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亜人の正体Ⅱ

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「ナリユキ様。お取込み中申し訳ございません」

「どうした? そんなに慌てて」

「ナリユキ様が倒した亜人の正体がわかりました」

「で、どうだった?」

「皆様が予測していた通り、彼は元々は人間のようです。詳しい話は施設で行いたいと思います。ミク様も御同行願いたいです」

「確かにあの亜人の容態はしばらく見ていなかったからな。悪いな2人共」

「いえいえ」

「また空いている時にお申し付けください」

「勿論だ。ミクちゃん行こうぜ」

「うん。気になるしね」

「それでは先に参りますので、少し後に来てください。それでは」

 と言ってリーズは転移テレポートで姿を消した。俺達もミクちゃんと2人でその後をつけると、周りには誰もいない完全な個室だった。ベッドに横たわるのは目を閉じている亜人。

「彼の容態は落ち着いています。数時間前は暴れていたのですが」

「暴れていた?」

 ミクちゃんの問いかけにリーズは「ええ」と頷いた。

「彼の体内にはこのような物が埋め込まれておりました」

 リーズがそう医療のゴム手袋をしたまま俺達に見せて来たのはマイクロチップだった。えらい現代的だなおい。

「これを何というか分かりませんが、彼に記憶障害を起こさせる悪さをしておりました。また洗脳のような強い力を働きかけておりました。ですので、アリシア様のスキルが通用しなかったのは、スキルという概念ではなかったからのようです」

「何か一気に私達がいた世界みたいだね」

「まあ、カーネル王国に初めて行った時も、C4があったりしたから今更何がきても驚かんけどな」

「だってビームサーベルあるもんね――」

「確かに。完全にSFなんだよな」

「マイクロチップという物なのですか? 特殊な磁場で彼の体に悪影響を及ぼしていました。凄い発明品ですね」

「名前はマイクロチップだけど、そこまで凄い事に使われているマイクロチップは初耳だ。だからコレを組み込んだのは転生者だろうな」

「コヴィー・S・ウィズダムの可能性はありそうですかね?」

「大いにあるだろ。コヴィー・S・ウィズダムさんが転生者かどうかは分からないけど、人体に関することだから関わっている可能性はあるだろうな」

 俺達がそう話をしていると、「ん」と言う声が漏れた。亜人が起きたのだろうか?

 しばらく待っていると亜人が体を起こした。

「――ここは?」

「精神状態も安定していますね。気分はどうですか?」

 リーズがそう問いかけると亜人は「悪くない」と一言。

「アンタは確かナリユキ・タテワキだったな」

「ああ。亜人なのに人間の言語を話すことができるし、辛そうだったから気になって連れて帰って来た」

「そうか。――妙に頭痛が激しいな」

 亜人の様子を見てリーズは直ぐにポーションを渡した。

「コレを飲んでください」

「悪い」

 リーズに渡されたポーションを亜人は一気に飲んだ。

「しばらくすれば痛みは緩和しますので」

「悪かった――」

「自分が何者かは分かったか?」

 俺がそう訊くと亜人はコクリと頷いた。

「ああ。俺は元々人間だったようだな。自分が何者か分かって晴れやかな気分だよ」

「人間って聞いたけど」

 ミクちゃんがそう問いかけると「ああ」と亜人は頷いた。

「記憶乖離かいりが激しいのでうろ覚えなところはあるが、俺の名前はフォルボスという名前だ。親が誰なのか、兄弟はいるのかすら分からない孤児だ」

 ――何か思っていたより重たい話題をぶっこんできたぞ。

「だから名前はフォルボスという名前しか分からないって事?」

 ミクちゃんの質問に頷くフォルボス。

「その通りだ。年齢で言うと17歳。しかし、元々は預けられていた孤児院が特殊で、戦闘訓練をさせられていたんだ」

「戦闘訓練? そもそもその孤児院のオーナーは誰なんだ?」

「オーナーはダヴィツという人間だ」

「そのダヴィツに亜人に変えられたのか?」

 俺がそう質問すると「ああ」と低い声で返事をした。

「奴だけは必ずこらしめてやる。善人面して俺達孤児院の子供を実験材料として提供していたんだ」

 亜人となってしまっているので正直表情は分からない――けど声にはしっかりと怒りと悲しみの感情が伝わる。

「そもそも、何で戦闘訓練をさせられていたの?」

「ああ。その実験をするうえで元々の力が強ければ、強い魔物になれる可能性が高いらしい。それがアンタを襲った時のように、力が暴走するときに亜人という個体と人間という個体がより強くリンクして、相乗効果が生まれるそうだ」

「成程な。じゃあフォルボスに実験を行った人間は誰なんだ?」

「それが思い出せないんだ。ただ、俺が孤児院から大人に連れられて、実験をした場所は何となくだが覚えている」

「そこはどこだ?」

 俺がそう言うとフォルボスはふうと深呼吸をして――。

「マルーン共和国。マーズベルから7,000km離れた東の国だ」

 ――あらまあ随分と遠い場所。コヴィー・S・ウィズダムさんの本によると、世界的にみても貧困層が多い国だ。強力な魔物が生息しており、人間の食べ物を奪っていくのだとか。他にも、人間同士の争いが多発していて国全体がスラムのようなところらしい。

「随分と遠いところだね」

「施設行くのか?」

「そこに仲間が捕まっているんだよな?」

「ああ」

「それだけじゃ何とも言えないんだよな。その施設を管理している人間次第で行く行かないを決めたい。それかカーネル王国で依頼を出すかだな。そんな怪しい実験をしているんだ。難易度は最高クラスだろう」

「それにしても俺はお金が無い」

「お金くらい俺が払うよ。実際に俺の国は創世ジェスに目を付けられて警戒を怠れない。確かに、フォルボスはQキューの命令できたのかもしれないけど、そんな遠いところまで、うちの国の誰かを行かせるのは危険だ」

「そうか」

 フォルボスのその声は妙に残念そうだった。確かに俺の対応は冷たいもんな。
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