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魔界の決着Ⅰ

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「其方――覚悟はできておるか?」

 妾は久々に頭に血が昇っていた。妾の隣に横たわるシトリーが、あまりにも無惨な倒され方をしてしまったからじゃ。その愛嬌溢れる可愛い顔も、気を配ってその作り上げた肉体も――全て焼き焦げていた。皮膚呼吸もロクにできない酷い状態じゃ。シトリーは今――。生と死の狭間を彷徨っている。

「化け物め……」

 オロバスはそう吐き捨てた。そして妾を真っ直ぐ見てくる。

 妾はありったけの邪気を開放した。今はとりあえず殺すことができればいい。妾の魔眼の回復ヒールでも、月の灯りムーンライトでも回復をしない。ベリアルの血を持つ者だけが使用する事を許された呪いの炎というやつのせいだ。この炎が回復をできない妨害行為をしている。故に、この勝負を早く片付けねばならない。

「後悔するがよい」

 戦場とは邪気も瘴気も入り混じる場所じゃ。こんなところで妾が魔真王サタンを使えばどうなるか――言うまでもない。

 妾がありったけの邪気を開放した事により大気が震え、大地は無造作に卵の殻のように容易く割れていた。当然、ルシファー軍もベリアル軍も争っている場合ではなかった。妾が解放した力の自然災害で、自分の身を守るのに精一杯になっていたからじゃ。

「いくぞ。小童」

 オロバスは「なっ――!?」と驚いている間の話じゃった。妾はオロバスの鳩尾みぞおちに拳を入れた。まるで胸部に穴を空けるような勢いで放った殴打は、オロバスの意識を吹き飛ばすには十分じゃった。

 オロバスは、ただの殴打で喰らったダメージとは思えないような勢いで吐血した。

「その下劣な血を妾に浴びせるなよ?」

 次に妾はオロバスの顔面を殴打した。そのまま空の遥か彼方へと吹き飛びかけた。ほんの1秒程で上空10,000mまで吹き飛んだので、このままじゃ面白くないと思った妾は、オロバスよりさらに上の空へと移動し、そのままオロバスの背中をかかと落としで粉砕しつつ地面へと叩きつけた。
 
 早速大地で横たわるオロバスを見ると、体の損傷が激しく自動回復も自動再生も追い付いていない状態じゃった。その有様を見たベリアル軍は震えあがっていた。戦意喪失というものじゃ。

 また、オロバスが率いるベリアル軍に侵攻されていたルシファー軍は歓喜に満ち溢れていた。

「妾が少し本気を出したらこんなものか。黒龍ニゲル・クティオストルーデとの戦いの影響かのう」

 妾がそう不敵な笑みを見せるとオロバスの配下達は、さらに震えあがっていた。まさか――天下のベリアル軍がこう恐怖するとは思ってもおらんかったのう。ベレトの魂魄こんぱくに感謝というべきじゃな。

「ベ……ベリアル様に匹敵する力……」

 腰を抜かしたベリアル軍の戦士が一人。妾を指してそう述べていた。

「どうじゃろうな?」

「ひっ……!」

 そう驚いていた腰を抜かして尻餅を付いているベリアル軍の戦士。戦闘に長けた魔族の血を引いているとは思えないのう――まあ、無理も無いか。

「さあ、死んでもらおうかのう」

 妾が魔真王の破壊光サタン・ディストラクションを放とうとオロバスに掌を向けた時じゃった。信じられない程の強大なパワーを持った者が妾の目の前に現れた。

 この強大なパワーと、同じ魔族でも吸いたくない程のマイナスの邪気を放つコヤツは……。

「まさか。其方が出迎えてくれるとはのう」

「息子に手をかけようとしている魔王を見過ごす訳にはいかないだろ? アスモデウス」

 獅子のたてがみのような赤髪をたなびかせて颯爽と現れたのは最強の魔族ベリアルじゃった。特徴としては、額にあるベリアル家特有の黒い紋様と、闇のような黒い服の上には、血に染まったような赤い外套がいとうに身を包み、太陽の形と似た魔法陣のようなベリアル家の家紋が彫られている銀色の耳飾りを両耳に付けている。

「どうやってそこまでのパワーアップをしたのだ?」

「時が経てばパワーアップしていても違和感はないじゃろ?」

「確かにな」

 ベリアルはそう言って、足元にいるボロボロの姿になったオロバスを一度見るなり妾に視線を戻す。

「いいだろう。今回は退こう。しかし次に会った時、貴様の命は無いと思え」

 妾を凝視してくるそのには怨嗟えんさが込められていた。ただの視線の筈じゃ――。しかしベリアルのから放たれる邪気が、魔真王サタン発動中の妾でも、苦笑を浮かべたくなる程不気味なものじゃった。

「相変わらず底知れないのう――貴様は……」

 妾がそう呟くと、ベリアルはふんと鼻を鳴らして姿を消した。数秒後、ベリアル軍は撤退を始めた。その瞬間、ルシファー軍の歓喜があちらこちらで湧き上がっていた。誰が何と言おうとルシファー軍はベリアル軍に歴史的勝利を収めた瞬間じゃった。

「ベリアル軍の戦士は恐怖で正常な判断ができない状態じゃったの。誰がベリアルと肩を並べる実力じゃ。アレは化け物じゃ」

 と、こうしてはおれん。

 妾は早速シトリーをパイモンのところへと連れていった。その隣には勿論ルシファーもいる。

「パイモン。悪いがシトリーの呪いの炎を解いてくれぬか?」

 パイモンは少し考えてからルシファーの様子を見た。それは僅か二秒程の事だった。

「まあ仕方ないな」

 パイモンはそう言ってシトリーの胸に触れた。そして、手で掴むような動作をすると紫色の炎を取り出した。

「これで呪いの炎の摘出は完了したぞ」

「助かる」

  妾は早速魔眼の効果でシトリーを回復ヒールをした。みるみる体は元通りになっていく。あとはシトリーが目を覚ますのを待つだけじゃった。
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