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秋晴れの日に
5 元カノのこと
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元カノとは同期だった。就職活動している時に別の会社の説明会で見かけた。大きな会場で、集団で説明会があった。その会場に、彼女は俺の希望する職種の会社の説明会にいたのだ。他の会社の説明会にもいて、彼女も同じ職種を希望していることが分かった。
次に会ったのは面接の時だった。初めは他の会社の面接会場にいた。何日かして別の会社の面接にもいた。
(やっぱり同じ職種を希望しているんだ)
その時の俺はそう感じた。そして何度も会う彼女を知らずのうちに好きになっていた。名前も知らないのに。
名前を知ったのは今の会社に入ってからだった。大勢いる新入社員の中、前に座っていたのが彼女だった。
新入社員は研修の為にいろんな部署へ行くが、新入社員が多い為か、いくつかのグループに別れて行く。そのグループの中に彼女がいた。
一緒に各々の部署に回ることを知って、俺は心の中でガッツポーズをしたくらいだった。
新入社員の時から俺と彼女は気が合った。同期たちは「付き合えば?」と早々に言われるくらいに、研修が終わる頃には相当仲良くなれた。
研修が終わり、彼女と同じ部署に配属された時は、本当に嬉しかった。教育係の先輩も一緒で、同じ時間をよく一緒に過ごしていた。
彼女と付き合い出したのは、その年のクリスマス。他の男性社員に彼女が誘われたって聞いて、慌てて彼女に告白したのだ。
それからふたりでいろんなところへ行き、一緒の時間を共有した。ケンカもよくした。だけど、すぐに仲直りをした。
同僚はふたりが付き合ってると知ってるやつもいれば知らないやつもいた。敢えて話さなかったし、話していないが同期のやつらは自然と知っていたのだ。
「会いたい…」
外回りから帰って来た俺は、部署に戻らず屋上へとあがった。なんとなく、戻る気にはなれなかったのだ。
タバコに火をつけ、空を見上げる。カラッとした秋晴れだった。
「なんでこんなことになったんだろう」
呟くが、自分の招いた種だ。受け入れるしかない。
分かっているが、認めたくない。
プロポーズもして、式場を探していたところだった。
両家の挨拶も済んでいた。
だが、俺のしたことで彼女を傷付けた。親に電話で話したら、次の日、会社から戻るとアパート前に両親が待ち構えていた。
東北に住んでる両親の顔をまともに見れず俯くと、父親がグーで殴ってきた。そのまま彼女の家までタクシー使って行くハメになった。
その日、彼女は会社を休んでいて実家にいた。
玄関先で親父に頭掴まれるようにして、地面に頭をつけさせられた。両親もその場で土下座をしていた。
両親にそんなことをさせるつもりじゃなかった。笑った顔をさせてやりたかった。
「ねぇ」
会社ですれ違う度に声をかけられる。俺の好みのタイプとは違う、一般的には可憐な女性。俺はこの人と関係を持ってしまった。俺はその時のことを覚えてはいない。
「どうするの?」
お腹に手を当てた女性がこっちを見上げる。この人のお腹には俺の子供がいる……らしい。
らしいというのは、所謂エコー写真を見たことがなかったからだ。一度だけ、子供が出来たと聞いたあの日以来、エコー写真を見たことがなかった。
あの時も一瞬だけ見せられて、何がなんだか分からなかった。
本当に俺の子を妊娠してるのか?と疑いたくなる。それにあの日から3ヶ月。女性は会社を休んだことはない。
普通つわりによる体調不良で休むことも検診で休むこともあるだろう。だがこの人は違う。毎日顔を合わせる。もしかしたら休日に行ってるのかとも思ったが、話によると休日はショッピングやネイルサロンへ足しげく通っていた。
それを話してくれたのは同期の女性。この女性も研修の時から一緒で元カノとのことも知っていた。もちろん、俺が仕出かしたことも。
呆れながらも「あの女には気を付けた方がいい」と告げた。
「彼女にしたことは許せないけど、あの女は嫌いよ。一応あんたも付き合いの長い同期だしね」
そう言うと、あの人のSNSを教えてもらった。
SNSにはたくさんの写真が載っている。ネイルサロンに行っただとか、友達とランチに行っただとか、お酒を飲みに行っただとか。
(ん?お酒?)
妊娠しているのにお酒を飲みに行くのか?
俺は同期に言われて初めて、おかしいと思った。
次に会ったのは面接の時だった。初めは他の会社の面接会場にいた。何日かして別の会社の面接にもいた。
(やっぱり同じ職種を希望しているんだ)
その時の俺はそう感じた。そして何度も会う彼女を知らずのうちに好きになっていた。名前も知らないのに。
名前を知ったのは今の会社に入ってからだった。大勢いる新入社員の中、前に座っていたのが彼女だった。
新入社員は研修の為にいろんな部署へ行くが、新入社員が多い為か、いくつかのグループに別れて行く。そのグループの中に彼女がいた。
一緒に各々の部署に回ることを知って、俺は心の中でガッツポーズをしたくらいだった。
新入社員の時から俺と彼女は気が合った。同期たちは「付き合えば?」と早々に言われるくらいに、研修が終わる頃には相当仲良くなれた。
研修が終わり、彼女と同じ部署に配属された時は、本当に嬉しかった。教育係の先輩も一緒で、同じ時間をよく一緒に過ごしていた。
彼女と付き合い出したのは、その年のクリスマス。他の男性社員に彼女が誘われたって聞いて、慌てて彼女に告白したのだ。
それからふたりでいろんなところへ行き、一緒の時間を共有した。ケンカもよくした。だけど、すぐに仲直りをした。
同僚はふたりが付き合ってると知ってるやつもいれば知らないやつもいた。敢えて話さなかったし、話していないが同期のやつらは自然と知っていたのだ。
「会いたい…」
外回りから帰って来た俺は、部署に戻らず屋上へとあがった。なんとなく、戻る気にはなれなかったのだ。
タバコに火をつけ、空を見上げる。カラッとした秋晴れだった。
「なんでこんなことになったんだろう」
呟くが、自分の招いた種だ。受け入れるしかない。
分かっているが、認めたくない。
プロポーズもして、式場を探していたところだった。
両家の挨拶も済んでいた。
だが、俺のしたことで彼女を傷付けた。親に電話で話したら、次の日、会社から戻るとアパート前に両親が待ち構えていた。
東北に住んでる両親の顔をまともに見れず俯くと、父親がグーで殴ってきた。そのまま彼女の家までタクシー使って行くハメになった。
その日、彼女は会社を休んでいて実家にいた。
玄関先で親父に頭掴まれるようにして、地面に頭をつけさせられた。両親もその場で土下座をしていた。
両親にそんなことをさせるつもりじゃなかった。笑った顔をさせてやりたかった。
「ねぇ」
会社ですれ違う度に声をかけられる。俺の好みのタイプとは違う、一般的には可憐な女性。俺はこの人と関係を持ってしまった。俺はその時のことを覚えてはいない。
「どうするの?」
お腹に手を当てた女性がこっちを見上げる。この人のお腹には俺の子供がいる……らしい。
らしいというのは、所謂エコー写真を見たことがなかったからだ。一度だけ、子供が出来たと聞いたあの日以来、エコー写真を見たことがなかった。
あの時も一瞬だけ見せられて、何がなんだか分からなかった。
本当に俺の子を妊娠してるのか?と疑いたくなる。それにあの日から3ヶ月。女性は会社を休んだことはない。
普通つわりによる体調不良で休むことも検診で休むこともあるだろう。だがこの人は違う。毎日顔を合わせる。もしかしたら休日に行ってるのかとも思ったが、話によると休日はショッピングやネイルサロンへ足しげく通っていた。
それを話してくれたのは同期の女性。この女性も研修の時から一緒で元カノとのことも知っていた。もちろん、俺が仕出かしたことも。
呆れながらも「あの女には気を付けた方がいい」と告げた。
「彼女にしたことは許せないけど、あの女は嫌いよ。一応あんたも付き合いの長い同期だしね」
そう言うと、あの人のSNSを教えてもらった。
SNSにはたくさんの写真が載っている。ネイルサロンに行っただとか、友達とランチに行っただとか、お酒を飲みに行っただとか。
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妊娠しているのにお酒を飲みに行くのか?
俺は同期に言われて初めて、おかしいと思った。
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