短編集 【雨降る日に……】

星河琉嘩

文字の大きさ
17 / 42
秋晴れの日に

5 元カノのこと

しおりを挟む
 元カノとは同期だった。就職活動している時に別の会社の説明会で見かけた。大きな会場で、集団で説明会があった。その会場に、彼女は俺の希望する職種の会社の説明会にいたのだ。他の会社の説明会にもいて、彼女も同じ職種を希望していることが分かった。
 次に会ったのは面接の時だった。初めは他の会社の面接会場にいた。何日かして別の会社の面接にもいた。
(やっぱり同じ職種を希望しているんだ)
 その時の俺はそう感じた。そして何度も会う彼女を知らずのうちに好きになっていた。名前も知らないのに。

 名前を知ったのは今の会社に入ってからだった。大勢いる新入社員の中、前に座っていたのが彼女だった。
 新入社員は研修の為にいろんな部署へ行くが、新入社員が多い為か、いくつかのグループに別れて行く。そのグループの中に彼女がいた。
 一緒に各々の部署に回ることを知って、俺は心の中でガッツポーズをしたくらいだった。
 新入社員の時から俺と彼女は気が合った。同期たちは「付き合えば?」と早々に言われるくらいに、研修が終わる頃には相当仲良くなれた。

 研修が終わり、彼女と同じ部署に配属された時は、本当に嬉しかった。教育係の先輩も一緒で、同じ時間をよく一緒に過ごしていた。

 彼女と付き合い出したのは、その年のクリスマス。他の男性社員に彼女が誘われたって聞いて、慌てて彼女に告白したのだ。
 それからふたりでいろんなところへ行き、一緒の時間を共有した。ケンカもよくした。だけど、すぐに仲直りをした。
 同僚はふたりが付き合ってると知ってるやつもいれば知らないやつもいた。敢えて話さなかったし、話していないが同期のやつらは自然と知っていたのだ。

「会いたい…」
 外回りから帰って来た俺は、部署に戻らず屋上へとあがった。なんとなく、戻る気にはなれなかったのだ。
 タバコに火をつけ、空を見上げる。カラッとした秋晴れだった。
「なんでこんなことになったんだろう」
 呟くが、自分の招いた種だ。受け入れるしかない。

 分かっているが、認めたくない。
 プロポーズもして、式場を探していたところだった。
 両家の挨拶も済んでいた。
 だが、俺のしたことで彼女を傷付けた。親に電話で話したら、次の日、会社から戻るとアパート前に両親が待ち構えていた。
 東北に住んでる両親の顔をまともに見れず俯くと、父親がグーで殴ってきた。そのまま彼女の家までタクシー使って行くハメになった。
 その日、彼女は会社を休んでいて実家にいた。
 玄関先で親父に頭掴まれるようにして、地面に頭をつけさせられた。両親もその場で土下座をしていた。
 両親にそんなことをさせるつもりじゃなかった。笑った顔をさせてやりたかった。


「ねぇ」
 会社ですれ違う度に声をかけられる。俺の好みのタイプとは違う、一般的には可憐な女性。俺はこの人と関係を持ってしまった。俺はその時のことを覚えてはいない。
「どうするの?」
 お腹に手を当てた女性がこっちを見上げる。この人のお腹には俺の子供がいる……らしい。
 らしいというのは、所謂エコー写真を見たことがなかったからだ。一度だけ、子供が出来たと聞いたあの日以来、エコー写真を見たことがなかった。
 あの時も一瞬だけ見せられて、何がなんだか分からなかった。

 本当に俺の子を妊娠してるのか?と疑いたくなる。それにあの日から3ヶ月。女性は会社を休んだことはない。
 普通による体調不良で休むことも検診で休むこともあるだろう。だがこの人は違う。毎日顔を合わせる。もしかしたら休日に行ってるのかとも思ったが、話によると休日はショッピングやネイルサロンへ足しげく通っていた。
 それを話してくれたのは同期の女性。この女性も研修の時から一緒で元カノとのことも知っていた。もちろん、俺が仕出かしたことも。
 呆れながらも「あの女には気を付けた方がいい」と告げた。
「彼女にしたことは許せないけど、あの女は嫌いよ。一応あんたも付き合いの長い同期だしね」
 そう言うと、あの人のSNSを教えてもらった。

 SNSにはたくさんの写真が載っている。ネイルサロンに行っただとか、友達とランチに行っただとか、お酒を飲みに行っただとか。


(ん?お酒?)
 妊娠しているのにお酒を飲みに行くのか?


 俺は同期に言われて初めて、おかしいと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...