雄っぱいミルクで社畜のリーマンは、3児のママになる。

しゅうじつ

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第1章 こういうわけで俺は3児のママになった編

第5話 俺と成宮の過去

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 昔、俺と成宮は付き合っていた。
成宮の方から付き合ってほしいと言ってきたのがきっかけだった。


別に俺はロマンチストというものを持ち合わせてなかったので、恋人は性欲処理の関係、くらいに思っていた。
なので断る理由もなかった。
今までもそうだ。俺が告白を拒否したことは人生で1度たりともない。


絶大な人気を誇るイケメンでスーパーエリートの成宮 京介。
一方でパッとせずモテない、上司からは残業を強要されるしがない社畜の俺、渡辺 じゅんやは、一見似ても似つかぬ2人であるが
意外とトントン拍子で仲良くなれた。

なんでも、成宮といる時間は居心地が良かった。
成宮は恋人といる時も、会社と同じように完璧な笑顔で、紳士のように振る舞った。
いや、2人でいる時はなんだか、素の笑顔というのを見せてくれていたような気がするし、会社にいる時の、他を圧倒するかのような威圧感あるオーラは取り払われて無防備な、ありのままの彼を感じられた。

成宮はプライベートでは感情豊かで気さくで、会話をするとかなり盛り上がった。
俺はそんな成宮と酒を交わしながらする他愛もない話が、時々本音を衝突させる口喧嘩が、
とても楽しかった。
好きだった、それで仕事のストレスもぱあっと吹き飛ぶようで。


彼と遠くへドライブする時も、どっちかの家に集まってダラダラと寝そべりながらテレビ見る時も、彼と肌と肌を合わせる時も、
どれも楽しいひと時だった。



「少し落ち着いたか」



あれから少し時間が経って、冷静さを取り戻した成宮にそう声をかけた。
最初は酔っ払ったのかと思ったが、気持ちが高ぶって熱がカッと上がってしまったようだった。
あんなに気を取り乱した成宮を見るのは
はじめてだった。


「うん、だいぶ」


気持ちこそ落ち着いたものの、成宮の表情はどんより曇っていて、満足しなげな様子だ。


「困らせるようなこと言ってごめん、でも、あれは俺の本心で、ずっと心の中で」


「俺とお前がまた付き合うことは無い。何度も言ったはずだ。俺はもう、成宮と付き合う気は無い」


何度も聞かされているその言葉に、成宮は苦々しく笑う。 


「俺のこと、嫌いになった?」


「そうじゃない」

 
心做しか成宮がほっと安堵の表情を浮かべる。


嫌いなわけじゃない。


でも、


俺のことセフレにしてもいいよ、
そんな彼の言葉が思い出される。


俺と成宮は順風満帆な恋人生活を送っていた。不満なんてこれっぽっちもなかった。



だが、将来に対する価値観がまるで違った。



「なあ、じゅんや。結婚しないか?」



君と人生を添い遂げたい。これから先も、ずっと。


そう彼は言った。
勿論ありがたかった。
夫婦、人生のパートナー。
それは成宮にとってたった1人の、人生でいちばん大切な人。
こんなに周りから良く思われ、俺も大好きな成宮が、こんなに俺のことを大事に思ってくれていたのだと。
嬉しかった。


だが、俺に結婚願望はなかった。
むしろその逆だ。


成宮とは恋人として、遊んだり話したり、セックスしたりするのは贅沢な日々だった。

しかし、俺にとっての恋人とはあくまでも互いの性欲を処理するような、そんな関係。

そこに愛情や絆なんてものは要らないし、必要ない。

俺は独りを愛している。
他人を気にせず、自分勝手な生活を送りたい。
結婚すれば、相手のために健康に気を使って酒タバコも辞めなければならないし、
お互いの生活のために簡単に会社を辞めることもできない。

俺は放浪願望がある。
フラっとどこかに行きたくなることがある。



結婚の相手ができれば、それを事前に報告しなければならないし、無断でどっか行けば当然怒られてしまうだろう。
そんなん自由じゃない。
俺は気ままにいきたいのだ。
それを人に話すと
周りからは全然理解されない。 
サラリーマンとして、社畜としての毎日を送る俺には、
そぐわない見合わない叶わない夢だということは分かっている。

 


成宮は、将来は結婚して、大切な人と人生を共にしたいと言う。


俺は、将来は死ぬまで独りで、自由奔放な人生を送りたい。



もう正反対である。


だから俺は成宮と別れを切り出すことにした。


自分の意見をきっちりと成宮に伝えると、最初はショックな顔をしていた。が、それでも


結婚の話は忘れていいから、これからも恋人としてそばに居て欲しい。


そう言ってくたのだ。
自分の結婚したいという意見よりも、俺の意見を尊重してくれた成宮はどこまでも優しい。
面倒なことを考えず、これからもこの関係を続けていいってのなら何も文句はない。

でも、俺も成宮のことを大事にしている。
だからこそ、なのだ。
俺も成宮のことを尊重したい。


俺がこのまま成宮と一緒にいれば、
大切な人と結婚するという
成宮の人生においての願望を
潰してしまうことになる。


「結婚」とは人によってはとても大事なものに、大切なものに捉えていることは知っている。
だから俺は成宮にそんな残酷なことはできない。
彼には、愛する人を見つけて欲しい。一生彼と人生を添い遂げてくれる、大切な誰かと。


しかし、そんな俺の提案を成宮は理解してくれなかった。
別れようと切り出しても、別れることを断固拒否した。
何度言っても、同じだった。
何回も何回も言い合いをしたが
納得してくれる気配はなかった。
このままでは平行線だと見切って半ば強制的に彼と距離を置くことにした。


だってこれが2人にとっても1番いいはずだから。
成宮も決して頭の悪い人間じゃない。どっちかと言えば頭はよく切れる方で、思慮深い人間だ。
時が経てばやがて納得してくれるはずだ。
俺たちのこの決断は間違っていなかったのだと。


そしてそのうち成宮にも恋人ができて、それで解決するだろうと。
時間が解決へと運んでくれるだろうと、そう思っていた。


いつまでそう思えていただろうか。
時間がどれだけ経とうと、何も変わっちゃいなかった。


成宮は会社では中々接点のない俺となんとか接触を取ろうと試みてきた。
時間を見つけては俺を人気の少ない所へ連れてきて、話がしたいと、そう何度も言ってきた。
だから俺はあまり1人で出歩かず、オフィスに居ることにしたし、カノジョを作ったりもした。
彼女を作ったのは成宮を諦めさせるためでもあるが、
別にそれが全てではない。
俺は成宮と別れてもあまり引きずらなかった。
人間関係に執着するタイプではないし、
誰かに依存したこともない。
彼女と付き合い出したのは成宮と別れてすぐ後だったが、
俺は彼女のこともちゃんと愛していた。

まぁ、別れを言われた時は
さほどショックでは無かったが。


彼女を作ってから成宮は少し大人しくなった。
それに、2人での飲みの誘いをありきたりな言い訳で回避してきたため、会う機会がほとんどなくなっていた。
ちょっと良い方向へ向かっていったと信じていた。



けれど、全部ムダだった。
彼女と別れた途端、成宮はこの時を待ちわびていたように復縁を持ち出してきた。
これまで俺と話す機会がほとんどなかった分、今まで溜まり溜まった思いが爆発した。


挙句の果ては恋人じゃなくセフレでも良いと言うじゃないか。
それでは全然意味が無い。
なんのために俺が成宮と別れたと。


しかもなんで俺なんだ。
自分を卑下するつもりはないが、俺より良い奴はいる。客観的に、冷静に見てそうだ。
だって日本には1億人以上の人間が居る。
世界にはうん十億だ。

それに成宮という人間ともなればよりすぐりで選び放題である。
少なくとも会社内の女性で成宮に告られてノーという人間は、ゼロだ。
それなのに、なんで、俺ばっかり
俺にそんなに固執するんだ。


成宮にやり直そうと言われる度に拒絶し続けなければならない俺の気持ちも考えて欲しい。
これから先何回、成宮を傷つけたらお前は気がすむんだ。
俺はもう、お前のあんな顔なんか…



「成宮お前さ、はやく恋人作れよ」



ぶっきらぼうにそう言った。

その言葉を聞いた瞬間、成宮は硬直した。
石像のように。

その瞳は光が消えていた。
深い闇に染まって、もう何も見ていないような、そんな目。

頬もまつ毛も、指先も、

氷漬けにされたように全て動かなくなった。

呼吸をしているかどうかも分からない。
心臓が止まっているようだ。


ゆっくりと時間が経過していく。



「分かって、いたんだ。分かってたんだ」



ぽつり、ぽつり、と彼が心中をこぼしていく。


「なんとなく、予感してたんだ。俺が結婚したいって言ったら君はなんて言うか。でも」



「ああやって俺が強制的につなぎ止めておかないと、君は…俺の元をふらっと離れていく気がして」



「ぴんぽーん、よく分かったな。俺さ、最近アメリカに移住しようかなーって思ってんのよね。」



ピクっと一瞬、成宮が震える。



「知ってる?アメリカって都会っぽそうに見えて意外と田舎の方が大部分なのよ。そこでのんびり移住…最高だよな。最近、上司から押し付けられる残業のおかげで結構金入っててさ~」



ははは、とわざと笑ってみせる。
顔を正面に向けたまま。
目ん玉を成宮の方へ動かす勇気は、俺にはなかった。
重々しい時間が過ぎていく。





「………あんなこと、言わなければ良かった」





消え入るような声でぼそっと成宮がそう呟いた。














- - - - - - - - - - - - - - - - - ✄





お読み下さりありがとうございました。
ちょっとシリアスになってしまいましたが、
これからはコメディな感じになっていく予定、です


そして、1話、2話を更新した時に
エールを送ってくださった方、
ありがとうございます……!

感謝感激雨あられ
励みになります♪

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