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マナーはとても大事なのです
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そんな経緯で、まずは学園生活を改めるべく、遊びに行きたいと駄々を捏ねるラウラを振り切り、この二週間は授業に出たり生徒会の業務をこなしたりしていた訳だが。エーベルハルトは後悔していた。クラウディアを生徒会から追い出した事を。
ーーーなんだ、この仕事の量は!?
生徒会の仕事など、大した事では無いと思っていた。役員に就任した頃は前役員の助けもあったが普通にこなせていた。その上この三ヶ月間クラウディア一人で行っていたのだ。たかが生徒が運営する機関にこれ程の仕事量が回ってくるなど、予想もしていなかった。知らなかったのだ。学園は生徒による自治を大幅に認め、生徒会や委員会は学園内のいたるところに対する裁量権を持っていた。大きなところでは入学式や卒業式の運営、小さなものなら食堂のメニューに花壇になんの花を植えるか、なんていうものまである。無論大きく常識から逸脱しない範囲でだが。
それゆえ、それらに関わる予算案の作成や人事の報告、生徒からの陳情、委員会や学園側との折衝など、毎日の様になにかしら仕事が舞い込んでくるのだ。しかも思い返せば引き継ぎ直後からクラウディアに任せきりになるまで、ほとんどこういった書類仕事などをした記憶がない。エーベルハルトはやっと気付いた。今まで彼がしてきた仕事は全てクラウディアが体裁を整えた物にサインをしていただけだった事だということを。
この二週間は授業が終わり四人で業務を片付けていたが、今まで任せきりで慣れていないこともあって手間取り、閉校時間になっても終わらず、皆イライラが募っていた。特に頭を使うのが苦手なランベルトが顕著だ。隙あらば逃げ出そうとするので、ユリウスとエーベルハルトとで言い争いになる事もしばしばあった。スヴェンだけは知らぬ顔だったが。
「ラウラ、お茶を淹れてくれないか。少し休憩したい」
「あっ! ごめんなさい、すぐ用意するね!」
まだ続いていたラウラとユリウス、ランベルトのままごとの様な会話をこれ以上聞いていたくなかったエーベルハルトが声をかけると、罰の悪そうに三人は離れ、ラウラはキッチンスペースへ移動した。ユリウス、ランベルトの両名も慌てたように席に戻る。父親から叱責されたのはエーベルハルトだけではない。側近候補だった三人も同じ様に廃嫡を示唆され、この場にいる筈なのだ。ラウラにばかりかまけていられる余裕は無いのだが、二人は未だにしっかりと理解はしていないようだ。これは将来の側近としてこのまま側に置くのは考え直す必要があるかもしれない。
そう思いながらエーベルハルトはスヴェンを見る。彼も二週間前まではラウラに首ったけだった筈なのだが、今は目の前で繰り広げられていた三人のやり取りに目もくれず、なにやら書類を書きなぐっている。真面目に生徒会の仕事をしているのかといったら微妙だが、少なくともあの二人よりはましなのだろう。余程クラウディアの魔力操作を目の当たりにしたのがショックだったらしい。どうやらそのことで父である魔道士団長に何か言われた様だ。だが、今後側近として役立てってくれるかどうかわからないのは他の二人と同じかもしれない。
「……チッ」
ちらり、と時計を見て、行儀悪くつい舌打ちをするエーベルハルト。先程ラウラにお茶を頼んでから二十分は経っている。気が付けばランベルトが席に居ない。デスクワークが苦手な彼は、ラウラを手伝うと称して逃げ出したのだろう。そして、キッチンでいちゃいちゃしているのに違いない。その証拠にユリウスが時折そちらに視線を向けながらイライラしている。同じ様に行かないだけ、ほんの少しましか。
結局それからたっぷり五分以上経ってからラウラは戻ってきた。
「お待たせしましたぁ。ハルト様、どうぞ!」
「……ああ。ありがとうラウラ」
カチャカチャと大きな音を立てながら、ソーサーとカップを置き、ポットから紅茶を注ぐが、勢いが強すぎて飛沫が跳ねて飛び散っているのを見て、ついエーベルハルトの眉が寄る。その上一口飲んで、今度は頬が引き攣った。
ーーー渋い! 不味い!
どうやらポットにお湯を注いでから随分と時間が経っていた様で、注がれた紅茶はとんでもなく渋かった。温度も下がって少しぬるい。学園ではマナー教育の一貫としてお茶の淹れ方も学んでいる筈なのだがどういうことだろうか。
エーベルハルトは知らなかった。ラウラが『マナーなんてめんどくさーい。お茶なんて茶葉入れてお湯入れて注ぐだけでしょ』と、授業をサボっていたのを。そうでなくとも、普通は男爵の様な下級貴族の令嬢は高位貴族家に侍女として仕えるものだが、ラウラははなからそういう仕事を馬鹿にしていた。人に仕える事を嫌がり、仕えられる地位に付くことに全力を注いでいた。
流石のユリウスとランベルトも、このお茶の味には何も言えない様で微妙な顔をしている。甘党のスヴェンにいたっては匂いで察したのか、手も付けていない。
ーーーなんだ、この仕事の量は!?
生徒会の仕事など、大した事では無いと思っていた。役員に就任した頃は前役員の助けもあったが普通にこなせていた。その上この三ヶ月間クラウディア一人で行っていたのだ。たかが生徒が運営する機関にこれ程の仕事量が回ってくるなど、予想もしていなかった。知らなかったのだ。学園は生徒による自治を大幅に認め、生徒会や委員会は学園内のいたるところに対する裁量権を持っていた。大きなところでは入学式や卒業式の運営、小さなものなら食堂のメニューに花壇になんの花を植えるか、なんていうものまである。無論大きく常識から逸脱しない範囲でだが。
それゆえ、それらに関わる予算案の作成や人事の報告、生徒からの陳情、委員会や学園側との折衝など、毎日の様になにかしら仕事が舞い込んでくるのだ。しかも思い返せば引き継ぎ直後からクラウディアに任せきりになるまで、ほとんどこういった書類仕事などをした記憶がない。エーベルハルトはやっと気付いた。今まで彼がしてきた仕事は全てクラウディアが体裁を整えた物にサインをしていただけだった事だということを。
この二週間は授業が終わり四人で業務を片付けていたが、今まで任せきりで慣れていないこともあって手間取り、閉校時間になっても終わらず、皆イライラが募っていた。特に頭を使うのが苦手なランベルトが顕著だ。隙あらば逃げ出そうとするので、ユリウスとエーベルハルトとで言い争いになる事もしばしばあった。スヴェンだけは知らぬ顔だったが。
「ラウラ、お茶を淹れてくれないか。少し休憩したい」
「あっ! ごめんなさい、すぐ用意するね!」
まだ続いていたラウラとユリウス、ランベルトのままごとの様な会話をこれ以上聞いていたくなかったエーベルハルトが声をかけると、罰の悪そうに三人は離れ、ラウラはキッチンスペースへ移動した。ユリウス、ランベルトの両名も慌てたように席に戻る。父親から叱責されたのはエーベルハルトだけではない。側近候補だった三人も同じ様に廃嫡を示唆され、この場にいる筈なのだ。ラウラにばかりかまけていられる余裕は無いのだが、二人は未だにしっかりと理解はしていないようだ。これは将来の側近としてこのまま側に置くのは考え直す必要があるかもしれない。
そう思いながらエーベルハルトはスヴェンを見る。彼も二週間前まではラウラに首ったけだった筈なのだが、今は目の前で繰り広げられていた三人のやり取りに目もくれず、なにやら書類を書きなぐっている。真面目に生徒会の仕事をしているのかといったら微妙だが、少なくともあの二人よりはましなのだろう。余程クラウディアの魔力操作を目の当たりにしたのがショックだったらしい。どうやらそのことで父である魔道士団長に何か言われた様だ。だが、今後側近として役立てってくれるかどうかわからないのは他の二人と同じかもしれない。
「……チッ」
ちらり、と時計を見て、行儀悪くつい舌打ちをするエーベルハルト。先程ラウラにお茶を頼んでから二十分は経っている。気が付けばランベルトが席に居ない。デスクワークが苦手な彼は、ラウラを手伝うと称して逃げ出したのだろう。そして、キッチンでいちゃいちゃしているのに違いない。その証拠にユリウスが時折そちらに視線を向けながらイライラしている。同じ様に行かないだけ、ほんの少しましか。
結局それからたっぷり五分以上経ってからラウラは戻ってきた。
「お待たせしましたぁ。ハルト様、どうぞ!」
「……ああ。ありがとうラウラ」
カチャカチャと大きな音を立てながら、ソーサーとカップを置き、ポットから紅茶を注ぐが、勢いが強すぎて飛沫が跳ねて飛び散っているのを見て、ついエーベルハルトの眉が寄る。その上一口飲んで、今度は頬が引き攣った。
ーーー渋い! 不味い!
どうやらポットにお湯を注いでから随分と時間が経っていた様で、注がれた紅茶はとんでもなく渋かった。温度も下がって少しぬるい。学園ではマナー教育の一貫としてお茶の淹れ方も学んでいる筈なのだがどういうことだろうか。
エーベルハルトは知らなかった。ラウラが『マナーなんてめんどくさーい。お茶なんて茶葉入れてお湯入れて注ぐだけでしょ』と、授業をサボっていたのを。そうでなくとも、普通は男爵の様な下級貴族の令嬢は高位貴族家に侍女として仕えるものだが、ラウラははなからそういう仕事を馬鹿にしていた。人に仕える事を嫌がり、仕えられる地位に付くことに全力を注いでいた。
流石のユリウスとランベルトも、このお茶の味には何も言えない様で微妙な顔をしている。甘党のスヴェンにいたっては匂いで察したのか、手も付けていない。
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