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振り返ってみたら愛がありませんでした
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『愛が欲しい訳ではないのです』
そう答えた少女の顔には隠しきれない憂愁を滲ませていたという。
クラウディアの父である公爵は、貴族に珍しく大恋愛の末妻を娶った。最も身近で愛ある婚姻を結んだ者が居て、憧れるのは自然の流れだろう。にも関わらずクラウディアに求められたのは正に貴族的な政略結婚であった。
『公爵家の娘として望まれて嫁ぐ事に対し不満はありません。ですが、家の付属品となるためだけの婚姻は嫌です。わたくしに価値があるといわれるのでしたら、王家でも国にでもなく夫となる方自身にこそわたくしを望んでいただきたいのです。例えそこに愛が無かったとしてもーー。その事を認め理解していただけるのでしたら、わたくしの全てをもって旦那様を支えていく様努力いたします』
七歳の少女のその答えに王が不敬を問うことはなかった。クラウディアの意見も一理あるからだ。確かに望んだのは国であり王家で、当の王太子はクラウディアが婚約者となる事に難色を示していた。たとえ身分差があろうとも、望まれた方だけが我慢を強いられるのはあまりに不公平。このままクラウディアという人物を認めず、王太子妃、王妃となったとき不当な扱いをしないとは限らない。勿論その時点でのクラウディアの価値がどうなるかはわからなかったが。
結局王と公爵との話し合いにより、婚約は結ばれた。ただ、クラウディアの希望は受け入れられた。エーベルハルト本人がクラウディアの能力、努力を理解せず、婚約の継続を望まなかった場合、クラウディアは『婚約解消を受け入れる権利』を持つ事となったのだ。そしてその決定を王家は異を唱えてはならない。あくまで提起するのはエーベルハルトであるが故の特例ともいえる。
そんな裏事情を理解する事無く、エーベルハルトはクラウディアを避けた。クラウディアが特に何かしたわけではない。父王から口酸っぱく婚約者を大切にしろと言われ続けた反動だっただけだ。当時既に王と王妃の仲は冷えており、王妃に甘やかされて育ったエーベルハルトにとっては父王の苦言は聞くに堪えない戯言と同じだったのだ。
クラウディアは時折諫言は呈するものの、宣言通りエーベルハルトの前には決して出ず、いつも静かにエーベルハルトの話を聞いていた。大人にはその態度は好ましいものだったが、まだ幼いエーベルハルトにとっては物足りなく感じたのだろう。いつも素っ気ない対応であり、時には貶める発言が出ることもあった。それでもクラウディアは微笑んでいたのだ。少しずつ決意が揺らいでいつつも。
そんな中で学園に入学したエーベルハルトとクラウディアの距離はますます開いていった。エーベルハルトは将来の側近となるべく会わされた三人ーー宰相子息、騎士団長子息、魔道士団長子息を連れて遊び呆けだしたからだ。 学年が上がり、四人は上位貴族の慣例から生徒会役員となったが、能力から選ばれた訳では無かった事もあり、生徒会の運営には熱心では無かった。
その上偶然出会った男爵令嬢は、クラウディアとは何もかもが反対だった。無遠慮にパーソナルスペースにも踏み込んでくるし、下級貴族の令嬢でありながら、高位貴族に対しても言いたいことをてらいもなく言い放つ。これだ、とその時エーベルハルトは思った。こんな風に会話出来る婚約者が欲しかったのだと。公爵令嬢として、未来の王太子妃として申し分ない教育を受けていたクラウディアに、庶民と同じくらいの気安さを求めていたとは気付かずに。
クラウディアの苦言が、どこか幼い子供を諭すような口調だったことも反発の原因だった。苦手な父と同じタイプ。王が望んだクラウディアとの婚約を王妃が反対していたせいもあるかもしれない。クラウディアが去り、父王に叱責され少し冷静になった今、振り返ってみれば本気でラウラを愛していた訳ではないのだ。多分。
そう答えた少女の顔には隠しきれない憂愁を滲ませていたという。
クラウディアの父である公爵は、貴族に珍しく大恋愛の末妻を娶った。最も身近で愛ある婚姻を結んだ者が居て、憧れるのは自然の流れだろう。にも関わらずクラウディアに求められたのは正に貴族的な政略結婚であった。
『公爵家の娘として望まれて嫁ぐ事に対し不満はありません。ですが、家の付属品となるためだけの婚姻は嫌です。わたくしに価値があるといわれるのでしたら、王家でも国にでもなく夫となる方自身にこそわたくしを望んでいただきたいのです。例えそこに愛が無かったとしてもーー。その事を認め理解していただけるのでしたら、わたくしの全てをもって旦那様を支えていく様努力いたします』
七歳の少女のその答えに王が不敬を問うことはなかった。クラウディアの意見も一理あるからだ。確かに望んだのは国であり王家で、当の王太子はクラウディアが婚約者となる事に難色を示していた。たとえ身分差があろうとも、望まれた方だけが我慢を強いられるのはあまりに不公平。このままクラウディアという人物を認めず、王太子妃、王妃となったとき不当な扱いをしないとは限らない。勿論その時点でのクラウディアの価値がどうなるかはわからなかったが。
結局王と公爵との話し合いにより、婚約は結ばれた。ただ、クラウディアの希望は受け入れられた。エーベルハルト本人がクラウディアの能力、努力を理解せず、婚約の継続を望まなかった場合、クラウディアは『婚約解消を受け入れる権利』を持つ事となったのだ。そしてその決定を王家は異を唱えてはならない。あくまで提起するのはエーベルハルトであるが故の特例ともいえる。
そんな裏事情を理解する事無く、エーベルハルトはクラウディアを避けた。クラウディアが特に何かしたわけではない。父王から口酸っぱく婚約者を大切にしろと言われ続けた反動だっただけだ。当時既に王と王妃の仲は冷えており、王妃に甘やかされて育ったエーベルハルトにとっては父王の苦言は聞くに堪えない戯言と同じだったのだ。
クラウディアは時折諫言は呈するものの、宣言通りエーベルハルトの前には決して出ず、いつも静かにエーベルハルトの話を聞いていた。大人にはその態度は好ましいものだったが、まだ幼いエーベルハルトにとっては物足りなく感じたのだろう。いつも素っ気ない対応であり、時には貶める発言が出ることもあった。それでもクラウディアは微笑んでいたのだ。少しずつ決意が揺らいでいつつも。
そんな中で学園に入学したエーベルハルトとクラウディアの距離はますます開いていった。エーベルハルトは将来の側近となるべく会わされた三人ーー宰相子息、騎士団長子息、魔道士団長子息を連れて遊び呆けだしたからだ。 学年が上がり、四人は上位貴族の慣例から生徒会役員となったが、能力から選ばれた訳では無かった事もあり、生徒会の運営には熱心では無かった。
その上偶然出会った男爵令嬢は、クラウディアとは何もかもが反対だった。無遠慮にパーソナルスペースにも踏み込んでくるし、下級貴族の令嬢でありながら、高位貴族に対しても言いたいことをてらいもなく言い放つ。これだ、とその時エーベルハルトは思った。こんな風に会話出来る婚約者が欲しかったのだと。公爵令嬢として、未来の王太子妃として申し分ない教育を受けていたクラウディアに、庶民と同じくらいの気安さを求めていたとは気付かずに。
クラウディアの苦言が、どこか幼い子供を諭すような口調だったことも反発の原因だった。苦手な父と同じタイプ。王が望んだクラウディアとの婚約を王妃が反対していたせいもあるかもしれない。クラウディアが去り、父王に叱責され少し冷静になった今、振り返ってみれば本気でラウラを愛していた訳ではないのだ。多分。
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