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過去を振り返ってみましょう
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部屋の中、カリカリとペンを走らせる音だけが響く。以前と違い誰一人口を開こうとしない。手元の書類を一枚片づけると、生徒会長用の席に付いていたエーベルハルトは、軽く息を吐き、凝りをほぐす様に首を傾けた。
「いやーん! おそくなっちゃったぁ!」
丁度その時どたどたと、足音を立てながらノックもせずラウラが乱雑にドアを開き部屋へと入ってくる。確かに元々お淑やかとは言い難かったが、こんなにも品の無い動作だっただろうか?
「随分と遅かったですねラウラ。心配しましたよ?」
「何処かで転けて泣いてんじゃネェかと思ったぜ」
「やだっ! あたしそんなドジじゃないもん!」
ぷう、と頬を膨らませる表情に、会計である宰相子息のユリウスと、庶務の騎士団長子息ランベルトが目尻を下げながらわざわざ駆け寄り、肩に手を置いたり頭に手をやったりしている。以前……二週間前なら真っ先に駆け寄っていた筈のエーベルハルトは、三人を何処か苦々しい表情で見つめた。何故だろう。足音を立てて歩くことも、ころころ変わる表情や幼い子供の様な話し方も好ましいと……愛しいと思っていた筈なのに。
二週間前、ここ生徒会室でエーベルハルトがクラウディアに婚約破棄を告げた日。余りにもあっさり受け入れ姿を消した彼女に拍子抜けしたものの、これでラウラを妃に迎えられる!と報告するため帰宅後父である王の元へ向かったのだが、そこで告げられたのは『今後の態度如何では廃嫡も視野に』との冷たい言葉だった。何故!? と問えば逆に何故それがわからぬと返された。
まずクラウディアとの婚約は王命であること。それを無断で破棄したということは王命に背いたということを理解しているか。そして、学園での振る舞い。次期王としての自覚を持った行動であったと自負出来るか。
そう王に問われて言葉を返せなかった。せいぜいがクラウディアも婚約破棄を勝手に受諾したのだから同罪じゃないか、と思ったくらいだ。そもそもがクラウディアとの婚約も、公爵家からのごり押しで決まったものだとずっと思っていたのだ。まさか王の勅命だとはかけらも思っていなかった。だが王はエーベルハルトの様子に、疲れたように溜め息を吐く。
王曰く、クラウディアは十年前の王太子の婚約者選定の際、身分と年齢の釣り合う家の娘の中では最も家格が高く、その上豊富な魔力を秘め、当時既にいくつかの有益な魔道具の開発をしていたらしい。子供らしく繊細な魔力操作はまだ苦手だったが、色々なアイデアを出しては魔道士団の研究部門に赴き、大人に混じり開発をしていたのだ。
その将来性からも王太子妃に相応しいと公爵家に打診をしたのだが、返答は『否』。クラウディア本人は、そのまま魔道具の研究を行いたかったらしい。だが、王家としてはあまりに惜しい才能。他国に知られ縁を望まれれば相手によっては国から手放さざるを得ないからだ。故に勅命を行使しても手元に置くことを望んだ。だが強引な手でもあったので、娘を溺愛していた公爵の反発が大きかった。結果、王と公爵との間で婚約の話し合い時に、クラウディアが一つだけ条件を出した。
それこそが、王太子エーベルハルト自身が婚約継続を望まなかった時は、婚約解消を了承出来る権利だった。
「いやーん! おそくなっちゃったぁ!」
丁度その時どたどたと、足音を立てながらノックもせずラウラが乱雑にドアを開き部屋へと入ってくる。確かに元々お淑やかとは言い難かったが、こんなにも品の無い動作だっただろうか?
「随分と遅かったですねラウラ。心配しましたよ?」
「何処かで転けて泣いてんじゃネェかと思ったぜ」
「やだっ! あたしそんなドジじゃないもん!」
ぷう、と頬を膨らませる表情に、会計である宰相子息のユリウスと、庶務の騎士団長子息ランベルトが目尻を下げながらわざわざ駆け寄り、肩に手を置いたり頭に手をやったりしている。以前……二週間前なら真っ先に駆け寄っていた筈のエーベルハルトは、三人を何処か苦々しい表情で見つめた。何故だろう。足音を立てて歩くことも、ころころ変わる表情や幼い子供の様な話し方も好ましいと……愛しいと思っていた筈なのに。
二週間前、ここ生徒会室でエーベルハルトがクラウディアに婚約破棄を告げた日。余りにもあっさり受け入れ姿を消した彼女に拍子抜けしたものの、これでラウラを妃に迎えられる!と報告するため帰宅後父である王の元へ向かったのだが、そこで告げられたのは『今後の態度如何では廃嫡も視野に』との冷たい言葉だった。何故!? と問えば逆に何故それがわからぬと返された。
まずクラウディアとの婚約は王命であること。それを無断で破棄したということは王命に背いたということを理解しているか。そして、学園での振る舞い。次期王としての自覚を持った行動であったと自負出来るか。
そう王に問われて言葉を返せなかった。せいぜいがクラウディアも婚約破棄を勝手に受諾したのだから同罪じゃないか、と思ったくらいだ。そもそもがクラウディアとの婚約も、公爵家からのごり押しで決まったものだとずっと思っていたのだ。まさか王の勅命だとはかけらも思っていなかった。だが王はエーベルハルトの様子に、疲れたように溜め息を吐く。
王曰く、クラウディアは十年前の王太子の婚約者選定の際、身分と年齢の釣り合う家の娘の中では最も家格が高く、その上豊富な魔力を秘め、当時既にいくつかの有益な魔道具の開発をしていたらしい。子供らしく繊細な魔力操作はまだ苦手だったが、色々なアイデアを出しては魔道士団の研究部門に赴き、大人に混じり開発をしていたのだ。
その将来性からも王太子妃に相応しいと公爵家に打診をしたのだが、返答は『否』。クラウディア本人は、そのまま魔道具の研究を行いたかったらしい。だが、王家としてはあまりに惜しい才能。他国に知られ縁を望まれれば相手によっては国から手放さざるを得ないからだ。故に勅命を行使しても手元に置くことを望んだ。だが強引な手でもあったので、娘を溺愛していた公爵の反発が大きかった。結果、王と公爵との間で婚約の話し合い時に、クラウディアが一つだけ条件を出した。
それこそが、王太子エーベルハルト自身が婚約継続を望まなかった時は、婚約解消を了承出来る権利だった。
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