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万事休すⅢ
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「どうやら真の力をコントロールできたようだ」
俺はナリユキ閣下と戦闘したときと似たような姿になっていた。大きいと感じていたバフォメットも今や小さく見える。それに自慢なのは太刀のような長さのこの鉤爪だ。今ならバフォメットに傷を負わすこともできそうだ。しかし以前とはまた違う。今の俺には目がある。以前は、奴等のコントロール化に置かれていたので、自我が取り戻しつつあるときに、脳に埋め込まれていたマイクロチップが脳波を読み取り、自我を失わせるように促していた――。しかし今の俺にはそれが無い。この金青色の体表と、黒色の包帯に身を包み、黒色の包帯のマスクを着けているその姿は、亜人の姿では無い。
「何だその姿は――!? まるで人間の姿じゃないですか!」
「この亜人と俺が同化したみたいでな。俺の人間の姿と亜人の姿が混ざったんだ」
「そんなデータ取れたことがないぞ」
「それはそうだ我々魔物をコケした分、この小僧の体を借りて貴様を殺してやる」
――これは俺が喋った訳では無い。俺のなかの亜人が俺の口を使って話した。本来、亜人には人間の言語を使う知能は持ち合わせていないが、唸るような声でコミュニケーションを取る個体もいるらしい。だから、少なからず意思という概念は存在するので、当然その意思を俺の体を借りて伝える事はできるようだ。
「今のは亜人が喋ったのですか!?」
「そうだ。しかし我も普通の亜人とは違うぞ? それは貴様がよく知っているよな? 個体名を憶えているか?」
俺の中にいる亜人がそう問いかけると――。
「そう言えばいましたね――亜人の中でも1,000体に1体の個体――我々は希少種と呼んでいましたが」
「ならば力も知っているだろう。行くぞ小僧! お主の力と我の力があれば、あのふざけた羊も雑魚同然――!」
「妙に納得がいくな」
「す――凄い――」
「けど、どっちがフォルボス君で、どっちが亜人なのか分かり辛いわね」
アリスとフィオナがそう声を漏らしていた。まあそれは正直、俺もややこしいとは思っている。俺の声で、俺の体で俺と俺の中の亜人が喋っているんだからな。
「いいでしょう! 行きなさいバフォメット!」
奴がそう命令を下すなり、バフォメットは狂気に満ちた目を宿しながら襲い掛かって来た。自分より体格が良く、五分五分かそれ以上の戦闘値を持っている俺に対して威嚇をしながら魔刀を使っての連続攻撃を繰り出す。
不思議だ。さっきまで避けるの精一杯だった攻撃も、今じゃ全然余裕だ。俺の中にいる亜人は相当強い個体だったらしい。そもそも、5メートルの亜人なんて聞いたことが無いからそれもそうか。
「お前の攻撃は飽きたぜバフォメット!」
俺はバフォメットの魔刀を鉤爪で受け止めた。当然、バフォメットは驚いた表情を見せている。
「オラアアアアア!」
俺がそう叫びながら二本の魔刀を折った。
「馬鹿な――! 魔刀が折れるなんて――!?」
と、奴はそう言って目を丸くして驚いていた。アリスもフィオナも同様の反応を見せている。何なら、ここまで強くなった自分が一番驚いているけどな――!
俺はそのままバフォメットの体を鉤爪で切り裂いた。すると、バフォメットは悲痛の叫びをあげながら、紫色の鮮血を噴出させて地面に倒れ込んだ。
問題はこのバフォメットも元は人間という事だ。もしかしたら俺と同じように、戦っている中で、人間の意識が芽生え始めるかもしれない。そうなれば、彼か彼女かは分からないが救い出すことができる。何なら今の俺のようにバフォメットと同化することができるかもしれない――。
そう考えると一気に片付けるより、戦闘を長引かせた方がいいかもしれないな。
「来いよバフォメット」
俺がそう挑発すると、バフォメットは「グオオオオオオ!」を叫びながら、禍々しいパワーが角に集中していく。次第にそのパワーは炎の球体へと形を変えた。
「なかなかのスキルだな。名前は知らんが」
恐らく地獄の火炎玉のアクティブスキルverだろう。直径5mの炎の球体だが、その球体から感じ取ることができるパワーは凄まじいものだった。
バフォメットはニヤリと不気味に口角を吊り上げると、炎の球体が俺に襲い掛かって来た。生憎だが俺に熱無効のパッシブスキルが付いている。俺だけならそのまま喰らってビビらせても構わないが、後ろにいるアリスとフィオナが危険だ。何よりこの炎は摂氏5,000度はありそうだ。俺は何とも感じないが、二人は死ぬほど熱いと感じているだろう。
俺は向かってくる炎の球体をスキルバリアーを使ってダメージをカットして、スキルそのものを消滅させた。勿論、スキルバリアーと言っても俺は熱無効なのでダメージを負う事はない。
それを見てバフォメットはさらに怒り始めた。次は角に青い雷を纏っている。これもなかなか強力なアクティブスキルだ。スキル名は勿論知らん!
角から放出された雷がバチバチと音を轟かせながら、不敵な笑みを浮かべているバフォメット。このスキルに相当な自信があるようだ。
すると、角に集まるエネルギーが一気に膨張した。違う――このバフォメットはこの施設を吹き飛ばすほどの威力のスキルを出す気だ! 確かにここの施設が吹き飛ぶのは嬉しいが、周りの皆や子供達がただでは済まない――!
「そんなパワーのスキルを放つとここが吹き飛びますよ!」
奴がそうバフォメットに指示を出したが、バフォメットは奴の指示に耳を傾けようとしない。
そう思った時。俺の体は勝手に動いていた。
俺はナリユキ閣下と戦闘したときと似たような姿になっていた。大きいと感じていたバフォメットも今や小さく見える。それに自慢なのは太刀のような長さのこの鉤爪だ。今ならバフォメットに傷を負わすこともできそうだ。しかし以前とはまた違う。今の俺には目がある。以前は、奴等のコントロール化に置かれていたので、自我が取り戻しつつあるときに、脳に埋め込まれていたマイクロチップが脳波を読み取り、自我を失わせるように促していた――。しかし今の俺にはそれが無い。この金青色の体表と、黒色の包帯に身を包み、黒色の包帯のマスクを着けているその姿は、亜人の姿では無い。
「何だその姿は――!? まるで人間の姿じゃないですか!」
「この亜人と俺が同化したみたいでな。俺の人間の姿と亜人の姿が混ざったんだ」
「そんなデータ取れたことがないぞ」
「それはそうだ我々魔物をコケした分、この小僧の体を借りて貴様を殺してやる」
――これは俺が喋った訳では無い。俺のなかの亜人が俺の口を使って話した。本来、亜人には人間の言語を使う知能は持ち合わせていないが、唸るような声でコミュニケーションを取る個体もいるらしい。だから、少なからず意思という概念は存在するので、当然その意思を俺の体を借りて伝える事はできるようだ。
「今のは亜人が喋ったのですか!?」
「そうだ。しかし我も普通の亜人とは違うぞ? それは貴様がよく知っているよな? 個体名を憶えているか?」
俺の中にいる亜人がそう問いかけると――。
「そう言えばいましたね――亜人の中でも1,000体に1体の個体――我々は希少種と呼んでいましたが」
「ならば力も知っているだろう。行くぞ小僧! お主の力と我の力があれば、あのふざけた羊も雑魚同然――!」
「妙に納得がいくな」
「す――凄い――」
「けど、どっちがフォルボス君で、どっちが亜人なのか分かり辛いわね」
アリスとフィオナがそう声を漏らしていた。まあそれは正直、俺もややこしいとは思っている。俺の声で、俺の体で俺と俺の中の亜人が喋っているんだからな。
「いいでしょう! 行きなさいバフォメット!」
奴がそう命令を下すなり、バフォメットは狂気に満ちた目を宿しながら襲い掛かって来た。自分より体格が良く、五分五分かそれ以上の戦闘値を持っている俺に対して威嚇をしながら魔刀を使っての連続攻撃を繰り出す。
不思議だ。さっきまで避けるの精一杯だった攻撃も、今じゃ全然余裕だ。俺の中にいる亜人は相当強い個体だったらしい。そもそも、5メートルの亜人なんて聞いたことが無いからそれもそうか。
「お前の攻撃は飽きたぜバフォメット!」
俺はバフォメットの魔刀を鉤爪で受け止めた。当然、バフォメットは驚いた表情を見せている。
「オラアアアアア!」
俺がそう叫びながら二本の魔刀を折った。
「馬鹿な――! 魔刀が折れるなんて――!?」
と、奴はそう言って目を丸くして驚いていた。アリスもフィオナも同様の反応を見せている。何なら、ここまで強くなった自分が一番驚いているけどな――!
俺はそのままバフォメットの体を鉤爪で切り裂いた。すると、バフォメットは悲痛の叫びをあげながら、紫色の鮮血を噴出させて地面に倒れ込んだ。
問題はこのバフォメットも元は人間という事だ。もしかしたら俺と同じように、戦っている中で、人間の意識が芽生え始めるかもしれない。そうなれば、彼か彼女かは分からないが救い出すことができる。何なら今の俺のようにバフォメットと同化することができるかもしれない――。
そう考えると一気に片付けるより、戦闘を長引かせた方がいいかもしれないな。
「来いよバフォメット」
俺がそう挑発すると、バフォメットは「グオオオオオオ!」を叫びながら、禍々しいパワーが角に集中していく。次第にそのパワーは炎の球体へと形を変えた。
「なかなかのスキルだな。名前は知らんが」
恐らく地獄の火炎玉のアクティブスキルverだろう。直径5mの炎の球体だが、その球体から感じ取ることができるパワーは凄まじいものだった。
バフォメットはニヤリと不気味に口角を吊り上げると、炎の球体が俺に襲い掛かって来た。生憎だが俺に熱無効のパッシブスキルが付いている。俺だけならそのまま喰らってビビらせても構わないが、後ろにいるアリスとフィオナが危険だ。何よりこの炎は摂氏5,000度はありそうだ。俺は何とも感じないが、二人は死ぬほど熱いと感じているだろう。
俺は向かってくる炎の球体をスキルバリアーを使ってダメージをカットして、スキルそのものを消滅させた。勿論、スキルバリアーと言っても俺は熱無効なのでダメージを負う事はない。
それを見てバフォメットはさらに怒り始めた。次は角に青い雷を纏っている。これもなかなか強力なアクティブスキルだ。スキル名は勿論知らん!
角から放出された雷がバチバチと音を轟かせながら、不敵な笑みを浮かべているバフォメット。このスキルに相当な自信があるようだ。
すると、角に集まるエネルギーが一気に膨張した。違う――このバフォメットはこの施設を吹き飛ばすほどの威力のスキルを出す気だ! 確かにここの施設が吹き飛ぶのは嬉しいが、周りの皆や子供達がただでは済まない――!
「そんなパワーのスキルを放つとここが吹き飛びますよ!」
奴がそうバフォメットに指示を出したが、バフォメットは奴の指示に耳を傾けようとしない。
そう思った時。俺の体は勝手に動いていた。
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