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二人の英雄Ⅰ
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黒龍と刀を交えて数分後の事だ。
俺は思い通りに体が動かなくなっていた。気合いで何とか乗り切ろうとしていたが、俺の刀はまるで子供のお遊びのように遅くキレが無い。
当然、MPを使い切った黒龍も動きは相当鈍っている。
しかしパワーもスピードもまるで無い俺に、黒龍の刀はあまりにも重かった。
「クソ――」
少し苛立ちを覚え始めていた。ここまで思い通りに動かない自身の体に――。
そして――。
俺は足を絡めて前に転げてしまった。
「龍と人間の差かな? 流石のナリユキも体が思い通りにいかないようだな」
黒龍はそう言って倒れこんでいる俺に刀を向けてきた。
「何を?」
俺はそう言って刀を杖のように地面に突きながら大地を踏みしめた。その様子を見ていた黒龍はふっと笑みを浮かべる。
「自身への苛立ちを感じ始めているのだろう? 自分の体なのに思うように動かないから――」
「何の事だか」
俺がそう精一杯の笑みを浮かべると、黒龍は「まあどうでもいいか」と小さく呟いた。
「これで本当に仕舞いのようだな」
黒龍の目がキリッと鋭くなった。あれほどMPも体力も使い切っていた筈なのに、底知れぬ力。どこにそんな力があるんだ!? と目を疑いたくなるような禍々しいオーラとパワーが、黒龍の黒刀に宿っていた。
「楽しかったぞナリユキ。俺様の勝ちだ」
そう言って振り下ろされた黒龍の一振り。思うように体が動かない俺はただ振り下ろされる黒龍の一撃を目を瞑って待っているのみだった。
「諦めるな……私の力も宿っているんだろ? 使えるはずだ。私の力を……」
そう声が聞こえた。ルシファーの声だ。
「ルシファー?」
俺が右後ろを振り向くと、黒龍も思わず動きを止めて俺と同じ場所に視線を向けていた。
「まさか奴まで意識があるとは」
と、黒龍も少し感心しているようだった。
「ナリユキにも英雄になれる資格がある……私に使えて貴様が使えない訳が無い……」
ルシファーはそう言って立ち上がった。あれほどの重症を負っていた筈なのに……。
「これは驚いた。もう少しは楽しめそうだな」
「放っておけ……」
「大丈夫かよ」
「ああ」
ルシファーはそう言っていたが確実に大丈夫ではない。ルシファーを突き動かしているものは一体何なんだ? 黒龍を必ず倒すという強い信念がそうしているのだろうか?
「ナリユキ……。奴を確実に倒す。そう願えば、身体が思うように動かない状態でも力が使える筈だ。英雄ノ神がな――」
「俺に英雄ノ神が?」
「ああ」
ルシファーはそうコクリと頷いていたが、俺に英雄ノ神を使える実感が湧かなかった。それに――。
「龍騎士も戯言を言うようになったか。ナリユキのステータスには英雄ノ神の表示が無い。ナリユキに貴様の英雄ノ神を使う事は出来ないのだ」
「彼なら出来るさ。この私のように」
ルシファーはそう呟くと、黒刀に再び強大で神々しい白いオーラが放たれていた。流石に先程では無かったが、体力もMPも消耗し切った今の黒龍なら倒す事ができそうな力を十分に秘めていた。
「ナリユキ。倒したいだろ? この忌々しい黒龍を――」
「ま――そりゃあな」
俺がそう返答すると、ルシファーはニッと笑みを浮かべていた。
「なら、この感覚を覚えるのだ。これが私の英雄ノ神だ」
そう言ってルシファーは俺に黒刀を渡してきた。魔王が俺に自分の愛刀を預けるのか? そう疑問に思ったがそれ以上に俺はこのルシファーの英雄ノ神が宿った黒刀の圧倒的な力に感動していた。
この底知れぬみなぎるような力はまるで太陽のようだ。何と言っても誰でも倒せそうなポジティブなイメージが湧く。
「黒龍。覚悟した方がいいぜ」
俺がそう黒龍にルシファーの黒刀を向けると、黒龍の表情は強張っていた。
「ナリユキ――」
不思議な感覚だ。あれほど体が思うように動かなかったのに、今じゃ何でも出来る気がするし誰でも倒せる気がする。そもそもだけど黒龍は本気を出せば俺の十倍程の戦闘値があるんだよな? 何で負ける気がしないんだ。何でこれほどまでに自信が出てくるんだ。
そう思っていると、俺の黒紅煉刀にも白いオーラが宿った。ルシファーから譲り受けた黒刀よりもさらに強大な力が宿っていた。
それを見た目を丸くし、全身から冷や汗を流していた。まあ俺も黒龍ならそう思う。
「まさか……発現したのか!?」
黒龍はそう言って、自身の愛刀を地面に落とした。驚きすぎて力が抜けたらしい。
「こりゃあいいや。まさか、創造主を覚醒させる前に、新しい神のユニークスキルを入手できるとは思ってもみなかった。覚悟しろよ黒龍。この二つの斬撃は相当重いぜ?」
俺はそう言って、右手に黒紅煉刀。左手にルシファーの黒刀。その二つの刀を一振り。
二つの刀から斬撃を発すると、辺りは爆発のような光に包み込まれた。
俺は思い通りに体が動かなくなっていた。気合いで何とか乗り切ろうとしていたが、俺の刀はまるで子供のお遊びのように遅くキレが無い。
当然、MPを使い切った黒龍も動きは相当鈍っている。
しかしパワーもスピードもまるで無い俺に、黒龍の刀はあまりにも重かった。
「クソ――」
少し苛立ちを覚え始めていた。ここまで思い通りに動かない自身の体に――。
そして――。
俺は足を絡めて前に転げてしまった。
「龍と人間の差かな? 流石のナリユキも体が思い通りにいかないようだな」
黒龍はそう言って倒れこんでいる俺に刀を向けてきた。
「何を?」
俺はそう言って刀を杖のように地面に突きながら大地を踏みしめた。その様子を見ていた黒龍はふっと笑みを浮かべる。
「自身への苛立ちを感じ始めているのだろう? 自分の体なのに思うように動かないから――」
「何の事だか」
俺がそう精一杯の笑みを浮かべると、黒龍は「まあどうでもいいか」と小さく呟いた。
「これで本当に仕舞いのようだな」
黒龍の目がキリッと鋭くなった。あれほどMPも体力も使い切っていた筈なのに、底知れぬ力。どこにそんな力があるんだ!? と目を疑いたくなるような禍々しいオーラとパワーが、黒龍の黒刀に宿っていた。
「楽しかったぞナリユキ。俺様の勝ちだ」
そう言って振り下ろされた黒龍の一振り。思うように体が動かない俺はただ振り下ろされる黒龍の一撃を目を瞑って待っているのみだった。
「諦めるな……私の力も宿っているんだろ? 使えるはずだ。私の力を……」
そう声が聞こえた。ルシファーの声だ。
「ルシファー?」
俺が右後ろを振り向くと、黒龍も思わず動きを止めて俺と同じ場所に視線を向けていた。
「まさか奴まで意識があるとは」
と、黒龍も少し感心しているようだった。
「ナリユキにも英雄になれる資格がある……私に使えて貴様が使えない訳が無い……」
ルシファーはそう言って立ち上がった。あれほどの重症を負っていた筈なのに……。
「これは驚いた。もう少しは楽しめそうだな」
「放っておけ……」
「大丈夫かよ」
「ああ」
ルシファーはそう言っていたが確実に大丈夫ではない。ルシファーを突き動かしているものは一体何なんだ? 黒龍を必ず倒すという強い信念がそうしているのだろうか?
「ナリユキ……。奴を確実に倒す。そう願えば、身体が思うように動かない状態でも力が使える筈だ。英雄ノ神がな――」
「俺に英雄ノ神が?」
「ああ」
ルシファーはそうコクリと頷いていたが、俺に英雄ノ神を使える実感が湧かなかった。それに――。
「龍騎士も戯言を言うようになったか。ナリユキのステータスには英雄ノ神の表示が無い。ナリユキに貴様の英雄ノ神を使う事は出来ないのだ」
「彼なら出来るさ。この私のように」
ルシファーはそう呟くと、黒刀に再び強大で神々しい白いオーラが放たれていた。流石に先程では無かったが、体力もMPも消耗し切った今の黒龍なら倒す事ができそうな力を十分に秘めていた。
「ナリユキ。倒したいだろ? この忌々しい黒龍を――」
「ま――そりゃあな」
俺がそう返答すると、ルシファーはニッと笑みを浮かべていた。
「なら、この感覚を覚えるのだ。これが私の英雄ノ神だ」
そう言ってルシファーは俺に黒刀を渡してきた。魔王が俺に自分の愛刀を預けるのか? そう疑問に思ったがそれ以上に俺はこのルシファーの英雄ノ神が宿った黒刀の圧倒的な力に感動していた。
この底知れぬみなぎるような力はまるで太陽のようだ。何と言っても誰でも倒せそうなポジティブなイメージが湧く。
「黒龍。覚悟した方がいいぜ」
俺がそう黒龍にルシファーの黒刀を向けると、黒龍の表情は強張っていた。
「ナリユキ――」
不思議な感覚だ。あれほど体が思うように動かなかったのに、今じゃ何でも出来る気がするし誰でも倒せる気がする。そもそもだけど黒龍は本気を出せば俺の十倍程の戦闘値があるんだよな? 何で負ける気がしないんだ。何でこれほどまでに自信が出てくるんだ。
そう思っていると、俺の黒紅煉刀にも白いオーラが宿った。ルシファーから譲り受けた黒刀よりもさらに強大な力が宿っていた。
それを見た目を丸くし、全身から冷や汗を流していた。まあ俺も黒龍ならそう思う。
「まさか……発現したのか!?」
黒龍はそう言って、自身の愛刀を地面に落とした。驚きすぎて力が抜けたらしい。
「こりゃあいいや。まさか、創造主を覚醒させる前に、新しい神のユニークスキルを入手できるとは思ってもみなかった。覚悟しろよ黒龍。この二つの斬撃は相当重いぜ?」
俺はそう言って、右手に黒紅煉刀。左手にルシファーの黒刀。その二つの刀を一振り。
二つの刀から斬撃を発すると、辺りは爆発のような光に包み込まれた。
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