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手続きはすみやかに行いましょう
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クラウディアは書き終えた書類を頭から間違いがないか見返すと、紙の上に軽く手をかざした。すると微か……ほんの微かにふわりと風が起こるのを感じた魔道士団長子息である書記のスヴェンが驚きの声を上げた。
「まさか風魔法!? なんで!? 警報がならない!?」
「ふふ、流石ですね。今のを感知出来るなんて」
学園では生徒の安全を名目に、一部の許可された魔道具以外の魔法使用を禁止している。それもただ規則で禁止しているだけでなく、学園内各所にはセンサーが設置され、魔法使用を感知すると警告音が鳴るシステムだ。警告を受けた者は使った魔法に応じて処罰の対象となる。この生徒会室にも勿論センサーがある筈だ。今のクラウディアの魔法は、スヴェン以外の三人には感じられない程微かなもの。
「設置されているセンサーの感度にも限りがあるのですよ。何度か検証を行ったので今の程度であれば、警告はされません。いちいち乾くのを待っているのは時間が勿体ないと思いまして。このくらいでしたら、いちいち魔道具を作るまでもなかったので」
クラウディアの返答に、スヴェンは思わず小さく「嘘だろ……」と呟いた。クラウディアがそこまで繊細な魔力操作を行えるとは思いもよらなかったのだ。スヴェンはクラウディアの事をエーベルハルトの婚約者に選定された頃から知っている。子供は皆細かい作業が苦手だ。当時特にクラウディアは不得手としており、脳筋の騎士団長子息ランベルトですら出来る事でよく教師に注意をされていた為、スヴェンはそんなことも出来ないのかとクラウディアを内心馬鹿にしていたのだ。クラウディアがずっと努力を続けていたことにまるで気付かずに。
内容に問題が無いことを確認し頷くと、クラウディアは机の向こう側に立つ四人の前へと数枚の書類を差し出した。
「お待たせして申し訳ありません。こちらが『婚約破棄宣言書』です。ここにサインをお願いします。そして、こちらが私からの『婚約破棄受諾書』。ああ、同時にこちらの生徒会業務の委任取消の書類と、こちらの副会長の解任命令書にもサインを。委任取消と解任はお三方もお願いしますわ」
「な、何故婚約破棄の書類はだけ二枚ずつあるのだ」
「王家に提出分と、当家に予備で保管する分です。王家に提出したものが何かあって紛失したら困りますもの」
「ハッ。悪足掻きしない所だけは誉めてやるぜ。さあ殿下、さっさとサインしてラウラを迎えましょうよ」
何かを深く考えるのが苦手な庶務のランベルトは、クラウディアの言葉に何か意図を感じ戸惑う他の三人の様子に気付かず、さっさとサインし始めた。三人もラウラの名前に本来ここに来た目的を思いだし、それぞれペンをとる。ここに来る前に、四人でクラウディアを生徒会から追い出し、空いた地位にラウラを付けようと決めていたからだ。
渡されたペンが、最近出回り出した魔石を使ってインクを補充する最新型であったことに驚きつつも、四人はそれぞれにサインをする。返された書類のサインを確認すると、クラウディアは先程と同じ様に風魔法でインクを乾かすと、机の上に置かれていた四角い箱ーー抽斗が二段あるだけの小さな薄いチェストの上の段へ無造作に放り込んだ。天板にはボタンが二つありその一つを彼女が押すと抽斗の隙間から鮮やかな光が溢れ出す。すぐに光は粒子となり消えたが、もう一度クラウディアが抽斗を開けるとそこに書類は無かった。
「な、なんだそれは!? 書類は何処へ行ったのだ!?」
「ああ、こちらはわたくしが先月作った書類専用の転送装置です。いちいち配達員を呼び出すのは面倒でしたので」
学園内に限らず、書類を送るときは配達専用の使用人を呼び出し、手渡して届けてもらうのが一般的だが、多くの書類を処理している間は次から次から届けてもらう必要があるため、何度も配達員を呼び出すのが面倒になったクラウディアがなんとか魔道具を使って送る方法がないかと考えた結果がこの転送装置だった。
開けた抽斗に別の書類を入れ、先程とは違うボタンを押す。同じ様に光ったのを見届けると、クラウディアは安堵したように、小さく溜め息を吐いた。
「詳しい使い方はまとめて置いてあるので、使われるのでしたらその時見てくださいませ。……では本日をもって王太子エーベルハルト殿下の婚約者と生徒会副会長の任を辞させていただきます。長いようで短い間でしたがお世話になりました」
本当は世話になった覚えは小指の先程もないけど、とは思いつつも、もうこれで顔を合わせなくて済むかと思うと礼をするにも気がはいるクラウディアは、鮮やかに淑女の礼を済ませると、サイン済みの控え書類と共に、早々に生徒会室から姿を消した。
急な展開に付いていけず困惑する四人を残して。
「まさか風魔法!? なんで!? 警報がならない!?」
「ふふ、流石ですね。今のを感知出来るなんて」
学園では生徒の安全を名目に、一部の許可された魔道具以外の魔法使用を禁止している。それもただ規則で禁止しているだけでなく、学園内各所にはセンサーが設置され、魔法使用を感知すると警告音が鳴るシステムだ。警告を受けた者は使った魔法に応じて処罰の対象となる。この生徒会室にも勿論センサーがある筈だ。今のクラウディアの魔法は、スヴェン以外の三人には感じられない程微かなもの。
「設置されているセンサーの感度にも限りがあるのですよ。何度か検証を行ったので今の程度であれば、警告はされません。いちいち乾くのを待っているのは時間が勿体ないと思いまして。このくらいでしたら、いちいち魔道具を作るまでもなかったので」
クラウディアの返答に、スヴェンは思わず小さく「嘘だろ……」と呟いた。クラウディアがそこまで繊細な魔力操作を行えるとは思いもよらなかったのだ。スヴェンはクラウディアの事をエーベルハルトの婚約者に選定された頃から知っている。子供は皆細かい作業が苦手だ。当時特にクラウディアは不得手としており、脳筋の騎士団長子息ランベルトですら出来る事でよく教師に注意をされていた為、スヴェンはそんなことも出来ないのかとクラウディアを内心馬鹿にしていたのだ。クラウディアがずっと努力を続けていたことにまるで気付かずに。
内容に問題が無いことを確認し頷くと、クラウディアは机の向こう側に立つ四人の前へと数枚の書類を差し出した。
「お待たせして申し訳ありません。こちらが『婚約破棄宣言書』です。ここにサインをお願いします。そして、こちらが私からの『婚約破棄受諾書』。ああ、同時にこちらの生徒会業務の委任取消の書類と、こちらの副会長の解任命令書にもサインを。委任取消と解任はお三方もお願いしますわ」
「な、何故婚約破棄の書類はだけ二枚ずつあるのだ」
「王家に提出分と、当家に予備で保管する分です。王家に提出したものが何かあって紛失したら困りますもの」
「ハッ。悪足掻きしない所だけは誉めてやるぜ。さあ殿下、さっさとサインしてラウラを迎えましょうよ」
何かを深く考えるのが苦手な庶務のランベルトは、クラウディアの言葉に何か意図を感じ戸惑う他の三人の様子に気付かず、さっさとサインし始めた。三人もラウラの名前に本来ここに来た目的を思いだし、それぞれペンをとる。ここに来る前に、四人でクラウディアを生徒会から追い出し、空いた地位にラウラを付けようと決めていたからだ。
渡されたペンが、最近出回り出した魔石を使ってインクを補充する最新型であったことに驚きつつも、四人はそれぞれにサインをする。返された書類のサインを確認すると、クラウディアは先程と同じ様に風魔法でインクを乾かすと、机の上に置かれていた四角い箱ーー抽斗が二段あるだけの小さな薄いチェストの上の段へ無造作に放り込んだ。天板にはボタンが二つありその一つを彼女が押すと抽斗の隙間から鮮やかな光が溢れ出す。すぐに光は粒子となり消えたが、もう一度クラウディアが抽斗を開けるとそこに書類は無かった。
「な、なんだそれは!? 書類は何処へ行ったのだ!?」
「ああ、こちらはわたくしが先月作った書類専用の転送装置です。いちいち配達員を呼び出すのは面倒でしたので」
学園内に限らず、書類を送るときは配達専用の使用人を呼び出し、手渡して届けてもらうのが一般的だが、多くの書類を処理している間は次から次から届けてもらう必要があるため、何度も配達員を呼び出すのが面倒になったクラウディアがなんとか魔道具を使って送る方法がないかと考えた結果がこの転送装置だった。
開けた抽斗に別の書類を入れ、先程とは違うボタンを押す。同じ様に光ったのを見届けると、クラウディアは安堵したように、小さく溜め息を吐いた。
「詳しい使い方はまとめて置いてあるので、使われるのでしたらその時見てくださいませ。……では本日をもって王太子エーベルハルト殿下の婚約者と生徒会副会長の任を辞させていただきます。長いようで短い間でしたがお世話になりました」
本当は世話になった覚えは小指の先程もないけど、とは思いつつも、もうこれで顔を合わせなくて済むかと思うと礼をするにも気がはいるクラウディアは、鮮やかに淑女の礼を済ませると、サイン済みの控え書類と共に、早々に生徒会室から姿を消した。
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