツの腕を切り落とせ」

「――お前本当に容赦ないな」

「ほざけ」

 こうして俺達はQキューとの激闘を終えた。所有しているのは殺戮の腕ジェノサイド・アームと魔石。
そして死体なのになぜかきちんと会話が成り立つ謎の現象――。報告をしなければならない事だらけだ。そして個人としては、ノック達の殺害――。死体はカリブデウスとスカーが食べたが、俺達が疑われるのも時間の問題だろう。何らかのスキルで俺達が犯人という事は分かるはずだ。そうなればログウェルの逆鱗に触れる。この任務自体はもう続けていても意味が無い。元々Qキューの正体を掴むことができれば良かったしな。

「さて――後は事件の全容をどうするかだな。派手に動いた分事件の解決はできないぞ。我の記憶ではサイスト・クローバーの友人のシュタインという男が、事実を捻じ曲げれている事に怒りを覚えているようだった。確か濡れ衣を着せられているのがスペード侯爵家だったな?」

 ん? 何の事だ?

「すまん。サッパリ覚えていない」

「――いい加減にしろ! それは覚えておけよ!」

 俺の隣で飛行しながらギャーギャー騒いでいるこの竜は本当に五月蠅い。消えて欲しい――。
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