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そして彼らは
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「お帰りなさい」
最愛の旦那様、ご主人様を家へ迎え入れる度に、タカノブの心は嬉しさと苦痛が同時にやってきて引き裂かれそうになる。
ハヤタはタカノブの両親に頭を下げ、事後報告になってしまったがと前置きをしてから、番になったことの報告と、婚姻を結びたいとして挨拶にやってきた。
実の息子がビッチングされ、そしてΩになったという事実に両親は理解が及ばないのではないかと当初懸念していたが、二人は存外あっさりと事実を受け入れた。
「息子は、小さい頃からハヤタ君が好きだったんですよ」
「だからこそ、ハヤタ君の第二の性がβだと知った時のタカノブの落ち込みようときたら……けれども、こんな形で結ばれるという方法もあるのですね」
タカノブの父は困り顔で笑いながらも「二人の幸せが一番だから」と、息子がΩになったことを、恐らく当の本人よりも受け入れた。
母は目尻をハンカチで抑えながら「息子をよろしくお願いいたします」と頭を下げた。
にこりと穏やかに笑いながら、自身の両親と挨拶をするハヤタの目はとても冷たく、タカノブは時折ハヤタに視線を向けられる度に、ぐさりと心をつららで刺されるような痛みを覚える。
好きという気持ちが芽生えた時、そして第二の性というものが確定した時。
ハヤタはそれでも恋慕を捨てきれずに密やかながらもタカノブを想い続けたが、タカノブはハヤタがβだと知った瞬間に彼を見限り「彼に少しでも似ているであろう」という打算と汚さの感情だけで、義兄のΩと結ばれようとしたからだ。
結局のところ愛より世間体を取ったこの男に、ハヤタからの信頼はもう存在しなかった。
「お帰り」
「おかえりハヤタ」
ハヤタは社会人となり、大手企業に勤める会社員の傍らで資産運用として投資信託をしている。彼は、順番上「第一の番」となる義父の正雄と家計を支えており、現在この広い家では三人のΩと暮らしている。
「第一の番」はC崎正雄、そして「第二の番」であり正式に婚姻を結んだのはタカノブだけだが、後からやってきた「第三の番」は何と、ハヤタから受けたレイプの一番目の犠牲者であるレイヤだった。
彼はΩになってもハヤタを忘れられず「二番目でも三番目でもいいから番にしてほしい」「セックスもいらない」と懇願し、渋々了承したハヤタに項を噛んでもらった。
オメガバースのこの世界でも、一部の国を除いて婚姻は一人だけである。けれども番に関しては複数持っても法に問われることはない。
一応は初恋で正妻となったタカノブは、他に番がいることに対してショックを受けた。けれどもこれもハヤタの「復讐」の一環なのだろうと、タカノブは堪えた。
人生を潰した自覚は当然あるのか、ハヤタは虐げることなく三人の番に平等に接していたが、夫夫として慈しみ愛を囁き、そしてヒート時であろうとも性交をするのはタカノブだけだった。
「私はもう若くないから、彼にセックスを求めることは無いよ。ビジネスのため、形式的に番となっているだけさ」
ハヤタとの性行為はビッチングの時の一回だけであり、ヒート時は抑制剤を使い性交は一切ないと告げるαにしか見えないロマンスグレーの男。
そんな正雄だが、淡々とした言葉とは裏腹に彼は熱と肉欲、それから執着を帯びた目でじっとりとハヤタの事を見つめている。
「俺みたいのが、ハヤタを汚すことなんてできないから。彼の傍に居られたらそれでいい」
同じく性交はビッチングの一回のみで、元遊び人のヤリチンαだったというレイヤという男も、ハヤタを神聖視しておりセックスはおろか指一本触れることなく、ただただ彼の傍に居られたらそれでよいと従者のように従っている。
けれども、Ω同士だからこそわかるレイヤの隠し切れない肉欲の熱は、いつもハヤタに向けている。
「ハヤタ、今日は抱きたい」
「ん?いいよ、俺のΩちゃん」
そんな二人の前で、タカノブはわざと甘えるようにハヤタに抱き付き、何でもない事のように彼もそれを受け入れる。
二人の様子に嫉妬と憎悪の念を一瞬、隠し切れないという風にタカノブを睨み付けてくるのをハヤタは気づいているのだろうか。
タカノブは唯一ハヤタに触れることができる「正妻」なので、彼だけはタカノブが望むまま、いつでもハヤタとセックスをすることができた。タカノブが抱かれたり、逆にハヤタを抱いたりと立ち位置はあいまいだけれど、そこには腐りかけた愛の残滓と呼べるものはあった。
「(だけど)」
ハヤタは求められるがままにタカノブを受け入れ、またある時は肉棒を突き立て雄の滾りを打ち付けるが、彼の方からは一度もタカノブを求めたことが無い。
ビッチングさせるためにレイプされたのが最初で最後で、それ以来彼からタカノブを誘うことがなかったのだ。
「考えごと?随分余裕だねΩちゃん」
そしてハヤタが、タカノブの名前を呼ぶ回数は激減した。Ωちゃんだとかハニーだとか、或いは子猫ちゃんだとか甘ったるい呼び名をつけるが、そこに壁のような透明な隔たりを感じることも少なくない。
優しく囁かれても、髪を梳かれ頬を撫でられ、バードキスを落とされてもどこかひんやりとした距離を感じる。けれども、もうタカノブがハヤタから離れることなどできなかった。
心身ともに縛り付けられて、罪悪感を植え付けられて、そして歪んではいるどす黒いピンク色のようなモヤと恋は彼らの心に絡みついては離れないのだから。
「いつまでも、彼の一番だと思わない方がいい」
「お前、散々ハヤタを傷つけた癖に……腹立つ」
ハヤタがいない時に囁かれる正雄とレイヤからの呪詛と妬みの言葉は、甘美でもあり背筋がぞわりとするような不快感と命を脅かされるような危機感もあった。
これまで彼を裏切りハヤタからの期待値や信頼がゼロとなったタカノブは、他の番達にハヤタを取られないように「良いΩ」になるため必死だった。待つのも尽くすのも彼の意志であり無論そこには愛があるが、もうどこかが壊れて歪んでいる。
反対に、下剋上ではないがいつかハヤタを寝取り奪い取ってやろうとする二人のΩは、元αだけあって知恵も回り立ち回りが上手かった。
執着と愛憎が入り乱れるこの歪んだ「家族」が、砂上の城の如く崩壊する日は案外近いのかもしれない。
最愛の旦那様、ご主人様を家へ迎え入れる度に、タカノブの心は嬉しさと苦痛が同時にやってきて引き裂かれそうになる。
ハヤタはタカノブの両親に頭を下げ、事後報告になってしまったがと前置きをしてから、番になったことの報告と、婚姻を結びたいとして挨拶にやってきた。
実の息子がビッチングされ、そしてΩになったという事実に両親は理解が及ばないのではないかと当初懸念していたが、二人は存外あっさりと事実を受け入れた。
「息子は、小さい頃からハヤタ君が好きだったんですよ」
「だからこそ、ハヤタ君の第二の性がβだと知った時のタカノブの落ち込みようときたら……けれども、こんな形で結ばれるという方法もあるのですね」
タカノブの父は困り顔で笑いながらも「二人の幸せが一番だから」と、息子がΩになったことを、恐らく当の本人よりも受け入れた。
母は目尻をハンカチで抑えながら「息子をよろしくお願いいたします」と頭を下げた。
にこりと穏やかに笑いながら、自身の両親と挨拶をするハヤタの目はとても冷たく、タカノブは時折ハヤタに視線を向けられる度に、ぐさりと心をつららで刺されるような痛みを覚える。
好きという気持ちが芽生えた時、そして第二の性というものが確定した時。
ハヤタはそれでも恋慕を捨てきれずに密やかながらもタカノブを想い続けたが、タカノブはハヤタがβだと知った瞬間に彼を見限り「彼に少しでも似ているであろう」という打算と汚さの感情だけで、義兄のΩと結ばれようとしたからだ。
結局のところ愛より世間体を取ったこの男に、ハヤタからの信頼はもう存在しなかった。
「お帰り」
「おかえりハヤタ」
ハヤタは社会人となり、大手企業に勤める会社員の傍らで資産運用として投資信託をしている。彼は、順番上「第一の番」となる義父の正雄と家計を支えており、現在この広い家では三人のΩと暮らしている。
「第一の番」はC崎正雄、そして「第二の番」であり正式に婚姻を結んだのはタカノブだけだが、後からやってきた「第三の番」は何と、ハヤタから受けたレイプの一番目の犠牲者であるレイヤだった。
彼はΩになってもハヤタを忘れられず「二番目でも三番目でもいいから番にしてほしい」「セックスもいらない」と懇願し、渋々了承したハヤタに項を噛んでもらった。
オメガバースのこの世界でも、一部の国を除いて婚姻は一人だけである。けれども番に関しては複数持っても法に問われることはない。
一応は初恋で正妻となったタカノブは、他に番がいることに対してショックを受けた。けれどもこれもハヤタの「復讐」の一環なのだろうと、タカノブは堪えた。
人生を潰した自覚は当然あるのか、ハヤタは虐げることなく三人の番に平等に接していたが、夫夫として慈しみ愛を囁き、そしてヒート時であろうとも性交をするのはタカノブだけだった。
「私はもう若くないから、彼にセックスを求めることは無いよ。ビジネスのため、形式的に番となっているだけさ」
ハヤタとの性行為はビッチングの時の一回だけであり、ヒート時は抑制剤を使い性交は一切ないと告げるαにしか見えないロマンスグレーの男。
そんな正雄だが、淡々とした言葉とは裏腹に彼は熱と肉欲、それから執着を帯びた目でじっとりとハヤタの事を見つめている。
「俺みたいのが、ハヤタを汚すことなんてできないから。彼の傍に居られたらそれでいい」
同じく性交はビッチングの一回のみで、元遊び人のヤリチンαだったというレイヤという男も、ハヤタを神聖視しておりセックスはおろか指一本触れることなく、ただただ彼の傍に居られたらそれでよいと従者のように従っている。
けれども、Ω同士だからこそわかるレイヤの隠し切れない肉欲の熱は、いつもハヤタに向けている。
「ハヤタ、今日は抱きたい」
「ん?いいよ、俺のΩちゃん」
そんな二人の前で、タカノブはわざと甘えるようにハヤタに抱き付き、何でもない事のように彼もそれを受け入れる。
二人の様子に嫉妬と憎悪の念を一瞬、隠し切れないという風にタカノブを睨み付けてくるのをハヤタは気づいているのだろうか。
タカノブは唯一ハヤタに触れることができる「正妻」なので、彼だけはタカノブが望むまま、いつでもハヤタとセックスをすることができた。タカノブが抱かれたり、逆にハヤタを抱いたりと立ち位置はあいまいだけれど、そこには腐りかけた愛の残滓と呼べるものはあった。
「(だけど)」
ハヤタは求められるがままにタカノブを受け入れ、またある時は肉棒を突き立て雄の滾りを打ち付けるが、彼の方からは一度もタカノブを求めたことが無い。
ビッチングさせるためにレイプされたのが最初で最後で、それ以来彼からタカノブを誘うことがなかったのだ。
「考えごと?随分余裕だねΩちゃん」
そしてハヤタが、タカノブの名前を呼ぶ回数は激減した。Ωちゃんだとかハニーだとか、或いは子猫ちゃんだとか甘ったるい呼び名をつけるが、そこに壁のような透明な隔たりを感じることも少なくない。
優しく囁かれても、髪を梳かれ頬を撫でられ、バードキスを落とされてもどこかひんやりとした距離を感じる。けれども、もうタカノブがハヤタから離れることなどできなかった。
心身ともに縛り付けられて、罪悪感を植え付けられて、そして歪んではいるどす黒いピンク色のようなモヤと恋は彼らの心に絡みついては離れないのだから。
「いつまでも、彼の一番だと思わない方がいい」
「お前、散々ハヤタを傷つけた癖に……腹立つ」
ハヤタがいない時に囁かれる正雄とレイヤからの呪詛と妬みの言葉は、甘美でもあり背筋がぞわりとするような不快感と命を脅かされるような危機感もあった。
これまで彼を裏切りハヤタからの期待値や信頼がゼロとなったタカノブは、他の番達にハヤタを取られないように「良いΩ」になるため必死だった。待つのも尽くすのも彼の意志であり無論そこには愛があるが、もうどこかが壊れて歪んでいる。
反対に、下剋上ではないがいつかハヤタを寝取り奪い取ってやろうとする二人のΩは、元αだけあって知恵も回り立ち回りが上手かった。
執着と愛憎が入り乱れるこの歪んだ「家族」が、砂上の城の如く崩壊する日は案外近いのかもしれない。
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