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三周目

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「……あれ、迎えに来てくださったんですか」

 裏山の入り口には、東頭と風紀委員長の奥山が居た。二人は表情を固くして何かを堪える様に、爪が刺さるほどに拳を握りしめている。身を震わせてぜーぜー息を荒くしているのは例のお香の副作用がきついせいだろうか。

「行くな」

 喉から絞り出すように貴一を止めた東頭の胸ポケットには、いつか貴一が彼にあげた青いチンアナゴのマスコットが顔を覗かせていた。東頭は今にも泣き出しそうな表情で貴一を見つめているが、こちらから近づこうとすると怯えたように一歩下がる。

「殺されるぞ、この先に進むな」

 奥山の腰に携えているものが、いつもの竹刀や木刀ではなく真剣であった。貴一が想像していた以上にリンチは凄惨な物になるところだったのだろう。けれども何故二人は不意打ちなどではなく、自身の目の前に姿を現したのだろうか。
 貴一はメニューから二人の好感度を確認する。

サイオンジと、貴一に対する好感度がほぼMAX状態となっていた。

「俺、ユウを遠くにやったお前が憎くて仕方がなかった。でもユウと離れてしばらくして、貴一のことがユウと同じぐらい愛おしくて、何であんなひどい態度取っちまったんだろうって……もう二度とあんなことしないって誓ったはずなのに約束破っちまった」

「ユウ、いやサイオンジのことは別として、何故あんなに君のことを遠ざけていたのか今でもわからないんだ……ここに来るまで俺は君を本気で殺そうと思っていた。でも」

 裏山に群生している薄青色の花たち、オオイヌノフグリを見た瞬間、彼の視界は霧が晴れたかのようにクリアになり、貴一に対するこれまでの思いと感情を取り戻したのだという。

「東頭」

「俺は、いや俺達二人はまだ混乱してる、あの時の俺達はお前が憎かった。嫌いだった。でもそれ以上に今はやっぱりお前が大好きで、同じぐらいユウを崇拝するような感情があって、でもそれはどこか偽物だと確信が持てなくなってきている。……お前にとってこんなのは言い訳にしかならないよな。ごめんな貴一、すまなかった。俺たちはなんて恐ろしいことを……」

「奥山風紀委員長」

「……もう、名前で呼んでくれないのか」

 当然だろうなと、奥山は寂しそうに肩を落とす。

「……庵先輩」

「ありがとう。……ありがとう。貴一、これまですまなかった。何故君に対してあんなにも猜疑心があったのだろう。あの荒れ狂うような感情の意味が今でもわからないんだ。……でも、信じてもらえないかもしれないが、この先には行かないでくれ。この後、俺は風紀委員のメンバーと場合によっては警察も呼ぶつもりだ」

 愛の絆は忘れない。
人の心を簡単に狂わせて壊してしまうような強い麻薬の力を、ゲームバランスを壊すような悪魔のチートアイテムを使用されても、彼らは貴一への思いと自らの自制心で跳ね除けて、本来の感情を取り戻すことができた。

「(となると)」

 ほぼ面識のない生徒会長、副会長、書記の人間を今から説得することは難しいかもしれない。

「東頭、奥山先輩」

 貴一は二人を抱き寄せると、自身の顔に二人の顔をくっつけるようにして頭を数回軽く叩くようにして撫でた。

「なんでかな、冷たくされても俺は二人の事、なんか嫌いになれなかったんですよね」

 へへっと照れ笑いを浮かべると、今度はもう振り返ることもなく先に進み、二人の姿が見えなくなったところで地下室の入り口を見つける。貴一は階段を一歩一歩慎重に降りた。
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